【1月11日=自衛隊の「広報支援」取材】

 
陸上自衛隊の先遣隊が16日にも出発するのを受けて、日本のマスメディアの記者・カメラマンもクウェートやイラクに続々と向かっている。この後、あのサマワの小さな街は日本の報道陣であふれかえることだろう。

 しかし、先日驚いたことがあった。

 そのイラクで取材にあたる予定の報道陣が、陸上自衛隊の駐屯地で、「安全対策訓練」を受けたという(毎日新聞1月9日付け記事)。自衛隊の取材に行く人たちが、自衛隊から、自衛隊の駐屯地で安全対策訓練を受ける。

 これに参加した人たちは、以下のような疑問は抱かなかったのだろうか。
「なぜ自衛隊から、報道陣が安全対策訓練を受けなければならないのか?」「これに参加しなければ、現地で自衛隊の取材ができないとでもいうのか?」

 テレビのニュースでその訓練の様子を見たが、それを見て想像したことがあった。

 今度は自衛隊の「エンベッド取材」が始まる。

 「エンベッド」とは「埋め込み」と訳されているが、昨年3月のイラク攻撃の際の米軍の従軍取材方式だった(毎日新聞03年4月9日付けの関連記事)。そのときは戦車や装甲車に乗ってずっと同じ部隊と移動するため、従軍取材の参加者には様々な訓練が確かに事前に義務付けられていた。

 しかし、今度の自衛隊の取材はそもそも違う。

 自衛隊の駐屯地で自衛隊員とずっと一緒に過ごすための訓練なのだろうか。それとも、「これに参加しないと、現地での取材には応じませんよ」と防衛庁記者クラブから通達があったのだろうか。

 一部の報道機関は、自衛隊が実施した訓練とは別に、同じ時期に独自に行っている。当然そうだろう。アジアプレスでも過去に実施したし、先日はJVJAでも戦争取材経験が長いベテランのカメラマンを講師に招いて行った。
 安全対策訓練や研修自体は、マスメディアも絶対にやらなければならないと思うが、それはたとえば新聞労連民放労連などの労組が各社によびかけて、自分たちで外部の専門家や危機管理会社を招いてやるべきものだと思う。自らの安全対策を、政府機関にゆだねる必要はまったくないし、そんな誘いはむしろ報道機関として断るべきではないのか。

 よくわからないのは、訓練が行われた翌日には、今度は防衛庁がイラク現地での報道自粛を要請した(毎日新聞1月10日付け記事)という。「エンベッド」取材方式もさせないが、現地での取材そのものもやめてくれという要請だ。
 
 訓練もそうだが、報道自粛にも一切協力する必要はない。

 読売や産経新聞は、「自衛隊がこんなにがんばっています」「現地からもこんなに歓迎されています」という、「後方支援」ならぬ「広報支援」取材を、もちろんいまから準備していると思うが、ほかの報道陣までがそれに加わるのであろうか。

 サマワも含めて、イラクで自衛隊の取材にあたる報道陣の目的は、「自衛隊の活動の監視」しかない。

 もし「広報支援」にあたろうとしている記者・カメラマンは今からでも遅くないので、イラク取材から離脱した方がいい。何か起きたときに、自分たちの「安全確保」を自衛隊に期待するのであれば、最初から取材に行かない方がまだましだ。

 元共同通信編集主幹の原寿雄氏はこう話している。

「いまのジャーナリストはBC級戦犯の責任を問われかねない、ということは言っておきたい。BC級戦犯というのは、上官の命令に従って捕虜を処刑したりして、自分には責任がない仕組みの中で、戦争が終わったら人道的責任を取らされた人たちです。
 いま、多くの記者は会社の意向に従って、サラリーマンとして仕方がないことだと、仕事をしています。それはちょうどBC級戦犯の当時の心境と同じじゃないでしょうか。少なくとも、それがBC級戦犯として戦後に戦争責任を追及される、ということを覚悟すべきです。」
(メディア総研発行「放送レポート」03年7月号「窒息する表現の自由」座談会での発言から)

 いまイラクに向かっている報道陣の皆さん、日本の軍隊の「広報支援」取材は、自衛隊が行う米軍への「後方支援」と同じです。後々BC級戦犯容疑になりますぞ。くれぐれもご注意を。
 私もいずれ近いうちに、またイラクに行くことになりますが、原さんのこの言葉は、ほかの人によびかけるよりも、まず私自身が何よりも重く受け止めなければならないな。

 「ジャーナリストとBC級戦犯」については、3月20日に創刊される「DAYS JAPAN」のコラムでも詳しく書く予定です。ご購読よろしくお願いします。