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目次

<冠詞に関する覚え書>
通念の定冠詞

第14話 総称と冠詞
(主語を中心に)




= 覚え書(14) =

通念の定冠詞

 今回から、「通念の定冠詞」を中心に扱います。まず、「通念の定冠詞」とは何かということですが、関口存男氏の『定冠詞』に次のような説明があります。
「定冠詞の機能には、その次に来る名詞によって表示された概念が、なんらの規定をも要せずして一概に明瞭であるという意味において、話者にも聴者にも既知なるものと前提されてよろしいという事を暗示する場合がある。これを通念の定冠詞と呼ぶことにしよう。」

「或る一つの名詞を、それ以上何ら詳しい規定を要するまでもなく、単にその言葉によって暗示された含みの範囲で既に充分明瞭な概念、すなわち一概に "通念" として取り扱ったのだという意思表示が即ち通念の定冠詞である。」
総称表現

 通念の定冠詞は、便宜的にいろいろな種類に分けることができるのですが、今回は、いわゆる「総称の定冠詞」と呼ばれている場合を扱います。『現代英文法辞典』(三省堂)によると、「総称冠詞」は、「ある種族・種類に属するものの全体を表す、いわゆる総称名詞句に用いられる冠詞」と説明されています。ここでは、定冠詞に限らず、総称的な表現で用いられる不定冠詞や無冠詞も扱います。では、具体例を見ていきましょう。可算名詞の例です。

(1a)The bull terrier makes an excellent watchdog.(ブルテリアは素晴らしい番犬になる)『A Comprehensive Grammar of the English Language』(Longman)
(1b)A bull terrier makes an excellent watchdog.(同上)
(1c)Bull terriers make excellent watchdogs.(同上)
(2a)The beaver builds a dam. (ビーバーはダムを造る)『現代英文法辞典』(三省堂)
(2b)A beaver builds a dam. (同上)
(2c)Beavers build dams.(同上)
(3a)The madrigal is polyphonic.(マドリガル曲は多音声である)『同上』
(3b)A madrigal is polyphonic.(同上)
(3c)Madrigals are polyphonic.(同上)
(4a)The dog is a vigilant animal.(犬は用心深い動物である)『英語の冠詞がわかる本』(研究社)
(4b)A dog is a vigilant animal.(同上)
(4c)Dogs are vigilant animals.(同上)

以上のように、可算名詞の総称表現は、一般的に「the + 単数名詞」、「a + 単数名詞」、「無冠詞複数名詞」の3つがあります。可算名詞の場合、それ以外の表現は原則として使いません。例えば、「無冠詞単数形」は文法的に誤りであり、「the + 複数名詞」は「それらの…」という特定のものを指すことになります。そこで、3つの総称表現の特徴と違いは何なのかが問題となります。では、その特徴と違いを説明していきましょう。

総称の定冠詞

 まず、「the + 単数名詞」です。『現代英文法辞典』(三省堂)によると、この型は、一般的に強意的、文語的、抽象的であるとされており、主に、人間のタイプ、動植物の種類、複雑な技術的発明品・装置などの文化的産物、身体の一部や器官、一部の病名、楽器・ダンスの名称、衣服や習慣、レストランや代表的な店の名称、文芸部門、金銭その他の単位に言及する場合に用いられます。

(5)Each art has its own medium: the painter, his pigments, the musician, his sounds, the writer, words.(それぞれの芸術には媒体がある。例えば、画家には絵の具、音楽家には音、作家にはことばがある)『現代英文法辞典』(三省堂)
(6)The mouse fears cats.(ネズミは猫を怖がる)『同上』
(7)The pine is evergreen.(マツは常緑樹である)『同上』
(8)The telephone is useful to the businessman.(電話はビジネスマンに役立つ)『同上』
(9)She plays the guitar.(彼女はギターを弾く)『同上』
(10)The kilt was the invention of an English Quaker named Rawlinson.(キルトは Rawlinson という英国のクエーカー教徒の発明であった)『同上』
(11)The first half of the 19th century saw the dual die out.(19世紀前半に決闘はすたれた)『同上』
(12)The book, the play, the film are strong influences on our social life.(本、芝居、映画は我々の社会生活に強い影響力を持つ)『同上』

