トップページへ

目次

<冠詞に関する覚え書>
通念の定冠詞

第17話 遍在通念
(自然物を中心に)




= 覚え書(17) =

遍在通念の定冠詞

 以前にも述べたように、関口存男氏は、「詳しく規定するまでもなく、それ自身だけで既に指すところが明らかなるものと見て、"一概に" 考えてしまう概念を通念」と呼び、「ある一つの名詞をその様な通念として一概に取り扱うという意志表示が即ち通念の定冠詞である」と述べています。関口氏は、「通念」を便宜的に「素朴全称概念としての通念」、「純粋理念としての通念」、「類型単数としての通念」、「遍在通念」、「通り言葉」、「特殊通念」、「俚俗通念」、「素朴通念」に分類しています(これらにさらに「彼此照合」が加わります)。この分類は、ドイツ語に対してのものであり、果たして、これを英語にそのまま当てはめるのが最善の説明方法であるかどうかは難しい問題なのですが、ある種の部分は、そのまま応用できると考えられます。そこでまず、比較的わかりやすい「遍在通念」を扱います。
 「遍在通念の定冠詞」とは、「世の中に遍在する、あるいは遍在するものとして扱われた名詞に付される定冠詞」であり、「個別性が感じられることなく、広くあちこちに存在すると考えられるものを表す名詞と共に用いられる定冠詞」です。「遍在通念」には、「宇宙、空、海、太陽」といったものから「砂漠、海岸、森」、さらには「映画館、郵便局、銀行」、「電車、バス」、あるいは「道路、朝、雨」といったものまで含まれます。また、一般の英語の参考書では例えば「常識的に考えて唯一のものを指す名詞に付く定冠詞」と説明されている「太陽」や「宇宙」も含まれるものとします。では、具体的に「遍在通念」と「通念の定冠詞」との関係を見て行きましょう。

遍在通念(1)(天体および地理に関する名詞)

まず、天体や地理に関する名詞があります。主な例です。

the universe(宇宙) the cosmos(宇宙) the solar system(太陽系) the nadir(天底) the zenith(天頂) the ecliptic(黄道) the zodiac(黄道帯、獣帯) the sky(空) the air(空中、空) the ocean(海) the sea(海) the atmosphere(大気) the sun(太陽、日光) the moon(月) the earth(地球、この世) the globe(地球) the world(世界、世界の人々、世の中) the equator(赤道) the north pole(北極点) the south pole(南極点) the biosphere(生物圏) the environment(自然環境) the tropics(熱帯地方) the horizon(地平線、水平線) the horizontal(水平線、水平面) the ground(地面;土地) the east(東、東部) the west(西、西部) the south(南、南部) the north(北、北部) the southeast(南東) the northwest(北西) the south-southeast(南南東) the south-southwest(南南西) the west-northwest(西北西) the right(右、右側) the left(左、左側)

これらの主なものについて、『Collins Cobuild』の定義を見てみましょう。定冠詞付きで説明されています。下線部が通念です。

(1)The universe is the whole of space and all the stars, planets, and other forms of matter and energy in it.(宇宙とは、空間全体、およびその中にある全ての恒星、惑星ならびにその他の形態の物質とエネルギーである)
(2)The cosmos is the universe.(cosmos とは宇宙のことである)
(3)The west is the direction which you look towards in the evening in order to see the sun set.(西とは、日が沈むのを見るために夕方に見る方向である)
(4)The equator is an imaginary line around the middle of the earth at an equal distance from the North Pole and the South Pole.(赤道とは、北極と南極から等距離にある地球の中央を取り巻く架空の線である)
(5)The sun is the ball of fire in the sky that the Earth goes around, and that gives us heat and light.(太陽とは、地球がその周りを回り、私たちに熱と光を与えている空にある火の玉である)
(6)You refer to the light and heat that reach us from the sun as the sun.(太陽から私たちに届く光と熱のことを日光と呼ぶ)
(7)The sea is the salty water that covers about three-quarters of the earth's surface.(海とは、地表の約4分の3を覆っている海水である)
(8)The ground is the surface of the earth or the floor of a room.(地べたとは地球の表面または部屋の床である)
(9)The ground is the soil and rock on the earth's surface.(地面とは地表の土や岩である)
(10)If you say that something takes place on the ground, you mean it takes place on the surface of the earth and not in the air.(何かが地面で行われていると言う場合、それが空中ではなく地表面で行われていることを意味する)
(11)The environment is the natural world of land, sea, air, plants, and animals.(自然環境とは、陸、海、空気、植物、動物から成る自然界である)
(12)The horizon is the line in the far distance where the sky seems to meet the land or the sea.(地平線(水平線)とは、空が陸または海と接するように見える遠くにある線である)
(13)The right is one of two opposite directions, sides, or positions. If you are facing north and you turn to the right, you will be facing east.(右とは、2つの反対の方向、側、位置の1つである。北を向き、右を見れば、東を向いていることになる)

