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<英独仏:冠詞雑感>

直接規定 (1)






the one と that の相違


 最初に、混乱を避けるために one の用法を整理しておく。one の下記分類は、主に安井稔・中村順良著『現代の英文法10 代用表現』(研究社, 1989)に基づいている。なお、記号 * は破格(容認不可)を表す。

(O-I)数詞 の one:
 この one の前には only, just などの強意語や no, any, every, the, 所有格など他の修飾語を置くこともある。数詞 one は修飾語であり、単独で用いられているように見える場合も、主要語の名詞が省略されているに過ぎない。数詞 one は強強勢を持つ。

(1) He's the only one (man) I trust.(彼は私が信頼しているただ一人の男だ)

(O-II)代示・代用の one:
 名詞の反復を避けて表現を簡素化するために用いられる one であり、「前出の可算名詞句の主要語の代用」として使う。「名詞句の主要語の代用」なので、形容詞的な修飾語句を伴う場合に用いられ、修飾語句を伴わない単独の one(s) や the one(s) は用いられない。言い換えれば、この one は、前出の可算名詞句の主要語に新たに形容詞的な修飾語句を付け加える場合に使う語である。この one は弱強勢。なお、前出の名詞句全体を(同一のものとして)指し示す場合は人称代名詞(I, we, you, he, she, it, they)を用いる。

(2) The plan appears to be a good one.(その計画は良さそうだ)
(3) The man entered the room and then someone began talking with {him / *the one}.(その男は部屋に入り、それから誰かが彼と話し始めた)(修飾語句を伴わない the one は不可)

(O-III)不定冠詞の独立形の one:
 「不定冠詞+名詞」の代用であり、非特定の人・物を指し、修飾語句は伴わない。代示・代用の one と異なり、one 自体が常に不定冠詞を含んでいる。複数形は some / any であり、ones は不可。この one は弱強勢。また、先行名詞が総称名詞であり、それと総称的に呼応する場合には one は用いられず、人称代名詞を使う。

(4) Do you have a pen? Oh, you have one.(ペンをお持ちですか。おや、お持ちですね)(one = a pen)
(5) I have lost my umbrella; I think I must buy one.(傘をなくした。(一本)買わなくてはならないと思う)(one = an umbrella なら不定冠詞の独立形で、弱強勢。one = one umbrella なら数詞で、強強勢)
(6) Have you any envelopes? I need another one.(封筒ありますか。もう1枚要るのですが)(another one = another envelope なら代示であり、another に強勢。another one = another one envelope なら数詞であり、one に強勢)
(7) Have you any books on gardening. I'd like to borrow {one / *ones / some / a good one / some good ones}. (ガーデニングの本をお持ちですか。{一冊/数冊/良い本を一冊/良い本を数冊}お借りしたいのですが)(one = a book on gardening or one book on gardening であり、前者の場合は不定冠詞の独立形の one、後者の場合は数詞の one。some = some books on gardening であり、不定冠詞の独立形 one の複数形。ones は不可。a good one = a good book on gardening、some good ones = some good books on gardening であり、この one および ones は代示)
(8) "Will a pen do?" "Yes, it will do."(「ペンでいいですか」「はい、結構です」)(先行名詞が総称名詞であり、それと総称的に呼応する例。one ではなく、人称代名詞を用いる。『冠詞に関する覚え書 第16話』における「総称不定冠詞と代名詞」の例文 (17) 〜 (23) も参照のこと)

(O-IV)代理名詞の one:
 修飾語句を伴って原則として人にのみ用い、「…な人」を表す。the は付けない。複数形は ones。代示形とは異なり、他の名詞の代わりに用いられているわけではない。someone, anyone, no one の one も代理名詞の one である。

(9) He is a knowing one.(彼は物知りだ)
(10) More simply, a politician is one who can get himself elected.(もっとわかりやすく言うと、政治家というのは自らを選挙に当選させることのできる人のことである)
(11) After the death of his old gardener he engaged one who had been strongly recommended to him by a friend.(老庭師の死後、彼は友人に前々から強く推薦されていた{人/庭師}を雇った)(one = a person なら代理名詞、one = a gardener なら代示)

(O-V)総称人称の one:
 「人、我々」を意味する。通例主語に用いる堅苦しい語であり、複数形の ones はない。代示の one とは異なり、冠詞やその他の修飾語句を伴うことはなく、前出のものの代用ではなく、「人一般」を直接指し示す。くだけた表現では、一般に you, we, they, people などを用いる。