これらの文から分かるように、総称の冠詞が用いられるのは、通例、何らかの意味で一般化された主張を含む文であり、例えば、学問的定義、素朴な常識的定義、格言、あるいはその他の普遍的事実を確認する表現です。それには上記(9)のような個人の習慣的な行為も含まれます。関口氏は、このような文を「普遍妥当命題」と読んでいます。

総称の定冠詞を使わない場合

 では次に、総称を表す「the + 単数名詞」を用いることができない例を見ていきましょう。

(13)The lion is hungry.(そのライオンは腹を空かしている) 『現代英文法辞典』(三省堂)
(14)The door is open.(そのドアは開いている)『同上』
(15)The elephant stepped on my car.(その象は私の車を踏みつけた)『同上』

上記(13)から(15)は一時的なことなので、総称の意味にはなりません。また別の例です。

(16)× The book fills leisure time for many people.(余暇に本を読む人が沢山いる)『現代英文法辞典』(三省堂)
(17)Books fill leisure time for many people.(同上)

総称を表す「the + 単数名詞」という型は、まず、一般的に生物や複雑な器具などについて抽象的・客観的、あるいは科学的・専門的に述べる場合に用いられ、従って堅苦しい表現になることが多いと言えます。また、単純な構造の無生物であったり、あるいは非常に広い概念に関して、または広い概念と見なして用いることで、それが属する上位の類概念が意識されない場合には、総称を表す「the + 単数名詞」は不自然になることが多いと言えます。上記(16)の book が不自然であるのは、このような理由に拠ります。一方、(12)の the book が容認される理由は、the play, the film と共に用いられていることからも分かるように、上位の類概念である「文芸部門」というものが意識されており、それに属する「ジャンル、タイプ」として述べられているからです。次の例をご覧下さい。

(18)× The object is in space.(物体は空間の中にある)『新英文法選書 第6巻 名詞句の限定表現』(大修館書店)
(19)Objects are in space.(同上)
(20)× Monkeys do not use the instrument.(サルは器具を使わない)『同上』
(21)Monkeys do not use instruments.(同上)
(22)?× The machine has been created by human beings, but when it attains to a certain stage of development, it gets beyond their control. On the contrary, they come to be controlled by it.(機械は人間の作り出したものであるが、ある程度まで発達すると人間の手に負えなくなり、人間がかえって機械に支配されるようになる)『英作文参考書の誤りを正す』(大修館書店)
(23)Machines have been created by human beings, but when they attain to a certain stage of development, they get beyond human control. On the contrary, man comes to be controlled by machines.(同上)
(24)The poem should be read in silence, not the play.(詩というものは、戯曲と違い黙読すべきである)『現代英文法辞典』(三省堂)
(25)? A poem should be read in silence, not the play.(同上)
(26)A poem should be read in silence, not declaimed.(詩というものは、黙読すべきであって朗々と朗読すべきではない)『同上』
(27)? The poem should be read in silence, not declaimed.(同上)
(28)Since we are talking about animals, what about the beaver?(動物について話しているのですから、ビーバーはどうでしょう)『同上』
(29)× Since we are talking about trees, what about the beaver?(樹木について話しているのですから、ビーバーはどうでしょう)『同上』

(18)、(20)、(22)はそれぞれ、特定の「その物体」、「その器具」、「その機械」という特定的な意味に読めます。「物体」も「器具」も「機械」もそれ自体が上位概念であり、それらが属するさらなる上位類概念が意識されないからです。(24)は the play と対比されており、「文芸のジャンル」として述べられているので the が適切です。ところが、(27)は曖昧であり、特定の「その詩」を意味しているように聞こえる可能性があります。(28)は上位類概念である「動物」に対する「ビーバー」であり、the を使いますが、(29)は「樹木」であり、「ビーバー」の上位類概念ではないので the は使えません。(29)は about beavers なら可能です。

総称の定冠詞が現在時制以外の時制で用いられる例(普遍妥当命題)

 普遍妥当命題は、一般的に現在時制が使われることが多いと言えますが、一般化してイメージできる事柄であれば、他の時制も可能です。

(30)The rhinoceros is destroying the crops in Uganda.(サイがウガンダの作物を駄目にしている)『新英文法選書 第6巻 名詞句の限定表現』(大修館書店)
(31)×The rhinoceros is destroying the crops in my garden.(サイが私の庭の作物を駄目にしている)『同上』
(32)The leafhopper is destroying the crops in my garden.(ヨコバイが私の庭の作物を駄目にしている)『同上』
(33)The elephant has always attracted me.(象はいつも私を魅了している)『同上』
(34)× The elephant has just attracted me.(象は私を魅了した)『同上』
(35)Very few people visit the town, so (the) buses rarely run on schedule, moving only when it has enough passengers.(訪れる客も少ないので、バスの発着時も客の数しだいで、時間通りに走ることはめったにない)『英作文参考書の誤りを正す』(大修館書店)
(36)× Very few people visit the town, so the bus rarely runs on schedule, moving only when it has enough passengers.(同上)

