神永礼子 講演内容

皆さん、こんにちは。 私は神永礼子と申します。本日は皆様に、日本の人口問題について、多少申し上げたいと思います。

皆様ご承知のように、日本の人口は、今後急速に減っていく方向にあります。子どもの出生率が急激に落ちているからです。短期間で1億人を割込み、最終的には8千万人近くにまで下がるのではないかと、予想されています。

 これは日本の将来にとって、たいへん重大な問題です。なぜなら、人口が減れば国の経済規模が収縮して、会社経営が立ち行かなくなったり、世の中の活力が落ちるからです。社会全体が活力を失って、停滞するばかりでなく、厚生年金の運営も立ち行かなくなりますし、国の膨大な借金返済もできなくなって、次の世代の日本を、破綻に追い込む事になってしまいます。私たちは、人口減少を防止するための対策を、大至急実施しなければならないと思います。

 世はまさにリストラの真っ最中です。今行っている不良債権処理や、企業の合理化は、あと数年もすればメドがつくでしょう。バブルのツケを清算するためには、避けて通れない、苦い薬ではありますが、しかしこれをしたからといって、日本がすぐ再生できる訳ではありません。清算してやっと、スタートラインに立つに過ぎないのです。そしてそのあとにのしかかってくるのが、膨大な財政赤字の解消問題です。
 この10年のあいだに発生した、膨大な国の借金は、その規模の巨大さからして、とうてい通常の手段をもってしては解消は無理です。小泉首相の、財政を何とか健全化しようという努力は評価しますが、事ここまで至っては、国民負担なしの健全化は、全く無理であるばかりか、仮に国民に負担を押し付けたとしても解消はむずかしい、と言わざるをえません。

 財政赤字やバブルのツケを解消し、日本が21世紀の世界のリーダーとなっていくためには、どうしても今後、長期の経済的な繁栄こそが絶対に必要なのです。そして長期の繁栄拡大の過程で、土地や株式のゆるやかな再上昇・経済規模の拡大・税収の拡大をとおして、はじめて赤字の解決が可能なのです。これしか無いと断言してもいいと思います。
 自民党の一部にある、世の中を除々にインフレにして、借金を棒引きにしてしまおう、などという意見は、国民の生活を犠牲にして省みない暴言である、と言わざるを得ません。

 では日本を長期に繁栄させるためにはどうすれば良いか。不良債権問題も財政赤字も株の下落も深刻ではありますが、これは結果に過ぎません。その根本にあるのは土地本位制による信用創造という、日本固有のシステムです。 まずは間接金融から直接金融へ国をあげて転換することで、今回のような土地担保主義によるバブル発生と不良債権発生を二度と引起さない体制を確立すること、特殊法人の廃止・民営化による規制緩和や既得権の廃止、資金の効率運用によって財政からムダを省くことや重点投資、研究開発の強化、そして税制改革・地方への財源移譲と分権など、いろいろあるでしょうが、私は根本的には、日本人の持つ潜在能力を最大限に発揮させ、活用できるような社会的環境を実現させる事に尽きるのではないかと思います。

 皆さんご存知のように、日本には資源が何もありません。石油も鉄もない、国土は狭い。その狭い、食べるものさえ輸入しなければならない一億二千万の国民が、曲がりなりにも今の繁栄を築き上げられたのは、なぜでしようか?
 明治維新で植民地にもならず、短期間のうちに近代化できたのは、なぜですか? 戦後、何も無い廃墟のなかから、ここまで急速に復興できたのは、なぜですか?

