病気とお薬に
ついて

 代表的な病気について、馴染み易い一般的な診断名で
内容説明しています。個々人で病状は異なりますし、本来的には
国際的な診断基準による詳しい分類・説明を診療の中で実践して
おります。ご安心下さい。

病気について

うつ病

 重要な三つの症状 ・ 抑うつ気分 ・興味と喜びの消失 ・疲れやすさの増大と活動性の低下 さらに集中力や注意力の低下したり、自分に対する無力感や無価値、自責の念や罪責感、将来に対し悲観的となり、死にたいという気持ちや、実際に自殺してしまうこともあります。
 うつ病には身体の症状が伴い、不眠(特に早朝覚醒)、食欲低下、体重減少、性欲減退,頭痛や頭が重く感じる、首や肩のこり、動悸、便秘など様々な身体の症状がみられます。これらの身体症状が前面に出て、精神症状が目立たないと他の病気と間違われてしまうこともあります(これを仮面うつ病といいます)。このようなうつ病の精神や身体の症状は朝方にひどく、夕方から夜にかけて軽くなる日内変動がみられます。一生のうち、十人に一人はうつ病にかかると言われ、“心の風邪”と呼ばれる決してめずらしくない病気なのです。
 治療は、原則として抗うつ薬の服用と十分な休養をとることです。この方針がきちんと守られれば多少の一進一退はあっても、ふつう3~6ヶ月でうつ病は回復します。もともとうつ病にかかる人は責任感が強く、生真面目で几帳面な人が多いので、周囲の方の心理面の支えがとても大事になります。あせらず、ゆっくりじっくりと治療を行うことが大切です。 一部のうつ病は治療によっても症状がなかなか改善しない難治性のものもあります。

パニック障害

 突然、短時間のパニック発作(動悸、息苦しさ、胸痛などが起こり、このまま死んでしまうのではないかという不安に駆られる)がみられる病気です。 パニック発作が何回も起こると、“また発作が起こるのではないか”、“外出先で発作が起きたらどうしよう”という不安が大きくなり、以前に発作が起きた場所や、発作が起きたときに逃げられない場所(電車の中など)を避けるようになります。そのため、外出もままならなくなったり、日常生活に支障をきたすようになってしまいます。憂うつな気分が続くこともあります。治療によって治りますから、できるだけ早期に、そして適切な治療を続けることが大事です。 パニック障害を乗り越えるためには、まず自分の病気をよく理解し、発作が起きても必要以上に恐れないようにすることです。発作はとてもつらい、たえがたいものですが、決して死んでしまうことはありませんし、数分で必ずおさまるものです。治療としては、薬物療法が有効で、SSRIという抗うつ薬がよく使われます。まず薬で発作をコントロールしていきます。間違った判断で治療を中止してしまうと、病気が長引いたり、再発につながることがあるので、医師の指示をしっかりとまもることも大切です。

統合失調症

 以前は精神分裂病と呼ばれていました。人格自体がバラバラに分裂する、といった病気とは異なる印象を与えてしまうため、名称が変更になりました。 周囲からわかりやすい症状として、幻覚、妄想があげられるでしょう。幻覚には、実際には聞こえていないはずの自分の悪口や批判、命令などが声として聞こえてくる幻聴、実際にはいない人や動物、虫が見えたりする幻視、電波が飛んでくるなどの体感幻覚などがあります。妄想とは、誤った内容であっても訂正できない確信に満ちた考えのことで、“すれ違った人が咳をしたのは自分への嫌がらせである”といった関係妄想、“食べ物や薬に毒が入っている”などの被害妄想、“周囲の人が自分を見ている”という注察妄想などがあります。このような症状から頭が混乱してしまい、不安になって落ち着かず、不眠となったり、幻聴や妄想にとらわれた行動をとってしまうことがあります。ドーパミンという脳内の神経伝達物質の働きがうまくいかないために、こういった症状がでると言われており、ドーパミンを調節する薬物を以前から主に使用されておりましたが、最近ではより安全性や効果の高いお薬が開発・使用されております。

認知症

 認知症とは、単なるもの忘れではなく、脳の病気として捉える必要があります。判断力が低下したり、場所や時間がわからなくなったり、体験したこと自体を忘れてしまいます。日常生活が困難となり介護が必要となってきます。認知症の原因として代表的なものに、脳血管性認知症とアルツハイマー病があります。脳血管性認知症は脳梗塞など脳の血管に病変があり、脳がダメージを受けることによって起こるものです。ダメージを受ける場所によって様々な症状がみられます。高血圧、動脈硬化、高脂血症、心臓の疾患、糖尿病、過度の飲酒や喫煙などが危険因子と言われています。 アルツハイマー病は脳の細胞が、徐々に死んでしまい、脳が萎縮していく病気です。原因は研究が進んでいますが、はっきりとはわかっていません。脳の機能が低下していくため、進行すると全面的な介護が必要となります。初期の段階であれば、認知症の進行を遅らせる薬物が開発されています。認知症にも、幻覚や妄想があったり、夜間の不眠などの問題行動がみられることが多く、それに対して薬物療法や日常生活のリズムを立て直ししていくことが大切です。