(12) One should give one's tires regular inspections for wear.(すり減っていないかタイヤを定期的に点検すべきだ)

 次に、代名詞の that についても整理しておく。

(T-I)指示詞の that:
 「それ、あれ、その(あの)事・物・人」を意味する。人を指すのは主語の場合のみ。

(13) What is that?(それは何ですか)
(14) Who is that?(あれは誰ですか)

(T-II)照応詞の that:
 既出の人以外の可算名詞・不可算名詞を反復した「the+名詞」の代わりに用い、「(…の)それ」を意味する。通例後に修飾語句を伴う。

(15) The climate is like that of Japan.(その気候は日本の気候に似ている)(that = the climate)

なお、複数形の those は人を指すことも可能である。


 以上を踏まえた上で、反復の代用語としての the one と that の相違について述べる。すなわち、前述の(O-II)代示・代用の one と(T-II)照応詞の that の用法を中心にその相違について説明する。

 まず、重要な点は、代示 one の先行詞の主名詞に不可算名詞は不可であることと、照応詞 that の先行詞に人は不可であることである。代示 one が不可算名詞に使えないのは、one が本来「1」を表す数詞であり、「1つ、2つ」と数えられるものと使うのが基本であるからである。一方、照応詞 that が人を指せないのは、that が、本来、指示詞として文法的に中性な対象を指し示す語であり、男性、女性の性を有する「人」には不向きであるためである。ただし、指示詞としての that は、対象を話題として確立するために用いられる語であるために、(T-I)指示詞 that の用法のように、話題の対象として確立するための一般的な位置である主語の位置でのみ人を指すことが可能となっている(ちなみに、人称代名詞はすでに話題として確立されたものに言及する際に用いられる)。

(16) The boy in that room is younger than {the one / *that} in this room.(その部屋の少年はこの部屋の少年よりも若い)(that は人を指せない)
(17) The girl I saw was younger than {the one / *that} you were dancing with.(私が見た少女は、あなたが一緒に踊っていた少女よりも若かった)(同上)
(18) The serial number on the right side is larger than {the one / that} on the left side.(右側の続き番号は左側の続き番号よりも大きい)(number は可算名詞)
(19) The discussion on Monday was better than {the one / that} on Tuesday.(月曜日の討論は火曜日の討論よりも良かった)(この discussion は可算名詞)
(20) The milk from that store is not as fresh as {*the one / that} from this store.(あの店のミルクはこの店のミルクほど新鮮ではない)(milk は不可算名詞)
(21) The destruction on Monday was more severe than {*the one / that} on Tuesday.(月曜日の破壊は火曜日の破壊よりも激しかった)(destruction は不可算名詞)

(18)、(19) のように the one も that も用いることができる場合、一般に the one の方がくだけた表現であり、that の方が堅苦しい表現である。


 では、次の相違であるが、まず、次の例を見ていただこう。

(22) The population of Tokyo is larger than {*the one / that} of Osaka.(東京の人口は大阪の人口よりも多い)
(23) I think the voice was {*the one / that} of a woman.(その声は女性の声だったと思う)

これは、一般に、of 句が続く場合は the one ではなく that を使う、と説明されているものである。大抵の場合、この理解で問題はなく、通常の英語の試験でもこのレベルの理解で対処できる。また、市販の通常の参考書でもこれ以上の説明はなされていない。なぜなら、これを更に詳しく説明しようとすると、非常に専門的になる上に、不明な点も多いからである。例えば、次のような説明になる。

(E-I)一般に主要部名詞の補部(complement)として働く要素は one の外に出ることはできないが、付加部(adjunct)として働く要素は one の外に出ることが可能である。(http://sucra.saitama-u.ac.jp/modules/xoonips/download.php/KK000194-1.pdf?file_id=831)

さらに、今西典子・浅野一郎著『新英文法選書 第11巻 照応と削除』(大修館書店, 1990)に基づくと、概ね以下のように説明することができる。

(E-II)one 照応の先行詞は、主名詞とそれに隣接する要素との間の構造関係ではなく意味関係によって制約され、意味表示において主名詞が述語として解釈されて主名詞の隣接要素がその項(argument)として結び付けられるような関係に捉えられた場合に one 照応が容認不可となる。

補部(complement)、付加部(adjunct)、項(argument)を厳密に定義しようすると大変なことになるので専門書に委ねるとして、大まかには次のようなことを意味する。

