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<冠詞に関する覚え書>
無冠詞

第32話 可算名詞と不可算名詞



= 覚え書(32) =

今回から無冠詞を扱います。無冠詞形は、当然のことですが、不定冠詞も定冠詞も用いられない場合に使われます。つまり、「どの?」を念頭に置いた一致確認の場合(定冠詞を用いる場合)でも、可算名詞に関して「どんな?」を念頭に置いた形容の場合(不定冠詞を用いる場合)でもない、ということです。定冠詞については十分に述べてきましたから、ここで問題になるのは、主に不定冠詞か無冠詞かということですが、その前提として、可算名詞と不可算名詞について述べておく必要があります。

可算名詞と不可算名詞

 ある名詞が可算名詞か不可算名詞か、という考え方はあまり実用的ではありません。多くの名詞は、可算名詞と不可算名詞の両方に用いられるからです。重要なことは、どのような場合に可算名詞として用いられ、どのような場合に不可算名詞として用いられるかを知ることです。また、必ず、あるいはほとんど必ず不可算名詞として用いられる単語もありますから、これらはある程度覚えておく必要があります。可算・不可算の区別は、理屈ではなく、習慣上決まっている単語が多くあり、日本人をはじめとする英語の非ネイティブスピーカーとしては、結局、間違いやすい単語に注意して、一つ一つ覚えていくしかないでしょう。

 可算名詞として用いるか、不可算名詞として用いるかを分ける基本的な基準は、その名詞が意味する事物が、日常、境界線・仕切りを持った典型的な形状として意識されるかどうかです。境界線は空間的な意味でも時間的な意味でも、あるいは種類の区別でも構いません。つまり、通常、1個、2個というように数えられる物は、空間的な境界線を持ち、個別にそれぞれ分かれています。また、事柄の場合、始まりと終わりがあれば、それを境界線と見なして、1回、2回と数えられる名詞として用いられます。さらに、1種類、2種類のように種類が意識されるものも可算名詞として用いられることがあります。しかし、このような説明だけでは、可算、不可算を普段意識しない日本人にとってはほとんど役に立ちませんから、具体的な例を見ていきましょう。

不可算名詞のイメージが強いもの

まず、物を表す名詞を挙げましょう。次のような名詞は、通例、可算名詞としては用いられません。主に食材です。例えば「牛」は可算名詞ですが、「牛肉」は普遍的に決まった形状を思い浮かべることはありませんから、不可算名詞です(chicken は「ニワトリ」と「鶏肉」の両方で用いられますから、可算名詞でもあり、不可算名詞でもあります)。なお、単語のグループの前に付した(T)、(U)、(V)という番号は、大ざっぱな分類を示しており、(T)は不可算名詞のイメージが強いもの、(V)は可算名詞のイメージが強いもの、(U)はその中間です。ただし、あくまでも大まかな分類でしかありませんから、各単語の細かな意味用法については、辞書などで確認して下さい。

(T−A)(原則不可算) beef(牛肉) pork(豚肉) mutton(ヒツジの肉) ham(ハム) bacon(ベーコン) celery(セロリ) spinach(ホウレン草) asparagus(アスパラガス) ginger(ショウガ) garlic(ニンニク) corn(トウモロコシ;集合的不可算だが、粒のときは可算も)  rice(米;curry and rice や curried rice(カレーライス)も通例不可算) wheat(小麦) barley(大麦) rye(ライ麦) spaghetti(スパゲッティ) toast(トースト) salt(塩) pepper(コショウ) など

さらに次のような名詞も、原則として不可算名詞です。決まった形状が意識されない物や、細かいために1つ1つを日常レベルでは意識しにくい物です。

(T−B)(原則不可算) water(水) ice(氷;氷菓は可算) coal(石炭;1つ1つの塊を意識したときは可算も) sand(砂;sands は砂地) grit(砂) gravel(砂利) paper(紙) dust(ちり) dirt(ほこり;a dust は立ち上る一塊・一回のほこり) garbage(ゴミ) rubbish(ゴミ)  trash(ゴミ) dynamite(ダイナマイト) land(土地;lands は…地帯) copper(銅;製品なら可算) marble(大理石;製品なら可算) rubber(ゴム;製品なら可算) tin(スズ;製品なら可算) tobacco(タバコ) armor(鎧) など

