「ん〜?」
「…あれ?」
「え〜っ!どぉしてぇ!?」

「リノア。さっきから何をやってるんだ?」


背後から響いてくる声に"遠慮"というものが無くなったのを感じて,スコールは手を休め振り返った。
スコールのベッドの上に陣取ったリノアも,膝を抱えたままの姿勢で,顔だけこちらへと向けてくる。


「ジグソーパズル」
「それは見ればわかる。そうじゃなくて」
「スコール,お仕事終わったの?」
「…まぁ」


立て続けにそんな声を上げられてたんじゃ,気になって少しもはかどらない。
そんな事情は曖昧にして頷くと,リノアは嬉しそうにいそいそと空きスペースを作った。
そこへ座れと言うことか。
ベッドの上を占領しているピースを更に幾つか動かして,リノアに向かい合うように腰掛ける。




「あのね,このピースがこのピースとくっつくと思ったのに,ダメなの」

リノアが示したのは,青色のグラデーションになっているピースだった。
スコールが手にしている,今動かしたばかりのピース達ともよく似たもので。

「…」


不安になったスコールが箱から出されたままのパズルを見てみると,そのほとんども青色の濃淡なのだった。


「1000ピースくらいあるか?」
「うん。元の写真がすごく良くてね。引き延ばして作ってもらったの。
 でもね,おっきくし過ぎちゃったのか,どこにどのピースがくるのかわからなくて」
「それで,1個ずつ繋げようとしてたのか?」
「そうすればいつかは出来上がるはずでしょ」
「…」


いつかは。
その『いつか』がやってくるまでに,果てしない時間がかかりそうな気がする。


「リノア。ジグソーパズルやったことあるのか?」
「失礼ね。そのくらいありますってば!」
「何ピースのだ?」
「え?え…っと,こんなに多くはなかったような」
「1000ピースはやったことがない,と」
「300でも1000でも同じでしょ!?」
「300だったんだな」
「なによ。そー言うスコールはやったことあるの!?」
「まぁそれなりに。売店で売ってるしな」


吃驚。という表情をしてすぐに,リノアは何か納得したように大きく頷いて見せた。
売店で,カタログどころか額まで売っていたのを思い出したらしい。


「ガーデンて意外に,カードとかパズルとか,インドアな物が流行るよね」
「娯楽が少ないからな」




リノアがなんとかつなげたピースはそのままにして,スコールはピースを選り分け始めた。
じっと手元を見つめるリノアに気づいて,分け方を伝授する。
外枠にあたる,ピースの一端が平らな物。
背景とは異なる,つまり青ではない色が含まれている物。
更に,同じ色調の物を一纏めにして分けていく。


「二辺が平らなものが四つあるだろう。まずこれを置いて,それに繋がりそうなピースを置いていくんだ」


言いながらガンブレードケースを二つ並べた位の,大きなテーブルを組み立て部屋の中央へと置いた。
愛器を本格的に手入れする時以外は仕舞われているそれが持ち出されて,リノアは再び吃驚。と言う表情をする。


「なに?」
「なにって,この上でじゃないと作れないぞ」
「そんなにスペースがいるの!?」
「少なくともベッドの上だけじゃ足りないな」


外枠にあたるピースを手にすると,まず間隔を空けて4つのピースを置く。
スコールは"1000ピースの"ジグソーパズルの完成サイズも分かっているらしい。
適当に置いていると思えていた,2〜3個で組み上げたピース達は,そのままの場所で外枠へと組み込まれていく。


「平らなトコがあるピースを更に分けるの?」
「分けてもいいし,リノア式に繋げていってもいい」
「リノア式って」


それはぜぜん効率良くないって,今目の前でやって見せてくれたばかりじゃない。
ぷぅ。と拗ねて見せたリノアに微苦笑を返して,スコールはパズルを選り分けつつ組み上げていく。


「手をつけていない部分のは,なくさないように元の箱にでも入れておけよ」
「すごい!あっという間に外枠ができちゃった!!」
「背景は空,海,…砂浜か?」
「そそ。夏に海に行ったじゃない?その時の写真なの」
「人物は,リノア,アンジェロ,…俺か?」
「そう。すっごくよく撮れてるの!」
「撮った覚えがないんだが」
「セルフィの隠し撮り」
「…」





選り分けたピースを箱に入れ終えて,再びリノアはスコールの手元を見つめる。
外枠を組んでいる時もそうだったが。スコールは組みながらもピースを選り分けている。
何度か不思議そうに首を傾げて,遂に諦めたように口を開いた。


