ロッシーニ「エリザベッタ」のみどころ

・ポイント
・あらすじ
・楽曲の構成
・聴きどころ


<ポイント>

・主要人物は4人
内訳はソプラノ2人、テノール2人です。高い方に片寄りがありますが、その中でも微妙に音域に差があります。

 マティルデ(高いソプラノ)−レイチェステルの妻 (マリオーラ・カンタレーロ)
 エリザベッタ(低いソプラノ)−主役・女王 (ソニア・ガナッシ)
 ノルフォルク(高いテノール)−レイチェステルを妬む/悪役 (アントニーノ・シラグーザ)
 レイチェステル(低いテノール)−女王に愛される/マティルデの夫 (ブルース・スレッジ)

女声同士の重唱、男声同士の重唱がありますが、高低はほぼ固定されているようなので、聞き分けるのはそれほど困難ではないと思います。

・女王が女王であるか
ありがちな三角関係に権力が絡んだ物語です。演出がどんな時代設定になったとしても、主人公エリザベッタに強大な権力を感じられなければドラマとして成り立つことが難しくなるでしょう。ガナッシなので問題ないとは思いますが、その姿、声、歌から権力者ならではの傲慢さや尊大さが感じられるかは重要だと思います。(ひねくれた演出だとその限りではありませんが。)

・ノルフォルクとマティルデの超高音に注目
特にノルフォルクにはおいしすぎるほどたくさんの高音が用意され、他の出演者の調子が悪ければあっという間に主役に昇りつめることができると思います。ロッシーニのテノールへの挑戦状ともいえる難役をシラグーザがどう歌うかは見物です。

マティルデは唯一のアリアで超高音(ハイE♭)のチャンスがあります。これを回避したためにブーがかすかに聞こえる演奏もありますね。

・重唱に美しいメロディー
フィナーレも含めると二人以上で歌っている場面は多いですが、印象的なメロディーが多いです。どちらかといえば、ソロの場面の方が寝やすいかもしれません。

・後に「セビリアの理髪師」に転用
序曲やアリアなど耳慣れたメロディーがところどころに出てきます。

・合唱シーンを口ずさもう
いつもシンプルながら美しいメロディーが与えられる合唱も、いつになく印象的なメロディーが多いです。海岸を散歩する時に口ずさむのにとてもよいでしょう。

結局のところ、唯一の覚えやすいアリアが「セビリアの理髪師」に転用されてしまったおかげで注目度は低いものの、他の作品同様聴けば聴くほど魅力を感じてくる素晴らしいオペラで、ロッシーニを心から愛する人からは一瞬たりとも眠るなんてけしからん!という抗議が聞こえてきそうです。

詳しいキャストなどはこちらをご参照ください。→Rossini Opera Festival

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<あらすじ>

女王エリザベッタに密かに愛されている司令官レイチェステルはマティルデと既に結婚しています。その功績を妬むノルフォルクは彼らの秘密を知って女王エリザベッタに明らかにし、怒ったエリザベッタは夫婦を投獄します。

マティルデはレイチェステルの命を救うためエリザベッタの説得に応じますが、徐々にノルフォルクの企みがばれ、最後は女王エリザベッタがレイチェステルへの想いを立ち切るところで幕。

詳しいあらすじはこちら。これ以上うまくまとめることは私には不可能です。
オペラ御殿(Rossini Gotenへ)

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<楽曲の構成>

=第1幕=
・☆    序曲
・☆☆☆ 導入部(実質ノルフォルクのアリア)
・☆☆  エリザベッタのアリア
・☆   レイチェステルとマティルデの二重唱
・☆   マティルデのアリア
・☆☆  エリザベッタとノルフォルクの二重唱
・☆☆☆ フィナーレ(4人)

=第2幕=
・☆☆  エリザベッタとマティルデの二重唱、レイチェステルが加わって三重唱
・☆☆  ノルフォルクのアリア
・☆   レイチェステルのアリア
・☆   ノルフォルクとレイチェステルの二重唱
・☆☆☆ フィナーレ(4人)

