長野鉄道管理局松本運転所

 長モトで特徴的だったのは、クハ76形が偶数向きにのみ使われたという点です。4Bに組成されていましたが、奇数向きの先頭車は、バラエティに富んだクハ68形(トイレ無し)でした。クハ76形の方向統一は、4両編成中に必ず1カ所トイレをつけるという必要性から、同一方向に揃えたものだったのです。後述しますが、クハ76形は「向き」に非常にこだわって設計された形式でした。
 クハ76形0番台の方転車は全国唯一だったことや、各地を渡り歩いた車両が多かった事、全国でここのみに存在したモハ70形のPS23、名カキ(後に名シン)をルーツとする3本のジャンパ連結線(クハ68形側のみ)など、大変に興味深い線区でもありました。しかしおいらは、長モトの70形をほとんど撮影していません。また、活躍期間が比較的短かったためか、長モト(当初は長ナノ)の70形が紹介されている記事も非常に少ないのです。
 長モトには、70形と一緒に80形も配置されていましたが、おもしろい話があります。さすがは国の中心の長野県だなぁ〜と、当時、良く考えたのですが、その両形式は、向きが逆だったのです。70形は信越線に従い、80形は中央線に従っていました。

 70形が新製投入された線区を分類すると、次の4線区に分けられます。1.横須賀線 2.中央東線 3.京阪神緩行線 4.阪和線。
 そして1970年代の後半になり、終末を迎えたのが、大体、次の6区です。例外は多いけれども、最終的に所属した電車区には、( )内の線区から転入ししています。1.高シマ区(横須賀線) 2.新ナカ区(横須賀線、京阪神緩行線、阪和線) 3.長モト区(中央西線、京阪神緩行線、阪和線、上信越線[新潟口]、仙石線) 4.名シン区(横須賀線、京阪神緩行線、中央東線) 5.岡フチ区(阪和線) 6.広ヒロ区(中央東線)。

 あえて失礼な言い方をさせていただきますが、大量に車両を擁した新ナカは別にして、程度の悪い車ばかり集まったのが、長モトだったような気がしてならないのです。70形33両中、驚くべきことに、鋼製雨樋車はたったの2両。それも、2両とも仙石線経由で入ってきています。仙リハには、もう一両、モハ70125がいたのですが、検査の周期の関係からか廃車にされ、後述のモハ70047が生き延びて転入してきました。300番台なんて、想像すら出来ない世界です。
 長野県内の信越線ローカルを電車化するにあたり、長ナノ(当初、長ナノ持ちだった)に転入した主体となったのは、名シンにいた古い番台区分の車両だったということが、悲哀をかこった第1点目です。名シンからは、クハ76形に至っては、昭和25年度予算車しか転入していません。それも、全く意味が無いにもかかわらず、同じ予算年度の車両から、若い番号を選んだと思えるフシがあります。モハ70形も同様で、100番台や未更新の昭和26年度予算車が転入しました。
 第2点目として、4Bを組成するにあたり、編成の両端にクハ76形を揃えることはかなわず、名シンからは、トイレのないクハ68形も転入しているのです。名シンでは両端にクハ76形を揃えながらも、体よくトイレ無しのクハ68形を押し出したとしか思えないのです。
 第3点目に、増強を行うに際し、新ナカから車両をまわしてもらっているのだが、これまた笑えるのは、トイレ付きの先頭車はクハ76形でなく、クハ68200だったのです。このクハ68形200番台と、新ナカ区に残った2両の210番台の違いですが、トイレの向い側の座席が210番台はクロスシートなのに対し、オリジナルのクハ47形をルーツとする200はロングシートでした。トイレの前のロングシートは、客から大変に評判が悪く、30系気動車は、そこだけクロスシートにしている位です。ただし、この編成のみ両端がクハ68形でした。
 第4点目として、仙石線のセミクロス車運転終了に際し、転入して来たモハ70047自体、高シマから仙リハに押し出された、高シマ唯一の木枠窓モハ70形だったのです。本区に転入してからも、異色の押し込み形通風器を目立たせてました。
 振り返ってみると、何ともシビアな鉄道管理局間の車両転配が見て取れます。70形で、最初に投入された4線区から直接やって来たのは、天オトから来た昭和30年度予算の8両だけでした。

 先頭車から最後尾車まで、編成を通しで歩くと、編成によりクハ76形のトイレが右にあったり左にあったり、ああ、やっぱ長モトだなぁ〜と考えたのはおいらだけだったのでしょうか。
 この意味、お判りになりますか? クハ76形は、奇数統一設計の300番台を除き、奇数向きと偶数向きの設計が違っていたのでした。奇数車と偶数車の違いは、いくつかのポイントが判れば、外見からも簡単に判別が可能です。最も大きく違うのは、トイレの位置です。奇数車は3位側、偶数車は4位側、そう、横須賀線で云うと海側にしかトイレは来ません。モハ30形以来の旧形国電の面白さの一つは、各線区における車両や編成の「向き」でしたが、これだけの大所帯で、車体構造にまで奇数構造と偶数構造を反映させた形式が、他にあったでしょうか? 70形の魅力の一つと考えます。

 予算年度や編成がどうあれ、信州の高原地方を快走する70形は素敵でした。長モト持ちでしたが、活躍するのは信越本線だったため、一日に一往復だけ、入出庫を兼ねた運用が篠ノ井線にありました。残念ながら、往復とも夜間でした。誰もいない車内に一人、車体の揺れに身を任せつつ、釣り掛けモーター音を聞きながら眺めた善光寺平の夜景の素晴らしかったこと!! 星空を下に見るような光景に、思わず、息を飲みました。 ...おいらにとって70形は、999でもあったのです。


 70形
  形式 年度  奇数構造 偶数構造台車雨樋戸袋窓 備考形式写真
クハ76形 25 76019 76021 76006 76008 76010 76014 TR45 木製Hゴム更新修繕済クハ76010
クハ76014
クハ76019
30 76073 76075 76072 76074 TR48 木製Hゴム
モハ70形 25 70104 70105 70106 70111 70113 70115 70116 DT16木製Hゴム更新修繕済モハ70116
26 70015 70034 70036 70037 70038 70039 70041 DT16木製木枠モハ70036
27 70043 70044 70047 DT17木製木枠モハ70047
30 70053 DT17木製Hゴム
30 70066 70067 70069 DT20木製Hゴム本グループ以後、簡易運転台付
32 70123 70124 DT20A鋼製Hゴム
 両数    33両
(注)1.クハ76形の奇数車は、偶数向きに方向転換されて使用されました。
   2.斜体のクハ76075はシールドビーム改造を受けていました。
   3.太文字の車両は押込形ベンチレーターを装備していました。
   4.モハ70形は折りたたみ高さの低いPS23を装備し、◆マークを付けていました。

 ランニングメイト
  形式      奇数向偶数向形式写真
クハ68形 68023 68052 68056 68058 68075 68082 68090 68097 68099 68101 68102 68111 68200 クハ68058
クハ68082
クハ68111
 両数    13両
(注)1.押込形ベンチレーターのクハ68090は昭和51年に廃車されています。
   2.耐雪カバー・ホイッスル付のクハ68200は、トイレ付のため偶数向きに使われました。


緑の窓口