『なちゅらる』 おやじのエッセー集



「ことしのさんま」


徳島から“すだち”が届いた。

毎年、知人が送ってくれる、ありがたいことである。

早速 “さんま”、である。

“さんま”に 大根おろし、そして “すだち”。

手元の金沢の安酒も美味にしてくれる。

“さんまの塩焼き”に日本酒、幸せである。

魚は自分で焼いて、焼き立てを酒とともに食す。

これが一番おいしい。

“さんま”もかつて「高級魚」になってしまったときもある。

今は一尾¥100程度で食べられ、庶民の魚に戻ったようである。

しかし、今年は諸問題で、“さんま”がまた高級魚になるようなことがないように、と祈っている。

今日の食卓は、“さんま”に加えて白ゴーヤのチャンプルーである。

自家栽培の白ゴーヤ、たまねぎ、島豆腐。 白づくしだ。

味付けはシンプルに塩とおかか。

炒め物の仕上げにはごま油を掛けまわすのが好きだ。

豆腐は一丁、白ゴーヤはちょっと太めを半分つかうので大盛りである。

これを一人で食す。

“さんま”の大根おろしは丼ぶりにいっぱい。

“さんま”を食べたあとは、その皿にたっぷりと大根おろしを入れ、“さんま”の油をきれいにいただく。

丼ぶりに残った大根おろしもどんぶり飯のごとく掻っ込んでしまう。

これで、食べ過ぎの消化には問題なし、と思い込んでいる。


                                                                                                      2011.09



「Twilight」


夕暮れ時が好き...


食事の前に果実酒の話しになり

25年ものの果実酒をお出しした。

果実味や酒の角がとれ、まろやかに

甘味が強いのは、果糖といい加減な砂糖のせい

今度は甘味を抑えて作って見ましょう、

また25年後を楽しみに、

と、言ってみてから、

25年後、あるのかな..

そんな歳になってきた


夕暮れ、トワイライト...

のんびりと、

夕景をめぐる旅にでてみたい



                                                                                     2010.11


「家族のイベント」


クリスマスがもうすぐ。

クリスマスは家族のあいだで贈り物を交換し、お互いの気持ちを伝えあう日だと聞いた。

クリスマスに限らず、家族の何かに係わる日、誕生日であったり、結婚記念日であったり、

それは同じように気持ちを伝えあう日ではないだろうか。

何かの記念日を 取り立てるようなものではない、と醒めた気持ちを持つよりも、そのようなイベントを

使って気持ちを伝えあうということが必要なのではないだろうか。

表現の一つとしてケーキを買って帰る。

それを家族が、 “ここのケーキ美味しくないのよね” と言ってしまってはいけない。

“今度はどこそこのケーキがいいな” というぐらいにしてほしい。

ケーキの味ではないのだ。 皆で食べよう、 と買ってきたことに気がついてほしい。

あちこちのケーキを食べ歩いたことのない男どもには所詮満足して頂けるケーキは探せないのだ。

記念日は、初心を振り返るきっかけではないだろうか。

多くの事柄には「初め」というものがある。

それを始めた時の気持ちや意気込み。生きてこられたことへの感謝。いろいろと見直すことができるだろう。

省みる機会を一年に何度かつくってみるのがいいではないだろうか。


                                                                                     2004.12

 

「いい旅をして」

 