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<聴きどころ>

=第1幕=

・☆    序曲

ご存知の通り「アウレリアーノ・イン・パルミーラ」からの転用で、後に「セビリアの理髪師」にも使われました。素晴らしい音楽には違いないですが、指揮者とオーケストラの力量を計るくらいに留めて、体力を温存するのがよかろうと思います。
・☆☆☆ 導入部(実質ノルフォルクのアリア)(約7分)
ノルフォルクがレイチェステルの凱旋を嫉妬しながら、むごい運命を嘆く場面です。物語のキーマンとなる裏切り者にふさわしい性格的な役柄作りができているかどうかが見物。

合唱の後のレチタティーヴォ風導入、合唱との掛け合い、テンポアップして速いパッセージがたくさん出てくるカヴァティーナ部分の3部構成。譜面に書かれた最高音は恐らくAですが、せっかくのハ長調なのでハイCを期待したいところです。

DVDではブレイクが推定14回のハイCを出してくれていました。
・☆☆  エリザベッタのアリア(約8分)
約2分間のレチタティーヴォ、合唱の後に続く主役の登場。 ゆったりした威厳を感じさせる登場のカヴァティーナ。特に下降の速いパッセージを中心に難所が多く、どれだけのテンポでどのくらいしっかり歌い切れるかがポイントでしょう。

合唱を挟んでセビリアの理髪師「今の歌声は」に転用した後半部分に続きます。これもヘ長調なので、最高音はハイCを期待したいところです。
・☆   レイチェステルとマティルデの二重唱(約5分)
長いレチタティーヴォでレイチェステルが登場し、受勲の場面があります。合唱のメロディーはとても美しいです。ここはレイチェステルの容姿やマティルデの変装の加減など舞台上の動きをぼんやりと眺めるシーンでしょうか。(約6分)

お互い最初の登場での二重唱は二人の愛を確認するという内容。素晴らしいメロディーをたんまり詰め込むこともできたと思うのですが、主役への配慮からか今1つぱっとしない印象があります。拍手を拒否するような盛り上がらないエンディングは珍しいと思います。

同じメロディをレイチェステル、マティルデの順に歌い、違うメロディーでハモるという構成。同じモチーフを繰り返して盛り上がりつつも尻切れに終わるので拍手がしづらいことでしょう。
・☆   マティルデのアリア(約6分)
夫と会話をしながら3分ほど休んだすぐ後のアリア。 追ってきたマティルデ(設定では16歳?)の夫を思う純粋な愛を歌います。カヴァティーナ=カバレッタの2部構成。

唯一のマティルデの見せ場でそこそこのメロディーは与えられているのですが、これがセコンダの運命か、デュエットの後というロケーションの悪さに加え、冒頭のエリザベッタのアリアに比べると装飾音がたくさんあったこと以上にあまり強い印象が残らないのが残念です。

変ホ長調なのでラストはハイE♭の可能性はありますが、たくさんの音符を歌ったあとでは厳しいかもしれません。この印象を覆すような歌を期待したいものです。
・☆☆  エリザベッタとノルフォルクの二重唱(約9分)
カットがなければこの前に6分ほどのレチタティーヴォがあるので一休みです。レイチェステルが結婚していることを知り、ノルフォルクがしめしめ、と思うシーンです。

愛する男が結婚していて、しかも妻は敵側の女だと知ったエリザベッタの怒りとノルフォルクの突然の幸運にほくそえむ感情が微妙に絡み合ったこのオペラ二つ目の男女の二重唱。

先のデュエットと同じように同じメロディーを交互に歌った後、難しい無伴奏の中でのハーモニー、そして二人の思惑が重なってレイチェステルへの復讐を誓う行進曲風メロディー、という三部構成。