「通念」か「個別具体概念」か

 「通念」という考え方をするとき、気をつけなければならないのは、例えば、sun という単語は必ず通念として使われる、というように考えてはいけないということです。普段の生活の中で「太陽」と言えば、誰もが知っている「空に輝く例の太陽」のことを言っているに決まっていますから、the sun となりますが、宇宙の話をしていて、幾つもの太陽が考えられるような場面では、当然、a sun となることもあります。また、その際、日本語では、「恒星」という訳が与えられています。『Collins Cobuild』の定義です。

(14)A sun is any star which has planets revolving around it.(恒星とは、惑星がその周りを回っている星である)

universe も同様です。私たちの宇宙以外の宇宙を想定するなら、普通の可算名詞と同じ扱いになります。

(15)In most of these universes it is not possible for life, as we know it to form. Interestingly enough, the existence of a universe like ours is extremely rare, even improbable.(これらの宇宙のほとんどでは、私たちが知っているような生物が生まれる可能性はない。興味深いことに、私たちの宇宙と同じような宇宙が存在することは、極めてまれであり、ありそうにないとさえ言えるのである)
『http://www.imaginaryuniverse.com/perfectuniverse.html』

遍在通念(2)

 「太陽」や「宇宙」の場合は、日常の生活からかけ離れていることが話題になっているときにしか、普通の可算名詞と同じ扱いにならないので、まだ分かりやすいと思います。これが例えば「海」になると少し込み入ってきます。上記(7)の定義のように、「地表の約4分の3を覆っている海水」としての「海」(通念)以外に、「太平洋」、「大西洋」、「日本海」といった個別の「海」(通常の可算名詞)もあるからです。個別の「海」を考える場合は、当然、a sea となります。『Collins Cobuild』の定義です。

(16)A sea is a large area of salty water that is part of an ocean or is surrounded by land.(海とは、海洋の一部分であったり、陸に囲まれている海水の大きな領域である)

そこで、次のような問題が起こってきます。「海を見たい」、「海辺に暮らす」といった表現の場合、the sea を使うのか、a sea を使うのか、ということです。結論から言えば、いろいろな海の個別性を意識せずに、単に「海」という場合は、通念の定冠詞を使って the sea というのが普通です。

(17)I'm fed up with urban life. I want to live by the sea or up in the mountains with clear air and beautiful views.(私は都会の生活にうんざりしている。きれいな空気と美しい風景がある海辺か山で暮らしたい)
『http://travel.guardian.co.uk/netjetters/sam/story/0,7452,428454,00.html』
(18)If you want to see the ocean, buy a camera. If you want to feel the ocean, buy a painting.(海が見たいならカメラを買いなさい。海を感じたいのなら絵を買いなさい)
『http://www.gloucestergallery.com/galleries/』

