Concert Diary

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Opera Diary   Feb.2003

February
24,February 二期会“カルメン”
22,February 東京オペラプロデュース“当惑した家庭教師”
9,February 新国立劇場“アラベッラ”
8,February 新国立劇場“アラベッラ”
2,February “愛の妙薬”


2002年2月24日(月)
二期会公演
ビゼー “カルメン”

東京文化会館大ホール18:30開演。9割方の入り。
5階席。

カルメン: 板波 利加
ドン・ホセ: 大間知 覚/福井 敬
ミカエラ: 林 正子
エスカミーリョ: 稲垣 俊也

演出:実相寺 昭雄
指揮:飯森 範親
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

<救世主降臨>

不調で降板した大間知には申し訳ありませんが、代役の福井が全てを救った公演でした。第3幕以降は共演者も調子を上げ、前半が終わった後の、この後どうなってしまうのだろう、というあり地獄に落ちてしまったような悲しい気持ちを払拭してくれました。

いつもねちねちと悪口ばかり書いて奇妙な提案で終わるという、だったら最初から観に行くな、という文句の一つも出そうな感想は避けたいと必死に良いところを探していた努力を神様が見ていてくれていたようなホッとした気分です。

第3幕から登場の福井は前日の疲れも見せずに最初から全開で、戦に向かう部下達を鼓舞している将軍のように舞台姿も勇ましく、大きく見えました。その声の響きはまさに神々しいという言葉が相応しく、最上階まで豊かに包んで、ラストシーンではここだけ見れば世界に出しても恥ずかしくない稀有の名演、という印象を持ってしまうほどの充実振りでした。特に高いB♭やAは滴るような潤いと恍惚とさせる美観をもって現実の世界を忘れさせてくれました。

板波は、声量はあるものの今一つ歌に聞こえないのは残念。登場のシーンの舞台奥からの声は爆発的で、実際に姿が見えなかったのでメガホンでも使っているのではないか、と思いましたが、後半はさすがにトーンダウンしていました。福井との「カヴァレリア・ルスティカーナ」があったら良いかもしれません。

こちらのキャストにしたのは林が聞きたかったからでしたが、後半のアリアはまずまずだったものの、声の力よりも微妙なニュアンスや歌いまわしの上手さが要求される第1幕の二重唱ではブレスに余裕がなく、少なからず無理な発声が聞かれイメージが狂いました。本調子でなかったのか、声量はあるものの響きが暗く、こもった感じになるのが気になります。

大間知は健闘していたと思いますが、声に比べて役が重すぎるのは明らかでした。再起できることを祈ります。稲垣は、第2幕の登場ではオケピット付近に停滞する響かない声の上に、高い音が更に出ないという、第3幕のホセとの二重唱は中座したい気分にさせるものでしたが、福井に刺激されたのかまずまず挽回していました。

盗賊団はとにかく皆声が大きかったという印象しかないのが厳しいです。合唱も同様で、一番印象に残っているのが第1幕で女声が二手に分かれて争うところでの「ギャー」という奇声でした。恐怖感を与える目的は充分達していたと思います。

大きな声至上主義はオーケストラにも原因があると思います。とにかくでかい声を出さなければ、という強迫感を持ってしまうのも不思議はないほど無遠慮な音量設定が目立ちました。オーケストラ自体が声を聞いていない雰囲気もありありと伝わってきました。

演出は大掛かりな装置で意欲は買いますが、ミカエラのトレンチコートはまだ良くても、歌手の動きがコントロールされておらず、演技まで神経が回らない余裕のなさを前面にさらけ出すだけで、ホルンの人達がおもちゃで遊んでいるように頻繁に管をはずしたりはめたりしているのを見ている方が楽しかったです。

→ 「クラシック・ニュース」二期会「カルメン」ゲネプロ取材レポート(写真あり)

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2002年2月22日(土)
東京オペラ・プロデュース第67回定期公演
ドニゼッティ
“当惑した家庭教師”

(日本初演)

なかのZERO大ホール、多く見積もって半分の入り。
2階席。

ドン・ジューリオ: 杉野 正隆
グレゴーリオ: 柴山 昌宣
エンリーコ: 内山 信吾
ジルダ: 松尾 香世子
ピッペット: 石川 誠二
レオナルダ: 小野 さおり

演出:松尾 洋
指揮:松岡 究
管弦楽:東京ユニヴァーサル・フィル管弦楽団

<やはり疑いようのない名曲でした>

絶妙な配役と周到な準備が感じられる公演で楽しめました。舞台の完成度の高さに比べ宣伝が上手くいかなかったのか、二期会と重なってしまった不運か、寂しい客入りは本当に残念です。