(30)は現在進行形ですが、「サイが作物を駄目にしている」ということが、最近よく起こっているのだということが困難なくイメージできます。しかし、(31)のように「ウガンダ」を「私の庭」に変えると、非常に狭い範囲での特殊な出来事であるという感触が強くなり、特定の「そのサイ」という読みしかできません。ところが、(32)のように「サイ」を「ヨコバイ」にすると、総称の読みも可能となります。これは、「サイが短期間に私の庭の作物を何回も駄目にしている」という事態が想像しにくいのに対し、「ヨコバイが庭の作物を、日々駄目にしている」ということは一般的な事柄としてイメージ化するのが容易であるためだと考えられます。以上は場所による制限が影響しているわけですが、(33)と(34)は時間に関する例です。(33)の always がある文は、容易に一般化されますが、(34)は特定の出来事としか考えられませんから、特定の「その象」としか解釈できません。(36)は現在時制ですが、この the bus は、具体的な「その町」の話をしているため、「その町に1台しかないそのバス」と読めてしまいます。従って、(35)のように複数の buses にするか、「その町の(複数の)バス」という意味で、the buses にする必要があります。つまり、普遍妥当な事柄として解釈するのを妨げるような要素が文脈上含まれている場合には、the は総称の読みが不可能、あるいは困難になります。誤解を避けたいのなら、無冠詞複数形を使えば良い、ということです。

総称の定冠詞の文体が影響する場合

 さらに、総称の定冠詞の文体が影響する場合です。

(37)A beaver (× The beaver) will build a dam. You can depend on it. The little bastard has an instinct for it.(ビーバーというやつはダムを造る習性がある。間違いないさ。やっこさんにはそういう本能があるんだ)『現代英文法辞典』(三省堂)

(37)の文の the beaver は総称の意味には解釈されず、特定の「そのビーバー」の意味になります。これは、上で述べたように、定冠詞を使った総称表現は、堅苦しく、客観的な文体であるため、(37)のような感情の入った状況で用いると、総称表現としては不自然に響くからです。

総称の不定冠詞

 では次に、不定冠詞の総称の用法です。この用法は、基本的に、ある種類・種族の代表として1つの見本を取り出し、その1つの見本について論じることにより、その類全体のことに言及する用法です。類の代表として1つを取り上げて述べるということは、その1つについてはもちろん、当然、その類に属する他のメンバーにも当てはまる事柄について述べることになりますから、不定冠詞の総称用法は、その類が本来持っている特徴、性質、属性について述べるときに用いられることになります。また、定冠詞の総称の用法が抽象的な感触を伴うのに対し、具体的で、個別的な感触を伴います。

 まず、『英語の冠詞がわかる本』(研究社)に「個別」から「総称」への推移について述べた文例が引用されています。それを紹介しておきましょう。a paper に注目して下さい。

(37)I bought a paper this morning but left it in the train after I had read it.(私は今朝新聞を買ったが、読み終えた後、電車にそれを置き忘れた)
(38)I saw Mr Jones in the train this morning. He was reading a paper, so he did not see me.(私は今朝電車でジョーンズ氏を見かけた。彼は新聞を読んでいたので、私を見なかった)
(39)If you buy a paper tomorrow, will you bring it home for me to read?(明日新聞を買ったら、僕も読めるように家へ持って帰ってくれないか)
(40)Do you buy a paper every morning?(あなたは毎朝新聞を買いますか)
(41)All Englishmen buy a paper every morning.(全てのイギリス人男性は毎朝新聞を買う)
(42)Everybody ought to buy a paper in the morning.(誰もが、朝、新聞を買うべきだ)
(43)A paper in the morning is not a luxury.(朝の新聞は贅沢なものではない)

