15.15.ルールを設けてみよう

さて、ここからは「鏡の前での動き」を豊かにするヒントをいくつか書いてみたい。
言うまでもなく、このサイトに示されている訓練法は、その成果が日常生活に反映されることを目的としている。読者が、鏡の前でどんなに豊かで美しい動作をすることができても、鏡を離れたとたんに身体的なコントロールができなくなってしまうのでは意味がない。そのことは筆者なりによくわかっているつもりだ。

これから述べるヒントはすべて、鏡に移る自分の姿に惚れぼれするためのものではなく、あなたが自分の身体をより試験的に、効果的に使うためのものだ。トレーニング内容自体に、ある程度の幅を持たせるためのものだ。

新しい発想が訓練を豊かにしていく

筆者としては、あなたにいつまでも鏡の前で身体を操作することの喜びを感じ続けてもらいたいと思っている。自分の身体を動かすことに対して感情が動かなくなってしまったら、おそらくこの訓練法は続けられないだろう。

身体が変化を受け入れ、新しい動きが定着するためにはある一定の時間が必要だ。それ故に、訓練を持続・継続させるための工夫や考え方、というものは決して無視できない問題となる。
それなりの効果がありそうに思えるメニューを決めて、それらを毎日、ただ機械的に同じ時間だけこなす。そのようなやり方でもトレーニングを継続できる方なら問題はない。しかし、多くの人はそのような状態に長くは耐えられないはずだ。
発見だとか進歩だとか変化といったものがあってこそ、そしてある程度の工夫の余地があってこそ、訓練を続けていく意思を維持できるのだと思う。新しい要素が生まれたり発見されたりして、それらが今までのやり方に組み込まれていく、といった行程を前提としない訓練は退屈だ。

自分の身体能力について新しい発見をするためにはちょっとした工夫がいる。鏡の前に立つたびに、新しく、胸おどるような感覚を持てるように。あなたが、毎回新鮮な予感とともに鏡に向かえるように。驚きがあり、ひらめきがあり、この行為の先に見届けるべき結果がありそうだと思えるような動きが必要とされる。
筆者の訓練法が本当に効果を発揮し、読者がそれを継続・発展させることができるかどうかを左右する鍵は、読者がいかにして、自分ですら知らなかった身体を鏡の向こう側に見ることができるかにかかっていると言ってもいいかもれない。

自分でも見たことのない動き。 あなたは形骸化した動作を行うことを意識的に避け、新しい感覚を求め、探っていく必要がある。自分自身の動きに飽きてしまわないために、常に、新しい何かを取り込んでいかなけれはならない。身体は新しい動きを、新しい経験を求めている。

新しい何かとは、たとえば、前からやってみたいと思っていたスポーツを始めるとか、何か趣味として習い事を始めるといったことでもいい。新しい仕事に就くことも、新しい人との関係を作り上げることも、自分の身体感覚を新たな環境の中に置くという意味では同じことだ。

もちろん、鏡の前で新しい動きを模索するという方法がある。
鏡の前で、未知の、それでいて興味深い動きをするテクニックの基本は、身体に対してある制限を設けることにある。今までは、その大部分を偶然にまかせて好きに動いていたわけだが、そこにちょっとしたルールを付け加える。身体の一部を壁や床に固定し、「移動させない」という制限の中で、他の部分を可能な限り動かす方法などがそれにあたる。

たとえば、片足を床に固定して、その位置から動かさない、という制限を設けたりする。
ちょうど、バスケット・ボールのピボットと呼ばれる動きと同じだ。固定された軸足を中心にして動く。思い切り、好きなように動く。 なんだが面倒くさいな、と思うかもしれない。まわりくどいやり方だな、と。たしかにその通りかもしれないが、制限を設けることは、そのまま不自由さを意味するわけではない。ある意味では制限があることで、より明確に『自由に動く身体』を意識することができるようになるはずなのだ。ルールは、自らの内にあるもやもやとした欲求に形を与え、表現へと導くための道具となってくれる。
床から離れることのない足と、それとは対照的に、大きな負荷を受けながらも自由に、そして機転をきかせて動く足。今までにないくらい大胆に重心を移動させ、大きく大きく身体を揺さぶる。

