二段組
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◎
空(から)の
ジャック・ダニエル
と交信するように
小さな埴輪が
ガラス・ケースの薄くらがりに
ぼおーっと、つっ立って、いる。

テレビの青白いひかりだけがチカチカするガランとした部屋で
自分の頭だけを抱え込むしか出口のない闇があり。

想起せよ
といっているのか。
みんな、みんな、わすれてしまえ
といっているのか。
みだらな口ひらいて、古代が、
赤茶けた道と、青い空を
つきつけて、くる。

◎
照準のない 幻の銃をかまえて
誰を殺すか 未明に。
生あるすべてのものを 無在の失地に 埋葬するために
かきたてる記憶の沼に淀んで
空間の怨嗟を吸う
都市のぬくもり
の、血の渇き。
既視である
虚圏を巡る
緑の洞の
死者の うめき 遠く みすえて
殺意だけが 実存する
時。

◎
遠くから
それはどんな遠くから
きこえてくる、ざわめきなのでしょう。

埃に煙った大通りの
   小さなK電気店のショーウィンドウから
   濃い紫の、みわたすかぎりごつごつした、石の原に降り立ったのは
   〈横木の足溜まりが埋め込んではあるけれど〉
   というphraseが、夢みるような、秋の日の、午後三時すぎ。

   どこにでも
   ひとの踏み荒した、架空の道があり
   迷彩色が、とぼとぼと、ゆくのですが。

   遠くから
   それはいったい
   どんな遠くから
   きこえてくる、ざわめきなのでしょう。





   ★〈〉内は三島由紀夫「美しい星」からの引用

迷彩色がとぼとぼとゆくのですが・・・・


詩の新聞『パーマネント・ プレス』21号 1997年5月