あがり克服法


声優演技研究所では
あがるという状態を、医学心理学の両面から
専門的に分析してみました。


ノルアドレナリン・セロトニン MCV 心理学 木内マジック 陸上競技 心拍数


医学編

<ノルアドレナリン・セロトニン編>
あがる、あがらないといった状態は、脳内物質のノルアドレナリンセロトニンの量が大きく関係していることが分かっています。

ノルアドレナリン
覚醒や興奮に大きく関係している神経伝達物質。
不安や恐怖を感じると、多量に分泌されるという特徴を持つ。
このノルアドレナリンは、交感神経を活性化させ、心拍数や血圧を高めるといった変化をひきおこします。
そのため、”あがった時”は、心臓の鼓動が早くなったり汗をかくなどの変化がおこるのです。
また、詳しいことはまだ分かっていませんが、あがりによってノルアドレナリンが多く分泌されると、脳内で過剰な興奮や活性が生じ、情報の混乱がおこります。
そのため、正常な判断力や思考力が低下し、頭の中が真っ白になるなどの状態が現れるのだと考えられています。

セロトニン
セロトニンは、一秒間に2、3回の周期で、常に分泌されている物質です。
そして、このセロトニンは、ノルアドレナリンの分泌を抑制する働きがあります。
そのため、ノルアドレナリンによる交感神経や脳への作用が抑制され、あがりによって起こるさまざまな身体の変化も抑えられるのです。

つまり、
あがりにくい人とは、セロトニンの分泌が活発であるためノルアドレナリンの分泌を未然に抑制するので、あがらないと考えられています。
そして、
あがりやすい人とは、セロトニンの分泌量が少ないためノルアドレナリンが多く分泌し、結果、あがってしまうのです。

あがる、あがらないの差は、セロトニンの分泌量に原因があります。
では、なぜ人によってセロトニンの分泌量が違うのでしょうか?

セロトニンの分泌量の違いは、分泌されたセロトニンの回収をおこなうセロトニン・トランスポーターの数によって決められています。
そして、このセロトニン・トランスポーターの数は、二種類の遺伝子が決定しています。

L遺伝子
セロトニン・トランスポーターを多く作る。
S遺伝子
セロトニン・トランスポーターを、L遺伝子の半分しか作らない。

そして、この遺伝子の組み合わせは、SS、LS、LLの、全部で3通りあり

SSの組み合わせの人は、不安を感じやすいため、あがりやすい。
LSの組み合わせの人は、S遺伝子の働きが強く表れる傾向があり、比較的あがりやすい。
LLの組み合わせの人は、不安を感じにくいため、あがらない。

<日本人とアメリカ人、500人を対象としたセロトニン・トランスポーターに関する遺伝子の組み合わせ調査表>
SS (あがりやすい) LS (比較的あがりやすい) LL (あがらない)
日本人 65.1% 31.7% 3.2%
アメリカ人 18.8% 48.9% 32.3%


日本人の場合、SSは、65.1%、LSは、31.7%、あがらないLLは、わずか、3.2%という結果が出ました。
アメリカ人の場合は、SSは、18.8%、LSは、48.9%、あがらないLLの組み合わせは、32.3%でした。
これにより、我々
日本人は生まれながらにして、あがりやすい遺伝子を持っているということが分かります。

★セロトニンの分泌量をふやす方法★
セロトニンの原料となるタンパク質、トリプトファンを摂取することで、セロトニンの分泌量をふやす事が出来ます。
トリプトファンは、豚肉、鳥肉、卵、牛乳などに多くふくまれています。


★セロトニン分泌量をコントロールする方法★
1:呼吸法
腹式呼吸(鼻呼吸)で、5秒かけて息を吸い込み、次に10秒かけてゆっくり息をはく。これを繰り返す。
2:反復運動
歩く。咀嚼回数を多くする。(食事はよくかんで食べる。ガムを噛む)
3:身体を温める
温かい牛乳、ミルクココア、ウーロン茶などを飲んだり、温かいタオルを顔や首筋にあてるなどして、身体を温めることにより、あがりを防ぐことが出来る。
4:リラックス
手足をブラブラさせ、筋肉の緊張をほぐし、体全体をリラックスさせる。

<MCV編>
人はストレスを受けると、赤血球が大きくなる。
赤血球の大きさを示すのは、MCV(平均赤血球容積)である。
正常値は、84から110fl(フェトリットル)。
MCVの数値が大きいと人は重圧を感じ、MCVが小さい人のほうがストレスに強く本番にも強い。

ラグビーやサッカー、格闘技などのスポーツ選手は練習時からケガの危険性が高いため、MCVも常に98以上と数値は高い。重圧を受けたボクサーなどは100を超えることもある。
ベスト数値は、MCV85から87。
スポーツ選手をコンディショニングする際には、鉄分や酸素が十分で、毛細血管の隅々まで入り込む小さな赤血球を作ることが目標となる。
それが出来れば、ストレスだけでなく、パフォーマンスの向上や、ねんざや肉離れなどのケガの予防にもなる。

