毎週更新第四回 日本軍の基礎知識


このページは、いわゆる軍事用語に疎い素人の方を対象にした解説ページです。

1997(平成9)年大東亜戦争戦史研究会発行 日本軍の基礎知識から転載、再構成しました。


◆日本軍の基礎知識<編制と編成編その2>◆

これからの内容を理解するには必要不可欠の基礎知識です。
特に近代日本史は軍事に関しての知識があるのと無いのとでは、大きく理解度が異なります。
もちろん覚える必要などありませんので、そういうものだと理解して下さい。

◇解説の前に…◇

少し専門的になります。難しいと感じられたら無視されても結構です。
必要なことは、師団とは戦力としてどのような規模なのか、どのくらいの活動が出来るのか、世界的に見て師団とはどのような位置づけなのかを知ってもらうことが重要です。それと、師団以外の部隊(師団以下の編成で、師団には属さない特殊なもの)についても補足します。

◇師団の戦時編成◇

師団編制(四単位)
師団司令部
歩兵旅団 歩兵聯隊(2個)
歩兵旅団 歩兵聯隊(2個)
騎兵聯隊(後に捜索連隊)
砲兵聯隊(野砲兵あるいは山砲兵)
工兵聯隊
輜重兵聯隊
師団直轄(衛生隊、野戦病院、師団通信隊など)

まず、師団編制の内容をざっと説明します。
師団司令部とは、その名のとおり師団を指揮運用する本部です。ここには師団長はもちろん、幕僚でもある参謀長(大佐)と、数名の参謀(中佐・少佐)がいます。(参謀とは、作戦や補給など専門的な知識と情報で師団長を補佐する人たちです)この他、補佐官となる副官、軍医長、主計長など主要な人員が揃っています。師団の中枢です。
歩兵旅団とは、歩兵科の人員によって組織される師団よりも小さい編制の部隊です。歩兵旅団長は少将で、旅団司令部にいます。(旅団には参謀はいません)人員は約7千〜8千人です。歩兵旅団は更に2個の歩兵聯隊を指揮下に持ちます。(後述)
騎兵聯隊は、騎兵科の人員によって組織される旅団よりも小さい編制の部隊です。乗馬により斥候(偵察)、捜索、追撃など、機動力を生かして戦闘(これは歩兵を中心としたものを指す)を支援します。騎兵聯隊長は中佐(あるいは少佐)です。人員は約450人です。騎兵聯隊は更に2個の乗馬中隊を指揮下に持ちます。(注意! 前回の編制表を見ると聯隊の次に小さいのは大隊ですが、騎兵聯隊は規模が小さいため大隊を持たず、直接中隊を指揮下に置きます。そのため聯隊長は中佐になります。以下の工兵聯隊、輜重兵聯隊も同じ)後に馬ではなく戦車や装甲車、トラックなどに乗車した歩兵などによって編成された捜索聯隊が、取って代わるようになります。
砲兵聯隊は、砲兵科の人員によって組織される旅団よりも小さい編制の部隊です。大砲を装備して砲撃により戦闘を支援します。砲兵聯隊は、主に平野で使う野砲(少し重い代わりに射程と威力がある)を装備した野砲兵聯隊と、山岳などで使う山砲(軽くて分解して運ぶのが容易な分、射程や威力がない)を装備した山砲兵聯隊があり、師団はどちらかを持っていました。(任務や配備地区によって変えたりもする)砲兵聯隊長は中佐(あるいは大佐)です。人員は野砲兵聯隊で約2千人弱。山砲兵の場合は
工兵聯隊は、工兵科の人員によって組織される旅団よりも小さい編制の部隊です。野戦築城(陣地の構築)、渡河(川を渡る作業)、破壊(橋や敵陣地を爆破)などがその任務です。工兵聯隊長は中佐(あるいは少佐)です。人員は約500〜1000人と様々です。
輜重兵聯隊は、輜重兵科の人員によって組織される旅団よりも小さい編制の部隊です。弾薬や食料などを専門に運ぶことが任務です。他の部隊も必要に応じて弾薬や食料を携帯、輸送してますが、それだけでは長期の作戦を継続したり、長距離の移動は不可能です。そのため、それを補給する物資を運んで同行したり、前線と後方とを往復して物資を運んだりします。輜重兵聯隊長は中佐(あるいは少佐)です。人員は馬が主体の場合は約3千人、自動車が主体の場合は約500人ほどです。ちなみに、歩兵隊に随伴して輸送を行うものを行李(こうり)、砲兵隊に随伴して輸送を行うものを段列(だんれつ)と言って区別します。
師団直轄とは、師団が作戦や戦闘に必要な支援を行う諸部隊のことです。師団ごとに異なります。(任務や配備地区によって変わります)戦傷者、戦病者の治療や搬送に当たる衛生隊、師団に随行してそれらの患者を収容する野戦病院、毒ガスなどを防ぐ制毒隊、真水の供給や病気の蔓延を防ぐ防疫給水部、馬の病院である病馬廠、通信業務に当たる通信隊、兵器管理や修繕、整備を行う兵器勤務隊などがあり、多種多彩です。(なかには特殊な戦闘部隊を師団直轄としていることがあります)こうした内のいくつかを保有します。
なお、師団は必ずしもこの通りの編制とはなりません。(むしろこれと同じ編制の師団はあり得ないと言った方が良いかも知れません)その時期、場所、作戦や事情によって異なるものです。

