老舗の職住一致ビル

 「あらためて郊外に家を建て、通勤に時間をとられるよりも、長年住み慣れた都心の土地を活かしたい」という建築主は、京都でも屈指の歴史をもつ老舗表具店。職と住という、まったく別機能を共存させながら、限定された都心の一角をどこまでゆったりと、どこまで快適に建て替えられるか。これは都市型生活スタイルへの、ひとつの提案となり得たはずです。
 デザイン上のポイントは、特徴あるアールをとり入れたビル正面。老舗にふさわしい風格をもたせました。また京都特有のわずか7mの狭い間口に、店舗玄関と地下に通じる駐車場入口、そして住居用の玄関を立体的にレイアウトしています。1,2階にオフィス、3階に展示場と倉庫を配し、住居部分は4,5階に。都心ながら風通し、日当たり、眺望など自然環境のよさを十二分にとり入れられるよう工夫。広いテラスと日本庭園を設け大地に根づく安らぎを演出しました。
 ひとつのビルに、職と住のふたつの顔を機能的にレイアウトすることにより、職住一致ビルという新しい価値を創造。とくに都心における、職と住の両立という難題に対する、一つの方向性を示したといえそうです。建築物は生き方の表現。代々、職住一致の中で歴史を継承してきた、老舗のアイデンティティがここにあります。
丸二ビル
京都市
1988年完成
RC造
  
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