16.16.小道具を使ってみよう

鏡に映る自分を見ていて、「ちょっと動きがパターン化してきたな」と感じるようになったら、身のまわりにある小道具を使ってみることをおすすめする。 道具を取り入れることで、身体の均衡に少しだけ狂いを生じさせる。自分の身体についてすでに多くのことを知り、関節の使い方を洗練させつつある人ほど、そのいつもとは違うバランス感覚が新鮮で面白く感じられる。

敏感であればあるほど面白い

何かを手に持つ。
それだけのことで、あなたの身体は新しい環境に置かれることになる。自然と動きに変化が起こり、その変化を把握し、コントロールしようと身体感覚が覚醒する。
たとえば、棒状のものを両手に持って身体を動かしてみるだけで、筆者が言いたいことがわかってもらえるはずだ。
ケガをしたり、まわりの物を壊したりしないように、あまり堅くないモノがいい。それほど重さがなくても、長さがあれば十分に効果を発揮する。アルミホイルやラップ類の中芯などが理想的だ。

それらを手にしながら、身体を思いっきり動かす。 こういう時は、なるべく頭を使わない方がいい。勝手に、今まで行ったことのない動きを自分の身体が見せてくれるはずだ。ドラム奏者のようにリズムを刻む。武術の型を真似る。
未知の感覚、微妙だが確かにいつもとは違うバランス。素早く空を切る音やその感触が、非常に心地良く感じられる。新しい身体を手に入れたような喜びがある。

だか、本当にくれぐれも物を壊したり、人に怪我を負わせたりすることのないよう気をつけてほしい。

それから、水の入ったコップも小道具として使える。冗談ではなく、けっこう有益な結果をもたらしてくれる道具となり得る。
マンガや映画の世界では、なみなみと水を注ぎ、水滴を全くこぼさないようにして歩く、といった感じで使われるが、ここで述べる方法はそれとは目的が異なる。水はコップの三分の一くらい入っていれば実用に足りる。透明なプラスチック製の、口の広い、大きめのものが良いだろう。

このコップを頭の上に乗せるわけだが、間違っても手を離してはいけない。そういうことがやりたいわけではない。
コップを使う直接の目的は、身体のバランス感覚を洗練させるためではなく、むしろあなたの身体のバランスの悪さ、不器用さを実感することにある。

まず、片手をコップに添えた状態のまま、頭を振る。他の関節をできる限り動かさないようにして、頭だけを振ってみる。
首を振る、と言った方がイメージに近いかもしれない。

振りながら、コップの中の水の動き、水面の動きをコントロールしようと努力してみてほしい。その揺れ方をイメージし、支配しようと意識してほしい。
おそらく最初のうちはあなたのイメージがまったく反映されないはずだ。コップの中の水の動きは、あなたの意思とは無関係に動いてしまうだろうと思う。
実際にやってみないとわからないことだが、本当に首という関節は、自分が思うようには動いてくれない。手にコップを持って目の前で振った場合と比べてみれば、首の不器用さが実感できる。

首の位置と動かし方

筆者は最近、人の身のこなしを見ていて、首の動きの重要さを感じることが多くなった。ほとんどだれも言わないことだが、もしかしたら人の身のこなしの美醜を、最終的に決定づけしているのは、腰ではなく、背骨のラインでもなく、首の位置とその動かし方なのではないかと思いはじめている。

首は、背中のラインがきちんとしていないと美しくは動かせない。
背中のラインをしっかりと決めるためには、腰の使い方が洗練されていなくてはならない。
腰の位置やバランスを洗練させるためには、下半身、特に膝や足首が安定していなくてはならない。
つまり、首の動きがキレイになるのは、足元が安定し、腰が定まり、背骨がすっと伸びたそのあとのことなのだ。本気で首の使い方を洗練させようとすることは、イコール全身の身のこなしを洗練させることを意味するのだ。

首の骨ひとつひとつが連なって描くライン、あご(顔)の角度、ひねり方、うなずき方。
首の使い方は本当に複雑だ。それゆえに、その動かし方も、範囲も、スピードも、人それぞれだ。読者も他人の首の動きを細かく観察してみてほしい。
他の部分との相対的な位置関係や、興味あるものに接した時に動かす方向、軸の取り方は、その人の印象を大きく左右する。

だからこそ洗練させる価値がある。時間はかかるだろうが、ある時期、首を集中的に訓練してみてほしい。自分なりの動かし方を探ってみてほしい。おそらく、首の使い方以前に、背骨や腰の使い方について気づくことの方が多いと思う。首よりも先に修正すべき点があるのだと気がつくことができるだけでも、首の動作を変えようとする意味がある。首の使い方を変えようとすることで、別の視点を持つことができればいい。

大切なことは、自分の身体をいかにして実感するかだ。自分の今現在の身体の状態を、自力で測り、把握する方法を知っていることなのだ。
背骨の伸ばし方や曲げ方。腰の回し方。膝が動く範囲。それらを、いったい自分がどのくらい制御できているのか。どのくらいイメージ通りの動作ができていて、どのくらい不器用なのか。関節の各部分に対して、その実感さえできれば、洗練させる方法はいくらでも、それこそ無数に見つけられる。読者に対してそれを見つけ出すヒントはすでに示しているはずだ。
自分の身体を本当の意味で実感できた時、同時にその修正の方法も見つかる、そう言ってもいいかもしれない。

このコップを使う方法は、自分の身体に出会うための一つの方法に過ぎない。次の章で述べる「ゆっくりとした動き」もその一つに数えられるだろう。どうか、読者なりに身体の能力を実感できる手段を見つけて、鏡の前で実践して行っていってもらいたい。

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