 次に、通例、不可算名詞であるが、種類を表すときに可算名詞として使える名詞があります。ちなみに、(T−A)と(T−B)の名詞は、"some kinds of water(何種類かの水)" のように kind を使います。以下の名詞は、kind を使っても使わなくても表現でき、例えば「数種類のワイン」なら "some kinds of wine" でも "some wines" でも可能です。種類であることを明示したいのなら、kind を使えば良いということになります。

(T−C)(種類のときは可算も可) wine(ワイン) cheese(チーズ) soup(スープ)  fruit(果実) meat(肉) bread(パン) pasta(パスタ) grass(草) soap(石鹸) oil(油) chalk(チョーク) candy(キャンディー(菓子)) jam(ジャム) sugar(砂糖;スプーン一杯の砂糖・角砂糖は可算) butter(バター) margarine(マーガリン) cloth(布;布切れなら可算) silk(絹;silks は絹の服) yarn(編み物・織物用の糸) ink(インク) など

これらの名詞は、日常生活の中で、不可算名詞でありながら、種類を意識しやすいものであるために、このような使い方ができるようになったと考えられます。(1)は不可算で不定の量を意味し、(2)は可算の例で、「トマトが野菜の一種」であることを述べています。

(1)Please help yourself to some fruit.(果物を自由に召し上がって下さい)『英文法解説』(金子書房)
(2)The tomato is a vegetable, not a fruit.(トマトは野菜で、果物ではない)『同上』

 また、日常生活の中で、カップやグラスなどの容器に入った状態でよく目にする物や、一人分、一人前といった形で出される物は、普段不可算名詞であるものが、可算名詞として扱われることがあります。これは、特に飲み物や食べ物を注文するような状況で見られます。このような名詞は種類を表すときにも可算扱いできるものが多いと言えます。

(T−D)(注文時・種類のときは可算も可) coffee(コーヒー) tea(紅茶) milk(ミルク;種類を言うことはほとんどない) beer(ビール) whisky(ウィスキー) juice(ジュース・果汁;肉汁のときは複数が普通) stew(シチュー) curry(カレー料理) など

(3)Next time you go shopping, please buy some beer.(今度、買い物に行ったら、ビールを買ってきて下さい)『原因別 日本人が間違いやすい英語』(朝日出版社)
(4)Waiter, please bring us two beers and three coffees.(ウエイター、ビール2つにコーヒーを3つ下さい)『同上』

不可算名詞と可算名詞の中間

 さらに、ケーキのように、丸ごとの場合とカットした場合とが考えられるような名詞があります。このような名詞は、丸ごとなら可算名詞として、カットしたものは不可算名詞として扱うのが原則です。

(U−A)(丸ごとなら可算) cake(ケーキ) pie(パイ) pizza(ピザ) chocolate(チョコレート、チョコレート菓子) pudding(プリン) など

例えば、「ケーキを下さい」という場合、「丸ごと一個」なら(5)、「一切れのケーキ」なら(6)の表現を使うことになります。それ以外、例えば、「丸ごとのケーキの一部分」が欲しい場合には(7)となります。

(5)Please give me a cake.
(6)Please give me a piece of cake.
(7)Please give me some cake.

 以上の名詞よりも可算名詞に近く、しかも不可算名詞の性質を保持している名詞があります。これらは主にキャベツのような球状の野菜で、丸ごと1個を述べる場合、可算名詞としても不可算名詞としても扱われます。また、材料や食材として述べる場合には不可算名詞です。

(U−B)(丸ごとなら可算または不可算、材料・素材なら不可算) cabbage(キャベツ)  lettuce(レタス) cauliflower(カリフラワー) broccoli(ブロッコリー:可算扱いはまれ) など

(8)が可算名詞の例、(9)と(10)が不可算名詞の例です。

(8)I bought two cabbages. (私はキャベツを2玉買った)
(9)I bought two heads of cabbage.(同上)
(10)I ate some cabbage.(私はキャベツを幾らか食べた)

 それでは次に、通例可算名詞であるが、食材や材料である場合に不可算名詞として使う名詞を挙げます。この種の名詞はたくさんあります。

(U−C)(可算だが材料・素材などでは不可算) chicken(鶏) lamb(子羊) fish(魚)  egg(卵) apple(リンゴ) banana(バナナ) potato(ジャガイモ) tomato(トマト) eggplant(ナス) carrot(ニンジン) radish(大根) green pepper(ピーマン) onion(タマネギ) pumpkin(カボチャ) leek(ネギ) sausage(ソーセージ) rock(岩) stone(石) bone(骨) brick(レンガ) metal(金属) iron(鉄) oak(オーク) pine(松) cable(ケーブル) rope(ロープ) cord(ひも・コード) string(ひも) thread(糸) ribbon(リボン) fiber(繊維) straw(わら) など

