2004年6月〜2005年3月の俳句
如月美樹
2005年3月
祈りあふるる春愁のくちびるに
春宵の君の横顔見てばかり
片ピアス失くしてしまふ春うらら
遠きにて祝ひの歌をしやぼん玉
蓬餅あるじなき間に通さるる
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2005年2月
春は来ぬ恐れずに聴け恋の歌
淡雪のそのひとの声やはらかく
春の雪とはことさらに眠きこと
厨房に湯気ある寒の戻りかな
春の夜の祈りの声の歌に似て
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2005年1月
夢ならば目覚めのわるき冬菫
囚はれていると思へず外は雪
触れられぬ指寒月に晒しけり
阪神・淡路大震災から10年 1句
灯ともりしところに人や震災忌
春遠からじその人のことば待つ
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2004年12月
スターバト・マーテル冬の来りけり
テレビ塔目指して歩け冬銀河
指先を祈るかたちに冬薔薇
凍蝶の一声を待つくらさかな
着ぶくれてマタイの受難いかばかり
観覧車開業間近雪催
千年ののちの再会雪女郎
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2004年11月
父母のうすき縁やとろろ汁
流星や未だ翼の見つからず
触るるとき頬やはらかき星月夜
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2004年10月
鍵かけてすぐに忘るる無月かな
龍淵に潜みやがてはかへる駅
旋律よ響け色なき風の中
人類に秋の夕陽のまんべんなく
また逢ふ日まで繊月をまなうらに
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2004年8月
昼寝覚たしかに殺めたるものを
夜濯ぎの五臓六腑をうらがへす
親なきがごとくに夏野歩みゆく
人の香のするわが肌よ蚊遣火よ
空蝉や鍵をなくしたかもしれぬ
しもて
夏はおしまい下手とふ暗がりに
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2004年7月
滑空のやうな高速道に夏
そのときの薔薇の終りをなつかしむ
夏の半月まだ探し足りぬもの
君のゐなくて風鈴の響きけり
身籠もりし夢覚めてゆく雷雨かな
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2004年6月
夢見れば夢に会ひたき五月来ぬ
くちびるに歌やはらかき聖五月
五線紙の音立ち上がる夏の蝶
をとこ来て夏めくものに喉仏
“You are so beautiful”ため息に夏きざす
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