霜の結晶
「霜」は、雪の結晶と同様に、大気中の水分が昇華凝結してできるものです。それを顕微鏡で拡大すると、雪の結晶と同じく精細な氷晶の姿を観察することができます。 北海道では、厳しく冷え込んだ朝には部屋の窓にはもちろん、自動車の車体や家の壁、そして庭の草木の一つ一つにまで、とにかく野外にある物の表面には、いたるところに大きく成長した霜が付着することがあります。
しかし、冷え込みが厳しく気温が氷点下15℃位まで下がった時には必
ず一面の霜景色になるかというと、それは少し違うようで、気温が低くて
も日によっては霜が全然見られない朝もあります。そんな日は、単に冷え
込みが厳しかったなあというだけで、言葉通り「寒々とした朝」になります。
霜が大きく成長するかどうかということは、これもやはり、雪の結晶と
同様に、大気中の水蒸気が多いか少ないか、ということが影響してい
るようです。
一方、至る所に大きく成長した霜が付着し、一面の霜景色が広がった
朝には、それらの霜が朝日の光を反射して一斉に輝きますので、草も木
も、家も車も、とにかく野外にある全てのものが、まるでガラス細工で装飾
されているかのように一斉に輝きます。
天然に見られる霜の形については、これもやはり、中谷宇吉郎博士が雪の観察をしている合間に各種の霜の結晶を観察し、その外観から「針状」、「羽毛状」、「杯状」、「平板状」、「樹枝状」の5種類の霜の結晶が見られることを述べています 1)。
このうち、「針状」と「羽毛状」は、どちらも雪の角柱結晶と同じように小角柱からできており、「平板状」と「樹枝状」の霜では、それぞれ雪の板状結晶、および羊歯状結晶と同じ構造が見られるということです。また、「杯状」の霜は洋酒杯のような形のもので、たいていの場合は、その一部分を形成している程度の場合が多いとされています。
したがって、それぞれの霜の特徴を図にすると、下図のようなイメージになると思います。雪の結晶と異なり、何かに付着した状態で成長する霜では、きれいな六方対称形になることはあまりないようです。
ダイヤモンドダスト
氷点下15℃の朝、霜と同様に冬の景色に彩を与えてくれる気象現象の一つが「ダイヤモンドダスト」です。夜間に気温がグッと下がり、寒さの厳しい朝を迎える時は、大抵の場合は放射冷却現象が起こっています。したがって、ダイヤモンドダストが見られる朝には、目が覚めるような快晴の青空が広がっていることが多いようです。
そして、その青い空と、白い雪景色を背景にして、朝日の光の中で空気が時折キラキラと輝いて見えると、ダイヤモンドダストが生じていることがわかります。
草の葉や車の窓で成長している霜を直接顕微鏡で観察するのは難しいため、透明アクリル板の上に霜を付着させ、それをレプリカにしてから観察してみました。その様にして観察できた霜の結晶を以下に掲載しました。
中には、雪の結晶と似たような姿に成長している霜を見つけることもありましたが、多くの場合は、雪に見られる結晶の形の一部分だけが大きく成長している状態であると思います。
霜とダイヤモンドダスト |
ドライアイスを使って人工的に生じさせたダイヤモンドダストのレプリカ。極めて小さな六角板が見えますが、このような結晶は「初期氷晶」と呼ぶそうです。
左:角板状の霜、中:樹枝状の霜、右:角柱状の霜(何れもレプリカを観察)
骸晶角柱状の霜(レプリカを観察)
さまざまな霜の結晶
透明アクリル板に付着した霜(レプリカを観察)。結晶が空中まで伸びた時には、雪と似たような形になるようです。
角柱状の霜(レプリカを観察)。
右側の写真では発達していくつ
かの角柱が束になっています。
左 : 車の窓にできた六花状の霜。中心から
六本の樹枝が伸びてい ます。
右 : タイヤの上にできた平板状の霜。早朝
には無数に見られる霜ですが、朝日を
浴び るとすぐに溶けてしまいます。
水辺の枯葉に付着した羽毛状の霜(左)とそのレプリカ(右)。針状結晶の束でした。
氷点下の野外を漂うダイヤモンドダスト。小さな輝きを写真
に収めるのが難しかったのですが・・・見えるでしょうか?
このダイヤモンドダストは、どんな姿の結晶なのか?レプ
リカを作り、確かめてみました。
アイスパビリオンでダイヤモンドダストを見た!!
ダイヤモンドダストのレプリカ。立体構造が良くわかるように撮影した画像(全焦点画像)です。こんな形の小さな氷晶を捕らえることができました・・・。
夕暮れに見られたサンピラー(太陽柱)。上空にある
氷晶に光が反射して生じるそうです。
夕陽に染まる大雪の峰々
参考書籍・文献
1) 中谷宇吉郎,1994:雪.岩波書店,181pp.
2) Kobayashi, T., 1967: On the variation of ice crystal habit with temperature. Physics of snow and ice: Proceedings, 1(1), 95-104.
3) 平松和彦,2002:ダイヤモンドダストの観察と簡単なレプリカ作成方法.日本気象学会春季大会講演予稿集.81,p439.