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目次

<冠詞に関する覚え書>
不定冠詞

第31話 総称の不定冠詞および仮構性の含み



= 覚え書(31) =

冠詞に関する覚え書 (1)」で、"the tiger" は本来「そのトラ」と「トラというそれ」という2つの解釈ができ、後者がいわゆる総称の定冠詞となったという話をしました。これと同じことが、"a tiger" についても言えます。"a tiger" は「あるトラ」であると同時にまた「トラというあるもの」という解釈がいわゆる総称の不定冠詞につながると考えられます。今回は、この不定冠詞の総称の用法について質の含みという面から述べ、さらに仮構性の含みという面から不定冠詞を眺めることで、不定冠詞に関する考察はとりあえずおしまいにしたいと思います。

総称用法における質の含み

 不定冠詞の総称用法については、「冠詞に関する覚え書 (14)(16)」で詳しく述べましたから、そちらを参照していただくとして、ここで述べておきたいことは、この不定冠詞が「質の含み」と関連しているということです。既に (14) で述べたように不定冠詞の総称の用法は次のような特徴を持っています。

・ある種類・種族の代表として1つの見本を取り出し、その1つの見本について論じることにより、その類全体のことに言及する。
・(類の代表として1つを取り上げて述べるということは、その1つについてはもちろん、その類に属する他のメンバーにも当てはまる事柄について述べることになるので)その類が本来持っている特徴、性質、属性について述べるときに用いられる。
・定冠詞の総称の用法が抽象的な感触を伴うのに対し、具体的で、個別的な感触を伴う。

 総称用法の不定冠詞を用いるのが自然な例として、強く感情が加わっている場合があることを「冠詞に関する覚え書 (14)」で示しました。例文をもう一度引用します。

(1)A beaver (× The beaver) will build a dam. You can depend on it. The little bastard has an instinct for it.(ビーバーというやつはダムを造る習性がある。間違いないさ。やっこさんにはそういう本能があるんだ)『現代英文法辞典』(三省堂)
(2)Sire, please don't send her to the axe. Remember, a king is generous!(陛下、彼女を処刑するのはどうかおやめ下さい。忘れてはいけません。王とは寛容なものです)
『http://www.bgu.ac.il/~arikc/better.pdf』
(3)How dare you build me such a room? Don't you know a room is square!(よくも私にこんな部屋を作れるね。部屋は四角形だということを知らないのか)『同上』
(4)× A king is generous.(王は寛容である)『同上』
(5)× A room is square.(部屋は正方形である)『同上』

(4)と(5)は不自然である一方、(2)と(3)については、感情が強くこもり、普遍妥当命題として断定した、ということが十分に聞き手に伝わるので許容されます。この(1)から(3)で用いられている不定冠詞は、「質の含み」が顕著であることは明白です。日本語で言えば、「ビーバーはダムを造る習性がある」、「王は寛容である」というよりも、「ビーバーというやつは…」、「王というものは…」という感触に近くなります。つまり、気持ちを込めて「そもそも〜というものは」と言いたいときに総称の不定冠詞は自然な響きを持ち、許容されやすくなるということです。その背景にあるのが、不定冠詞に「質の含み」と「評辞」としての含みがあるということです。「そもそもビーバーというやつは」と言うとき、ビーバーが本来持つ特徴や性質を意識したり、イメージしているはずであり、これが質の含みです。また、「ビーバーというものはダムを造る」ということを、感情を込めたり、強調的に述べる場合、「(あるものが、あるいはそれが)いやしくもビーバーであるならば、(それは)ダムを造るんだよ」というような言い方をすることもありますが、この表現中の「あるもの(それ)がビーバーである(ならば)」という部分が、判断、評価を下している部分であり、評辞です。これと同じ感触が(1)の a beaver という簡潔な表現に含まれているということです。

 また、次の例は、good が入ることで普遍妥当命題らしくなることに加えて、「どんな王」かを述べることで「質の含み」が顕著になるために容認される、と言えます。

(6)A good king is generous.(良い王は寛容である)
『http://www.bgu.ac.il/~arikc/better.pdf』

 次の(7)の例も質の含みが関連しています。(8)の "basketball player" が "freezing rain(着氷性の雨)" や "torrential rain(集中豪雨)"(「冠詞に関する覚え書 (29)」を参照)のようにほとんど1概念であり、この2語の組み合わせでごく普通に用いられているために、basketball という語に評価的色彩がほとんどないのに対して、"football hero" という語の組み合わせは、"basketball player" という組み合わせほど一般的ではありませんから、"football" の部分が強調されやすく、「どんな」ヒーローであるかを述べた質の含みに重点がある表現となり、容認度が高くなると考えられます。

