省線電車で行こう! 

 会議の折や駅頭で、経路を打ち合わせる際、ふと「国電で‥‥」と、口をついて出てしまうことがあります。そう、あの頃、年輩者が「今日は省線で行こうかね‥‥」などと言ってるのを聞いて、クスクス笑ってたおいらでしたが、すっかり同じ立場になっちまってることに、苦笑いをしています。しかし、「こくでん」や「ジェーアール」に比べ、「しょ〜せんでんしゃ」とは、何と響きのいい名称だったのでしょうか。
 旧形国電のオッカケをしていた頃、その遙か昔にファン誌に連載された「省線電車の走るところ」も、大いに参考にさせていただいた一人です。このサイトは、70形が主体のため、戦前形電車は省線電車としてまとめてしまいました。

 省線電車の女王は、42形一族のモハ52形とモハ42形であることは、旧形国電ファンなら異論の無いところかと思います。船の世界に例えると、モハ52形が柔らかい曲線を使った和辻博士設計の大阪商船なら、モハ42形は質実剛健な日本郵船といったところでしょうか。でもおいらは、実車では、ほんの数両にしか接することが出来なかったけど、古い写真を見る限り、50形の張り上げ屋根タイプが、最もコンパクトにまとまった、美しい省線電車だったように思うのです。

 残念ながら、鉄道省に在籍した半鋼製電車の後身を、系統立てて追いかけることは出来ませんでした。最後の活躍を、地方線区で垣間見た程度です。ここでは、思い出を交え、その一部をお目にかけます。  おいらにとって省線電車の魅力とは、多様な形態もさることながら、タイムマシン的な魅力を彼女らが秘めていたことです。朝のラッシュ時に、大勢の女子高生の頭越しに昭和12年製造なんてプレートが見え隠れすると、当時ハマってた「SF少年ジュブナイル」の世界に、ワープしてしまったものでした。筒井康隆、光瀬龍、眉村卓氏らの作品を読みふけったのも、旧形国電の中や、ベッド代わりの無人駅のベンチでした。

 旧形国電を訪ねて全国(と言っても直流電化区間)を歩き、一両でも多くの車両を見ておこうとしましたが、既に当時の国鉄には17メートル車の大半は無く、また、20メートル車についても、一両毎に特徴を追求する余裕はありませんでした。製作年度による違い、メーカーによる違い、また、使用された線区、入場した工場による違い、場合によっては事故車であるための違い、..などを理解していても、更に多くの疑問が沸いてきました。そんな疑問を残しながら、省線電車は消えていきました。

 電車自体にまつわる思い出も多いけど、多くの人との触れ合いも忘れられません。上片桐の踏切で、ふとしたことから挨拶を交わした叔母さんが、自分の家で取れた梨だよって、おいしい梨をわざわざ持ってきて下さったり、宇部の街では盆踊りの輪に加わったり、そんな思い出は、自分の中で輝いています。
 元三信鉄道の無人駅で、山の端に日が落ちる頃、耳に痛いほど聞こえてきたひぐらしの声。旧形国電で飯田の街まで出て、銭湯に入り、街をぶらつき、最終電車で山間の無人駅まで戻って眠りについた毎日。真冬に7連泊した松本駅のストーブの暖かさ。凍てつく朝、飛び乗った一番電車の車内で、プーンと匂ってきた、ヒーターに熱せられたほこりと床油の入り交じった匂い。朝日に鈍く光る、ニス塗りの車内と真鍮の取っ手...。ああ、何と懐かしいのでしょう。
 ダイヤグラムを繰り返し確認しながらも、いきなりやって来るモーターカーに怯えながら、心細い思いで、長いトンネルをくぐってたどり着く、飯田線の山間の名撮影地では、一日中、裸で遊びながら撮影した事なんかも、懐かしく思い出します。旧形国電の魅力に心を震わせた、あの山深い名撮影地に、おいらは2度と行くことないだろうけど、今でも、何らかの電車が走ってるのでしょうね。おいらが社形電車を知らないのと同様、旧形国電が走ってたことなど、別世界の出来事であるかのように...。
 それでは、かろうじて見ることの出来た形式や、思い出に残るシーンをご紹介します。


 
系列  主な特徴  新製時の形式名
30形ダブルルーフで登場した、鉄道省初の半鋼製17メートル電車。モハ30形 サロ35形 サハ36形
(大正15年度予算車は旧形式で登場)
31形30形の後継車として、シングルルーフで登場した17メートル電車。モハ31形 クハ38形 サロ37形 サハ39形
32形電動車は17メートル、制御車及び付随車は20メートルで製作された横須賀線用電車。モハ32形 クロ49形 クハ47形 サロ45形
サロハ46形 サハ48形
33形3扉、ロングシートで登場した17メートル電車。モハ33形 モハ34形
40形3扉、ロングシートで登場した20メートル電車。モハ40形 モハ41形 モハ60形 クハ55形
クハニ67形 サロハ56形 サハ57形
42形京阪神急行用として製作された2扉クロスシート電車。流電や合いの子の一党も含まれる。モハ42形 モハ43形 モハ52形 モハユニ44形
クロハ59形 クハ58形 サロハ46形 サロハ66形
サハ48形
50形木造電車を綱体化した、3扉、ロングシートの17メートル電車。モハ50形 クハ65形 サハ75形
51形3扉、セミクロスシートで登場した20メートル電車。70形のプロトタイプとなる。モハ51形 モハ54形 モハユニ61形 クロハ69形
クハ68形
53形木造電車を綱体化した、17メートル荷物電車。モニ53形
62形身延線用として、木造電車を綱体化した、2扉、クロスシートの17メートル電車。モハ62形 クハ77形
(注)この表では、63形以降の新製車と、木造電車や事業用電車、社形電車(買収車)などは省略しています。

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