それは、日本には教育を受けた、志の高い、優秀な人材がたくさん揃っていたからではないでしょうか? 経済といい政治といい、しょせんは人間のやる事です。今ある人材の最大活用と、将来の人材の育成こそが必要なのです。まさに日本にとって最大の資源は、人そのもの、なのです。
 日本人は本来、優れた能力をもっている。その優れた国民の、民の力の解放・活用、そして子どもの教育強化。人口減少の防止。これこそが、将来に向けて今、私たちがなすべきことなのではないでしょうか。

ところが、世の中を見てみますと、そうはなっておりません。会社は役所の規制でがんじがらめで、自由に活動ができません。世界を相手に自由に競争をしてきた会社は、超一流に成長しているのに、一方、役所の保護を受けてきた会社は、建設・銀行も含めて二流・三流ばかりです。残念なことではありますが、これらの会社が、今の日本の足を引っ張っているのです。
 また子どもの教育には、今後力を入れて、入れすぎるという事はありません。ゆとり教育などというものは、「日本の教育は世界に冠たる最高水準のものである」という、誤った幻想に基いた政策です。大学生が手紙も満足に書けず、小学生の算数も解けず、人と接して話し方もわからず、英語も話せない。このような人間が、これからの世の中を背負っていけるでしょうか? これに、さらにゆとりを持たせる。一体、文部科学省は何を考えているのでしょうか? 

 そして、さらに重要な問題があります。それは、国民の半分を占める女性が、世の中で働き続けられる環境が保障されていない、ということです。むしろ、女性が世の中で自由に活躍できる、社会的なシステムそのものが全くつくられていない、と言った方がいいと思います。そして実はこの事が、まわり回って、子どもの出生率の低下という現象を、生み出しているのです。

これは日本の将来にとって、実に重大な問題をはらんでいます。具体的に申し上げましょう。女性は本来、子どもを産む、というハンデを背負っています。妊娠・出産・そして子育て。これらは、世の中全体にとって大事な事柄ではありますが、しかし、ひとりひとりの女性が世の中に出ていこうとする時には、大きな不利となり、負担となるのです。女性は家の中にいるのが当たり前であった時代ならともかく、日本の将来を、共に働いて築いていこうという今の世にあって、これを社会的に支援する政策が何も無いに等しい、というのは、日本のような先進国にあって、まことに情けない限りです。

では女性が子どもを産む、ということは、社会的に意味の無いことなのでしょうか?そうではないでしょう。 私たちにとっても日本全体にとっても、大事なことであろうと思います。 だとすれば、世の中全体でこれを保護し、支援して、女性の出産・子育てと社会進出を、皆で支えていく社会システムをつくるべきだと考えるのですが、皆さん、いかがでしょうか?
 そういうシステムを政治が作らないで、ただ会社の利益追及の都合に任せた結果が、今の出生率低下であり、働き続けたい女性が会社を辞めざるを得ない現状なのです。

結婚のために辞めざるを得ない、出産のために辞めざるを得ない、出産したら子どもの世話のために辞めざるを得ない、やっと手間がかからなくなったので社会復帰しようと思っても、時給700円のアルバイトしか無い。せっかくの専門職も生かせず、会社も冷たい・・・
 そういう状況であれば、女性は自衛するしかありません。仕事を続けたいという意欲を持っていて、生活のために収入もほしいと思えば、結婚はなるべく遅くして、子供は生まないようにするしかないのです。これが今の状況です。

結婚は人生の花です。仕事か結婚かなどと迷うこと自体が本来おかしいのです。そして、迷わざるをえないような仕組みしか持っていない世の中自体が、本来おかしいのです。

こうして残念ながら、日本人の優秀な人材の何割かが、現にムダになっているのです。かって、自民党を中心とする日本の政治家は、土地の暴騰を押さえるどころか、争ってその尻馬に乗ってバブルを発生させ、結局のところ今の危機を招いて、国民に大迷惑をかけていますが、女性の社会進出と出産・育児を、国を挙げて応援し、保障しようとしない今の政治家の現状は、これにも匹敵する、最大の愚挙、おろかしい行為であろうと思います。まさに将来の日本のために、国家的な損失です。

今、ノルウエー・スエーデンをはじめとするヨーロッパの国々の多くは、女性が安心して働きながら子育てができるような、支援政策をとっています。その結果、当然のことですが、低下し続けていた出生率が増加に転じただけでなく、テレビ・自動車・住宅などの耐久消費財の購入が増えて、世の中の経済全体が良い方向に回り出しているのです。一例を挙げてみましょう。