まず家庭教師役の柴山が絶品。達者な演技と声の自在さで難しさを感じさせません。ベースとなる声に芯があり、響きが安定しているため演技が自然と声に乗り移って、歌っていない場面でも目が離せないほど違和感なく役柄に入りこんでいました。数多い重唱でも的確にサポートしながらも聴かせどころを心得ています。歌で表現しようとするのでなく、その役になりきっていれば自然と歌が出てくる、ということを示してくれたように思います。

役柄は限定されるかもしれませんが、松尾のジルダも見事。抜群の演技力で縦横無尽に駆け回るパワーには脱帽です。見ているだけで楽しいキャラクターはこの手のオペラでは必須でしょう。力を必要としない楽な発声で聴いていて疲れないのも更に印象を良くしています。レオナルダとの「しゃっくりバトル」も良かったですが、柴山との二重唱は特に楽しさにあふれ、アンコールができるとしたらこの曲をお願いしたいです。

他のキャストも献身的な演技で練られた演出を確実にこなしており過不足ないものでした。

歌手が良かっただけに指揮には若干不満が残ります。ドニゼッティの指定したテンポを守っているのかもしれませんが、時折先に行きたがる歌にブレーキをかけている場面も見うけられました。柴山のアリアではかなり顕著で少し気の毒でした。こうしたドタバタ・オペラでは良くも悪くも演技や早口など負担が大きい歌手のモチベーションでがらりと雰囲気が変わってしまうと思うので、もう少し配慮がほしかったように思います。

ドニゼッティの抜群の芝居センスにあらためて感服させられた、という感想は全体的にレベルが高かったことを意味しているように思います。ブッファ好きにとっては、ここ数年世界を見渡しても主要の劇場で上演されていない作品を観られたことには感謝したいと思います。

残響というよりも初期反射音に癖があり、生のオペラを聴くには忍耐を強いられるホールなのは致し方ないでしょうか。オーケストラの音が著しく濁るのと、声があさっての方からはね返ってくるのは困りました。もう一回り小さい劇場で観ればもっと強く印象に残ったと思います。

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2002年2月9日(日)
新国立劇場2月公演
R.シュトラウス “アラベッラ”

新国立劇場オペラ劇場、9割方の入り。
3階席。

アラベッラ: シンシア・マークリス
マンドリカ: 小森 輝彦
ズデンカ: 天羽 明恵
マッテオ: 経種 廉彦
ヴァルトナー伯爵: 山口 俊彦
アデライデ: 白土 理香

演出:鈴木 敬介
指揮:若杉 弘
管弦楽:東京交響楽団

<余裕あるセカンド・キャスト>

どういう決め方なのかは定かではありませんが、主役以外セカンド・キャストのこの日は水準が高く、前日よりも充実度が上がりました。結果として私にとってのベスト・キャストは大倉を含めて全員セカンド・キャストでした。

一番の目当てだった小森のよどみなく出る声と美しいドイツ語はまさにマンドリカそのもの。日本人でこれだけ歌える人は他にいないでしょう。日本からの仕事の依頼もあるでしょうが、ドイツに腰を落ち着けていろいろなレパートリーを習得してほしいと願います。いずれウィーンでマンドリカを歌う、等と楽しい想像もしてしまいます。そうなったら応援に行かなくては。

第1幕の伯爵とのシーンもかなりの頻度で切り替わるトーンをはっきりと歌い分け、全く違和感がありません。この場面も多彩で美しい音楽なのだと思い知らされました。しかし圧巻はやはり第2幕のアラベッラとの二重唱です。抑えた声とはっきりと発音される子音が美しく響いて、これならいくらコケットな女でもなびくでしょう。長いフレーズの造形も見事。

元々そういう面が強いですが、後半はオケの上を通そうとするあまり力が入りすぎて逆に声が届かなくなりました。演出の都合がありますが、小森流の静かに怒る男を演出してもよかったかもしれません。最初の日は成功したという最後のグラス割りを豪快にできなかったのはご愛嬌。

マークリスは、終幕をきっちりと決めて思わずほろりとさせられ後味は良いですが、もう少しドラマティックな役が本領でしょう。それでもこれだけ歌えるというところに底力を感じます。ただ基本的に声の美観で勝負できず、旋律の美しさをそのままダイレクトに届けることはできないのは、大倉を聴いた後ではやはり厳しいです。広いダイナミック・レンジを生かして声量の変化でカバーするというスタイルではこの役は限界があります。

再演ということもあるのでしょうか、動きがキャストによってかなり違うのは気になります。マークリスは特に自由にやっていたように感じました。それがどちらかというと裏目に出て、どう動いてもウィーンの舞踏会より「風と共に去りぬ」の舞踏会を連想させました。細かいことですが、ひじから先が動き過ぎるのが後半はずっと気になりました。最後には薄目をあけて見るのも段々慣れてきたようです。

天羽は張りのある高音を聴かせ、経種も第1幕の後半等、魅力ある声が聴けました。ヴァルトナー伯爵夫妻も前日より格段によかったと思います。

歌手が変わっても全く変わることのないオケは、途中からオペラの伴奏というより交響詩を聴いている気分になってきました。しかし最後まで集中力が途切れず、健闘を称えたいと思います。