また、どちらかの手のひらを壁につける方法もある。
片手を壁につけて固定したまま、いつものように、好きに、思いのままに身体を動かす。手のひらだけがその位置を変えることがない。壁に触れている手を中心に動いてもいいし、制限されている状況自体を、つまり身体の一部が固定されていることを積極的に活かして動いてもいい。

固定されている状況を積極的に活かして動くとは、たとえば次のようなことだ。

常に手が壁に触れているという状況の中では、そこに体重を預けて、寄りかかることもできるし、腕の力によって重心をコントロールすることもできる。
身体を斜めにして壁に寄りかかり、なおかつ片足で立つ、といったこれまでには絶対に不可能だった態勢をとることが可能になる。

筆者はよく、片手を壁について、感覚としては腕に半分くらいの体重をかけて、斜め方向に伸び上がり、そしてかがむ、という動きを鏡の前で行う。斜め上方に身体を持ち上げる動きは、普段、走っている時くらいしか実行できない動きなだけに、筋肉の使い方がこれまでとまったく違って面白い。膝や足首にしっかりと負荷をかけることができるので、関節を十全に意識しながら動かすことができる。

このように、身体のどこかに制限を加えるということは、ちょっとこれまでと変わった動作を行って、目に見えるレベルにおいて動きのバリエーションを増やす、というだけの話ではないのだ。そこには、体重のかかり方や、スピード、筋肉が弾ける感じ、バランスの取り方などの違いなども含まれている。たしかに回りくどい考え方だが、そのメリットは大きい。

壁に触れている手のひらが、自分の身体の動きの流れを制御し、時に加速させる。体重を支える箇所が一つ増えるということは、とても大きな変化だ。これまでにないシステムで身体が動く。今までは身体的に無理がかかり過ぎて不可能だったスピードで、重心がめまぐるしいくらいに移動する。腕が重心の移動を主体的に担う感覚を味わうことはそれだけで楽しいことだし、片手が壁に触れていることで、これまで体感したことのないバランスの中で動きを試すことができる。

見たことのない姿を探して

制限を設ける方法には、もう一つ筆者お勧めの動きがある。
手のひらを絶えず身体のどこかに触れさせながら動かす(つまり身体や衣服の表面をなでるようにしか動かせない)、というものだ。

いつものように好きに身体を動かすわけだが、そのときに、きちんと手のひらだけは身体に密着させた状態を保ちながら移動する。不正確な表現になるが、手のひらのみが、身体の表層という二次元の世界をさまようわけだ。あまり触れることのない箇所、背中やももの裏側なども触ってほしい。ふくらはぎとか肩甲骨とか。何となく、イメージとしてなまめかしい動きになってしまうと思うけれど、必ず今まで見たことも想像すらしたこともないような動きになるはずだ。

この方法はゆっくりと、しかし確実に、身体に対して「ひねる」「伸ばす」「かがむ」といった動きを(結果的に)強制することになるので、身体のラインや軸についてもさまざまなアイディアを得ることができると思う。

『今まで見たことのない身体の動きを探る』『新しい環境の中で身体の動きを試す』ということを目的とするならば、身体にに規制を加える方法はとても有効なのだ。
ここで述べた方法の他にも、さまざまなルールの設け方がある。あまり頭であれこれと考えないで、ほんのちょっとした思いつきが浮かんだ時に、それを即座に実行してみるのが良いと思う。
パントマイムのように、ある空中の一点に身体の一部を固定して動かすとか、つま先を床に触れないようにして、かかとだけで立って動くとか、椅子に座って上半身だけを動かすとか、本当に本当にささいなものでいいのだ。言葉にすると取るに足らない制限でも、身体はそのちょっとした動きの違いの中からちゃんと何かを感じ取ってくれるものだ。

新しい自分の姿を常に探し続けてほしい。 自分の身体はこれほどまでに自由で、こんなにも違った印象や雰囲気を身にまとうことが可能なのだと知ってほしい。

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