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目次

<冠詞に関する覚え書>
無冠詞

第33話 無冠詞の掲称性



= 覚え書(33) =

 今回は、無冠詞の本質的な特徴である「掲称性」について述べます。

無冠詞の掲称性

関口存男氏は、無冠詞の基本的特徴を次のように説明しています。
「無冠詞の名詞は、引用符に囲まれているかのようなその鋭い唐突性によって、鋭く浮かび上がって達意の主局に立つか、あるいは達意の傍局に退き去ってその名詞性を喪失するかである(時にその両方を合わせ持つこともある)。」
「鋭い唐突性によって、鋭く浮かび上がって達意の主局に立つ」局面を、関口氏は、「掲称的語局」と呼び、「無冠詞形はすべて何等かの意味において掲称的である」と述べています。

呼びかけ

 最も分かりやすい例は、次のような呼びかけの例でしょう。

(1)Waiter! The menu please.(給仕さん。メニューを見せて下さい)『ロイヤル英文法』
(2)I'm feeling a little better, doctor.(先生、具合は少しよくなりました)『同上』
(3)Send in the next person waiting, nurse.(看護婦さん、次の方をどうぞ)『英文法解説』

呼びかけに使えるのは、一般的に次のような名詞です。

mother(母) father(父) dad(父) baby(赤ちゃん;「おい」という感じで広く女性、男性に対する呼びかけにも使われる) uncle(おじ) aunt(おば) nurse(看護師) doctor(医者) cook(コック) waiter(給仕) officer(警官) driver(運転手) professor(大学の教師) など

これらの名詞は、そのときの状況から誰のことを指しているのか明らかな場合、文の中でも無冠詞で使われることがあります。特に、mother や father などは自分の家族を指す場合によく用いられます。

(4)Has mother gone out?(お母さんは出掛けたの?)『ロイヤル英文法』
(5)What will Mother say about this?(お母さんは何と言うかしら)『英文法解説』

普通名詞の固有名詞化

(5)の Mother は完全に固有名詞化し、大文字で用いられています。このように文内でも無冠詞で使われるのは、Tom や John といった本当の固有名詞と同じ現象ですが、固有名詞、特に人名の固有名詞が無冠詞で使われるようになった根本的な原因は(他の原因も影響しているとは考えられますが)、(1)〜(3)のような呼びかけが無冠詞で用いられることと同じであると考えられます。つまり、呼びかけに用いられる言葉は(伝達効率や口の筋肉の運動量から考えても)できる限り簡潔になるはずですから、固有名詞の場合、冠詞は使わないのであり、従って、上記の呼びかけに使われる単語も固有名詞と同じように無冠詞で用いられることがあるということです。

さらに、次のような名詞も固有名詞化して、無冠詞単数形で用いられることがあります。無冠詞になる場合は、大文字で用いられるのが普通です。God などは明らかに呼びかけで用いられたことから無冠詞になったと考えられます。

God(神) Lord(神) Heaven(神) Devil(悪魔) Hell(地獄) Congress(国会) Parliament(国会) Government(政府) など

(6)It was the will of Heaven.(それは神のおぼしめしであった)『ジーニアス英和辞典』
(7)Lord knows who he was.(彼が誰なのか神のみぞ知る)『同上』
(8)Parliament is now in session.(国会は今、会期中だ)『ロイヤル英文法』

要求・感嘆

 何かを伝えたり要求したりする際や、感嘆による叫びの際にも、普通の名詞が無冠詞になることがあります。掲称的語局であることは明らかです。次のような例です。

(9)"Earthquake!" No sooner had he got the word out, than the ground lurched beneath them.(「地震だ!」 彼がそう叫ぶとすぐに足下の地面がぐらぐらと揺れた)
『http://www.timelord.co.uk/fiction/dr3/quake.htm』
(10)What do you want for Christmas? New car? New Job? Rock Star?(クリスマスに何が欲しいの? 新しい車? 新しい仕事? それともロックスター?)
『http://profile.myspace.com/index.cfm?fuseaction=user.viewProfile&friendID=39320397』
(11)The ball slices into the water. The golfer says, "It's the ball's fault. New ball please."(ボールはスライスして水の中に落ちる。「ボールが悪いんだ。新しいボールをくれ」とゴルファーは言う)
『http://www.nvo.com/hypoism/thefieldofaddictionologyagolfinganalogy/』

これらは固有名詞化しているわけではありませんから、必ずしも無冠詞である必要はありません。冠詞の有無の違いは、理屈から言えば、感嘆の気持ちが強ければ強いほど、つまり叫びの度合いが強いほど、無冠詞になりやすいということですが、実質的な違いはほとんどありません。次の2例は不定冠詞が用いられている例です。

不定冠詞の例

(12)All of a sudden a light flashed upon me. "An earthquake!" I exclaimed.(突然、光が走った。「地震だ!」と私は叫んだ)
『http://www.jules-verne.co.uk/an-antarctic-mystery/ebook-page-51.asp』
(13)What do you want? A new car? A better job?(何が欲しいの? 新しい車? もっと良い仕事?)
『http://www.spellswizard.com/tour6.htm』