● 項: 個々の語彙範疇(動詞・名詞・形容詞など)が本来的に要求し、必要とする要素。例えば、動詞の場合、主語、目的語、補語などと呼ばれるもので、他動詞ならば、主語と目的語が項である。
● 補部: 項表現ではあるが主語ではない要素。
● 付加部: 語彙範疇との結びつきが緩やかな要素であり、取り去ってしまっても文の良し悪しには影響がない要素。

要するに、主要部との結び付きが強いのが補部と項、弱いのが付加部である。したがって、特別な場合を除いて、補部は付加部より主要部に近い位置に現れる(a student = 主要部、of physics = 補部、with long hair = 付加部)。

(24) a student of physics with long hair
(25) *a student with long hair of physics
(26) *a student of physics and with long hair
(27) *a student with long hair and of physics

 ではここで、上記説明文(E-I)にあった「補部は one の外に出られず、付加部は one の外に出られる」という点について説明する。

(28) *I like this student of chemistry better than that one of physics.(私はあの物理学の学生よりもこの化学の学生の方が好きだ)
(29) I like this student with short hair better than that one with long hair.(私はロングヘアのあの学生よりもショートヘアのこの学生の方が好きだ)
(30) *I met the king of England and Sam met the one of Spain.(私はイングランドの国王に会い、Sam はスペインの国王に会った)
(31) I met the king from England and Sam met the one from Spain.(同上)

これらの各文の容認性の違いから、(28), (30) の of physics と of Spain は補部、(29) と (31) の with long hair と from Spain は付加部と判断される。補部は one の外に出られないのであるから、that one は補部を含んでしまう。つまり、that one は、前出の this student of chemistry の補部である of chemistry を含んでしまい、that one of physics は that student of chemistry of physics と同じことになって意味をなさない。the one of Spain も同様に the king of England of Spain を指すように感じられる。以上のような理由から、これらの表現は容認されないことになる。このことから単純に言えることは、of 句は主要部との結び付きが強い名詞句を作るということである。これは定冠詞の用法の違いにも現れており、それに関しては『冠詞に関する覚え書 第9話』を参照のこと。

 では次に、上記のもう1つの説明文(E-II)にある「主名詞が述語として解釈されて主名詞の隣接要素がその項(argument)として結び付けられるような関係」について述べる。上記例 (28), (30) では、「主名詞」は student, king、「隣接要素」は of physics, of Spain である。隣接要素が項で、主名詞が述語として解釈されるとは、the student of physics の場合、「物理学を勉強する者」と解釈されることであり、study physics という関係、すなわち「他動詞+目的語(=項)」の関係が伏在しているということである。同様に、the king of Spain は「スペインを統治する者」のことであり、rule Spain という「他動詞+項」の関係が感じられ、one は容認不可となる。


 では、次の例を見てみよう。of 句ではない前置詞句の項であり、容認される例である。

(32) An agreement with Bill is less fruitful than one with John.(Bill との合意は John との合意よりも実りが少ない)
(33) The prospect for peace is better than the one for victory.(平和への見通しは勝利への見通しよりも有望である)

(32), (33) の with John, for victory は、文法上の診断に基づいて、(29), (31) の付加部 with long hair, from Spain よりも主名詞との結び付きが強く、かつ、(28), (30) の項 of physics, of Spain よりもその結び付きが弱いと考えられて、随意的な項(optional argument)と呼ばれている。また、(28), (30) の結び付きが強い補部は義務的な項(obligatory argument)と呼ばれる。文法上の診断方法については、例えば Wikipedia の argument の項目(http://en.wikipedia.org/wiki/Argument_(linguistics))を参照のこと。以上のことから単純に、of 句は義務的な補部、of 句以外の前置詞句は付加部または随意的な補部と考えられそうだが、実は、事はそれほど簡単ではない。以下の例を見てみよう。

(34) ?The attack on Iran by Iraq was more destructive than the one on Angola by South Africa.(イラクによるイランに対する攻撃は、南アフリカによるアンゴラに対する攻撃よりも破壊的であった)(the one = the attack)
(35) The attack on Iran by Iraq was more destructive than the one by Israel.(イラクによるイランに対する攻撃は、イスラエルによるイランに対する攻撃よりも破壊的であった)(the one = the attack on Iran)
(36) The attack on Iran by Iraq in June was more destructive than the one in September.(6月のイラクによるイランに対する攻撃は、9月のイラクによるイランに対する攻撃よりも破壊的であった)(the one = the attack on Iran by Iraq)