旅にでて、今日はどんな店にめぐり会えるか、ということは大きな楽しみである。

美味しい料理に出会う、それが気持ちのよい店であれば至上の喜びとして"いい旅をした"という想い出に刻まれることになる。

かつて仕事で幾たびか訪れたことがある神戸・三ノ宮。

かの震災のあと初めて訪れることになる。 あの夜景や海や山、 ゆっくりした旅がしたい、そんな思いとともに出かけてみた。

一人旅である。

表通りの観光客を見る限りでは以前と変わらないように復興されたことが何となくうれしい。内面の痛手は計り知ることができないが。

そんな坂道の街を、夕食はちょっと贅沢に洋食のコースでも、と北野あたりのレストランの店構えとコースメニューを見てまわる。

贅沢に、と言っても懐と相談すれば知れた額の範囲での店選びになる。だからいつもあまり期待していない、というところもある。

ある時、やはり一人旅、京都のはずれで小さなスペイン料理の店に入ったことがある。

コース料理も手頃な料金なので入ったのであるが、席につき注文すると、"コース料理はお二人からになります"と冷たく断られた。

"では結構です"、とその店を出てしまってもほかには飲み屋が1,2軒ある程度の場所。仕方なくピラフとビールを注文。

ビールを持ってきたウェイトレスが、テ−ブルセットを変えます、と言ってテーブルに用意されてあった

タオル地のおしぼりをビニールに入った紙おしぼりに変えていったのには、かなりの不愉快を抱かせられた。

ピラフの味はよかったのでむかつくほどの不愉快さにはならず、つまらん旅をした、ということにもならなかったせいぜいの救いである。

という、一人旅での想い出があるので、若いカップルが頻繁に入っていくような店は敬遠しつつ、落ち着いたレストランを探したわけである。

そう簡単に、下調べもなく条件に合うような店に巡り会えるものではない。

コース料理が一万前後となると敬遠してしまうような貧乏旅行者である。もういいや元町へ行ってラーメンにしてしまおうか、

などとも考えてしまいながらもぶらついたりする。

しかし大当たりの旅もある。

宵口の6時過ぎにその店に入ったためか客は私一人。食事が終わるまで一人もほかのお客もなかった。

ほどよい灯りとアムステルダムの風景画の単色も壁の色調に合って落ちついた店である。

料理は量も適量で、素材もまあまあなものと言えるであろう。

静かに流れるジャズボーカルもいい。

デザートに移るころに気が付いたことがある。

各テーブルに置かれたグラスローソク、その炎が静かに流れるBGMに合わせて揺れるのである。

多く並んだすべてのテーブルの赤いグラスの中のローソクがである。

スピーカからの音量が大きいとか、スピーカ自体が大口径ということではない。小さなスピーカセットである。

フロアはかなり広い。 それなのに音に合わせて、炎の燃焼が優雅に大小の動きをする。

空気が留まっている、それに合うように時も静かに流れている、そんな思いを抱かせる素晴らしい一時であった。

客が増えてくれば、その動きや会話による空気の流れにより、こんな楽しみはできないのかもしれない。

あらためていい時を過ごさせてもらった、との思いでいっぱいになった。

この楽しみをいま暫く、とオンザロックを頼み、炎とジャズボーカルに心を静かにくつろがせてみた。

ウィスキーグラスも空き、もう一杯頼もうかと思案していると、偶然にもテーブルのグラスローソクが燃え尽きた。

何か作為的なドラマのようでもあるが、ちょうど良い引き時である。

立ち上がると二組目の客が入口から入ってきた。

いままでの静かな時間をありがとう、そんな気持ちで店を出た。

2001.10


 

「曲がり道」

 

 やや広めの谷戸の田んぼの近く、こんもりした林の脇の道が右の方へと曲がっていく、

そんな風景が好きである。

 道の先に何があるのだろう、と思い巡らせてくれるのがいい。

 たった一軒の民家があるだけかもしれない、とつぜん蝉の声がわーんとして、

かぶと虫がいくらでもいそうな林がつながっているだけかもしれない、

そんなことを考えてしまうのがいい。

 わたしの場合、この道は田んぼの右側の、右に曲がっていく道でなければならない、

というこだわりがある。

2001.07


 

「"Natural"を考える」

 

Pension 『なちゅらる』 を開業して10数年が過ぎました。

しかし、初心というものは兎角こころの隅にしまわれがちです。

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   Pension 『なちゅらる』 のナチュラル [Natural] は、

    「もっと自然に親しもう」、「もっと自然になろう」、ということからつけたものです。

   音楽符号のナチュラルの 「元にもどる」 と 「自然にもどる」 ということを掛けて

「素直になろう」 という気持ちも含まれています。

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世の中いろいろな柵(しがらみ)が強まる昨今ではありますが

いつも「素直な気持ち」を 持ちたいものです。

ときどきに、「素直になろう」 ということを忘れて しまっていまいか、

を問う自分でありたいと思います。

それから

 「素直な気持ち」 と対になるのが 「相手を思いやる気持ち」 だと考えています。

自分に素直になってもほかの方にご迷惑をかけるようではならないでしょう。

 「素直な気持ち」=「相手を思いやる気持ち」

「相手を思いやる」 って、なかなか難しいものがありますね。

2001.06


 

感想をよろしく sato-natural@pop06.odn.ne.jp