【5月8日=「戦争の悪化」】

 5月9日(月)〜13日(金)掲載
 朝日新聞(朝刊オピニオン面)連載コラム「綿井健陽の戦争取材の現場から」(全5回)

 アフガニスタン、イラク戦争などの取材現場「周辺」のトピックス・コラムです。お気軽にご覧ください(ネット上では恐らく掲載されませんので、ご了承ください)。

 しかし一方で、まったくお気軽ではない事態も進行中だ。

 このところイラク各地で爆弾・襲撃事件などが多発している。いまに始まったことではないが、移行政府発足後特に増加して、この10日間で死者300人以上にも上るという。こうした大きな政治行事の後の展開は、去年7月の主権委譲後の状況とよく似ている。

 これを受けて、「急激に治安が悪化している」という言い方がされることがこれまでも多かったが、いまのイラクは「治安の悪化」などというレベルではない。

 ずっと以前から戦争が続いているのだから。

 「掃討作戦の悪化」「空爆の悪化」「占領の悪化」という言い方がされることはないだろう。でも、いまのイラクをあえて表現するなら、「戦争の悪化」といった方がいいかもしれない。「第2次イラク戦争の激化」という言い方もできる。

 「治安の悪化」「武力衝突」「テロ」という便利な言葉を使ったり、読む前に、少し考えたり、立ち止まった方がいいと思う。

 さて、マイケルムーアの「ボウリング・フォー・コロンバイン」を見た人はわかると思うが、高校で銃を乱射して生徒ら13人を殺害した二人の少年は、その日の朝、ボウリングをやってから事件現場の高校に向かった。

 そうすると、今回は「ボウリング・アフター・脱線大事故」なのかな。だけど、一部のメディアのその件の追及の仕方に対しては「変だな」と思っている人は多いだろう。

 産経新聞が興味深い記事を書いている(5月7日付記事)。あの産経新聞が「客観報道」なる言葉を持ち出すのは、それこそ「客観的に」見ても、「主観的に」見ても、いやどこからどう見て無理があるが、ほかのマスメディアはいまのところ触れていないようだから、よく書いたと思う。たまには褒めてあげましょう。

 このあたりのことはネットの「2ちゃんねる」ではだいぶ書き込みがあるようで、今回の事故そのものよりも、「いまメディアに向けられている視線や感情」は、こちらの方が代弁しているようにも思えた。

 ところが、メディアの側がそれに気付いていない。いまごろになって少し慌てている段階かな。

 4月26日28日の項でも書いたが、正義感を発揮するときは、「時と相手と場所」を選ばなければならないと思う。

 大阪府警、首相、政治家、国土交通省、防衛庁の会見、石原慎太郎の東京都庁での定例会見あたりで、同じ光景を一度ぐらいは見てみたいが、ここでやれる人はいるかな。

 ちょうど、11日(水)深夜放送のフジテレビ系列「NONFIX」(憲法シリーズ 第21条・表現の自由)があるので、僕も引き続き考えてみたい。