 さらに、「海の底、海底」になると、「ある具体的な1つの海」の「底」が問題になっていない限り、the sea を使います。

(19)What lives at the bottom of the sea? It is very dark in the deep sea, but many strange fish and other creatures live there.(海底には何が住んでいるのでしょうか。深海は非常に暗いですが、多くの魚やその他の生き物が暮らしています)
『http://www.gridclub.com/info/fact_gadget/best_ever_qa/nature/fish/1525.
html』
(20)Humans know more about the surface of the moon than the bottom of the sea. But there is no life on the moon. The sea is full of life, and scientists are redefining the meaning of life by the strange and fascinating life forms they find at the sea bottom.(人間は、海底よりも月面についての方をよく知っている。しかし、月には生物はいない。海は生物に満ちており、科学者は、海底に発見する奇妙で魅力的な多様な生物をもとに、生物の意味を再定義しているのである)
『http://www.virginia.edu/insideuva/2004/04/students_subs.html』

これらを the bottom of a sea とすると、どうしても「ある海の底」という感じがし、「どの海のことだろう?」という疑問が読み手(聞き手)に浮かぶ可能性が高いのです。これは、このコラムの第1話第2話で述べたことなのですが、「定冠詞を伴う名詞は、穏やかに達意(情報の伝達)の主局(主要な部分)に立つか、あるいは穏やかに達意の傍局(主要でない部分)に退くかのいずれか」であり、「不定冠詞を伴う名詞(あるいは形容詞)は、多くの場合、達意の主局に立って、かなり目立つのが特徴である」ということに関連します。the bottom of a sea だと、a sea にスポットライトが当たったようになり、必要以上に目立ってしまうのです。これは特に、通念の定冠詞が付く名詞について言えることです。一般的に、主語、動詞の目的語、補語として働く名詞よりも、前置詞の目的語になっている名詞は、「達意の傍局」にあることが多く、前置詞の目的語には比較的定冠詞が付きやすくなります。通念化がさらに進むと、(20)の the sea bottom のように sea は形容詞的になり、sea に定冠詞を使うか、不定冠詞を使うかという問題は解消されてしまいます。これは日本語の「海の底」が「海底」になるのと同じようなことで、今度は、sea bottom 全体が通念となり、the と使われることになります。なお、a sea bottom のようにすることはほとんどありませんが、もしこのようにすると、a があることで、sea にスポットライトが当たり、他の物の底ではなく、「海」の底であることが強調されると同時に、具体的な「ある海底」という感じになります。

 では、遍在通念としての「海」としても、個別の「海」としても使える sea と同じような単語を見ていきましょう。こういった単語には、

seashore(海岸)、beach(浜辺)、coast(沿岸)、coastline(海岸線)、wilderness(荒野)、desert(砂漠)、forest(森)、jungle(ジャングル)、field(野原)、battlefield(戦場)など

があり、個々のものを意識せずに、一般的に通念として述べる場合、通例、定冠詞と使います。上で述べたように、「達意の傍局」であればあるほど、the を使う必要性が高くなります。また、上記の単語の他に、複数形で通念化するものとして、the mountains(山)(上記(17))、the woods(森)などがあります。