(34) の文に付された ? は、容認の可否についてネイティブスピーカーの意見が分かれることを示す。これらの例文で示唆されていることは、the one が the attack on Iran (by Iraq) を指すことは自然であるが、the attack を指すことは不自然だと感じる人がいるということである。つまり、the attack と on Iran は結び付きが強いので、分離することが難しいと感じられるのである。上記 (32) の例と比較すると、例えば agreement with ... では agree with ... という動詞が意識されるが、この with ... が随意的な項であるのに対して、ここでは、attack という名詞から意識される動詞が他動詞の attack であり、attack Iran という「他動詞+義務的な項」の関係が感じられるのである。この関係を感じ取った人は、項である on Iran を除き、the attack だけを指して the one と表現することを不自然に感じると考えられる。このように、of 以外の前置詞句が続いても、義務的な項と感じられる場合には one は避けられると言える。


 では次に、主名詞と of 句から他動詞と項の関係が想起されない場合に one が用いられている例を挙げる。

(37) The issue is one of importance to us.(その問題は私たちにとって重要な問題だ)
(38) The epoch was one of faith.(その時代は信仰の時代であった)
(39) The idea with the highest point total is the one of most importance to the team.(合計点の最も高いアイデアが、そのチームにとって最も重要なアイデアである)

これらは of 句で修飾されているにもかかわらず、that ではなく (the) one が用いられている。もちろん、(37), (38) の例は定冠詞がない形なので、代わりに that が用いられないのは当然であるが、(39) の the one のような場合も that は基本的に用いられない。これらの例文の場合、上述の「student = 勉強する者」や「king = 統治する者」とは異なり、「主名詞を述語として解釈する」ことが難しい。そこで、前述の説明文(E-II)にある「主名詞とそれに隣接する要素との間の構造関係ではなく意味関係によって制約され」という部分に注目することが必要となる。つまり、of 句の意味を詳しく検討し、どのような意味関係の場合に制約が生じるのかを見ていくという相当厄介な作業が必要になる。しかし、これらの of の用法の検討作業は余りにも複雑なので 1) 別の機会に譲るとして、ここでは簡単に大まかな結論だけを述べておくと、一般的に、of 句があることによって前の主名詞に定冠詞を付す必要がある場合には that を使い、one は使わない、ということである。上記 (37) の例では of importance = important であるから、次のように書き換えることができる。

(40) The issue is an important one to us.

次に (38) の one of faith を書き換えるには、多少複雑な文にする必要があるであろうが、要するに one (= an epoch) in which faith distinguished itself ということである。(38), (39) の of 句はいわゆる記述属格であり、形容詞のように働いて種類や性質などを示す働きをするが、原則としてそれ自体が定冠詞を要求することはない。もちろん、文脈上定冠詞が必要な文脈であるなら、the one ではなく that of faith になる。(39) の the one of most importance は多少複雑であるが、これは most という最上級があるために the が付されている例であり、the most important one と書き換えることができる。この表現の基礎には one of importance という one を用いた表現があるために、最上級によって定冠詞が付される場合も the one が選択され、that は普通用いられない。なお、この the は必ずしも the である必要はなく、絶対的最上級であれば、is one of most importance = a most important one とすることも可能である(『冠詞に関する覚え書 第6話』および『冠詞に関する覚え書 第35話』も参照)。定冠詞と of 句の関係については、『冠詞に関する覚え書 第7話第10話』も参照のこと。ちなみに、(37) が「重要な問題」という意味で、かつ、定冠詞が要求される文脈なら、(39) と同様、基礎となる one of importance から通例 the one of importance (= the important one) が用いられるであろう。なぜなら、例えば、(37) が that of importance であった場合、文脈にもよるが、「重要性という問題、重要性の問題」という意味に解釈される可能性が高いからである。


 さらに、the one と of 句の組み合わせが容認可能とされる例を挙げておく。

(41) I saw the picture of Raquel Welch and Irving saw the one of Lana Turner. (私は Raquel Welch の写真を、Irving は Lana Turner の写真を見た)

picture of Lana Turner は、他動詞の picture を用いた picture Lana Turner を想起させるので、義務的な補部であるが、上記のように the one と用いることも可能である。私見によれば、picture 以外に painting や photo もある種の場合に同様の傾向が多少感じられる。もちろん、これらの名詞は that を用いることも可能であり、むしろその方が普通である。the one とも使える理由は明らかではないが、picture などは、いわゆる絵画名詞(picture, painting, photograph, film, story, book など、人の名詞が目的語として表現の対象となり得る名詞)であり、しかもその代表的な語であるので、それが影響しているのかもしれない(例えば、絵画名詞は of 句との結び付きが弱くなることがあるのかもしれない)。ただし、絵画名詞の中でも film や story などはほとんど the one of の形では用いられていないようである。これらの点については更に検討が必要である。なお、文法における絵画名詞の特徴的な振舞いについては、専門的で細かな説明が必要であるので、また機会があれば述べることにする。