二人で歌う部分はほとんどがノルフォルクが上を歌っているので苦しい場面が続き、中間部分に弱音でハイCが1度だけ要求されています。ラストは恐らく最高音B♭。ここは弱気になっているエリザベッタを尻目にノルフォルクには高音で打ち負かしてほしいところです。
・☆☆☆ フィナーレ(4人)(約20分)
全員が集合してエリザベッタがノルフォルクに王冠を与えようとして拒まれ、マティルデと共に牢獄行きを命じる、このオペラの山場です。20分近く続きますが、ここまでで疲れてしまったということのないようペース配分をしたいところです。うれしいことに、もうすぐ休憩です。

しばらく会話があって、「近うよれ(Vieni, giovane eroe)」からがフィナーレのスタートです。ここはスタンダールがいくら「クラリネット的」と言おうとも、褒美を与えようという女王の威厳を見事にあらわした装飾音たっぷりの、このオペラの中で最も美しいとも言えるメロディーに圧倒されます。少なくとも、きちんと歌えるだろうかとハラハラさせるような不安定な歌は勘弁したいところです。

レイチェステルはこの後の展開を予想し、マティルデと弟のエンリーコと共にハーモニーで女王に応酬します。ここでエリザベッタの前のメロディーの絡みが絶妙で、まずジーンときてしまうことでしょう。しかしまだまだ先は続きます。

そして最大の見せ場、王冠を与えようという女王の申し出です(Eccoci, eroe magnanimo)。ここでの力強いB♭がばっちり決まるかに注目しましょう。その後には再度レイチェステルら3人によるアカペラで始まる静かな美しいハーモニーが展開します。エリザベッタも加わっての複雑にもつれた4声が作り出すハーモニーは絶品で、ロッシーニ好きでなくてもとろけてしまうことは間違いありません。

ここではそれほど目立つ個所のないメゾ・ソプラノのエンリーコがハーモニーを支える一番下の音を歌っていることが多く、影ながら注目したいところです。

ひとしきり終わって、レイチェステルがはっきりと拒絶した後から、終幕に向かってテンポが上がります。エリザベッタがマティルデもひっとらえて、「セビリア」で聴き覚えがあるメロディーが出てきたらいよいよ休憩も近いです。合唱も含めてロッシーニお得意のクレッシェンドで盛り上がって幕です。ニ長調なので高音を歌う人がいたらハイDとなるでしょう。
=第2幕=

・☆☆  エリザベッタとマティルデの二重唱、レイチェステルが加わって三重唱
そろそろ怪しまれてきたノルフォルクが門前払いを食らって、ソプラノによる対決の二重唱です。エリザベッタはレイチェステルをあきらめるなら命は救おう、とマティルデに提案し、夫と弟の命を救うためにマティルデはしぶしぶ署名します。

前の二重唱と同じく、同じ音形をエリザベッタ−マティルデの順で歌った後、二人のハーモニー、更にレイチェステルが加わるという構成。イントロのメロディやレイチェステルが登場する時のつなぎのメロディーなども美しいことこの上ありません。

前半では1回ずつ1オクターヴ上昇してのハイCで対決するよう要求されているので注目です。失敗したり回避したら、レイチェステルの愛を受けられることはないでしょう。

後半は静かなセレナード風ハーモニーで、ここも絶品の美しさです。しかし全体として音域が低く、マティルデには厳しい試練です。

レイチェステルが登場して三重唱に発展。自分の運命のむごさを嘆く同じセリフを3人がそれぞれ違う思惑を持って歌うという、ロッシーニの遊び心満載の難所です。

マティルデの署名した文書をレイチェステルが破ってしまうところからテンポアップして高音の応酬です。ここはさすがに違うセリフをそれぞれ歌います。
・☆☆  ノルフォルクのアリア(約10分)
エリザベッタが残り、臣下のグリエルモと短い場面があり、通常はカットされるグリエルモが一人のシーンが続きます。更に合唱が5分ほどあるので一休みできるでしょう。

