L.Delibes:Sylvia Ballet−Suite

ドリーブ:バレエ組曲「シルヴィア」

  『フランス・バレエ音楽の父』といわれるレオ・ドリーブは当時二流作曲家の仕事とされたバレエ音楽に生命を吹き込み、新たな魅力と優雅さを与えた作曲家として知られる。その音楽は踊り手の拍子取りのためのBGMとは違い、バレエの台本と密接に関係している。舞曲や情景の音楽がバレエの筋の中で劇的な意味をもち、ひとつの物語として観客をひっぱってゆく力をもっていた。この「シルヴィア」やもうひとつの彼の代表作「コッペリア」が演奏会用組曲として現在も残るのは、このような「音楽」として観客を楽しませ喜ばせる魅力をもっているからである。

 彼は最初オペレッタの作曲家としてデビューし、その後オペラ座の合唱副指揮者となる。おそらくこのような境遇からバレエに対するロマンティックな見方がつちかわれたのだろう。そしてほぼ同時期にバレエ音楽の作曲への興味を持ち始め、1866年ミンスクとの共作によりバレエ処女作「泉」を発表、好評を得る。そして1870年に代表作「コッペリア」を発表、その地位を確立させる。

 さてこの「シルヴィア」はドリーブ3作目のバレエであり、「コッペリア」の6年後1876年に作曲されている。正式題名「シルヴィアまたはディアヌのニンフ (Sylvia ou La Nymphe de Daine)」というこのバレエは、1500年代イタリア・ルネッサンス後期の詩人タッソーの田園劇「アミンダ」に基づくギリシア神話を題材にしたものである。ディアヌのニンフ(妖精)シルヴィアと羊飼いアミンタの恋物語であり、筋書きとしてはそれほど目新しくもない平凡なものだ(そういった意味では人形をはじめて主役にした前作「コッペリア」のほうが新しいバレエといえる)。しかし1876年の初演は大成功に終わり、その後も各地で上演されるヒット作となった。これはドリーブの音楽のすばらしさによるところが大きかったといえる。「ドリーブは交響楽的な手法で主題の内容を示す音楽を書いた。絵画的魅力に富んだ主題の選択、表情豊かな旋律・・・(中略)そしてこの作品を盛り上げる洒落た管弦楽法は、この作品をいっそう精巧なものとしている。」(当時の新聞『オピニオン』の批評より)

 しかしドリーブが目指した創造=劇と音楽を結び付けることにより舞踏と対等に近づいたバレエ音楽、それによる新たなバレエの可能性はそれ以上発展することはなかった。パリ・オペラ座を中心としたバレエの様式主義の根強さに結局ははねかえされ、その後フランスのバレエは衰退の方向に向かうのである。

 ただ、ドリーブの示した道は間違っていなかった。バトンは(直接的にはないにしろ)ロシアにわたり、チャイコフスキーに受け渡される。「シルヴィア」が作曲されたこの年、彼はあの「白鳥の湖」を書き上げている。より劇と密接につながり一貫した筋と力をもつこのバレエ音楽、早すぎた作品として最初は大不評だったこの作品も後にはバレエ音楽最高の傑作となり、その後も彼の影響下ストラヴィンスキープロコフィエフといった作曲家が傑作バレエを次々と発表していく。もしドリーブが最初からロシアに生まれていたならば、もっと多くの傑作を書いたのではないだろうか。そんな想像をしてしまう。

 さて組曲であるが、次の4曲からなる。

1.A.Prelude 〜 Les Chasseresses / 前奏曲 〜 狩の女神

モデラート・マエストーソの荘重な行進曲ではじまり、その後ホルンが静かなメロディを奏でる。このときの舞台は神聖な夜の森であり、音楽はいかにも神秘的な雰囲気をたたえる。経過句のあとティンパニの合図とともに狩の音楽がはじまる。ホルンの勇壮なテーマが印象的。

2.A.Intermezzo 〜 Valse Lento / 間奏曲 〜 緩やかなワルツ

ホルンの序奏のあとモデラートのかわいらしいテーマがヴァイオリンに現れる。この間奏曲は狩でつかれたニンフたちが休憩をとる場面。そしてニンフの一人シルヴィアが月夜の中でなまめかしく踊りはじめるのだが、それが続きのワルツである。・・・・上品ななかにも少しエッチな雰囲気を弦楽器から感じ取れるだろう。(笑)

3.Pizzicati / ピチカート

全曲中おそらくもっとも有名な曲。4分の2拍子のモデラート、ピチカートで奏される。

4.Cortege de Bacchus / バッカスの行列

第3幕最初の曲で、トランペットのファンファーレとともに村人が登場、収穫祭においてバッカスをたたえる場面での音楽である。後半8分の6拍子のバッカナールのあとバッカスの馬車が登場、ここで前奏曲のテーマにもどり神をたたえる中、壮麗に曲を閉じる。なおここでの打楽器の充実は、収穫祭でシンバルシストレ(大昔の鈴)太鼓を打ち鳴らして踊る様子を描写するもの。ということは上品ななかにも少し熱狂的な雰囲気をだせるといいのだろう。(ホントか?)

 ホームページ開設にあたり最初にこの曲をもってきたのは、記念すべき岐阜県交響楽団での最初の演奏曲目だったからである。正直自分の得意な時代ではないし、書きたいこともそれほどあるわけではなかったのだけれど、まあやはり記念に、と思って書いてみた(またこの曲にたいする自分自身の予習のためという意味でも、少し無理をしてみた)。結局普通の解説以上にならず、やっぱり特別書く必要もなかったかなあ、と少し恥ずかしい気分・・・・なにか変わったことでも書いてあるのか、と期待して読まれた方。ゴメンナサイ。

 さてドリーブとしては「コッペリア」と並ぶ代表作とされるこの「シルヴィア」、私としては少々困った名曲だった。というのは有名なわりにCDの録音が非常に少ないのだ。演奏するにあたりいつものようにCDを買いにいったのだが、どこの店にも無い!なんと名古屋のHMVにも置いてなかったのだ。「コッペリア」はどこの店にも置いてあるのに、なぜ「シルヴィア」はないのだ?曲の雰囲気がそう違うわけでもあるまいし(爆弾発言)。ちなみに調べて見ると現在組曲の国内版は3つしかなく、しかもLP時代の録音のものばかりのようだ(「コッペリア」はその3倍はある)。しょうがなくNAXOSの全曲からの抜粋版(『フランス・バレエ名曲集』というもの)を買うことにする。聴いてみると微妙に組曲版と音楽が違い(繰り返し等)それはそれで面白かったけど、でも今後このCD聴くかなぁ・・・・

(99/5/25)

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