【4月13日=バグダッド発 その9の続き】



 上の写真を見て、これが何だかわかる人や想像がつく人は、果たしてどれくらいいらっしゃるだろうか。
恥ずかしながら、私も最初にこれを見たとき、何か全くわからなかった。
 一見、何かのふたやキャップのようにも見える。長さ10センチほどで、先端と内部には白いリボン。
 この物体がいま、恐らく数百単位で、バグダッド市内南部ドーラ地区のある住宅地の一角に散乱している。
付近の道や空き地、家の庭や屋上、ゴミ捨て場、サッカー場脇など到るところにあった。
そしてよく見ると、この物体が落ちている周辺の壁には、同じく無数の小さな穴も空き、40近くの家の窓ガラスが四方八方で割れている。コンクリートの道路にできた穴には、この物体が穴の中にも浅く埋まっていた。

 これは、大きな一つの爆弾から、さらに小さな無数の爆弾を周囲に撒き散らす、あの「クラスター爆弾」の一種である可能性が極めて高い。爆弾の種類や分類上の正式名称としては、「クラスター爆弾を構成する一部分」にあたるのかどうか、現段階では言い切れない。
 しかし、その住宅地の被害を取材してみると、これはやはり「無差別殺傷兵器」の末端部分であることは断言できる。私が取材中には、300メートルほど離れた場所で、犬がこの「不発弾」に触れて爆発音が響き渡った。
この無数の不発弾が、いまもそのまま放置されている。
 この住宅地への空爆では、4人が死亡。9人が負傷している。さらに、不発弾被害では、これまでに3人が負傷した。

 同地区に住むハディール・カデムちゃん(12歳)は、4月5日の朝7時ごろ、空爆機の音が空から聞こえてきたので、家の中のある部屋で家族たちと身を寄せ合って一緒に座っていた。大きな爆発音が聞こえた瞬間、部屋の窓ガラスが割れ、その破片がハディールちゃんの右目に突き刺さった。だが、空爆が続く中、外にでることもできず、、家族が市内の病院に彼女を運ぶことができたのは、その2日後だった。しかし、どの病院も治療や手当てがちゃんとできる医師がいない。ようやく3つ目の病院で応急手当てができた。
 彼女の右目は、いまかろうじてわずかな小さな白い光が見えるだけだ。
 彼女のレントゲン写真には、確かに数ミリの大きさの白い点が、はっきりと映っていた。



「目が痛くて、眠れない。頭も痛い」と訴える彼女は、これからそのガラス片を取り除く手術を受けることになる。

「アメリカの兵士にこの目を見せて、何が起きたか全部説明してあげる。片目では何もできない。この目を元通りにしてほしい。私は絶対に許さない」

表情は終始笑顔だった彼女だったが、彼女の左目は決して笑わない。
包帯の下の右目の奥底には、何が宿っているのだろうか。

彼女の目の中に残る数ミリのガラス片。
私は、はっきりと確信した。
フセインの銅像を叩いて喜ぶ人たちの様子や声よりも、「無差別殺傷兵器」がもたらした、この数ミリのガラス片、白い点を伝えるために、私はバグダッドにこれまで留まったのだ。

空爆は、爆弾そのものが炸裂して死傷させるとは限らない。
空爆は、落ちた1つの爆弾の被害だけでは終わらない。
空爆は、音の恐怖で人間の神経を締め上げる。

「空爆される側」で取材を続けて1ヶ月。
「精密誘導」でも、「トマホーク」でも、「誤爆」でも、
「殺される側」にとっては、そんな区別は一切関係がない。
空爆そのものが「無差別殺傷兵器」だった。

そしてもう一人、ただ彼の叫びに耳をすましてほしい。
ハディールちゃんも合わせて、いつか映像でも報告できると思うが、
いまは字面だけで想像してほしい。
これは決して「インタビュー」などではない。

アベド・アルカリムさん(23歳)。4月5日、同じくドーラ地区の空爆で右足を負傷した。
4月11日、バグダッド市内のサウラ病院の病室で、
足の切断手術をした直後、私は彼に会った。
そのとき彼がずっと天を仰ぎながら、ときに泣きながら、叫んでいた言葉。
私は黙って、ただずっと聞いていた。



「俺の足、お父さん、お母さん」
「足が無くなった。俺の足、俺の足」
「アメリカ、俺に近寄るな」
「アメリカ、アメリカ、殺すだけ。俺が何をした」
「足を返してくれ。俺の足。俺の足」
「もう、俺の足は見ることはできない」
「痛くて死にそうだ。俺は人間だ」