てんかん

 てんかんとは、発作的な意識の障害やけいれんなどを繰り返す病気です。てんかん発作の一般的な経過としては、突然意識を失い、体がけいれんしたり、硬直したりします。やがて体の力が抜けて、眠ったような状態になります。数分後には回復しますが、しばらくは意識がもうろうとした状態になります。脳の神経が異常に興奮するために起こると考えられています。原因として、脳の損傷や病変(脳腫瘍など)によるものと、原因不明のものとがあります。治療は、薬物療法であり、てんかん発作は抗てんかん薬の服用によってコントロールできます。

お薬について

睡眠薬

 寝つきをよくするもの、睡眠を持続させ熟眠感を得るものなど作用時間によっていくつかの種類があります。どのような睡眠障害があるのか判断したうえで処方されます。時には何種類かの睡眠薬を同時に服用することもあります。癖になるのではと敬遠されがちですが、睡眠障害が改善されれば、徐々に薬を減らしていくことができます。一度に薬をやめてしまうと、反跳性不眠といって、もとの眠れない状態よりも悪い状態になることもあるので自分の判断で服薬をやめないようにする必要があります。用量、用法を守って服用すればきわめて効果的です。

抗不安薬

 γ-アミノ酪酸(GABA)の働きを強め、様々な病気の不安感を取り除くのに有効です。アミノ酸はたんぱく質を構成する物質(アミノ酸が鎖状につながったものがたんぱく質)ですが、脳のなかでは神経伝達物質として大事な働きをしています。この中のγ-アミノ酪酸の分泌が足りないと、不安やイライラ感、不眠症やてんかん発作が起きると言われています。作用時間の長いもの、短いもの、効果の強いもの、比較的軽いものなどいろいろな種類があり、症状やその人の生活スタイルにあわせて服用します。但し、近年抗不安薬(ベンゾジアゼピン系)の薬物依存の問題が多く、当院では可能な限り使用を制限しております。

抗うつ薬

 脳の神経伝達物質であるセロトニンやノルアドレナリンの働きを強め、うつ病などの抑うつ状態の改善に用います。 症状がなくなってもすぐに薬をやめてしまうと再発しやすいので、服薬は長めに続けることが大切です。抗うつ薬は効果出現まで平均して2週間はかかるのでその間に服薬を中断しないようにしなければなりません。抗うつ薬は1957年に発見され、はじめの頃の薬は治療効果は優れていても副作用が強いという欠点がありました。最近では口渇・便秘・排尿困難等の副作用も殆どない薬剤として、SSRI、SNRI、NaSSA等の創薬・改良が数多くなされており、国内でもより安全な治療が可能になってきております。

抗精神病薬

 脳の神経伝達物質であるドーパミンを調節する薬です。ドーパミンは睡眠や気分、単純な運動の制御など、脳のさまざまな機能に影響する神経伝達物質です。抗精神病薬はこのドーパミンを調節し、幻覚や妄想といった症状を改善したり、また情緒の不安定を改善したりするのに効果的で、統合失調症やうつ病の治療に用います。頭の疲労をやわらげるものです。のどの渇き、便秘、日中のだるさや眠気などの副作用がみられることがありますが、副作用止めの薬を併用し、量の調節・変薬などでおさえることができます。抗精神病薬も新しい薬が次々と開発され、副作用の少ないものがふえて、服用しやすくなってきました。

認知症治療薬

 現在、アルツハイマー病の初期の方に認知症の進行をおさえる薬が開発されました。認知症が改善するのではなく、進行を遅らせるもので、飲み続けなければなりません。アルツハイマー病の方の脳にはβアミロイドというたんぱく質が増加していることが知られています。したがって、βアミロイドが溜まっていくと(生産量が増加し、分解していく量が減る)脳に茶色のしみができ、神経の中に糸状のかたまりができます。そして細胞が死んで、神経が機能を失い、アルツハイマー病を発症させるのではないかと考えられています。ここに注目し、現在も活発に研究が進められています。今なお、研究がすすんでおり今後新しい薬が開発されることでしょう。

抗てんかん薬

 てんかん発作をおさえる薬です。γ-アミノ酪酸の分泌が足りないとてんかんが起こると考えられており、このγ-アミノ酪酸の働きを抗てんかん薬は強めます。発作の種類によって薬が選ばれます。発作を予防するため、体内の薬の濃度を保つように服用します。この濃度を確認するために、定期的に薬の濃度を測ることが必要です。てんかん発作の多くは、抗てんかん薬の服用でコントロールできます。