水野道子さんの抽象的水彩画
 
水野さんの抽象的水彩画の基本色は赤と黒です。イメージのもととなったのは、スタンダールの小説「赤と黒」 かもしれません。今回の多摩アートテラス展出品作の題名は「地上より永遠に」となっています。古いロマンティックな外国映画にこの題名のものがありました。 
  2012年度の日本水彩展出品作(下図左)の題名は「慕情」でした。この題名の古い外国映画もありました。そしてこの2作品に共通する基本色は赤と黒です。どうやら、この2色が「地上より永遠に」と「慕情」の2作品の関連性を解く鍵となっているようです。
 抽象画というと、色と形の自律ということがまず浮かびます。水野さんの場合であれば、赤という色自体の美しさ存在感を黒という色との対比で表現する画ということになります。ところが、水野さんの画の赤は水野さんの想いと情念、黒はそうした想いや情念が浮かび上がる背景としての死と感じてしまいます。感じるところから一般的な抽象画との共通性を見出すことはできません。むしろ、水野さんの画から感じられるのは、そのような一般的な抽象画とは異なる文学性や物語性の豊穣さです。赤と黒はガン告知後、死線を彷徨う中で自分の表現を模索していた水野さんを知っている筆者には、水野さんの人生を象徴している色のように感じられます。その2色に様々な抽象的な形を与えるたのが、ガン告知後の水野さんの人生ドラマだったのかもしれません。
 赤と黒という色の自律性を探るのではなく、赤と黒という色に自分の人生観や情念を塗り込めようとした水野さんの人生ドラマを想うことの方が水野さんの抽象画の本質に近づけるのかもしれません。

「地上より永遠にU」
(多摩アート
テラス出品作「地上より永遠にT」と
同時期に描かれた作品)
 左の絵は、とにかくうまいデッサンだと思いました。又村先生のお話だと、入会したばかりの頃は、教室で上手な
絵を描こうとする人ももちろんいるそうです。先生の指導の姿勢や他の生徒さんの制作態度を見て、最初は困惑
するのだそうです。これだけ上手にデッサンが描ける神津さんももしかしたら、最初は困惑した人の一人かもしれま
せんね。
 他にパステルで描いたカラスウリを題材にした作品もありました。やはりメリハリのある線描写と指や布又は紙に
よるボカシを駆使して、見事に画面空間を作り上げた作品です。そんな神津さんも今は、意識的に「うまく描こう」な
どとは、全く思わなくなってしまったたそうです。むしろ無意識な造形感覚を呼び起こすことに効果のあるデカルコマ
ニーやスプラッタリングといったモダンテクニックによる描画に強く惹かれるようになったそうです。新聞紙に描かれ
た絵は神津さんが意識的に描いたのではなく、筆者には子どもの頃の神津さんの「遊び感覚」が無意識的に表出さ
れた結果のように感じられました。
 筆者の実家は本屋でした。子どもの頃、店の商品陳列台に平積みされていたたくさんの本の中に「ソレイユ」とい名
の若い女性向けの雑誌がありました。若い頃の女優浅岡ルリ子のような大きな目をした女性像を中原淳一が描いて
いました。爆発的な人気の雑誌でした。林さんの他の展示作品にも、その雑誌「ソレイユ」ばりの婦人像は描かれてい
ます。
 左の作品は、そんな林さんの娘時代の夢やあこがれの表現をもう一歩進めて、半立体(レリーフ)としたものなので
しょう。自分のイメージの表現を視覚だけに限定しないで紙粘土を練る際の触角をも動員して作った作品と思われま
す。 林さんは、子どもの頃の夢をずっと追い続けて作品化している幸福な人だと思いました。どの作品も作者が本当
に楽しみながら制作しているということがストレートに伝わってきます。