「このピースとこのピースが,どして同じ山になるの?」
「それは,青色でもリノアの服だろ」
「違うよ。この色って海でしょ?」
「リノアの"服の一部"が入ってないか?」
「え? …あ,ホントだ!こんなちこっと,よく見えたね」
「これは俺の分け方で,リノアは同じ色で分けた方がやりやすいなら,そうすればいい」
「ん〜?」
「…やっていくうちに慣れてくるだろ」
「ねぇ。ひょっとして」
「なんだ?」
「1000ピースのジグソーパズル作るのって,…もの凄く時間かかったりする?」



ぴたりと。
音がしそうな程唐突にスコールの手が止まって,リノアは途端に居たたまれなくなったらしい。


「ちがうの違うの!そうじゃなくって …えっと」


ぴたりと合う言葉を探して,ピースを選り分けているハズの指は,ウロウロと同じ所を彷徨う。


「飽きちゃったとか,イヤになっちゃったとか言うんじゃなくて。
 あのね,わたしこのパズル,今日,スコールのお仕事が終わるまでに作っちゃうつもりだったの」
「…ああ」


合点がいったのか,スコールは相槌を打ち,次いで微かに苦笑した。
二人でやってこのペースでは,300ピースのパズルですら出来上がったかどうか怪しい。


「でも,すごく時間かかる…んだよね?」


今もリノアはパズルを選り分けているようでいて,その実,全く別のことを考えているらしい。
どこか遠くを見つめる瞳のまま,目の前にあるスコールの碧眼も見ずに,
ピースに描かれた彼の碧い左瞳を,その片割れを探すことなく山へと戻そうとしている。


「そうだな。青色の… 海と空と服の部分が多いし」


自分を早々に組み上げるのには抵抗があって,スコールも敢えて見ないふりをした。
代わりに手近にあったピースを選り分けて,満面の笑顔なリノアを作り上げる。


―――――確かに,凄く良い写真かもしれない…


「それでね,…えっと,作った分は動かさない方がいい …んだよね?」


自分が目の前に出現しても,リノアはまだ言葉を探していた。
思ったことは何でも口にしているようなリノアが探す,言葉の欠片。
その欠片に,スコールの方が先に思い至っていても。
元来思ったことの半分も伝えられないスコールが,口にできるハズもなかった。


「…ああ。1ピースでも無くしたら,完成しなくなるから」


だから。
この部屋で作り続けられるように,部屋の1/3を占拠するのが分かっているこの台を持ち出したのだ。


―――――この先ずっとベッドが使えなくなるのは,色々な意味で困るし…


そんな,当たっているようでいて,その実リノアが全く思いつかないような欠片では,
口にしたところでリノアが探す言葉の代わりになるわけはない。
言い澱む彼女以上に,もどかしさが募っていく。





「だから,えっとね…,……」


小さな吐息を飲み込むようにして。リノアはずっと手にしていた"スコールの左瞳"のピースを置いた。
欠片を探すのを諦めたと言うことなのだろう。
それを誤魔化すように,今までの歯切れの悪さとは違う,妙に明るい声を出した。


「スコールが帰ってきたら,また一緒に作ればいいよね!
 うん,これはこれで楽しいし!!」
「…一人でもできることを,二人でやる必要があるのか?」


諦めてほしくなくて。
折角二人でいるのに,仕事にかまけていたのは棚にあげてそう口にすると。


「スコールは,楽しくない?」


当然のごとく,そう返された。
リノアが手にしていたピースをさりげなく山の奥へと押し遣りながら,彼女が諦めた欠片探しを続けることになる。


――――そういう訳じゃないが,…」
「でしょ?二人で何か作り上げるのっていいよね!」
「それは,そうなんだが,……」


リノアだって,そんなことが言いたかったんじゃないだろう!?
さっきまでとは違う速さでアンジェロの欠片を選り分けているリノアに,自分の欠片はベッドの下にでも隠したくなりながら。
変わってしまいそうな話題の欠片を,何とか繋ぎ留めようとした。





「元々リノアは,1人で作るつもりだったんだろ?」
「うん。…それは,そうなんだけど」
「作ったらいい」
「だって,動かさない方がいいんでしょ?だったら,わたしの部屋まで運べないじゃない」
「リノアの部屋まで運ぶ必要はないだろう」
「どうして?だって,スコールが居ない時にはこの部屋に入れないじゃない。だったらわたしの部屋に運ぶしか」
「…コレがあっても,か?」



作りかけのパズルの上,未だ空いているスペースに,銀の獅子のキーホルダーを置いて見せる。
コレで填るハズ,
―――――間違えていない筈だ。
リノアが言いたくて言い出せなかった,最後の欠片。


『スコールが居ない時でも,この部屋に入ってもいいかな…?』


どんな時でも,この部屋に入ることができるアイテム。
銀の獅子のホルダーに着いた
―――――この部屋の合鍵(スペア・キー)