(7)A football hero is popular.(フットボールのヒーローは人気がある)『新英文法選書 第6巻 名詞句の限定表現』
(8)? A basketball player is tall.(バスケットボールの選手は背が高い)『同上』

 さらに、補語の方に形容詞が付くことで主語の不定冠詞が総称の用法として容認される例((9)〜(11))があります。不定冠詞と評辞である「どんな」を表す形容的な表現との相性が良いということです。またこれは、前々回に述べたことですが、補語に名詞を使う方が、一時的な状態を述べているという解釈が成立しにくくなり、「評辞の輪郭が明確になり、評価が評価として概念的にまとまった形を成し、何かの意味で語感に完全な充足感を与える」ということとも関連していると思われます。

(9)A king is a generous ruler.(王とは寛容な支配者のことである)
『http://www.bgu.ac.il/~arikc/better.pdf』
(10)A room is a square enclosure.(部屋とは四角い囲いである)『同上』
(11)A madrigal is a popular song.(マドリガル曲は人気のある歌である)
『http://www.bgu.ac.il/~arikc/better.pdf』
(12)× A madrigal is popular.(マドリガル曲は人気がある)
『http://www.bgu.ac.il/~arikc/better.pdf』

 以下の例も同様であり、「どんな」を表す形容詞や関係詞節が付加されることで、(17)〜(20)は容認されます。やはり「評辞」であり、「質の含み」が顕著な場合です。「覚え書 (15)」でも挙げた例です。

(13)× I like an apple.(私はリンゴが好きだ)『教師のためのロイヤル英文法』(旺文社)
(14)?× Han adores (or loves, admires, trusts, cherishes) a woman.(Han は女性を崇拝している(愛している、敬服している、信用している、大事にする)『現代英文法辞典』(三省堂)
(15)?× She is afraid of a mugger.(彼女は路上強盗を恐れている)『英語教育 2002年11月号』(大修館書店)
(16)? It is natural for a child to fear an injection.(子供が注射を怖がるのは当然である)『英語参考書の誤りを正す』(大修館書店)
(17)I like a good argument.(私は説得力のある論拠が好きだ)『英語教育 2002年11月号』(大修館書店)
(18)John loves a dangerous challenge.(John は危険な挑戦が好きだ)
『http://www.bgu.ac.il/~arikc/better.pdf』
(19)Mary hates a messy room.(Mary は散らかった部屋が嫌いだ)『同上』
(20)Han adores (or loves) a woman who has a successful career.(Han は出世している女性を崇拝している(愛している))『現代英文法辞典』(三省堂)

 また、次のような例が許容されるのも「質の含み」が関係しているからだと思われます。

(21)A madrigal is popular when it is short.(マドリガル曲は短ければ人気がある)
『http://www.bgu.ac.il/~arikc/better.pdf』
(22)A madrigal is popular if it was written by Orlando di Lasso.(マドリガル曲はOrlando di Lasso によって書かれていれば人気がある)『同上』

それぞれ、when 節と if 節を形容詞と形容詞節に変えた表現である「短いマドリガル曲は人気がある(A short madrigal is popular)」、「Orlando di Lasso によって書かれたマドリガル曲は人気がある(A madrigal that was written by Orlando di Sasso is popular)」という感触に近いわけで、「どんなマドリガル曲」かを述べています。

仮構性の含み

 以上は総称の不定冠詞の例であり、一般論であって、ある時ある場所で既に起こっている具体的な事柄に言及しているのではありませんから、その意味では「仮構性の含み」を持つと言えます。「仮構性の含み」については「冠詞に関する覚え書 (15))」で述べましたが、もう一度、関口氏の説明を引用しておきます。
「架空的推論を行わんがために、或いは普遍妥当命題を導き出さんがために、或いは否定し去らんがために、或いは未然に対処せんがために、仮にしばらく "一つの具体的な" 場合を設けて考えて見る、という含みである。」
関口氏は、この仮構性は具体的には次のような文脈に表れると説明しています。