(11)Last night, I ate a chicken in the backyard.(昨夜、鶏を1羽(捕まえて、そのまま)裏庭で食べ(てしまっ)た)『日本人の英語』(岩波新書)
(12)Last Saturday, I ate a chicken, not "some chicken" or "a piece of chicken" or just "chicken," but "a chicken."(この前の土曜日、鶏を1羽食べたよ。「チキンを多少」とか「チキン1切れ」とか単なる「チキン」じゃなくて、「1羽の鶏」をね)(この文は、ローストチキンをまるまる1羽食べることのできる男の言葉)
『http://evergreenreview.com/108/chicken/chicken1.html』
(13)"No apples?"(リンゴは一つもないの?)『英語の中の複数と冠詞』(The Japan Times)
(14)"No apple?"((今日のサラダに)リンゴは入ってないの?)『同上』
(15)The mob threw stones at the cops.(暴徒は警官たちに投石した)『新グローバル英和辞典』
(16)a house built of stone(石造りの家)『同上』
(17)His arms were tied behind his back with a rope.(彼は縄で後ろ手に縛られていた)
『ルミナス英和辞典』
(18)Tie the selected rafters together at the top with a piece of rope or cord.(選んだ垂木を頂部で1本のロープかひもを使って結び合わせなさい)
『http://www.gallica.co.uk/celts/build.htm』
(19)His hands and feet were tied with rope.(彼の手足はロープで縛られていた)
『http://www.guardian.co.uk/elsewhere/journalist/story/0,7792,477112,00.
html』

上記例から分かるように、ロープやひもなどは微妙であり、ほとんど違いが感じられないケースもありますが、1本、2本といった数を意識せずに、単に材料や手段であるという意識が強ければ不可算名詞として使われやすくなります。

可算名詞のイメージが強いもの

 また、次のような名詞は、数を意識したときに用いられる名詞であり、可算名詞です。

(V−A)(可算) bun(丸パン) pebble(小石) leash(革ひも) など

 さらに、以下のように、日常的に1つ、1粒、1本をあまり意識しない物の中には、ほとんど常に複数形が用いられる名詞があります。なお、形は複数でも単数扱いされる名詞もあります。次のような名詞です。

(V−B)(通例複数形) beans(豆) peas(エンドウ) oats(オート麦;単数複数扱い) groats(挽き割り麦;単数複数扱い) grits(粗挽き穀物;単数複数扱い) chives(アサツキ) noodles(ヌードル) など

集合体と個別

 これらと同様に1粒、1本を通例意識しないものを表す名詞の中には、集まり全体を述べる場合は不可算名詞、数を意識している場合は可算名詞として扱う名詞があります。(T-A)で挙げた corn などはここに入れることもできます。

(U−D)(集合体は不可算、個別は可算) hair(髪) seed(種) など

(20)He parts his hair at the side.(彼は髪を横で分ける)『ジーニアス英和辞典』
(21)She has not a few gray hairs.(彼女には白くなりかけの髪がかなりある)『同上』

自然・気象に関するもの

 では次に、自然や気象に関するもので、状況に応じて形状や境界線がはっきりしたり、しなかったりするものを表す名詞を見ておきましょう。形状や境界線を意識している場合には可算名詞、そうでない場合は不可算名詞として扱われます。

(U−E)(可算も不可算も可) cloud(雲) time(時) space(空間) forest(森) など

(22)There wasn't a cloud in the sky.(空には雲一つなかった)『英文法解説』
(23)Dark clouds were brooding over the city.(町の上に黒い雲がたれ込めていた)『同上』
(24)There's more cloud today than yesterday.(昨日より今日の方が雲が多い)『同上』
(25)There was once a time in my life when I wanted to be a carpenter.(大工になりたいと思っていた時期があった)『原因別 日本人が間違いやすい英語』(朝日出版社)
(26)There are a lot of times when I feel really lonely.(本当に孤独だと感じるときがよくある)『同上』
(27)Because we were late catching our train, we didn't have time to eat dinner before we left.(電車に乗り遅れそうになったので、出発する前に夕飯を食べる時間がなかった)『同上』
(28)Where should we put our new stereo? There's a space next to the bookshelves. How about there?(ステレオはどこに置きましょうか。−本棚の隣にスペースがあります。あそこはどうですか)『同上』
(29)Most Japanese don't have much space in their houses.(たいていの日本の家は、スペースが少ない)『同上』
(30)Time was when these untamed uplands constituted part of a royal hunting forest.(この未開拓の高地が王室の猟場の一部分だった時代もあった)『英語の冠詞がわかる本』(研究社)
(31)The rounded hills of Wiltshire were once covered with forest.(Wiltshire の丸みを帯びた丘はかつて森で覆われていた)『同上』