「え… いいの!?」
「ああ」
「ありがとう!なくさないようにするね!!」
「ああ」
「じゃあお返しにわたしのも取ってくる!」
「いやそれはいいから」


スコールが思った以上に,大喜びで合鍵を受け取ったリノアは
スコールが思った程には,事の重さを理解していないらしかった。


『いつでも どんな時でも リノアだったら入ってきてくれて構わない』


他人を拒絶して生きてきたスコールが示す 最大限の愛情表現

ちゃんと言葉
(カタチ)にしなければ
他人を拒絶などしたことがないリノアに 伝わるはずもないのだった





立ち上がりかけたリノアを,さりげなく,しかし必死の思いで引き留めて。
思わず吐いた大きな溜息の意味を,曲解したリノアがまた問いかける。


「スコールは楽しくない?…飽きちゃった?」
「…そういう訳じゃないが,…」


なぜ俺がまた言葉を探す事態
(こと)になってるんだろう…?
それでも手を止めて待っているリノアに,繋がるピースを差し出しながら口を開いた。


「…俺が仕事してたから,始めたんだよな?」
「そうよ」
「で,俺の仕事が終わるまでに作り上げるつもりだったんだよな?」
「無謀だったのは認めますって」
「じゃあ,作り上げて,俺の仕事が終わってたら,何をするつもりだったんだ?」
「え〜?えっと…」


『忘れちゃった』なんて欠片で埋められてしまう前に,言葉にしてしまわないといけない。


「それをしよう」
「え!?えぇえっ!!?」
「……おい。何をするつもりだったんだ?」




一瞬のうちに耳まで真っ赤に染まったリノアに,思わずそう問いかけて。
それこそ,言葉にされてしまったら自分の方が一層困るのではないかと思い至る。
今までだってリノアの心の内は,スコールの予測とそう遠く離れてはいなかったのだから。




自分に背を向けて,少しも構ってくれない恋人が,こっちを向いてくれたら

―――――どうしたい…?





「なによっじゃあスコールはわたしが何をしたいと思ったって言うの!?」


顔を真っ赤に染めたまま,強気にもそう問いかけてくる。
応じるスコールの答え如何で,自分が更に困ることになるとは予想だにしないらしい。
そもそも自分が未だに"ベッドに"腰掛けている事は,完全に頭から抜け落ちている


――――いや。


リノアの問いかけに,スコールが返した微かな笑みを見て。
言葉を返されずとも形勢が逆転した
――――自分が陥った事態に思い至ったらしい。
そしてこんな時のスコールの心の内は,リノアの予測と全く離れていないのだ。





間違えては,いない筈だ。


内心の焦りを押し殺して浮かべて見せた笑みと,右手のひらに乗せて見せたパズルのピース。
リノアの瞳が捉えたのは,探していたはずの恋人の欠片ではなく,滅多に見せない笑顔の方。
それでも無意識にだろう,左手のひらを差し出したから
その手に欠片を握らせて そのまま右手を重ね 食い入るように見つめてくる瞳は口唇で封じた



さっきから一度も,肝心な事は一つも,言葉にしてはいないのに
どうしてこんな風に ちゃんと 伝わっていると思えるんだろう…?





それでもいつかは ちゃんと見つけないと
二人で探した欠片
(ことば)を 一枚の絵(みらい)へと繋げるために














写真
(パズル)の中の碧い瞳がきちんと揃うのは
1ヶ月後,ベッドの下から,

――――――――最後の欠片を探して,二人で部屋中の大掃除をし終えた後のことだった。













***One Piece Of The Words***

Squall & Rinoa





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≪言葉≫繋がり駄文。イメージ曲タイトルの『B(etween the words and the Heart)』,…
『W(ord)』も『P(azzle)』も『H(eart)』埋めちゃってたわ〜
『O』は『O(range)』にとっておきたかったんだけどまぁいっか〜
(予想はしてたけど,タイトル文字に詰まるの早かったな^^;;)


で。イメージ曲は↑ですが,元ネタ(?)は『恋じゃなくなる日』の
「言葉にできない そのことに今は 苛立つこともないよ」。
ここからスコールが"苛立ってた頃"を回想したので,そのシーンを抜き出しました。


余談ですがFFシリーズパズルって108ピースが多いようなのですが。
うっかり買い逃した(泣)スコリノパズルが300ピースだったので,リノアがやったことあるのも300ピースにしました。

んで。そもそもこの話,出来上がった「写真
(パズル)」の方が書きたくて始めた話だったのにな〜
(ぷろっと?何ソレおいしーの?・涙)


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