★MCVを改善する方法★
1:鉄分、ビタミンC、Eをたっぷり含んだ、ブロッコリー、小松菜、しそ、パセリ、かぼちゃ、ニラ、トマト、ピーマン、焼きのり、昆布、煎茶、ナッツ類、サプリメントなどを摂る。
2:気持ちの切り替えを上手に行う。
3:さっと寝て、さっと起きる習慣を身につける。



心理学編

公の席で、声が震えて思うように発言できなかったという経験は誰にもあるはずです。
これは、極度の緊張からくる”あがり”の状態であり「声や手足が震える」「赤面する」「人の視線が気になる」などは皆、対人恐怖の一種なのです。
あがりやすい人の性格は、真面目で努力家であり、完全主義的傾向があるため、他人に自分の醜態を見せまいとする強い動機づけが働いています。
一般に、動機づけは強ければ強いほどよい成果をもたらすといわれていますが、動機づけが強すぎるとかえって失敗してしまうことが多いのです。
したがって、
”あがり”を予防するには、第一に、動機づけを適切なレベルにまで下げ、リラックスすることが大切です。
すなわち「ダメでもともと」「失敗したっていいや」ぐらいの開き直りと、
ゆとりがほしいのです。
さらに、声が震えたり赤面するなら、その状態から逃げない勇気をもつことです。あるがままに対応しながら少しずつ改善していく心構えが必要です。
そして、人前で話をするときには、あらかじめ予行練習をしておくのが効果的です。
また、
できるだけ場数を踏み、人前で話すことに自信を持つようにすることも大切です。


高校野球編

<2003年・夏>
2003年の夏、常総学院(茨城)は甲子園大会で、全国制覇を果たした。

甲子園での最大の敵は“緊張”。甲子園では相手だけではなく、自分自身が敵になる。
今も昔も選手たちがあがることに変わりはないが、現代っ子は自分があがっているのを認めようとしない傾向がある。
とんでもないボール球に手を出し「お前あがってるだろ」と聞いても「いえ、あがってません。ちょっと気負っただけです」と言う。
なんでもないゴロを悪送球し、「お前あがってるだろ」と聞いても「いえ、あがってません。ちょっと力んだだけです」と言う。
気負いや力みが、あがりの一種であることに気づいていない。

だから木内監督(常総学院高校野球部 元監督)は、口を酸っぱくして言う。
「何でもあがりだと認めろ。そうすれば早く下りられるんだよ」
理由はなんであれ、自分があがっていると自覚することが平常心に戻るきっかけになる。
だから、あがりを自覚させるために、常総学院では一時「僕はあがっています」というサインを作り、ベンチの木内監督とグランドの選手とで確認しあったこともある。

03年の夏の甲子園大会。
常総学院の選手たちは「お前あがってるだろ」「うん、あがってる」と、言い合っていた。
「そう言ってれば大丈夫」と木内監督が言うように、あがりを自覚していた子供たちは接戦でも変な気負いもなく冷静に戦い、見事に優勝することが出来た。

また、この大会の初戦で木内監督は選手たちに試合前こう話している。
「目測誤ってもよろしい。エラーも2個はOK」
選手から余計なプレッシャーを取り除き、リラックスさせるために言った言葉だが、その意図について木内監督は「エラーするなよ。って言っちゃったら、かえってエラーするんじゃなかろうかと思うんですよ」

結果的に、この試合のエラーは1個。
この試合で唯一のエラーを犯した二塁手は、ひとつミスをしたことで逆に開き直ったのか、1点差の9回二死一塁の場面で中前に抜けそうな打球を自らのファインプレーで好捕し試合終了。
「最後は俺のところに来いって、打球を呼んでました」

あがりからさめるには、あがっていることを自覚し、力みも気負いもあがりの一種だと知ること。そして何よりも、失敗を恐れず前向きな気持ちを忘れないこと。
たったそれだけで、あがりという大敵を退治することが出来るのだ。

<2002年・夏>
「理事長、今年はダメだ。もう負けるよ。(選手たちが)精神的に弱くって。一回戦も二回戦も勝ったけど、メタメタだもの」
木内監督が、めずらしく弱音をはいたことがある。
前年度は、甲子園に春夏連続出場した常総学院だが、2002年度のチームは不振を極めた。
秋と春に行われた県大会で結果を残せず、夏の茨城県大会はシード権を逃し、ノーシードからのスタート。
県大会開幕後、常総学院はなんとか2回戦を突破するものの、試合内容は大苦戦をしいられていた。