(24)、(27)、(29)、(31)の cloud, time, space, forest が、それぞれ量的にとらえられており、境界線が意識されていないことが分かるでしょう。

 また、次のように、回数(単回遂行)や種類が意識されやすいものがあります。これらは「1回」、「1種」、「どんな…」を述べる場合には可算名詞として用いられます。

(U−F)(単回遂行相・種類なら可算) rain(雨) snow(雪) wind(風) breeze(微風) fog(霧) mist(霧・かすみ) haze(もや・かすみ) など

(32)Suddenly rain began to fall.(急に雨が降り始めた)『ルミナス英和辞典』
(33)There was a light rain yesterday morning.(昨日の朝は小雨が降った)『同上』
(34)There was little wind yesterday.(昨日はほとんど風がなかった)『新グローバル英和辞典』
(35)Strong winds made driving conditions dangerous.(強風のために車を運転するには危険な状況になった)『LDCE』
(36)A very strong wind made life really difficult.(非常に強い風のためにとても生活しにくくなった)『http://www.fishandfly.co.uk/tledit0303.html』
(37)Strong wind made an increase of yesterday's lap times nearly impossible.(強風のために、昨日のラップタイムが向上することはほとんどあり得なかった)
『http://www.bikersweb.co.uk/racing/wsb2003/valencia/qualifying.htm』

(32)、(34)、(37)の rain と wind が不可算名詞で、単に「何であるか」が示されています。(33)と(36)は質の含みの不定冠詞が用いられており、「どんな雨(風)か」に重点があります。(36)の a very strong wind は特に「1回の強風」(単回遂行相)であることを言っているのではなく、あくまでも「どんな風か」に意識があります。一方、(35)の strong winds は「強風」が何度も吹いているというイメージがあります。(37)の無冠詞の例は(36)との区別が難しいですが、(37)は(36)に比べて質の含みがやや弱くなっており、日本語で言うと「強い風」というよりも「強風」に多少近いと言えるかもしれません(『冠詞に関する覚え書 (29)』を参照)。

抽象名詞

 以上は、物を中心に見てきましたが、次に、主に抽象的な事柄を表す名詞を見ていきましょう。抽象名詞も多くは可算名詞と不可算名詞の両方の用法がありますが、基本的には、抽象的な事柄(「…すること」)を表す場合は不可算名詞として用いられ、具体的な物や種類や回数(「…する物」、「ある種の…すること」、「1回…すること」)を表す場合、あるいは質の含みを効かせて「どんな…か」を述べる場合、可算名詞として用いられます。『英語の冠詞がわかる本』(研究社)に挙げられているもの(2、3語新たに加えましたが)を、訳語を付けて引用しておきます。一般的に可算名詞としても不可算名詞としても用いられる名詞です。

(U−G)(可算・不可算の両方がある)(状態・変化を表す名詞) change(変化) improvement(改善) experience(経験) difficulty(困難) failure(失敗) recession(不況)  noise(騒音) sound(音) silence(沈黙) opportunity(機会)など;(人間の生活に関する名詞) life(生活) birth(誕生) death(死) marriage(結婚) divorce(離婚) illness(病気) disease(病気) pregnancy(妊娠) pain(苦痛)など;(対立関係・行為・事件を表す名詞) disagreement(不一致) conflict(紛糾) controversy(論争) conversation(会話) protest(反抗) rebellion(反乱) attack(攻撃) war(戦争) retreat(後退) victory(勝利) escape(逃走) murder(殺人) theft(窃盗) suicide(自殺) famine(飢饉) investment(投資) devaluation(通貨の切り下げ)など;(思考・感情を表す名詞) ambition(野心) desire(願望) doubt(疑い) fear(不安) hope(希望) suspicion(懐疑) meaning(意味) analysis(分析) kindness(親切) interest(興味) など