この合唱を従えたノルフォルクのシェーナとアリアは、ソロの曲では一番出来がよいのではないか、というのが私の印象です。何度も口ずさめるメロディーがないのがやや難点ですが、高い音域でのヴァリエーション豊富な装飾音、そして見事な合唱との掛け合いから早い展開、と決まった時の爽快感は主役をしのぐことのできる見せ場になっていると思います。ロックウェル・ブレイクがArabesque、クリス・メリットがPhilipsの録音でそれぞれ歌っていて、この手のテノールには格好の腕だめしでしょう。

将軍レイチェステルを牢屋に入れことに成功したノルフォルクが、今度はその将軍を慕う軍隊を牢屋に突撃させて一挙に政権の転覆を企てようという、実質4分のアリアです。

当然ながら1音たりとも歌えないので全くの想像ですが、楽譜を見てまずテノールが青ざめるのが、レチタティーヴォにある"GAB♭AC−"と出てくるハイCではないでしょうか。軍隊を動かそうという時の"Patria(祖国)"という言葉に当てはめるには最高のメロディーとは思いますが、いたずら好きのロッシーニとはいえあまりにも酷なフレーズです。(こちらのトラック4のラストでそのフレーズが聴けます。)

もしここでへなちょこなハイCだったらいくら挽回しても落第点なのは間違いありませんが、難所はこれからです。上昇しながらのまたハイCを要求された後は、最高音こそB♭なものの、声の自由度が求められる細かい音符がこれでもか、と出てきます。合唱が追いかけてくるので、対抗して主導権を握りつつラストのハイB♭を決められるか、期待しましょう。
・☆   レイチェステルのアリア(約10分)
悲しみに沈むレイチェステルの唯一のアリア。レチタティーヴォの語りがあり、実質4分です。わが身の不運を延々と嘆きます。

同じ声域の、しかも自分より高い音域を歌っているアリアが直前にあるのですから、やる気まんまんでやってくれ、とお願いする方が無理でしょう。そこそこのメロディーとBも3回ありますが、テノールばかり聴くのが好きではない方は少しお休みしたほうがよさそうです。

この曲もマティルデと歌った二重唱と同じく、オーケストラの音が小さくなって終わるので更に印象が地味になります。遊び心というより意地悪なロッシーニです。
・☆   ノルフォルクとレイチェステルの二重唱(約5分)
疲れ切っているであろうテノール二人のデュエット。どうやら作っている方も疲れたのか、同じメロディーを中間部を挟んで2回歌って終りです。三度のハーモニーとカノン風掛け合いが耳に残りますが、前半と後半では歌詞が違うので展開してほしかったというのは贅沢でしょうか。

ハ長調なのでラストはレイチェステルが最後のハイCを出してくれることでしょう。「アルミーダ」のテノール3人ハイCのようなサービス精神はないものの、他の曲ではなかなか味わえないテノール三昧はファンにとって至福の一時ではあるかもしれません。
・☆☆☆ フィナーレ(4人)(約12分)
ヴェルディだったらドラマティックでド派手なシーンになりそうな、悪役ノルフォルクが捕らえられるシーンは4分ほどであっけなく終わり、大円団のフィナーレです。

裏切り者を捕まえた安堵、二人の仲を認めて祝福、合唱が乱入して将軍を元の地位に戻す、という3部構成で、第1幕に比べればあっさりしていますが、たっぷりお休みしていたエリザベッタにおいしいフレーズが盛りこまれており、女王とその他、という図式で完全に一人舞台となります。

特に中間部のフルートを伴った何気ないフレーズは、これぞ声のためのメロディー、という極上の美しさです。ラストは変ホ長調で低い位置での装飾音を多く歌いながらも予想通りB♭が多発します。回りの歌手も高声ばかりなので上にいきたくなるでしょうが、変に張り合うと牢屋に入れられてしまうかもしれません。

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