(37)と(38)の a paper は実在する特定の「ある新聞」です。(39)はまだ特定されていない「ある新聞」です。(40)から(42)は習慣的な事柄を述べており、a paper は総称の用法に近づいています(これらは「単回遂行」と関連があります。詳しくは『冠詞に関する覚え書 第25話』および『第26話』を参照)。(43)の文は、上記で述べた「その類が本来持っている特徴、性質、属性について述べる」場合に当てはまり、a paper は総称としての「新聞」です。本コラムでは、厳密な意味で「不定冠詞の総称用法」と言った場合、(43)のような場合、すなわち、「その類が本来持っている特徴、性質、属性について述べる」場合だけを指すと考えて下さい。そうしないと、いろいろと混乱が生じてきます。

総称の不定冠詞が不自然な場合(1)

 不定冠詞の総称用法の典型的な例は、すでに定冠詞の総称の用法に関する説明の中で挙げてきましたので、ここでは、主に、総称の不定冠詞が不自然となる場合を説明します。上で述べたように、総称の不定冠詞は「ある種類・種族の代表として1つの見本を取り出し、その1つの見本について論じることにより、その類全体のことに言及する用法」ですから、基本的に「1つ」という概念が残っています。従って、「1つ」では成立し得ない事柄を述べる場合には、総称の不定冠詞を使うことはできません。以下の例をご覧下さい。

(44a)The telephoneA telephone) has become so commonplace that we seldom stop to consider how important it is in daily life.(電話はたいへん普及しているので、われわれは日常生活におけるその重要性を改めて考えてみることがあまりない)『クニヒロの入試の英作36景 第5集』(南雲堂)
(44b)Telephones have become (or are) so commonplace that we hardly ever stop and think about how important they are to our everyday lives.(同上)
(45a)The kiwi is extinct. (キーウィ鳥は絶滅している)『新英文法選書 第6巻 名詞句の限定表現』(大修館書店)
(45b)Kiwis are extinct.(同上)
(45c)× A kiwi is extinct.(同上)
(46a)The kiwi abounds in this area.(キーウィ鳥はこの一帯にうようよいる)『同上』
(46b)Kiwis abound in this area.(同上)
(46c)× A kiwi abounds in this area.(同上)
(47a)The beaver is found in Canada increasing in numbers.(ビーバーはカナダでは数が増えていることが分かっている)『同上』
(47b)Beavers are found in Canada increasing in numbers.(同上)
(47c)× A beaver is found in Canada increasing in numbers.(同上)
(48a)The horse has been domesticated for thousands of years.(馬は家畜化されてから何千年も経っている)『同上』
(48b)Horses have been domesticated for thousands of years.(同上)
(48c)× A horse has been domesticated for thousands of years.(同上)
(49)The motor carA motor car) has become very popular.(車はとても人気が出てきた)『現代英文法辞典』(三省堂)
(50)The honeybeeA honeybee) has a complex social system.(ミツバチは複雑な社会構造を持っている)『同上』
(51)The lionA lion) is numerous.(ライオンの数は多い)『同上』

「普及」、「絶滅」、「多数」、「増加」、「何千年にもわたる家畜化」、「社会構造」といった概念は、複数の個体が存在して初めて成り立つ現象です。(49)の「人気が出てきた」というのも、「1台の車」ではなく、「何台もの車が利用されてきている」ということですから、総称の意味としては、不定冠詞を使うことはできません。

総称の不定冠詞であることが曖昧な場合

 次に、「その類が本来持っている特徴、性質、属性について述べている」場合でも、曖昧になるケースです。まず、次の文をご覧下さい。

(52)An Indian smokes a pipe every night.(インディアンは毎晩パイプをくゆらす)『現代英文法辞典』
(53)An Indian smokes a pipe every night.(あるインディアンは毎晩パイプをくゆらす)『同上』
(54)An Indian smokes a pipe every night. They draw lots every day to see who'll have the honor.(一人のインディアンが毎晩パイプをくゆらす。連中はその栄誉にだれが浴するのかを知るために毎日くじを引く)『同上』

(52)の an Indian は総称であり、(53)は話し手に既知の特定のインディアンであり、(54)は非特定のインディアンです。

総称の不定冠詞が不自然な場合(2)

 さらに微妙なケースです。不定冠詞の総称用法は、「その類の本質的な属性」について述べる場合に用いますから、「その属性を持っているのが当然である」、「その属性を持っている必要がある」という感触を伴う傾向にあります。従って、「本質的な属性」とは考えられないことを述べた場合、総称的な内容であるという解釈が困難になり、不自然に響きがちです。無冠詞複数形は自然です。