師団は、以上のように主戦力(歩兵)、戦闘支援(騎兵、砲兵)、活動支援(工兵、輜重兵)、後方支援(病院、通信)など、作戦行動に必要な部隊を持つものです。これを戦略単位と言います。(世界的に見ての、一つの戦力見積もりの基準となるものです)そのため、歴史的な事象には得てして兵員数ではなく、師団数で示されることがあります。

◇旅団と歩兵旅団◇

旅団(りょだん)は師団よりも小さい編制の部隊です。旅団以下には兵科の別があり、歩兵旅団、騎兵旅団、砲兵旅団(野戦重砲兵旅団)、戦車旅団等があります。
師団の中にあるのは歩兵旅団です。上で説明したとおり、歩兵旅団は少将の旅団長が指揮する2個の歩兵聯隊からなります。(この他に3〜6個の独立歩兵大隊からなる独立歩兵旅団があります)
旅団という組織は、実際にはさほど重要ではありません。旅団司令部は、平時はもちろん戦時であっても師団司令部や、これよりも小さい編制である聯隊の聯隊本部よりも小さいものです。
歩兵旅団の本質は、師団が全力で出征しない時、あるいは分割して作戦に参加するときに、師団の持つ支援力をいくつか付与され、混成旅団(時にこれを軍隊区分で支隊と言う)となります。
この他に特別に編成される独立混成旅団と言うものがあります。元々は占領地や特別な地域の治安維持や防衛をする目的で編成されるものです。小さい師団のようなものですが、実際に師団や独立混成旅団が、兵力の表現によく使われるものなので重要です。
なお、指揮下にある聯隊が3個になると、旅団は団となります。歩兵団、砲兵団、戦車団、飛行団等がありますが、団長も少将です。団司令部も旅団と同様です。戦争で師団が沢山必要になると、それまでの四単位制師団(歩兵聯隊4個からなり、重師団とも言う)から歩兵聯隊1個を取り出し、三単位制師団(歩兵聯隊3個からなり、軽師団とも言う)にして、取り出した歩兵聯隊を3個集めて、新しい師団を編成したのです。(ただし、中には歩兵団という中間組織を作らないで、師団長が直接歩兵聯隊を指揮するものもあります。この場合歩兵団長や歩兵旅団長になる少将はいません)