桜井富雄 常総学院理事長は、木内監督のいないところで選手たちを集め話し始めた。
「まだ誰にも言っていないが、木内監督は来年をもって辞める。
頼むから高校球児として、木内監督に指導を受けた恩返しをしてくれ。どんなことがあっても監督を甲子園に連れていってやってくれ。
時間はあと一年しかない。チャンスは二度しかない。俺から頼む」と、選手たちに頭を下げた。
「君たちは木内監督のサインを見なくたって、監督がなにをやりたいかわかるだろう。
君たちはチームの歯車であると同時に一人ひとりがエンジンでもあるんだ。だから、自主性を持って野球をやれ。
常総学院には木内監督が作った伝統があるんだ。
君たちの先輩は、どんな強いチームやすごいピッチャーが相手でも、それを破ってきた。気持ちで負けるようなことはなかった。
やる前から負けてるんじゃない。
どんなことがあってもあきらめてはいけない。
ネバーギブアップだ。野球はケンカなんだ」
と、はっぱをかけた後
「明日から全部コールドで勝て!」と檄を飛ばした。

その後の常総学院は、それまでの不調がウソのような快進撃を続け、2年連続夏の甲子園出場キップを手にした。

<1984年・夏>
木内監督というと「木内マジック」で有名だが
その名称が生まれたのは、1984年の夏からである。

当時、取手二高(茨城)を率いていた木内監督は、甲子園大会の決勝戦でPL学園(大阪)と対戦した。
試合は、4−3で取手二高が1点リードのまま最終回となり、この回さえ守りきれば全国制覇という局面をむかえる。
しかし、ここでPL学園の猛反撃に遭った取手二高は同点に追いつかれ、試合は延長戦へと突入した。
試合の流れは完全にPL学園へと傾き、目前まで迫った優勝を逃した取手二高の圧倒的不利と思われた状況のなかで、木内監督は選手たちにこう言葉をかけた。
「おまえたち、良かったな!」と。
優勝を逃して良かったな?
どういうことだと、いぶかしむ選手たちを前に木内監督は続けた。

「この試合は日本中の人たちが見てる。延長戦になったから、おまえらもっともっとテレビに映れるぞ、良かったな。
どうせテレビに映るんだったら、おまえたちのかっこいいところを日本全国の人たちに見せてやれ!」

試合が終わっていたら、もうテレビには出られなかった。しかし、試合はまだまだ続くから、ずっとテレビに映ることが出来る。そしてどうせテレビに出るんだったらヒーローになったほうがかっこいいぞ。
この言葉に乗せられた取手二高の選手たちは、延長10回表 PL学園から一気に4点を奪い試合を決定付けた。

選手たちの気持ちを自在に操り、常に120%の力を発揮させる「木内流選手操縦術」が日本中に認められた瞬間である。

「発想の転換」「気持ちの切り替え」
ピンチのなかから、いかに活路を切り開くか。これが「木内マジック」の極意である。
あがる、あがらないといった状態の差は、もしかしたら こういった「気持ちの持ち方」のなかにヒントが隠されているのかも知れない。


陸上競技編

「オリンピックとか世界陸上のスタート前ってどんなこと考えているんですか?緊張しないんですか?」って聞かれることがある。

みんな運動会に出たことあるでしょ?
基本はね、小学校の運動会と一緒なんだよ。
ただ周りが外国の選手になっているだけで、クラスのメンバーでやる競争がだんだん県の大会になって日本の大会になってアジアの大会になって・・・。
一緒に走るライバルは変わっていくんだけど、私の場合はオリンピックも運動会も同じ気持ちで臨んでいたね。
ドキドキして、でもワクワクしながら、応援してくれるみんなの気持ちに応えようとか、自分も気持ちよく1番でゴールしたいとかね。

だから「無理にリラックスしよう」とかは考えなくていいんだよ。

よく「肯定的な無抵抗」っていう言葉を使うんだけどね。
ありのままを受け入れる。それでいて、純粋に走ることを楽しむ。
そういう気持ちで走ってくれればいいんじゃないかな。
【東海大学 体育学部助教授 高野進】


番外編

一般に、人は「プレッシャー」が掛かると失敗をしてしまいます。
健康な人にプレッシャーを与える実験をしたところ、まず、心拍数が一気に低下した後、平常時よりも心拍数が上昇するという結果が出ました。
調べてみると、血液中の「副腎皮質ホルモン」が激増していることが分かりました。
この、副腎皮質ホルモンとは、脳下垂体から分泌され、肉体を急速に活性化させる“やる気物質”なのです。
そこで、平常時の状態と、プレッシャーを与えて心拍数を90にした二通りの状態で、バーベルを持ち上げて筋肉の運動量を測定するという実験を試みました。
すると、プレッシャー状態の方が少ないエネルギー量で持ち上がることが分かりました。
この実験により、
人は適度なプレッシャー状態にある方が、エネルギー効率が良くなりパワーも増大することが判明しました。

★まとめ★

「適度なプレッシャー」
心拍数80〜100の状態をいう。
この状態ならば、平常時以上に脳や肉体が活性化され、集中力が高まる。
「悪いプレッシャー」
心拍数120以上の状態をいう。
この状態になると、筋肉の活動がにぶり、思考能力が低下する。

つまり人間は、少しあがっていたほうが自分の能力を最大限に引き出すことが出来るのです。




★☆★以上、皆様のお役に立てれば幸いであります。★☆★


え ? 専門的すぎて、むずかしいって!?

赤文字だけ覚えましょう

うん、これでイイのだ


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