声の演技 基礎と実践

喜怒哀楽
声優演技研究所では、どんなレッスンをしているの?
その ほんの一部分を皆さんに教えちゃいます!




はじめに

  • 声優をめざす者は
    教わるのではなく、自ら覚える。
    与えられるのではなく、自発的に何かを手に入れる。
    その姿勢を持つことが一番大切です。
    自分で考えるという行為を放棄していては前には進めません。



発声の基礎知識

  • 発声のもとになるのは呼吸です。
    理想の呼吸法とは、「すばやく吸って、その息を一定の量で吐きつつ、出来る限り長くつかう」ことです。
    大きな声を出したり、息継ぎをしないで長く台詞をしゃべるには、出来るだけ多くの空気を吸い込んで吐き出す練習をすることが大切です。
<腹式呼吸とは>
  • 人間は、肺で呼吸をします。
    お腹で息をすることは医学的に考えても不可能です。
    ではなぜ、腹式呼吸をしなさいといわれるのでしょうか。
  • 大きな声を出すためには、肺の中にたくさん空気を吸い込まなければなりません。
    肺に空気がたくさん入ると、ふくらんだ肺に押されて横隔膜が下に下にと追いやられ、だんだんお腹が大きくふくらんでいきます。
    実際に呼吸をしているのは肺なのですが、まるで「お腹で呼吸しているように見える」という現象が腹式呼吸の正体です。
  • つまり腹式呼吸とは、「肺の中に空気が120%入ったことを確認する方法」なんですね。
  • あお向けに寝て空気を吸い込むと、お腹が大きくふくらんでいくのがはっきり分かるので
    上を向いて寝ながら大きく深呼吸を繰り返すのも、腹式呼吸の練習になります。
  • 上を向いて寝ながら声を出すと
    おなかから声が出る感覚がわかりやすいため
    あお向けに寝て、天井に向けて発声練習をしたり、本や新聞を読む練習をすると良いでしょう。

★腹式呼吸をマスターするための注意点★

  1. 空気は鼻から吸う。
  2. 背中を、まっすぐに伸ばす。
  3. 立っている時は、首を伸ばすことを意識する。
  4. 椅子には浅く腰掛ける。
肩は動かさない。
  • 腹式呼吸は、息を吸うときに肩を上げないようにすることが基本です。
    肩を動かさずに深呼吸すると、腹の底にグッと力がこもります。
    こうすると肺が縦に伸びて、声が良く響くようになります。

腹式呼吸がうまく出来ない人は、あお向けに寝ながら練習するのが良いでしょう。

  1. 仰向けになり、おなかに手のひらをあてる。
  2. 口からゆっくり息を吐く。体の中の空気をすべて吐ききるつもりで、おなかに置いた手で おなかが引っ込むのを確かめながら。
  3. 吐ききった後、鼻から息を自然に吸う。手でおなかが膨れるのを確かめながら。
  4. 「吸って吐く」ではなく「吐いて吸う」を心がけ、「吐く時間」が「吸う時間」の2倍以上になるように留意する。


<発声練習一覧表>
ア エ イ ウ エ オ ア オ  
カ ケ キ ク ケ コ カ コ  
サ セ シ ス セ ソ サ ソ 
タ テ チ ツ テ ト タ ト  
ナ ネ ニ ヌ ネ ノ ナ ノ  
ハ ヘ ヒ フ ヘ ホ ハ ホ  
マ メ ミ ム メ モ マ モ  
ヤ エ イ ユ エ ヨ ヤ ヨ  
ラ レ リ ル レ ロ ラ ロ 
ワ エ イ ウ エ オ ワ オ 
【濁音】ガ ゲ ギ グ ゲ ゴ ガ ゴ
【鼻濁音】ガ ゲ ギ グ ゲ ゴ ガ ゴ  
キャ ケ キ キュ ケ キョ キャ キョ 
【濁音】ギャ ゲ ギ ギュ ゲ ギョ ギャ ギョ 
【鼻濁音】ギャ ゲ ギ ギュ ゲ ギョ ギャ ギョ 
ザ ゼ ジ ズ ゼ ゾ ザ ゾ  
シャ シェ シ シュ シェ ショ シャ ショ
ジャ ジェ ジ ジュ ジェ ジョ ジャ ジョ  
ダ デ ヂ ヅ デ ド ダ ド
チャ チェ チ チュ チェ チョ チャ チョ  
バ ベ ビ ブ ベ ボ バ ボ
パ ペ ピ プ ペ ポ パ ポ   
ヒャ ヘ ヒ ヒュ ヘ ヒョ ヒャ ヒョ
ビャ ベ ビ ビュ ベ ビョ ビャ ビョ   
ピャ ペ ピ ピュ ペ ピョ ピャ ピョ
ミャ メ ミ ミュ メ ミョ ミャ ミョ   
ニャ ネ ニ ニュ ネ ニョ ニャ ニョ
リャ リェ リ リュ リェ リョ リャ リョ