◇聯隊と歩兵聯隊◇

聯隊(れんたい)は旅団よりも小さい編制の部隊です。兵科別の部隊としては、歩兵聯隊、騎兵聯隊、砲兵聯隊(様々な種類があります)、工兵聯隊、輜重兵聯隊、戦車聯隊等々、部隊構成上一番種類が多く、なおかつ一番良く出てくる編制です。
聯隊は平時にあっても重要な役割を持ちます。師団が展開する地域の徴兵事務(兵事行政事務)を担当しているのです。(ただし、実際には聯隊区という事務取扱の機関がするもので、聯隊が出征してもその担当地区に残って事務を続けます)後に1県1聯隊制となって、地方行政と結びつきました。
また、聯隊は有名な軍旗を持つ部隊でもあります。軍旗とは正式には聯隊旗と言い、歩兵聯隊と騎兵聯隊にだけ与えられるものです。これはそもそも聯隊を示す標記としてのものでしたが、天皇陛下から親授された(与えられた)もので、精神的なシンボルとして聯隊の団結を計り、神聖にして取扱いには最大限の配慮をし(軍旗を守るために旗護用の部隊を用意した)、聯隊が玉砕(全滅)するときには捧焼(焼却)しました。この時に自決した聯隊長も数多く存在します。
歩兵聯隊など、聯隊に冠される序数(第一や第十一など)は固定した一連の番号が付与されます。たとえば歩兵第一聯隊と言えば日本陸軍には一つしか存在せず、第一師団所属と決まっています。
聯隊長は大佐(まれに中佐)ですが、歩兵以外の兵科では中佐や少佐の聯隊長も居ます。

歩兵聯隊の編制は、聯隊本部の他、更に小さな編制の大隊3個、それに支援部隊である通信中隊(野戦での通信業務に当たる)、歩兵砲中隊(歩兵砲とは聯隊砲とも呼ばれた機関銃陣地攻撃用の大砲)、速射砲中隊(速射砲とは対戦車砲のこと)からなります。

◇大隊◇

大隊(だいたい)は聯隊よりも小さい編制の部隊です。大隊と言えば、普通歩兵の大隊を指します。(つまり旧日本軍の一般的には歩兵大隊とは言わない)
ちなみに大隊以下は、通常聯隊に含まれるものなので、一般に部隊名称としては出てきません。(すなわち大隊とは聯隊の中での区分によるものなのです)
大隊長は少佐(まれに大尉)です。
なお、大隊は平時には存在せず、戦時に大隊長となる人物は聯隊附佐官という身分で聯隊本部にいます。

大隊(歩兵)の編制は、大隊本部の他、更に小さい編制の中隊4個(後に3個)、それに支援部隊である機関銃中隊(威力のある重機関銃を装備)、歩兵砲小隊(聯隊のとは違い、大隊砲と呼ばれる機関銃陣地攻撃用の大砲)からなります。

大隊は、戦術単位と呼ばれて独立して一つの戦術任務を任される単位とされています。これを用いて、第一次大戦までは大隊数で兵力の比較がされました。
なお、会戦単位(軍)、戦略単位(師団)、戦術単位(大隊)とは、その目的(任務)を達するに必要な兵力数を意味するものです。

◇中隊◇

中隊(ちゅうたい)は大隊よりも小さい編制の部隊です。中隊と言えば、普通歩兵の中隊を指します。(つまり旧日本軍の一般的には歩兵中隊とは言わない)
中隊長は大尉(まれに中尉)です。

中隊(歩兵)の編制は、指揮班の他、更に小さい編制の小隊4個、それに支援部隊である弾薬小隊(弾薬の輸送や補給)からなります。

中隊は平時には指揮下に小隊を含まず、いくつかの内務班(これが戦時に小隊などになる)による編制です。

◇小隊◇

小隊(しょうたい)は中隊よりも小さい編制の部隊です。
小隊長は少尉(まれに准尉)です。
歩兵の小隊は、更に小さい編制の分隊4個からなります。4個のうち3個は軽機分隊(軽機関銃を攻撃の中心に据えたもの)、1個は擲弾筒分隊(擲弾筒という小型迫撃砲を攻撃の中心に据えたもの)です。(実際のところ、これらが無い小銃分隊になってしまうケースが多々あった)
なお、平時には小隊はありません。

◇分隊◇

分隊(ぶんたい)は小隊よりも小さい編制の部隊です。軍隊構成上の最小単位(実際には分隊内には班というグループが存在する)になります。
分隊長は軍曹(あるいは伍長)です。
歩兵の分隊は基本的に12名からなります。(昭和15年以降)
なお、平時には分隊はありません。
ちなみに、憲兵分隊の場合には分隊長が大尉となる全く別の編制になります。

 

 


 

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