第4回 「ドアに靴をはさめ」


 「フット・イン・ザ・ドア・テクニック」という言葉をご存じだろうか。
 これはセールスマンの用語らしいが、訪問先でとにかくドアを閉められる前に自分の足を突っ込んでしまえというのである。すると相手はセールスマンを中に入れざるを得なくなり、入った以上はセールストークに持ち込んで商品を売りつけやすいということでもあるらしい。
 セールスマンの常套手段のようであるが、社会心理学的には「認知的不協和理論」から実証的に説明されている。
 認知的不協和理論というものをひと言で書くと、「個人の中に互いに矛盾する二つの認知があると、その不快な認知的不協和を逓減するため、いずれか一方の認知を変えようとする。」となる。
 先の例にあてはめてみよう。
 ・セールスマンがドアに足をはさむと、家人は相手を玄関に入れざるを得なくなる。
 ・すると「セールスマンを玄関を入れた」という認知と、「そんなもん絶対いらん」という当初の認知に不協和が生じる。
 ・認知的不協和は不快なので、逓減しようとする。
 ・しかし、先の認知は変えにくいので、後の方を「話くらい聞いてみようと思ってた」に変えてしまう。
 という感じであろうか。
 セールスマンの側からみると、小さい要求(玄関に入ること)を承諾させると、大きい要求(商品を買ってもらうこと)を承諾させやすい、ということでもある。
 そんな単純なことか、と思う方もあるかもしれないが、いろんな角度から実証されている事実である。
 たとえば、テレアポ商法の電話をとったとき、はじめに住所や名前の確認とかで、「……ですね」「……ですね」の繰り返しに、「はい」「はい」と何度も答えさせられた経験はないだろうか。これも同様のテクニックである。最初にどんな質問であれちゃんと答えさせれば、あとの質問や肝心の要求にも答えさせやすいというものである。警察の尋問術の基礎の基礎でもある。
 また、くれぐれも私の友人の話であるということで聞いてほしいのだが、キャバクラやランパブという私が行ったこともないような場所で、おもむろに女の子の胸に手を伸ばし、必ず「ふたフサとは言わんから。ひとフサでええから」という者がいる。しかしこの場合は、相手がなんと答えようとふたフサとも揉んでしまうので関係ないかもしれない。いやいやいやいや、「ふたフサとも揉んでしまうということなので」である。
 あるいは、その友人は、しばしば「ちょっとだけ、な、先っちょだけでええから」とも言うという。また、他のシチュエーションでも、「なにもせえへんから、大丈夫やから、ちょっとここで休憩して行こ」とか、タクシーで相手を送っておいて「ちょ、ちょっとトイレ貸して」や「コーヒー一杯飲ませて」とかもよく言うらしい。我ながら、あわわわわ、友人ながら、古典パターンのオンパレードで情けない。
 しかしこれらについては、認知的不協和理論を利用しているとはいえ、先に提示する小さな要求の裏に次の大きな要求が丸出しのためか、うまくいったためしがない。ちがうって、友人が言うにはうまくいったためしがないということである、である。
 みなさんも覚えておいて損はない。大きな要求の前に小さな要求の承諾を得ておくことである。
 だから、誰か五百円貸してください。あ、ごめん、やっぱり五千円。

《おまけ》
 パソコンとか買うのに、はじめに五万円まけろと一発かまして折衝しながら、二万円の値引きで手を打つのを、「ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック」と言います。
 店員の方から二万円の値引きを持ち出して購入を承諾させておいて、「今、メモリが値上がりしてまして」とかで、「やっぱり一万円しかまかりまへんねん。でもよかったら」と言うのを、「ロー・ボール・テクニック」と言います。
 学生時代はそんな勉強もしてました。セールス学科卒ですうそ。

(01/19/2000 up)


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