(55a)× A madrigal is popular.(マドリガル曲は人気がある)
『http://www.bgu.ac.il/~arikc/better.pdf』
(55b)Madrigals are popular.(同上)
(56a)× A king is generous.(王は寛容である)『同上』
(56b)Kings are generous.(同上)
(57a)× A room is square.(部屋は正方形である)『同上』
(57b)Rooms are square.(同上)
(58)? A basketball player is tall.(バスケットボールの選手は背が高い)『新英文法選書 第6巻 名詞句の限定表現』
(59a)? A really talented person doesn't show off.(能ある鷹は爪を隠す)『英語教育 2002年11月号』(大修館書店)
(59b)Really talented people don't show off.(同上)

総称の不定冠詞が許容される場合(1)

しかし、以下のような文なら、不定冠詞でも許容されます。

(60)A football hero is popular.(フットボールのヒーローは人気がある)『新英文法選書 第6巻 名詞句の限定表現』(大修館書店)
(61)A madrigal is always popular.(マドリガル曲はいつも人気がある)
『http://www.bgu.ac.il/~arikc/better.pdf』
(62)A madrigal is popular when it is short.(マドリガル曲は短ければ人気がある)『同上』
(63)A madrigal is popular if it was written by Orlando di Lasso.(マドリガル曲は Orlando di Lasso によって書かれていれば人気がある)『同上』

(60)が可能であるのは、「フットボールのヒーロー」が「人気がある」という属性を持つのは当然であるということが、この表現が用いられた環境や社会や文化圏の中で一般的に容認されているからだと思われます。(59a)の文は、日本ではことわざとして紹介されていることが多いのですが、英語圏では不自然に響くようです。これは、「能ある鷹(才能のある人)」にとって「爪を隠す(才能を誇示しない)」ことが本質的な属性であるという考え方が、英語の文化圏ではなじまないからかもしれません。(61)から(63)の文が可能であるのは、条件が付くことによって、総称の意味が生じるからだと考えられます。つまり、条件が付くことで、複数のメンバーの存在が感じられ、「1つの見本」と「類」の関係が意識されるのです。

総称の不定冠詞が許容される場合(2)

 さらに次も、不定冠詞が総称の意味で使える例です。

(64)A madrigal is a popular song.(マドリガル曲は人気のある歌である)
『http://www.bgu.ac.il/~arikc/better.pdf』
(65)A king is a generous ruler.(王とは寛容な支配者のことである)
(66)A room is a square enclosure.(部屋とは正方形の囲いである)
(65)A good king is generous.(良い王は寛容である)

例えば、(64)は(55a)の popular が a popular song になっただけなのですが、これによって、総称の意味に解釈することが可能になります。(55a)、(56a)、(57a)、(58)、(60a)などの文は、総称の意味で述べているのか、特定の意味で述べているのか非常に曖昧です。つまり、例えば、(55a)の文は、「マドリガル曲は一般的に人気がある」と述べているのか、「あるマドリガル曲は人気がある」と述べているのかよく分からない文になっています。前者の意味なら、(55b)のように無冠詞複数を使えば良いし、後者の意味なら、例えば、I know of a popular madrigal.(人気のあるマドリガル曲を知っている)とか There is a popular madrigal.(人気のあるマドリガル曲がある)と言えば済むわけですから、(55a)〜(60a)のような曖昧な文は避けられることになります。しかし、(64)から(66)の文は、「マドリガル=歌」、「王=支配者」、「部屋=囲うもの」というそれぞれ主語の本質的な属性関係が明示されているため、これらが総称の文であるということを認識しやすくなります。また、song などを明示することで、「歌としてのマドリガル」、「支配者としての王」、「囲うものとしての部屋」というように、漠然とした概念に、ある種の条件が付加されているとも考えられます。これは、上記(61)から(63)の文が、条件が付加されることで総称的な解釈が可能になるのとよく似ています。(65)も、a good king となることで、条件が加わり、「ある良い王」という特定的な読みが困難になり、総称としての解釈が容易になります。総称の解釈が容易である場合、必ずしも、真実・事実としての「本質的な属性」を述べている必要はなく、「本質的な属性」であるかのように述べる場合も許容されます。つまり、話者が、真であろうが、偽であろうが、「本質的な属性」として断定してしまえば、文法的に容認されるということです。定義やルールとして述べる場合も同様です。例えば、次の文は、内容的には間違っていても、文法的には問題ありません。