例を幾つか挙げておきます。

(38)Some people think that the main difference between people and animals is that people are capable of thought.(人間は考えることができるという点が、人間と動物の大きな違いであるとする説がある)『原因別 日本人が間違いやすい英語』(朝日出版社)
(39)I had an interesting thought yesterday. Perhaps children are smarter than adults.(昨日、おもしろいことを考えた。おそらく子供の方が大人より賢いのだろう)『同上』
(40)Which is more important for learning a foreign language, effort or intelligence?(外国語を学ぶ際に重要なのは、努力ですか、それとも頭の善し悪しですか)『同上』
(41)You can learn to speak English well if you make an effort to do so.(努力すれば、英語をうまく話せるようになります)『同上』
(42)She's not had much difficulty.(彼女はあまり苦労しなかった)『英語の冠詞がわかる本』(研究社)
(43)She's had many difficulties.(彼女には多くの苦労があった)『同上』
(44)He hasn't had much experience.(彼は経験が多くない)『同上』
(45)He's had several odd experiences.(彼は奇妙な経験を何回かしたことがある)『同上』
(46)She played the oboe with sensitivity.(彼女は神経細やかにオーボエを演奏した)『同上』
(47)× She played the oboe with a sensitivity.(同上)
(48)She played the oboe with a sensitivity that delighted the critics.(彼女は批評家を大いに喜ばせる神経の細やかさでオーボエを演奏した)『同上』
(49)She played the oboe with charming sensitivity.(彼女は魅力に富んだ神経の細やかさでオーボエを演奏した)(一般的な「魅力に富んだ神経の細やかさ」)『同上』
(50)She played the oboe with a charming sensitivity.(彼女は魅力に富んだ神経の細やかさでオーボエを演奏した)(独特の「魅力に富んだ神経の細やかさ」)『同上』

(38)の thought と(40)の effort は「考えること」、「努力すること」という明らかに抽象的な事柄を表しており、開始・経過・終了を意識した単回遂行相でもなく、種類を意識しているのでもありませんから、不可算名詞として用いられています。(40)の sensitivity も同様です。また、(42)の difficulty と experience は回数や種類ではなく、量的にとらえられているために不可算名詞が使われていると考えられます。一方、(39)の an interesting thought は個別性(1つ)と質の含み(どんな)が意識されており、不定冠詞が用いられています。(41)の an effort は、非常に弱いですが単回遂行相(敢えて日本語にすれば「一(ひと)努力」)が感じられます。それに対して、(47)の sensitivity は「神経の細やかさ」という意味であり、開始から終了という単回遂行相が感じられない名詞ですから、無冠詞が用いられています。(48)は、関係詞節が付加されることで「どんな神経の細やかさ」であるかを述べており、質の含みを感じさせる不定冠詞が用いられています。質の含みが強いか弱いかが(49)と(50)の違いであり、a charming sensitivity の方が、charming が強調されている感触を伴います。それが「‘独特の’魅力に富んだ神経の細やかさ」という解釈につながっています。さらに幾つか例を挙げておきます。

(51)It is hard to imagine life without television.(テレビがない生活を想像するのは難しい)『英誤を診る』(進学研究社)
(52)× It is hard to imagine a life without television.(同上)
(53)People's lives are getting longer.(平均寿命がだんだん伸びてきている)『同上』
(54)In the West, we tend to think that nuclear war is an abstract concept.(西洋では、核戦争というものを抽象的な概念でとらえる傾向がある)『同上』
(55)× In the West, we tend to think that a nuclear war is an abstract concept.(同上)
(56)There is no telling when war may break out.(いつ戦争が起こるか知れたものではない)『英作文参考書の誤りを正す』(大修館書店)
(57)There is no telling when a war may break out.(同上)
(58)unavoidable business prevented me from calling on you.(どうしてもはずせない用事があったので、お伺いすることができませんでした)『英誤を診る』(進学研究社)
(59)× An unavoidable business prevented me from calling on you.(同上)
(60)He has a business in New York.(彼はニューヨークに店を持っている)『ルミナス英和辞典』
(61)That was a strange business.(それは奇妙なことだった)『英誤を診る』(進学研究社)
(62)Deaf and dumb people use sign language.(聾唖者は手話を使う)『新グローバル英和辞典』
(63)"How many languages do you speak?" "Three. English, German and French"(「あなたは何ヶ国語語しゃべれますか」「英独仏の3ヶ国語です」)『ルミナス英和辞典』
(64)A lady would not use such harsh language.(レディーだったら、そんな荒々しい物言いはしないものだよ)『英作文参考書の誤りを正す』(大修館書店)
(65)× A lady would not use such a harsh language.(同上)