(21)You don't have to live by the seashore to enjoy a pair of these colorfully billed birds in your front yard.(わざわざ海辺に住まなくても、前庭でこれらのカラフルなくちばしを持つ鳥のつがいを見て楽しむことができる)
『http://woodstore.woodmall.com/puffinsbypair.html』
(22)You can help keep the whales' ocean habitat healthy in lots of ways. If you go to the beach or out on a boat, make sure you clean up your trash. You could also ask the captain to check the boat for leaking oil or gasoline. If you live along the coastline, make sure no one in your neighborhood dumps motor oil or other chemicals into storm drains on the street, as it may end up in the ocean.(いろいろな方法で、クジラの海の生息地を健全な状態に保つのに協力することができます。浜辺へ行ったり、ボートで海へ出たなら、自分たちが出したゴミの後始末をするようにして下さい。また、ボートにオイルやガソリンの漏れがないかを確かめてみるように船長に言うこともできます。海岸沿いに暮らしているなら、近隣の人が誰もモーターオイルやその他の化学物質を通りの排水路に流さないように配慮して下さい。海に流れ込んでしまう恐れがあります)
『http://www.sandiegozoo.org/animalbytes/t-whale.html』
(23)What would you do if you were lost in the wilderness?(もし荒野で迷ったらどうしますか)
『http://www.sfcc.spokane.cc.wa.us/Programs/YouthCollege/default.asp?page=YCCourseDescr』
(24)What would you do if you were lost in the desert?(砂漠で迷ったらどうしますか)
『http://www.k-8visual.info/tryThis_decision.html』
(25)If you are lost in the forest and you hear a certain word, you may not know the source but you are less afraid.(森の中で迷い、何か言葉が聞こえたら、どこから聞こえたかは分からないかもしれないが、少しは安心する)
『http://www.totallyok.com/secret/038r.htm』
(26)We teach these dogs excellent manners both in the house and in the field.(私たちはこれらの犬に屋内と野中の両方での素晴らしい行儀作法を身につけさせます)(この the house も通念ですが、これは the field との対比関係にあることが関連しており、「都会」に対する「田舎」の場合に the country を使うことと類似しています。これらについては、いずれ改めて述べる予定です)
『http://duckworthretrievers.com/』
(27)These soldiers could not be identified when they died. The tomb is to honor those who die on the battlefield without glory and honor. It is to show that Americans believe all soldiers are heroes.(これらの兵士は亡くなったときに身元が確認できなかった。この墓は、栄光も栄誉もなく戦場で亡くなる人々に敬意を示すためのものであり、全ての兵士が英雄であるとアメリカ国民が信じていることを示すためのものである)
『http://humanities.byu.edu/elc/student/holidays/Memorial.html』

 これらの単語の中には、同じような文脈でも定冠詞ではなく、不定冠詞を使えるものもあります。例えば、次の文をご覧下さい。

(28)What would you do if you were lost in a desert?(もし砂漠で迷ったらどうしますか)
『http://www.megat.co.uk/quizmo/quiz.php?quiz=8210』
(29)If you were lost in a forest during the day, how would you find your way out?(もし昼間に森の中で迷ったら、どのようにして抜け出すでしょう)
『http://www.iupui.edu/~flip/mentalstat.html』

これらの不定冠詞は、仮構性の含みがある場合の不定冠詞であり、「仮にしばらく "一つの具体的な" 場合を設けて考えて見る、という含み」です。ところが、これが wilderness になると、不定冠詞を使うと多少違和感があり、やはり通念の定冠詞を使いたくなります。sea や ocean も、例えば、一般的な海について、「海を間近で見たければ」と言う場合、if you want to see the sea (or the ocean) up close であり、a が使われることはほとんどないと考えられます。これは、「砂漠」や「森」が、「海」や「荒野」に比べて個別性を意識しやすいからだと考えられます。「どの砂漠」、「どこの森」か、ということの方が、「どの海」、「どの荒野」か、ということよりも意識しやすいということです。とは言うものの、desert, forest も、上記のような場合でも通念の定冠詞と用いられることが多いと言えます。

遍在通念(3)

 以上のような単語の場合、通念の定冠詞が付くことが多いと言えますが、

river(川)、hill(丘)、valley(谷)、lake(湖)など

になるとどうでしょうか。これらになるとかなり微妙な問題になってきます。一般的に言うと、forest や desert に比べると、通念化しにくいと言えます。次のように the の場合と a の場合のいずれも見受けられますが、a の方が一般的であると思われます。a が使われるのは、仮構性の含みがあるからです。the を使った場合は、通念であることが明確でない文脈では、特定の「その〜」に解釈される恐れがあります。

(30)If you were drowning in a river, and somehow got pulled out, you can say you were saved.(あなたが川で溺れていて、何とか引き上げられたなら、あなたは救われたと言える)
『http://christthekingcary.org/s_and_p/sermons/John_Nagle20010603.html』
(31)"You grab what you can," he said. "If you are drowning in the river and a big flower floats by, you'll grab on, even if it doesn't hold you up."(「人はつかめる物をつかむ。川で溺れていて、そばに大きな花が浮かんでいたら、それをつかむんだ。そんなものをつかんでも結局沈んでしまうんだが」と彼は言った)
『http://www.law.com/jsp/article.jsp?id=1071091311655』
(32)If you have to go fishing in a river, you need to test the speed of the river.(川へ魚釣りをしに行かなければならないなら、川の流れの速さを調べる必要があります)
『http://www.bbc.co.uk/scotland/education/bitesize/standard/other/sos/ physics/general_questions/index.shtml』