スエーデンでは、出生率が1.5にまで低下した時点で、政府が積極的に出産・育児支援の態勢を充実させました。中身の中心は出産休暇・育児休暇の社会的な保障と、休暇中の所得の8割保証、子ども手当、そして公的な保育園や夜間保育の充実などです。画期的なのは、育児休暇を女性だけでなく、男性にも認めたことです。

その結果どういう事がおこったか? 劇的に出生率がアップしたのです。出生率がアップしただけではなく、女性が安心して働けるようになったため、女性の就業率が大巾に上昇し、つれて、経済成長率も上昇したのです。詳しくみていきますと、給料の多い高学歴層の女性ほど、出生率がアップしています。これは育児休暇中の給料保証が、よりたくさんもらえる事と関係していると思われます。今は出生率のアップが、社会全体にまで広がっていまして、働いている女性ほど出生率も高いという、好循環になっています。ノルウェーでは同様の政策で、出生率は2.0近くまで回復しています。

出生率低下という問題は、いまの世の中が内包する男女間の社会的地位のゆがみから生ずる、典型的な社会病なのです。社会病であるからには、適切な対策をとれば回復が可能なのです。女性が高学歴になって働くようになったら、子供を産まなくなる、などというのは、真っ赤なウソです。本当のところは、生みたくても生めない、育てられない状況だから、生まないだけなのです。
 この例からもわかる様に、適切な社会制度があれば、女性が社会進出する事と出生率のアップは両立します。そして女性が社会参加する事によって、国全体もまたバランスのとれた、豊かな国に成長していけるのです。

女性の雇用と出産・子育てを、世の中全体で支援し、女性の社会進出を促すシステムをつくることによって、経済の再活性化や、将来の労働力問題の解決、そして子どもの出生率の増加が見込めるのです。将来が危ぶまれる年金の問題にしましても、女性の雇用者数が増えれば、幾分かの好転が見込めるはずです。

ところが、財界の一部や自民党は、こうした、やれば出来る国内改革に目をつぶって、出生率低下や女性問題を置き去りにして、将来の人手不足対策として海外の単純労働者の導入をしようとしております。導入するときは、給料が安くなければ意味がないですから、中国やイラン・ブラジル・東南アジアなどからが中心となるでしょう。

皆さんこれがどんな事態を引起すかわかりますか? 好況のときはいいですが、不況になったらヨーロッパみたいに帰れと言うのですか? アメリカの今の社会を想像してみて下さい。人種間の争い・宗教紛争・麻薬・ギャング・銃がなければ安心出来ない緊張社会。そして価値観の違いから来る、となり近所でのさまざまな争い・・・。

むろん価値観や文化の衝突によって、日本の社会が変わって行くプラス面もあるでしょうが、一方で、教育や治安のための社会的費用は、とてつもなく高くつくでしょう。ここ10年、ヨーロッパでの外国人排斥運動に伴う、ネオナチなど右翼勢力の急速な台頭や、昨今のセルビア情勢の混乱などをみるにつけ、人種・宗教・文化の違いを乗越えて平和共存するために、いかに多くの痛みとエネルギーが必要かを痛感するのは、私だけではないでしょう。
 ではその社会的費用は誰がもつのでしょうか。利益を出した会社がもってくれるのでしょうか? いいえ、私たち国民一人一人が持たされるのです。

本来、日本の出生率が低下を続けているのは、政治のリーダーシップの無さとはいえ、企業の利益追及に際して、女性の立場が一顧だにされなかった結果なのです。
 産休は困る、育児休暇は出せない、休暇中の雇用保証はムリ、コストアップ要因はすべて排除する。まして育児休業手当なんか出せない。仕事がムリなら退社してください等々・・・。女性に対する退社強要、いやがらせ、いじめ、給料カット、昇給・昇格差別などは、程度の差はあれ大半の会社でいまも行われていることです。その結果がいま現在の、出生率の低下なのです。

