詩誌「天秤宮」19号 2003年6月
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春の夜に、
吉と凶、トランプのようにからませて、
ワタシハ、ワタシタチハ、
整髪、します。
ワタシハ、ワタシタチハ、
整髪の恐怖におののいて、
整髪、します。

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シンリン、
シンリンと、髪は、さ迷い、
黄色い、道の奥でふるえている、
ワタシノ、ワタシタチノ、整髪師。
覚えずふりすてた夢のような、
襤褸と、弾痕をひきずって、
銀色に輝くハサミが、
鳴いています。

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郷愁の、月明かりのした、
さらさらと流れていく、色とりどりの髪の死体、のした、
はてもなく、切り出される、
〈のぞまない整髪〉の髪の恐怖の、
血の濁音、
空間のくずれ……
(あんぐりとひらいた、ワタシノ、ワタシタチノ、
からっぽの脳髄)

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シンリン、
シンリンと、髪は、さ迷い、
ほら、また、黄色い道の奥で、
巨大な鏡が割れ落ちる、
さびしい、さびしい
音が、して、
います……

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蒼い、蒼い、春の夜です。
蒼い、蒼い、世紀の春の、
夜なのです。

 蒼い蒼い世紀の春の夜なのです・・・