T 仮定と結論から成る文(仮定の部分に不定冠詞を)
U 普遍妥当命題(主題目名詞に不定冠詞を)
V 未然への企画を表現する文(企画として考えた名詞に不定冠詞を)
W 誤想排除の否定文(否定せんがために仮に設けた誤想に不定冠詞を)

なお、この分類は、「見地の分類」であって、決して「対象の分類」ではない、という断りを関口氏は付しています。つまり、関口氏が言おうとしていることは、仮構の含みを持つ不定冠詞が上記4つのいずれかに分類される、というのではなく、仮構の含みを持つ不定冠詞という1つの現象は上記4つの角度から眺めることができる、ということです。仮構の不定冠詞が上記分類の2つ以上に属していても何ら不思議はありません。また、「仮構の含みを持つ不定冠詞」は、文脈に応じて、既に述べた「紹介導入の不定冠詞」でもあり、「評辞」の際に用いられる不定冠詞でもあります。「紹介導入」や「評辞」も「見地の分類」に過ぎず、ある不定冠詞の用法をどれか1つの分類項に無理やり押し込むと不定冠詞を見誤ることになるでしょう(定冠詞や無冠詞の場合も同様です)。

冠詞に関する覚え書 (14)」と「冠詞に関する覚え書 (15)」で挙げた仮構性の不定冠詞の例です。

(23)It is possible that John caught a fish.(ジョンは、魚を捕らえたかもしれない)『新英文法選書 第6巻 名詞句の限定表現』
(24)John didn't catch a fish.(ジョンは、魚を捕らえなかった)『同上』
(25)He greeted me with a warmth that I had not expected.(彼は、私が予想していなかった暖かさで私を出迎えた)『同上』
(26)The best way to learn a foreign language is to go to the (or a) country where it is spoken.(外国語を学ぶ最良の方法は、その言葉を話す国へ行くことです)『英語参考書の誤りを正す』(大修館書店)
(27)If a fly is flying in a moving train, how fast is it flying?(ハエが、動いている電車の中で飛んでいる場合、そのハエはどのような速度で飛んでいるのですか)『英語教育 2003年11月号』(大修館書店)
(28)She is afraid of being attacked by a mugger.(彼女は路上強盗に襲われることを恐れている)『英語教育 2002年11月号』(大修館書店)
(29)When we are asked a question (or questions) about our country while abroad, we are sometimes surprised at our own ignorance.(外国へ行って、日本のことをきかれると、私たちは自分の無知ぶりにわれながら驚くことがある)『英作文参考書の誤りを正す』(大修館書店)
(30)He can not only speak English but also write an English letter (or English letters) as well as she. (彼は彼女と同じくらい上手に英語が話せるばかりでなく手紙も書けます)『同上』
(31)A really talented person wouldn't show off.(能ある鷹なら爪を隠すだろう)『英語教育 2002年11月号』(大修館書店)
(32)? A really talented person doesn't show off.(能ある鷹は爪を隠す)『同上』

「仮構性の含み」が最も顕著に現れているのが、最後の(31)と(32)の例です。"A really talented person" が「能ある鷹ならば」という非現実的な仮定であり、例えば、「彼が能ある鷹なら、爪を隠すだろう」(If he were a really talented person, he wouldn't show off.)の条件の部分が、A really talented person という語に凝縮されていると解釈できます。また、(25)のように否定の意味を含む関係詞節が修飾しているような場合も、不定冠詞が用いられる典型的な場合です。次の例も同様です。「熱狂ぶり」には後に「予想されていなかった」という否定の意味を持つ関係詞節が続いており、特定の「どの熱狂ぶり」であるかが示されているわけではありませんから、不定冠詞が用いられています。

(33)The audience applauded with an enthusiasm that was unexpected.(聴衆は予想されていなかったほど熱狂して拍手した)『英語の冠詞がわかる本』(研究社)
(34)The audience applauded with the enthusiasm that was expected.(聴衆は予想通りの熱狂ぶりで拍手した)『同上』

仮構性の含みを持つ「A of B」の表現

 以上の「仮構性の含み」の例は、明らかな可算名詞の例ですが、では最後に、不可算名詞と可算名詞の両方の用法がある名詞が of と使われる場合を見ておきましょう。これは、既に「冠詞に関する覚え書 (8)」と「冠詞に関する覚え書 (10))」で論じています。そこで述べたことは、次のようなことです。

