第14回 野風増        

「飲めや歌えや雑文祭」参加作品


「ビールでええやろ」
「うん」
 沈黙。
「おでんはどうや」
「鳥のから揚げも」
 また沈黙。
「最近どないや」
「どないやて言われても」
 またまた沈黙。
「学校は」
「べつに」
 やっぱり沈黙。
「照れてんのか」
「あほか」
「ほなま、とりあえず乾杯っちゅうことで」
「うす」
 あらたまって面と向かうと、どうも話の接ぎ穂がない。頭の中で百人の司書が話題を求めて右往左往しているような気がする。
「ええと。どんなものでも何かの役に立つんだ。たとえばこの小石だって役に立っている。空の星だってそうだ。君もそうなんだ」
「なんやねんな、やぶからぼうに」
「いや、せっかくやから気の利いたことでも言わなあかんかと思て」
「小石なんかどこにあんねん。そら灰皿やがな」
 どうやら私の頭の中の司書はバカばっかりそろってるらしい。
「それ『道』やろ」
「お、知ってるやんけ。観たんか」
「フェリーニはわりとええな。2、3本しか知らんけど」
 話題が見つかってちょっとうれしい。がんばれマイ司書。
「せやけど、フェリーニはデブ好きやな」
 やっぱりマイ司書はバカばっかりである。
 鼻で笑われた。
 そんなこんなで、黙ってつまみをつつきながら、二人でビールを空けていく。
 しばらくして、酔いに任せて、チャレンジングな話題をふってみる。
「女はどうや」
 向こうも酔ってきたのか、少し照れ笑いが混じる。
「まあな」
「お、言うやんけ。ほんで、どないまあなやねん」
「いやまあ、適当に」
 結局、はぐらかされるのだが、私には「どんな子や」とか「避妊はしてるか」とか踏み込んで聞く度胸はない。
「完全な人間はいない」
「またもう、急にわけわからんことを。酔うてんのか」
「せやないねんけど」
「なんでもええけど古い映画ばっかりやな」
 すまんな、頭の中の司書のできが悪いもんで。
「ひょっとして、俺が何か悩んでるとか思てないか。ほんで、ここはひとつ俺が聞いたろとか勝手に思てんのとちゃうん。ごっつい勘違いしてるでそれ」
「ええやんけべつに。そんなんやってみたいねんから」
「うわ、なんかめっちゃ型にはまった思考。これやから公務員は困るっちゅうねん」
「ほっとけ。ビールのあとで酎ハイ頼むようなやつに言われたないわ」
「かめへんがな、好きやねんから」
「ふん、そんなジュースみたいなもん。男やったら、酒にせんかい酒に」
「ピピピピー、ジェンダーチェーック」
「やかましい」
 というようなやりとりから、一気に打ち解けて盛り上がって二次会はカラオケだったりして。


 布団と格闘しているような格好で眠りこけている息子の寝顔を見ながら、私ははそんなことを思ってみる。
 歌の文句ではないけれども、お前が大きくなったら一緒に酒を飲みたいと思う。
 息子を持つ父親は、誰もが一度は同じようなことを思うだろう。
 それまでまだまだ十年以上あるのだが、お前はいったいどんな人生を送るのだろう。
 恋もするだろう。楽しいことはいくらでもあるにちがいない。つらいことや苦しいことだって多いはずだ。
 その間もお父さんは、相も変わらずぺこぺこ頭を下げながらあくせく働いているだろう。
 でも、お父さんはいつも見守っていてやりたいと思う。力になってやりたいと思う。
 それは単なる親のエゴで、お前はウザいと思うかもしれない。
 それでもお父さんは、お前が必要とするなら、いつでもどこへでも、すぐに駆けつける。
 用があったら口笛を吹くだけでいい。

 ちょっと気障かなあ。


「野風増」 作詞 伊奈二郎(作曲 山本寛之 /歌 河島英五) 

お前が二十歳になったら
酒場で二人で飲みたいものだ
ぶっかき氷に焼酎入れて
つまみはスルメかエイのひれ
お前が二十歳になったら
思い出話で 飲みたいものだ
したたか飲んで ダミ声上げて
お前の二十歳を 祝うのさ


いいか男は 生意気ぐらいが丁度いい
いいか男は 大きな夢を持て
野風増 野風増 男は夢を持て・・・!!

お前が二十歳になったら
女の話で 飲みたいものだ
惚れて振られた昔のことを
思い出しては にが笑い
お前が二十歳になったら
男の遊びで 飲みたいものだ
はしご はしごで 明日を忘れ
お前の二十歳を 祝うのさ
(※印くりかえし)

お前が二十歳になったら
旅に出るのも いいじゃないか
旅立つ朝は冷酒干して
お前の門出を祝うのさ
(※印くりかえし)


「どんなものでも何かの役に立つんだ。たとえばこの小石だって役に立っている。空の星だってそうだ。君もそうなんだ」
「道」(監督:フェデリコ・フェリーニ)で、ジェルソミーナが言われるせりふ。

「完全な人間はいない」(Nobody is perfect.)
「お熱いのがお好き」(監督:ビリー・ワイルダー)のラストシーンで、「俺は男だ」と打ち明けるジャック・レモンにジョー・E・ブラウンが。

「用があったら口笛を吹いて」(If you want anything,all you have to do is whistle.)
「脱出」(監督:ハワード・ホークス)で、ローレン・バコールがハンフリー・ボガートに。ボガートの墓碑銘でもある。


「飲めや歌えや雑文祭」について
*テーマ・縛り*
 ○ テーマとして「酒」の登場する歌を選ぶこと。 
 ○ タイトルはその歌の題名とすること。 
 ○ テキストの内容にその歌を絡めること。 
 ○ いわゆる「縛り」として、 次の条件を満たす文言・語句を文中にいれる。 
   ● 「頭の中で 100 人の○○が××しているような」
   ● 決め台詞。(誰もが知っている決め台詞。 マニアックなものには誰のセリフかわかるようにすること。) 

(05/21/2002 up)


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