【※】濁音と鼻濁音の違いについては、声優演技研究所サイト内にある「発音の基本とアーティキュレーション」【濁音・鼻濁音】を参考にしてください。



声優の演技について

◎声優とは、声だけで演技する俳優ではなく、声だけでも演技できる俳優である。

◆俳優の演技

  • 科介 (しぐさ) 所作とも云う。
  • 科白 (せりふ) 言葉。

◆声優の演技

  • 声だけで、科介 (しぐさ) を充分に感じさせるものでなければならない。


◎役の把握について

  1. 性別・年齢・職業を知る。(年齢の中に時代背景も含まれる)
  2. 性格を知る。(その役特有の、ある程度持続的な感情、意思面での傾向や性質、品性、人柄)
    例:几帳面、小心者、熱血漢、冷静沈着、のんびり屋、ズボラ。
  3. 健康の度合い。(それによって、性格に異変が生じる)
  4. 家族構成。
  5. 現在までの育った環境。
  6. 学歴。(知識・技能・特技)
  7. その他。

◎以上の事柄を、出来る限り細かく調べつくして、初めて「役」が見えてくる。

  • このとき大切なことは、見えてきた「役」を、単なる「知識」として捕らえるのでなく、自分 (演技者) と、何処がどのように違うのかを比較検討し、認識・意識することである。
  • そのためには、俳優は自分のことをつぶさに知らなければならない。
  • 認識・意識することによって、自分 (演技者) の肉体と感情を通して、作者が書き下ろした「役」が誕生する。
  • 認識・意識する誤差が、作者と演技者の間でゼロに近いほど名演技に近づく。

◎科白 (せりふ) は、役を完全に把握した演技者が発する言葉である。

  • まず、初歩的段階として、感情・意思を充分に理解し、且つ自分のハートに、それに近い感情・意思を喚起するところから始まる。
  • つまり、科白(せりふ)には、感情や意思が複雑に込められていなければならない。
  • 従って、画面の口パクに、ただ声を当てはめるだけでは、科白(せりふ)とは呼べないのである。

◆そして、問題はこの先である。

確かに、感情・意思を喚起したハズなのだが表現すると違ってくる。または、「違う」と言われる。
・・・何故だろうか?

そこで幾つかの「論理」と「技法」が必要となってくる。
ただし、これまでの事を十二分に理解・納得していない場合は、大変大きな「害」になるので注意が必要である。



声の種類

  1. 有声音
  2. 無声音 (感情や意思を他に伝えない、モノローグなどの時に使う)
  3. 半無声音
  4. うら声

演技の基礎11項目

1:緩急
セリフのスピードを、早くしたり遅くしたりして変化させること。

2:高低
登場人物の感情に合わせて、声のトーンを変化させること。なお、声の高さは、まじめな演技でも「うら声」にまで及びます。

3:強弱
セリフを強く言ったり弱く言ったりすること。
この、1・2・3項目を覚えるだけでも、かなりの効果があります。
くわえて、短い1センテンスの中で、1・2・3項目が自由に演じられるようになればしめたものです。

4:アーティキュレーション
かつ舌のことです。
演技者が何をしゃべっているのかが観客に分からないようでは困ります。セリフには明瞭度が必要不可欠です。

5:アクセント
「なまり」のことです。
標準語をしゃべれるようにするのはもちろんですが、それに加えて、関西弁などの方言が自在にあやつれれば大きな武器になります。英語などの外国語にも同じことがいえます。

6:距離感
となりの人に喋っているのか。遠くの人に呼びかけているのか。はたまた、壁(ドア)の向こう側の人なのか。
遠近感を意識して演じることでセリフが生きてきます。

7:イントネーション
抑揚のことです。
特にセリフの語尾の抑揚には充分な注意をはらいましょう。
語尾を、上げるか下げるか変えないかの違いだけで、セリフの感情がまるで変わってくるからです。

8:呼吸
演技の呼吸とは単なる肺呼吸のことではありません。
激しい行動を表す荒い呼吸や、興奮・緊張・喜び・悲しみを表す感情的な呼吸、また、くしゃみ、いびき、あくび、舌鼓なども呼吸ですし、驚きやショックを表すには呼吸を止めることも必要になってきます。