(A) 「〜すること、〜であること」という動作・出来事を表す名詞に of 〜 が付いた場合、一般的に the が用いられ、the 名詞 of 〜 の形になる。
(B) 動作・出来事を表す名詞が、a 名詞 of 〜 の形になる場合は、動作・出来事の「開始・経過・終了」という諸段階を含む1回あるいは1つの動作・出来事を多かれ少なかれ意識している。
(C) 動作・出来事を表す名詞が、無冠詞で、動作・出来事 of 〜 の形になる場合は、a が付加された場合とは異なり、「開始・経過・終了」ではなく、特に「経過」を意識しており、一般的、抽象的な事柄として述べている。

 「動作・出来事を表す名詞」が、仮構性を含む文脈で of と共に用いられる場合、上記(A)で述べているように of の前の名詞に定冠詞を使うのか、仮構性の含みを持つ不定冠詞を使うのか、という問題があります。この問題の結論を先に言ってしまうと、定冠詞を用いるのが普通である、ということです。例えば、「〜を…することはないだろう」と述べる場合、未来と否定の両方が含まれており、明らかに仮構性を含む文脈ですが、英語では定冠詞を用いることが非常に多いと言えます。つまり、英語では動作・出来事を表す名詞の場合、of の名詞を特定する力が非常に強く、仮構性の文脈にかかわりなく定冠詞を用いるのが普通であると言えます(これは、ドイツ語と多少違うところです)。1例だけ挙げておきます。"the immediate collapse of the truce" となっていることに注意して下さい。

(35)But Hamas says it will not bring about the immediate collapse of the truce, thus avoiding a confrontation with Mr Arafat's security forces.(しかし Hamas は、停戦を即座に崩壊させるようなことはしないし、従って Arafat 氏の警護隊との衝突は避けるだろうと述べている)
『http://www.guardian.co.uk/israel/Story/0,2763,506544,00.html』

不定冠詞が用いられるのは、上記(B)で示されているように「1回」を強調したり、「どんな」ことであるかを強調した質の含みが顕著な場合だと考えられます。例えば、次の文の "a collapse of the market" に注目して下さい。「何の崩落」ではなく「どんな崩落」であるかを述べています。

(36)Despite admitting that it expects to see the market fall from peaks during early 2005, the report has confirmed many experts' predictions that the drop will not result in a collapse of the market as happened in 1989.(そのレポートは、市場が2005年の初めにピーク時から落ち込むと予想していることは認めているが、その落ち込みは1989年に起こったような市場の暴落を引き起こすことはないという多くの専門家の予測を裏付けている)
『http://www.myfinances.co.uk/property/house-prices-will-not-crash-$3607974.htm』

不定冠詞のまとめ

 では最後に、不定冠詞をもう一度まとめておきます。

不定冠詞が持つ含みとしては、次の四種がある。

[1]不定冠詞の第一段の含み: 個別性の含み。(定訳語: "一つの…" )
[2]不定冠詞の第二段の含み: 不定性の含み。(定訳語: "或る…" )
[3]不定冠詞の第三段の含み: 質の含み。(定訳語: "或種の…" )
[4]不定冠詞の第四段の含み: 仮構性の含み。(定訳語: "何等かの…" )

実用的には、次のような観点から不定冠詞の用法を考えると分かりやすい。

◎「紹介導入」:不定冠詞は、これまで話題に上っていなかった概念(単数の可算名詞)を紹介導入する際に用いられ、聞き手や読み手の注意を引きつける。
◎「単回遂行相動作」:不定冠詞は、単回遂行相動作、つまり、(主観的に見た)「多少にかかわらず迅速に展開する一回きりの劇的な "開始、遂行、終了(完了)という3つの相" を持つ動作・出来事」を表す際に用いられる。
◎「評辞」:不定冠詞は、単数の概念について「どんな…である」かを述べる際、つまり、性質、性格、資格、特徴、形状などについて「(A は)B である」という何等かの質的な評価・判断をしたときに用いられる。
◎「総称」:ある種類・種族の代表として1つの見本を取り出し、その類が本来持っている特徴、性質、属性について述べるときに用いられる。

 次回は、無冠詞について述べる予定です。

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