(52)の a life が不自然に響くのは、具体的な「1つの生活」、「誰かのある人生」を問題としているのではなく、一般的、抽象的な「生活」のことを述べている文脈であるからです。(55)の a nuclear war も同様であり、具体的な「1つの核戦争」を述べているのではないし、また、「核戦争」の属性を述べているのではないので、総称であることを示す不定冠詞を使うのも不適切です。特に、(54)の文脈は、「核戦争」という語や概念を前面に打ち出す(本コラムではこれを「掲称する」と呼びます)のにふさわしい文脈ですから、引用符で括って、… that "nuclear war" is an abstract concept としても自然であり、無冠詞がふさわしいと言えます。この抽象性および掲称性の違いが、(56)と(57)のように不定冠詞も無冠詞も可能である場合との違いです。(54)が抽象性、掲称性が非常に強いのに対し、(56)はそれが弱くなっていますから、単回遂行的にとらえた a war も抽象的にとらえた war も可能となります。また、business と language の例は、意味の違いにより、不可算扱いになったり、可算扱いになるものです。business の場合、「用事・業務・商取引」などは不可算であり、(59)は不可です。一方、「事業・会社・店・出来事」などは可算であり、(60)や(61)の例は可能です。(60)を has business とすると、「用事がある」という意味に解釈される可能性が高くなります。language は、「言語一般」を表す場合は不可算、「個々の言語」を述べる場合は可算となります。(62)の文は、いろいろな種類の手話を意識した上で、「ある手話」のことを述べているのではありませんから、一般的な概念としての不可算名詞の「手話」を使う必要があります。また、language には「言葉使い、言い回し」の意味があり、この意味の場合は不可算扱いとなります。従って、(65)の例は不可です。

不定冠詞と用いられない名詞

 では次に、日常的な単語の中で、原則として不可算名詞として用いられるものを挙げておきます。これは、大学入試などでもよく出題される単語ですが、特に日本人が間違いやすいものです。不定冠詞と用いられたり、複数形が用いられることは原則としてありません。このような名詞は、英語のネィティブスピーカーには、数としてではなく、境界線を持たない量的なものと感じられているようです(information は英語では不可算名詞ですが、ドイツ語の Information やフランス語の information は、意味は同じでも可算名詞としても使います。従って、意味や語源から不可算・可算の区別の基準を考察しても、その基準が明確になるとは限らず、やはり、各言語の習慣的な理由が大きいと言わざるを得ません)。

(T−E)(原則不可算名詞) advice(忠告) guidance(案内) conduct(行為) behavior(振る舞い;最近では可算名詞として扱われることも多い) mischief(いたずら)  nonsense(無意味な言動) assistance(援助) damage(損害) harm(害) fun(楽しみ) fortune(運;「財産」は可算も可) luck(運)  work(仕事;「作品」は可算) homework(宿題)  music(音楽) progress(進歩) weather(天候) information(情報) news(知らせ) wisdom(知恵) intelligence(知能・情報) intellect(知性) evidence(証拠) proof(証拠) research(研究) traffic(交通) travel(旅行;長期の旅行の場合は複数形になることがある) money(お金) knowledge(知識;of … が付くと不定冠詞と使うことも可能) など

(66)I have some work to do this evening.(今晩は仕事があります)『英文法解説』
(67)The wedding cake was a work of art.(そのウェディングケーキはまさに芸術作品だった)『同上』
(68)This may be a very commonplace piece of advice.(これはとても平凡な忠告かもしれません)『英誤を診る』(進学研究社)
(69)This may be very commonplace advice.(同上)
(70)× This may be a very commonplace advice. (同上)
(71)I obtained some information about China.(中国に関する情報を手に入れた)『同上』
(72)× I obtained some informations about China. (同上)
(73)I've never experienced such cold weather in August. (8月にこんなに寒いなんて初めてだ)『同上』
(74)× I've never experienced such a cold weather in August. (同上)
(75)His research maintained steady progress.(彼の研究は着々と進歩を続けた)『英作文参考書の誤りを正す』(大修館書店)
(76)× His researches maintained a steady progress.(同上)
(77)At seventy, a man's memory becomes less active and his mind less flexible. But age cannot easily obliterate deep-seated knowledge acquired in childhood and youth.(人間70歳にもなると、記憶力も衰えてくるし、頭も堅くなる。が、青年時代に深くしみこんだ知識は、年をとってもたやすく消えるものではない)『同上』
(78)× At seventy, a man's memory becomes less active and his mind less flexible. But age cannot easily obliterate a deep-seated knowledge acquired in childhood and youth.(同上)
(79)It goes without saying that (the or a) knowledge of one foreign language or two is necessary for those who are engaged in foreign trade.(外国貿易に従事する者にとって、一、二の外国語の知識が必要であることはいうまでもない)『同上』