9:サウンド
声を、口腔や鼻腔などで共鳴させることです。
声を響かせることによって、演技に深みを持たせることが可能になります。
また、その逆に、老人を演じるときやモノローグの場合は、声を響かせないようにすると、それらしく聞こえます。

10:エンファシス
セリフや作品などの最重要ポイント、つまり“言いたい場所”を見つけ出し、そこを立てることです。

11:ポーズ
“間”のことです。
いろいろな状況や設定などから、ありとあらゆる間があります。
「何秒くらいの間をとればいい」というものではありません。同じセリフでも、演じている役の感情設定を変えるだけで、間は変わるからです。
また、書き文章の句読点と音声表現の間は、かなり違います。
文章の句読点は、もちろん参考にしますが、そのまま通りに引きずられないように注意し、間の長さと間を置く場所を工夫して、聞き手に理解されるリズムで話すことを心がけましょう。
間には “論理的休止” と “心理的休止” の2種類があります。
初心者のうちは、間(心理的休止)をとることはとても大変なものです。でも、演技が上手になるにつれて間をとるのが容易になり、間をとることが大好きになってくるものなのです。
『論理的休止が、テクストの小節や、纏まったフレイズを機械的に形づけ、それによってそれらのわかりのよさに役立つのに対して、心理的休止は、思想や、フレイズや、小節に生命を加えるのだ。それは、言葉の、サブテクストの上での内容を伝えるのを助ける。論理的休止のない物言いはわけがわからないとすれば、心理的休止なしでは、それは生命がないのである。論理的休止は我々の頭脳に役立つが、心理的休止は我々の感情に役立つのである』(スタニスラフスキイ)



演技盗みの実情と実態

  • 自分の好きな演技的要素を無意識に取捨選択して記憶しておき、必要に応じてそれを出すというのは、声優に必要な才能であり技術である。
  • その時に、どういう質のどういう演技が蓄えられ、それが自分のどういう感覚でどう理解されて表現されるか、その過程と結果がプロ声優の勝負となる。
  • ざっと考えても、まずその人の思った通りのやり方を真似る場合、本人が嫌だと思っているところを真似る場合、元よりも上手く真似る場合、元よりも下手に真似る場合、元よりも過激に真似る場合、まったく誤解して真似る場合、真似に失敗して別の変なものができてしまった場合、など、これの実態はさまざまである。



カンは練習の賜物である

  • テストのヤマかけや虫の知らせといった“カン”は、運や能力の産物ではない。
    例えば、道に迷ったときには「以前、右に行ったら行き止まりだった」などという経験が無意識のうちによみがえり判断する。
    カンが働くときは、常に過去の経験による記憶が基準となっているのだ。
  • だが、同じ経験を積んでもカンの鈍い人と鋭い人がいる。
    実はカンの鋭い人は記憶と現実を照合し、そのかすかな違いを感じ取ることが出来るのだ。
    カンの鋭い人は、目のピントを合わせる瞬間視の能力や、色の違いを識別する能力が高く、音の可聴範囲も広い。微妙な違いを瞬時に見分けられる能力に優れているといえるわけだ。
  • また、カンといえば“女のカン”が有名だが、女性は脳全体を使い記憶やイメージなどから情報を多角的に判断するため、男性よりもカンが働くのである。
  • さて、脳の中で経験を保管して記憶に残すのが“海馬”。海馬は、同じ経験を多く積むと記憶の回路を鮮明にするため、判断の基準がより明確になる。
    刑事が一瞬のカンで犯人を見破るのも経験ゆえだ。
  • これは、声優の演技についても同じことがいえる。
  • “練習はウソをつかない”というが、正にその通りだったというわけだ。


「スタニスラフスキー理論・メソッド演技」
   http://stanislavskii.tabigeinin.com/


ポイント
正確であること

  • 話の目的、内容を正しく理解し、正確に表現しましょう。
    そして、その話の内容を生かすにふさわしい話し方でなければなりません。

ききやすいこと

  • 発声、発音、アクセントをはじめ、抑揚、緩急、断続などの表現技術を十分に活用しましょう。

聞き手のことを考えること

  • 聞き手の態度、能力、年齢を考えて
    話し手は自己中心的な立場ではなく、聞き手側に分かりやすく話す配慮が必要です。

まとめ

みんなから拍手される演技。
大勢の人を感動させられる演技が出来る声優をめざして頑張りましょう。


ワークショップでの生徒たちの練習の成果を、YouTubeで公開しております。
1分くらいで見られますので
よろしければ、ぜひご覧になってやってください。