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2002年2月8日(土)
新国立劇場2月公演
R.シュトラウス “アラベッラ”

新国立劇場オペラ劇場。7割方の入り。空席目立つ。
4階席。

アラベッラ: 大倉 由紀枝
マンドリカ: 大島 幾雄
ズデンカ: 中嶋 彰子
マッテオ: 中鉢 聡
ヴァルトナー伯爵: 池田 直樹
アデライデ: 永田 直美

演出:鈴木 敬介
指揮:若杉 弘
管弦楽:東京交響楽団

<大倉一人舞台>

主役以外はチラシの左側に乗っている、普通に考えればファースト・キャストですが、事実上のセカンド・キャストと予想していました。しかしプレミエ時にも歌った大倉の表題役が素晴らしく、全体を引き締め、要求水準が低かったことを加味しても充分楽しめるものでした。

必ずしも美声でなく、達者な中嶋と一緒に歌うと言葉の明瞭さに欠けることが明らかになってしまうにもかかわらず、役を完全に自分のものにしている人が歌えば聴いていて自然と役柄に入り込むことができる、ということを教えてくれた大倉の歌は感銘深いものでした。特に多く出てくる中低音でのピアニッシモの息の長いフレーズでは歌っていることを感じさせない自然な情感がにじみ出ていました。張り上げてしまいがちな高音も含め、全ての音をまずきちんと響かせよう、という意図が浸透していたのが他の歌手から際立っていた要因だったように思います。

難点は立ち振る舞いがせいぜい下町のお嬢さんで、役柄にあまり則したものでないことでしょうか。きちんと演技をつけられていないのかもしれませんが、歌にはかなり余裕があるので姿勢と首の位置だけでも気をつければ印象はかなり違ったと思います。仕方なく薄目を開けて見ていましたが、声は全くアラベッラそのものなので非常にもったいない気がします。たった一日だけの舞台というのも残念です。

そのヒロインに引っ張られるようにマンドリカの大島も、第2幕のデュエットではコントロールされた歌を聴かせてくれました。大倉が丁寧に歌っていて、彼女に合わせるように七分程度の力で歌ったのが声の美観を損なわず、かつバランスがとれているという良い結果を生んだと思います。

中嶋は堪能なドイツ語がこの中に入ると断然光りますが、やはり役に合っていない印象は拭えません。声も演技もお嬢様役でない方が合っていると思います。中鉢も美声は素晴らしいですが、かえってドイツ語に聞こえないのとバランスを崩している点ばかりが目立ちました。

オケは統率の行き届いた、準備の周到さを感じるものでした。オペラを生業としていないオケにこれ以上求めるのは無理でしょう。

演出は豪華な舞台装置にかろうじて救われているものの、歌手の動きからは計算された優美さや貴族的なものはほとんど感じられませんでした。

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2002年2月2日(日)
文京区民参加オペラ
CITTADINO歌劇団第3期生公演
ドニゼッティ”愛の妙薬”

文京シビックホール14:00開演。
1階席ほぼ満員、2階席もそこそこ。2階席。

アディーナ: 宗田 舞子
ネモリーノ: 北野 晃司
ベルコーレ: 秋山 隆典
ドゥルカマーラ: 金子 亮平
ジャンネッタ: 田村 佳子

演出:岸 未朝
指揮:若林 裕治
CITTADINO歌劇団オーケストラ

<男声低声二人の好唱>

毎度懲りずに安さにつられてのこのこ出掛けてしまいます。

今回の目当てはバリトンの秋山でした。「ベルカント」で検索すると筆頭に出てくるのでご存知の方も多いと思いますが、「秋山隆典ベルカントの世界!」 でイタリア式とドイツ式の発声の違いについて解説があったりと、いろいろためになっていたので、前からどんな歌が聴けるのだろうと機会をうかがっていました。

さすがにスカッと明るく響く声が素晴らしく、主役達をおしのける存在感は圧倒的でした。重唱では少し周りに気を遣っているようで、できれば実力者の中に混ざっての歌が聴いてみたいです。

期待していなかったので驚いたのがドゥルカマーラの金子。検索しても全く情報が得られませんでしたが、見事な声と日本人では珍しい言葉の明瞭さは今後本格的なブッフォに成長するかもしれない、と希望が芽生えます。演出に更に要求があれば、もっと引き立っていたかもしれません。

テノールは演技力がかなり不自由なものの、声そのものは素晴らしく、ソプラノもなかなかの力唱。合唱はドゥルカマーラ登場シーンでかなりずれていたり、その後も止まりそうになったりしてハラハラしましたが、楽しそうにやっていたのが微笑ましかったです。

練習風景など
→ 文京シビックホール ホームページ

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