 しかし、次のように the sea などと対比されている場合は、the river となることも多くなり、a のケースと the のケースが半々ぐらいになってきます。

(33)A current is a stream of moving water, whether in a river or in the sea.(current とは、川であれ海であれ、動いている水の流れのことである)
『http://www.canoecampingclub.co.uk/issue224/brkbk224.htm』
(34)SEPA is a leading source of environmental information in Scotland. However, when asked which organisation they contact about the quality of water in the river or in the sea, 51% of respondents said they would contact Scottish Water, 20% would contact SEPA and 17% their local authority.(SEPA は環境に関するスコットランドの主要な情報源である。しかし、川や海の品質についてどの組織に問い合わせるかという質問に対して、回答者の51%が Scottish Water、20%が SEPA、17%が地方自治体だと答えている)
『http://www.scotland.gov.uk/library5/environment/pfmr-13.asp』

さらに、「川で…をするのが好きだ」というような文脈になると、the が普通です。a を使うと、「(具体的な)ある川で…をするのが好きだ」と解釈される恐れがあります。これは、前々回に述べたことと関連しています。つまり、「好きである」とか「嫌いである」というような心的状態や態度を表す表現の目的語として用いられると、原則として「ある一つの…」という意味に解釈される、ということです(I like a river = 私はある川が好きだ)。また、前置詞の目的語であり、「達意の傍局」になっていることもおそらく関係しています(下記例の「達意の主局」は「魚獲りをする」、「泳ぐ」であると考えられます)。達意の傍局であるにもかかわらず、a river とすると、a river にスポットライトが当たり、聞き手に「どの川?」という疑問が浮かぶということです。そこで、「あの川、この川」ではなく、一概に「川」を意味する the river が用いられることになります。ちなみに、達意の主局の場合なら「その川」に解釈される可能性が高くなります(I like the river = 私はその川が好きだ)。

(35)"I am a big animal with lots of fur. Sometimes I am brown or black, or even white, I like to fish in the river for food. My babies are called "cubs". Who Am I?" (bear). (私は毛に覆われた大きな動物です。色は、茶色や黒や、白のこともあります。えさとして川で魚獲りをするのが好きです。私の子供は "cub" と呼ばれます。私は誰でしょう(正解:クマ))
『http://www.health.state.ny.us/nysdoh/b_feed/levelk.htm』
(36)I like nature and the wilderness; I really do. I like to swim in the river and sit in front of a campfire before dawn boiling water for hot chocolate.(私は自然と荒野が好きだ。本当に好きだ。川で泳ぎ、夜明け前にキャンプファイアの前に座ってホットチョコレートを飲むためにお湯を沸かしているのが好きだ)
『http://fozzy.wvsc.edu/news/yellowjacket/16-nov-99/editorial.html』

valley, hill, lake も river と同じく通念化しにくいようで、the valley や the hill は特定の「その谷」、「その丘」を意味するのが普通です。次の例は仮構性の含みがある不定冠詞が使われています。

(37)If you were on a hill, you would wrap yourself around a tree so you wouldn't roll down.(もしあなたが丘の上にいるなら、転げ落ちないように木にしがみつくでしょう)
『http://www.pittsburghlive.com/x/blairsvilledispatch/s_163946.html』

しかし、一般的であることが明らかであったり、何かと対比されたり、心的な態度を表すような文脈であるなら、the が用いられることもあります。(38)は、in the valley と near the skies の対比でもあります。(39)は上記(35)、(36)と同様の例です。