 ではさらに、前置詞句以外の例を挙げる。

(42) The title given in the catalogue was different from {that / the one} written on the package.(カタログに示されたタイトルは、パッケージに書かれたタイトルとは違っていた)
(43) The apple on the tree is better than {that / the one} lying on the ground(木になっているリンゴの方が地面に落ちているリンゴよりも良い)
(44) The book is easier than {the one / that which} we have been reading.(その本は私たちが読んでいる本よりも易しい)
(45) I agreed to the plan to go to Japan, but I didn't agree to the one to go to Canada.(私は日本へ行く計画に合意したが、カナダへ行く計画には合意しなかった)
(46) The claim that Japanese cars are economical was not as relevant as the one that American cars are poorly made.(日本車が経済的であるという主張は、米車の出来が悪いという主張ほど適切ではなかった)

順に、(42) 過去分詞句、(43) 現在分詞句、(44) 関係詞節、(45) to 不定詞の同格用法(または形容詞的用法)、(46) that 節の同格用法の例である。過去分詞や現在分詞の句が続く場合および関係詞節が続く場合には、主名詞が人以外の可算名詞であれば、that も the one も用いることができるが、分詞の場合はどちらかと言えば that の方がややよく用いられており、くだけた表現であるほど the one が用いられることが増えてくる。関係詞の場合は、省略を伴わない that which ... や that 前置詞 which ... の場合(堅苦しい表現の場合)を除き、the one の方が圧倒的によく用いられ、関係詞が省略された場合には原則として照応詞 that は用いられない。to 不定詞の場合にも that が用いられることはほとんどない。これは、that が、照応詞の that ではなく指示詞や接続詞の that に誤解されたり、to 不定詞が副詞的用法に誤解されたりしやすくなるからだと考えられる。また、(46) の例では、that を用いると、同格の接続詞 that と重なって that that になってしまい、語呂が悪いので that は用いられない。一般に、of 句が続く場合のように主名詞との一体感が強ければ強いほど that が用いられる傾向にある。また、単語数が多くなりがちで非制限的用法もある関係詞節や副詞的用法がある to 不定詞の場合のように、主名詞(先行詞)との一体感が弱くなるほど the one が用いられる傾向にある。


 最後に、形容詞や名詞の形容詞的用法(以下、名詞付加語と呼ぶ)による前置修飾について述べておく。まず、容認される例から。

(47) I like the French king but not the English one.(私はそのフランス人の王は好きだが、そのイングランド人の王は好きではない)
(48) I've never tried Mrs. Sugden's cherry cake, but I like her ginger one.(Mrs. Sugden のチェリーケーキは試したことがないが、彼女のジンジャーケーキは好きだ)
(49) Sea communications will always remain easier than land ones.(これからもずっと海上通信は陸上通信よりも容易であろう)

(47) の例で注意しなければならない点は、the French king の解釈である。通例、この表現は、the king of France という解釈か the king who is French という解釈かのいずれかである。すなわち、「フランスの国王、フランスを統治する者」か「フランス人の王」かである。しかし、the English one という one を用いた表現が続いており、この「形容詞+one」の形は the one who is English、すなわち「イングランド人の王」と解釈され、「イングランドを統治する者」とは解釈されない。なぜなら、「イングランドを統治する者」という解釈の場合、項であることを明示した the king of England を用いる必要があるからである(上述したように one を用いた *the one of England は容認不可)。したがって、前の the French king も the English one と同様に the king who is French の意味であると考えられる。また、(48), (49) の2つの例は、ginger, land という名詞付加語が用いられている例であるが、これらは問題なく容認される。

 では次に、名詞付加語を用いた容認不可の例を挙げる。

(50) Which student did you meet? {The Cambridge one / *The physics one}.(どちらの学生に会いましたか。{ケンブリッジの学生/物理学の学生}です)
(51) He's an idiot. − *The village one?(彼はばかだ。−あの愚か者か)
(52) We sat by a lovely little stream. *It was cool and clear, like all mountain ones.(私たちはきれいな小川のほとりに座った。それは、あらゆる渓流と同じように冷たく澄んでいた)