(79)はどれを使っても意味は同じであり、感触もほとんど変わりませんが、無冠詞なら「何が必要か」を掲称的に述べているのであり、定冠詞なら「何の知識が必要か」(of … によって knowledge を具体的に規定)を述べているのであり、不定冠詞なら「どんな知識が必要か」(質や種類を意識している)を述べていることになります。

不定冠詞と用いられない名詞(集合名詞:単数扱い)

 上記の(T−F)の名詞と同じように原則として不可算名詞として用いられながら、しかも単数形で集合的なものを表す名詞があります。上に挙げた knowledge なども文脈に拠っては「情報の集まり」のことであり、以下の名詞に分類することもできます。これらの名詞も、不定冠詞と用いたり、複数形になることは原則としてありません。なお、これらの名詞は単数扱いです。

(T−F)(不可算扱いする集合名詞) baggage(手荷物) luggage(手荷物) clothing(衣類) jewelry(宝石類) fiction(小説) foliage(葉) furniture(家具) machinery(機械) mail(郵便物) post(郵便物) merchandise(商品) poetry(詩) scenery(風景) equipment(装置) hardware(ハードウェア・機械設備) software(ソフトウェア) glassware(ガラス製品) chinaware(陶器類) など

これらの名詞には、-age, -ry, -ure, -ware で終わっている単語が多いのですが、これらの接尾辞には本来「集団」や「集まり」を意味する用法があるからです。

(80)How many pieces of baggage can I take on the airplane with me?(機内には何個の荷物を持ち込めますか)『ジーニアス英和辞典』
(81)How much baggage can I take on the airplane with me? (同上)
(82)× How many baggages can I take on the airplane with me?(同上)
(83)Since ancient times the Japanese have composed a lot of poems about traveling.(古来、日本人は旅について多くの詞を書いてきた)『英誤を診る』(進学研究社)
(84)Since ancient times the Japanese have composed many poems about traveling.(同上)
(85)× Since ancient times the Japanese have composed many poetry about traveling.(同上)
(86)Reading (a book of) science fiction sometimes does much to encourage a scientific view of the universe.(SF ものを読むと、宇宙を科学的な見地から見るのに大変役立つことがある)『同上』
(87)× Reading a science fiction sometimes does much to encourage a scientific view of the universe.(同上)

不定冠詞と用いられない名詞(集合名詞:複数扱い)

 以上のような集合名詞は、文法的には単数扱いですが、単数の形で複数扱いをする名詞もあります。これらも原則として、不定冠詞と用いず、複数形も使いません。

(V−C)(原則複数扱いの名詞) cattle(牛) clergy(聖職者) people(人々;国民・民族を表すときは可算) police(警察・警官たち) poultry(家禽) personnel(職員) など

(88)The police have caught the murderer.(警察はその殺人者を捕まえた)『LDCE』
(89)Extra police were rushed to the scene of the trouble.(騒ぎの現場に警官たちがさらに急いで派遣された)『同上』
(90)The cattle (× a cattle, × cattles) were dying because they had no water.(水がなかったので、牛の群れは死にかけていた)『同上』
(91)This hall can hold 500 people (× peoples).(このホールは500人収容できる)『ジーニアス英和辞典』
(92)Many peoples of Asia and Africa won independence after World War U.(アジアとアフリカの多くの民族が第二次世界大戦後独立を勝ち得た)『ルミナス英和辞典』

 以上、今回は、可算名詞と不可算名詞を中心に述べてきました。これ以外にも、単数と複数で注意すべき単語や用法はたくさんありますが、冠詞とは直接関係ありませんから、この辺でお仕舞いにしましょう。次回も無冠詞を扱う予定です。

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