(66)A madrigal is monophonic.(マドリガル曲は単旋律である)
『http://www.bgu.ac.il/~arikc/better.pdf』

総称の不定冠詞が不自然な場合(3)

 先へ進みます。先ほど述べた「本質的な属性として断定する」ということと関連します。普遍妥当な内容かどうかに対する疑問を話者が感じており、確信を抱いていない場合に、総称の不定冠詞が使われるかどうかという問題です。結論から言うと、一般的に確信のない疑問や話者の確信の度合いを表すとき、総称の不定冠詞は不自然になります。

(67a)? Is a madrigal polyphonic?(マドリガル曲は多音声ですか)
『http://www.bgu.ac.il/~arikc/better.pdf』
(67b)Are madrigals polyphonic?(同上)
(68a)? Certainly (or Possibly, I am not sure, I guess) a madrigal is polyphonic.(マドリガル曲は確かに多音声である(多音声かもしれない、多音声であると確信していない、多音声であると推測する)『同上』
(68b)Certainly (or Possibly, I am not sure, I guess) madrigals are polyphonic.(同上)

 しかし、本当に疑問を抱いていたり、確信の度合いを示すのではなく、普遍妥当命題を前提とした上での疑問は可能となります。例えば、教師が生徒に質問をするような場合です。

(69)Is a madrigal polyphonic or monophonic?(マドリガル曲は多音声ですか、単旋律ですか)『http://www.bgu.ac.il/~arikc/better.pdf』
(70)Is a madrigal or a Gregorian chant polyphonic?(マドリガル曲やグレゴリオ聖歌は多音声ですか)『同上』

また、次のような疑問文も、普遍妥当命題を前提とした質問であり、総称の不定冠詞が使えます。

(71)What is a panda like?(パンダはどのようなものですか)『英語教育 2003年10月号』(大修館書店)
(72)What is a parasol for? (パラソルは何のためにあるのですか)『同上』

総称の不定冠詞の文体

 次に、文体の面から、上記で不自然だと述べた表現が可能となることがあります。

(73)Sire, please don't send her to the axe. Remember, a king is generous!(陛下、彼女を処刑するのはどうかおやめ下さい。忘れてはいけません。王とは寛容なものです)
『http://www.bgu.ac.il/~arikc/better.pdf』
(74)How dare you build me such a room? Don't you know a room is square!(よくも私にこんな部屋を作れるね。部屋は正方形だということを知らないのか)『同上』

これらには、(56a)、(57a)と同じ文が含まれていますが、強く感情がこもった表現であり、また、普遍妥当命題として述べていることが明らかなので、不自然ではなくなります。これは、感情が強くこもる場合、簡潔に表現することが多く、また、普遍妥当命題として断定した、ということが十分に聞き手に伝わるからだと考えられます。また、この感情がこもる場合とは、通例、「〜する必要がある、当然〜だ」ということを感情的に強く述べる場合です(「王というものは寛容でないといけない」、「部屋というものは当然正方形だ」など)。つまり、総称の不定冠詞が持つ「本来持っている属性」というイメージから、「当然持つ、持っている必要がある」という感情的ニュアンスにつながるわけです。

不定冠詞の仮構性の含み

 さらに、上記で不自然だとして挙げた(59a)の文は、仮定法にすると自然な文になります。

(75)A really talented person wouldn't show off.(能ある鷹なら爪を隠すだろう)『英語教育 2002年11月号』(大修館書店)

この不定冠詞は、関口存男氏が「仮構性の含みの不定冠詞」と説明しているもので、例えば、「彼が能ある鷹なら、爪を隠すだろう」(If he were a really talented person, he wouldn't show off.)の条件の部分が A really talented person という語に凝縮されていると解釈できます。関口氏の言葉を借りれば、「前提と結論から成る一般命題は、すべてその前提に該当する部分(それが主題目名詞になるのは当然であるが)を成す名詞が不定冠詞を伴うのが自然である」(『不定冠詞』(三修社))ということであり、仮定法を使うことにより、「前提と結論」の関係であることが明瞭になることで、この文が可能となります。

 以上、今回は、総称の定冠詞と不定冠詞を中心に扱ってきたのですが、不定冠詞の方は、混乱を避けるために主語の場合だけを論じてきました。次回は、主に主語以外のケースについて扱う予定です。

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