(50) の *the physics one が容認不可であるのは、やはり、上述した「他動詞+項」の関係が感じられることを基礎にして説明できる。すなわち、study physics が伏在しているということであり、one は用いられない。一方、(51) と (52) の *the village one と *all mountain ones に関しては、「他動詞+項」の関係が容易に想起できないので、このような説明ではどうもすっきりしない。問題は、village idiot と mountain stream という語句である。これらの「名詞付加語+名詞」の表現が容認不可であるのは、これらの2語の一体感が強いと感じられているからだと考えられる。village idiot は George Bernard Shaw が使用して有名になった言葉のようであるが、Oxford Advanced Learner's Dictionary には、"a person in a village who is thought to be stupid" という説明に加えて、単なる "a stupid person" という説明も挙がっており、village の意味が時に薄れることが示唆されている。mountain stream は、同辞書には(見出しとして)挙がっていないが、「渓流、谷川」の意味で普通に用いられる語句であり、十分に一概念を構成している。この名詞付加語 mountain は、a lovely little stream の lovely little という形容詞と感触が非常に異なっており、むしろ、いわゆる複合名詞である mainstream の main に近いとさえ言える。もちろん、もっと近いのは、元々形容詞である main よりも、例えば mountaintop(これは同辞書にも挙がっている)の mountain のような元々名詞付加語である場合である(なお、これは mountain top とも mountain-top とも表記され、これらのどの表記が実際に可能であるかを知るには、基本的に辞書やコーパスなどに頼るしかない)。要するに、(50) 〜 (52) のような前置修飾が容認不可となりやすい場合は、「他動詞+項」を感じさせる場合や、複合名詞に近接するような「形容詞・名詞付加語+名詞」の場合、すなわち、主名詞とその隣接要素との結び付きが強いと感じられる場合である。


 the one の容認可能性に関する基準として、主名詞とその隣接要素との結び付きの強さを明確に判断する手段は、現在のところ見つかっていないようであるし、そう簡単に見つかるとも思えない。けれども、前置修飾、後置修飾にかかわらず、主名詞とその隣接要素との結合度・一体感が強いと感じられるほど、それらを分離して主名詞に one を用いることを避けようとする傾向が強くなることは確かだと考えられる。特に「他動詞+項」を想起させる「名詞 of 句」が前出し、その名詞を指す one を用いて同じく「他動詞+項」を想起させる「the one of 句」を使用することはまれである。例えば、上記 (41) と同類の例文である下記の文をマサチューセッツ工科大学の講義情報公開サイト(OCW)は容認不可として挙げている。

(53) *Harv saw the picture of Hugo's pet squirrel, and Herb saw the one of Hortense's fish.(Harv は Hugo のペットのリスの写真を見て、Herb は Hortense の魚の写真を見た)(http://ocw.mit.edu/courses/linguistics-and-philosophy/24-900-introduction-to-linguistics-spring-2005/study-materials/comp_vs_adjunct.pdf)

なお、今西・浅野(1990)には、例文 (41) の出典として Lakoff, G. 1970. Global rules. Lg. 46. 627-39 が挙げられている。


1) A classic story in linguistics lore tells of the grammarian who tried to classify all of the ways the genitive can be used. He eventually threw up his hands and said that the genitive is the case that shows any relationship between two substantives.(http://alt-usage-english.org/genitive_and_possessive.html)


参考文献:

安井稔・中村順良(1989)『現代の英文法10 代用表現』(研究社)(例文 (1), (4), (5), (6), (9), (10), (11))
今西典子・浅野一郎(1990)『新英文法選書 第11巻 照応と削除』(大修館書店)(例文 (3), (16), (19), (20), (21), (28), (29), (30), (31), (32), (33), (41), (45), (46), (47), (48))
市川繁治郎編集代表(1996)『新編 英和活用大辞典』(研究社)(例文 (2), (12))
小西 友七・南出康世編集主幹(2002)『ジーニアス英和辞典 第3版』(大修館書店)(例文 (8), (17), (44))
Halliday, M. A. K., Hasan, R., 1976. Cohesion in English. Longman(例文 (6), (51), (52))
McCawley, J. D., 1998. The Syntactic Phenomena of English. University of Chicago Press(例文 (34), (35), (36))
Radford, A., 2009. Transformational Grammar International Student Edition: A First Course. Cambridge University Press(例文 (24), (25), (26), (27), (50))
Oxford Advanced Learner's Dictionary
(http://oald8.oxfordlearnersdictionaries.com/)


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