 関口さんの他の作品にCDの透明なプラスチックケースを使ったものがありました。又村先生の教室の
自由で若々しい雰囲気の中にいると、まるで思春期の若者が作ったようなモダンな作品になるのですね。
関口さんから刺激を受けたのは視覚だけではありませんでした。聴覚も大いに刺激されました。トランペッ
トの音色も感じられました。実は味覚さえも刺激されたのです。画面のいたるところにばらまかれた茶色が、
子どもの時、初めて食べたチョコレートの甘いけども、舌を刺激する大人の苦味を思い出させます。そんな
色々な感覚の始まりであった様な若い時の日々がよみがえるような作品ですね。筆者はかつて教員とし
て中高生の美術の授業で「コラージュ」を題材にしたことがありました。その時の中高生の作品を思い出し
ました。

 若々しい感覚の作品だったので、作者はきっと若い人にちがいないと思いました。ところが作者はご高
齢のご婦人でした。土屋さんが様々な瓶から感じたイメージがセンス良く配置されているコラージュだと
思いました。ギリシャ・ローマを思わせる瓶にモノクロの水玉模様や波を思わせるような斜線図が添えら
れたものや、ゆがんだ透明なガラス瓶の中にコラージュされた鳥のくちばしや水玉模様と波のような模様
等等を見出すことが出来ました。
 本来静かに置かれているだけの状態である瓶から人間の生の息吹や自然の音や動きが伝わってきま
す。そのためだったのしょう!若々しい表現に思われたのは…
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 又村先生の作品には気負いが微塵も感じられません。軽い気持ちで楽しみながら作った
、という感じです。ジャンルはフィギュア風塑像 とでもいうことになるのでしょうか?ちょっと
マンガ風に誇張されたユーモラスな表現ですが、モデルとなった実在の人たちに驚くくらい
似ているそうです。自分の表現(ライフスタイル)に満足している人達の表情が活写されて
いるように思いました。展覧会場の受付にいた出品者の人たちが醸し出している満ち足り
た楽しげな表情と共通するものを感じました。
 左隅にある黒い針金による鳥のオブジェは、会場にある展示作品の横や上に展示されてい
ます。出品者の人たちのイメージの「自由な飛翔」のシンボルのように思いました。
 アトリエヌーボー展を見ました。会場に入った瞬間、子ども絵画教室のような感じを受けました。正面奥には
新聞紙に描いた水彩画が額縁にも入れられずに展示されていました。それがみすぼらしくなくて、かえって、
型にはまらないこの展覧会の自由な雰囲気を際立てているように思いました。
 筆者は、日ごろから上手くても没個性的な写生画や再現画の展覧会があまりにも多いことを残念に思って
いました。ですから、この展覧会には本当に驚いてしまいました。展示されたどの作品も個性的な「表現」と
なっているからです。

アトリエヌーボー展(2012年10月1日〜3日 ベルブ永山ギャラリー)

 



講師の又村統先生の作品


 土屋明子 「コラージュ・瓶」

 関口茂雄 「トランペットサウンド」
 林やす子 「ソレイユ」

 神津嘉子 「揺らぐ」  


  



 
小澤優子さんの水彩画
 
第1回、第2回と多摩アートテラス展に出品してくださった小澤優子さんの水彩画を紹介します。
下に示した右側の作品が普段小沢さんが日本水彩画会会員展等に出品するときの個性的であり、
かつ水彩画とは思えない重厚な作品です。彼女の特徴は強い観念性にあると思います。それは、
自分の生き方を造形作品として表現しながら検証していくという意味の観念性です。文学性という
言葉で置き換えてもいいのかもしれません。その観念性が抽象化して曖昧にならないために、彼女
は具象にこだわり、 マチエールに工夫を凝らしています。
 彼女が描いた作品表面の絵肌は常に凸凹していて物質的です。物質からにじみ出る象徴的 観念
性の面白さが彼女の独特な表現の本質なのかもしれません。
 下の左の静物画はそんな彼女の透明水彩画です。果物や野菜そしてカゴに入った花、それぞれの
対象をよく見つめていると思いました。薄手の濁りのない透明描法でも小澤さんの対象を見る目と表
現は、物質性に強く固執しているように感じられます。