はじめに
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   軒低い、黒々としたトタン屋根の海のひろがる<ワタシの街>には、ポツン、ポツンと、妖しげな地上の星の溜まり場のような、ふたつの<あかり>が、いまでも、ひっそりと、またたき、きらめいている。

   記憶のなかに定着したその光景は、いずれも、できて新しい、木の肌もあらわに匂う、簡素な二階家の窓から見えるもので、一方は、ななめ下方の、暗く貧しい地上の闇に、切り裂かれて、まぶしく漏れでたような、それであり、他方は、家の前を流れるドブ川をへだてて、いまにもへしゃげそうな暗いバラックの屋根たちの上に、遠く、秘密のにぎわいを、チラチラ、させている、それである。

   前者は、できたばかりの叔母の家からのぞき見える、ダンス・ ホールの内部の<あかり>であり、後者は、できたばかりの近所の幼友達の家から見えてしまう、映画館Tのスクリーンの<あかり>である。

   昭和30年代もおわりにちかい、都市計画で街が動きはじめたころの、ほんわかと、世界から隔絶して、貧しい<ワタシの街>に、そのふたつの<あかり>は、今もきらめいて、いて、時として、ワタシを、心底、はげましてくれる。