(38)"The humble and modest flowers that bloom in the valley," he reflects, "perish perhaps when they are transplanted too near the skies, to the region where storms gather and the sun is scorching."(「谷間に咲くつつましやかで控えめな花は、もしかすると、あまりにも空の近くに、つまり、嵐が起こり、太陽がジリジリと照りつけるような場所に移されると枯れてしまうのかもしれない」と彼は思った)
『http://www.worldwideschool.org/library/books/lit/debalzac/ AttheSignoftheCatandRacket/chap3.html』
(39)If you love swimming in the lake or running around in the rain, then you will just love this camp.(あなたが湖で泳いだり、雨の中を走り回るのが大好きなら、このキャンプがきっと気に入るでしょう)
『http://www.campcrescendo.com/press_releases.html』

遍在通念(4)

 地理に関する言葉で、非常に通念化しやすい言葉に

street(通り)、road(道路)、street corner(街角)など

があります。これらは特に前置詞(主に on, in など)と使われると通念化します。

(40)When you meet a friend on the street, do you talk to them in the same way you do on the phone?(あなたが通りで友だちに会ったとき、電話で話すのと同じように話しますか)
『http://www.smalltownmarketing.com/phone.html』
(41)You are on a bus and you see a friend in the street. What do you do?(あなたがバスに乗っていると、通りに友だちがいます。あなたはどうしますか)
『http://www.guardian.co.uk/quiz/questions/0,5961,408093,00.html』
(42)If a fox finds a dead cat on the road it will take it away to eat.(キツネは道路に死んでいるネコを見つけたら、それを食べるために持ち去るでしょう)
『http://www.derbyfoxes.org/cats.htm』
(43)Shortly after dusk, a sixteen-year-old boy stands on the street corner talking with a friend about what happened at school today between himself and another student.(日が暮れてまもなく、16歳の少年が街角に立って、今日学校で自分ともう1人の生徒の間で何があったかを友だちと話している)
『http://www.123student.com/politics/3431.shtml』

 これらの単語も、一概に捉えるのではなく、通りや街角の個別性を意識するような文脈であれば不定冠詞が使われます。(44)はパニック発作に襲われた場合の対処方法について述べています。

(44)Try to make yourself as comfortable as possible without escaping. If you're on a street, lean against a post or a store wall.(逃げ出さないでできる限り気持ちを楽にしようとしなさい。通りにいるなら、支柱や店の壁にもたれなさい)
『http://www.planetpsych.com/zPsychology_101/panic.htm』
(45)He stands on a street corner. The Prudential Tower is visible in the distance.(彼はある街角に立っています。遠くにプルーデンシャル・タワーが見えます)
『http://main.wgbh.org/ton/programs/A37_02.html』

 しかし、次のような例も多くあります。(44)との違いは非常に微妙ですが、(44)の方が「通り」というものが強調されており、さらにその「通り」に付随する「支柱」や「店」について言及されています。不定冠詞のために、やはり、a street にスポットライトが当たっている感じがします。(46)は「通り」そのものへの関心はそれほど高くなく、むしろ「屋外にいる場合」と述べても内容はそれほど変わらないでしょう。(46)はテロ行為が起こった場合の注意点を述べています。

(46)If you are on the street, or in a building you need to leave, you should proceed to the nearest large University building.(通りや離れる必要がある建物内にいる場合、最寄りの大きな大学の建物に向かうべきである)
『http://www.wilkes.edu/campuslife/safety/shelter.asp』

まとめ

 以上、「宇宙」、「太陽」、「月」のように、通例、ただ一つしかないと考えられているために、習慣的に the と使われるものから、「海」、「砂漠」、「森」のように個別の「海、砂漠」などを意識する場合と意識しない場合の両方で用いられるが、個別性が意識されにくく通念化しやすいもの、さらに「川」、「谷」、「湖」のように個別性がやや意識されやすいために通念化しにくく、通念の定冠詞を使うのは、一般化し、通念として述べていることが明らかな文脈に限られるものがあります。一般的に、通念の定冠詞が用いられることが多いのは、「海と川」、「空と陸」のように対比概念として述べることで、「どの海か」、「どの川か」ということを話者が意識していない場合や、「好き嫌い」を初めとする話者の心的な状態を表す際に「(特定の)ある…」という意味と誤解されたくない場合などです。

 次回も遍在通念について述べる予定です。

16話へ
〜17話〜
18話へ