その出生率の低下によって、労働力が足りなくなる恐れが出てきたら、今度は費用のかかる女性問題には目をそむけて、改善しようとすれば解決出来る出生率を放っておいて、国内にある女性という大量の人材を活用しようとしないで、安易に安い海外労働者を入れようとする。そしてその結果会社は利益を出すが、その社会的費用は国民に押し付けようとする。

皆さん。これが一部の財界指導者らが推し進めようとしている労働者輸入論の本質です。工場を、日本でコストアップになったら中国に移す発想と何ら変わっていません。焼き畑農業で、この畑がダメになったら次の畑に移るのと同じ単純な発想、焼畑農業並みの発想です。企業にとっては一番安上がりで、安易な方法です。

しかし皆さん。これでは日本の未来はダメになってしまうのです。移民や国際化がダメだと言っているのではありません。国内の解決すべき問題を差し置いて、一時しのぎに安易な方法に頼っていては将来の繁栄はあり得ない、と言っているのです。戦後数10年、在日朝鮮人の問題さえ解決できていない状況の中で、アメリカ社会並みの人種混合社会を、多くの国民は本当に受け入れる事が出来るのですか? 

私は在日朝鮮人の方々は、日本人と同等の完全な市民権を与えられてしかるべきだと考えている一人です。日本に住むようになった歴史的な経緯からしても、平等の精神からしても、差別すること自体が間違っていると思うのです。それさえ解決出来ない自民党や財界が、少子化対策として安易に単純労働者輸入を推し進めようとする事は、全く笑止千万であり、事の重大性からして、女性の敵・国民の敵と言っても差し支えない、と思います。

さて、私は一介の主婦ですが、わたしはいま、クオータ制の実現をめざす会の代表をしています。クオータ制度とは、社会的な男女間の平等な割り当てのことです。国会議員から市町村会議員・審議会のメンバーに至るまで、男女の比率をほぼ同数に割り当てる制度のことです。これは男性と女性が共に社会参加をし、協力しあいながら社会を支えあっていこう、という考えに基いた制度です。すでにヨーロッパでは当たり前の制度で、昨年は遅まきながらフランスが導入し、お隣りの韓国も実施に踏み切りました。今後導入する国が増え、世界の趨勢となることは確実な情勢ですが、日本では未だ議題にものぼっていません。

 言うまでも無く世の中を変えるのは政治の力です。法案一本で世の中全体がガラリと変わります。治安維持法で民主主義を封殺することも、平和憲法で繁栄を実現することも可能です。しかしその政治を動かすのは、他でもない私たち国民の力です。
 いろいろな立場からの女性運動はとても大切なことですが、なかなか主張が通りにくいのが実態です。男女が共に相手を大切にし、協力しあって形造っていく社会の実現は、それを可能にする政治的仕組みがない限り、なかなか実現は難しいのです。しかし大元の政治制度そのものを変革すれば、すべてが変わります。それを可能にするのがクオータ制度です。

先ほど申し上げたノルウェー・スエーデンの例にしましても、そうした政策が実現しました背景には、クオータ制度による男女の協力関係が存在する訳です。共に社会参加し、共に助け合って社会のひずみを是正していく制度をつくることによって、結果的に、先進国でも女性の社会進出と出生率アップの両方を実現することが出来、ひいてはより良い社会をつくる事が出来るのです。

皆さん。私たちは次の世代に、負の遺産ばかりを残してはなりません。日本は今は苦しい時期ですが、近い将来に、必ず21世紀の世界のリーダーとして活躍するときがやって来ます。私たちはもっと苦しい時代を乗り越えて、ここまで発展してきたのです。今の時代をバネにして、日本は必ず再生し、そして長期に繁栄するでしょう。

将来の、その繁栄する社会実現のために、今こそクオータ制度の実現が必要なのです。どうか私たちの運動にご理解と御協力をお願い申し上げます。

ご静聴有難うございます。

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