掲示

 これらに類似した場合として、新聞や雑誌などの見出し、広告、掲示などで、無冠詞が用いられることがあります。まさに掲称されているケースです。

(14)(A) Plane Crash in Japan(日本で飛行機事故)『ロイヤル英文法』
(15)(A) House maid Wanted(お手伝いさん求む)『同上』
(16)(The) Way Out(出口)『同上』
(17)(A) Road Crash in Yokohama(横浜で交通事故)『英文法解説』
(18)(The) Truth of (the) Murder Revealed(殺人の真相判明)『同上』
(19)(The) Best Quality with (the) Lowest Price(最低価格で品質最高)『同上』

伝達的挙称(挙問と挙答)

 さらに、次のような質問と返事のような例もあります。

(20)"What time is it?" "(A) Quarter to eight. "(「何時ですか」「8時15分前です」)『ロイヤル英文法』
(21)How old is he? − (The) Same age as me.(彼は何歳ですか。−私と同じ年です)『英文法解説』

このような問いと答えについて、関口氏は「伝達的挙称(挙問と挙答)」という表現を使っています。これには、例えば、「どこ?−東京!」、あるいは「目的地:東京」というようなケースも含まれるのであり、地名を表す固有名詞が無冠詞であるのも、本来、このような表現が根底にあると関口氏は述べています。

自分の町、家、故郷、あるいはどの町や家か分かっている場合にも、固有名詞のように無冠詞になることがあります。また、ホテルの部屋、駅のホームなども、以下のように固有名詞化して無冠詞になるのが普通です。

(22)I'm leaving town next week.(私は来週町を出るつもりだ)『ルミナス英和辞典』
(23)There's no place like home.(我が家にまさる所はない)『ジーニアス英和辞典』
(24)The train departs from Platform Six.(列車は6番線から出ます)『ロイヤル英文法』
(25)I am in Room 308.(私は308号室にいます)『同上』

簡略化

 また、質問と返事という形式ではなくても、誤解が生じない状況では、簡略化のために、文頭の冠詞、あるいは文頭の部分と共に冠詞が省略されることがあります。いずれも掲称的な強さを持った表現になります。

(26)(The) Fact is he knew it.(実は彼はそれを知っていたのだ)『ロイヤル英文法』
(27)(It is a) Pleasure to meet you.(お会いできてうれしいです)『同上』
(28)(It is a) Pity that she could get no sleep.(眠れなかったとは気の毒に)『英文法解説』
(29)(As a) Matter of fact, she looked years older.(実際、彼女はずっと老けて見えた)『同上』

月・曜日・休日の名称

 固有名詞と同じように語頭を大文字にして無冠詞で使うものに、月の名称、曜日、休日名などがあります。これらも、「いつ?−月曜!」といった挙問挙答を基礎に考えることができますが、とにかく、本来、掲称的語局による無冠詞であったものが習慣化したと考えて良いでしょう。

(30)in January of 2002 = in January 2002(2002年の1月に)『ジーニアス英和辞典』
(31)Sunday is the first day of the week.(日曜日は週の最初の日です)『新グローバル英和辞典』
(32)We go to church on Sunday.(私たちは日曜日に教会へ行きます)『ルミナス英和辞典』
(33)He will be here before Christmas.(彼はクリスマス前にここに来るだろう)『ロイヤル英文法』

記念日としては、他に Easter(復活祭)、Valentine's Day(バレンタインデー)、New Year's Day(元日)などがあり、無冠詞です。なお、これらの名詞は本来可算名詞ですから、数が問題になっている場合や、掲称性がなく、あるいは弱く、質の含みが強くなっている場合などは、普通の可算名詞と同じ扱いであり、複数形になったり、不定冠詞を伴うことになります。

(34)We have five Sundays this month.(今月は日曜日が5回ある)『新グローバル英和辞典』
(35)We go to church on Sundays.(私たちは日曜日に教会へ行きます)『ルミナス英和辞典』
(36)We went on a Sunday a few weeks ago.(私たちは何週間か前のある日曜日に釣りに出かけた)『同上』
(37)We had a wonderful Sunday here in Japan.(ここ日本で素晴らしい日曜日を過ごしました)
『http://www.trinitybiblegreer.org/cochran.html』
(38)We have had a busy September.(9月は忙しかった)
『http://www.stosyth.gov.uk/default.asp?calltype=nov03bishopspark』
(39)We hope you have a Merry Christmas and a Happy New Year.(楽しいクリスマスと素晴らしい新年を迎えて下さい)
『http://www.thealegreen.org.uk/news/news0405/newsletterdecember.htm』
(40)We do NOT say "< A > happy New Year!" as a greeting on its own. We do, however, use "a" before happy New Year in a few longer expressions, such as "Have a happy New Year!" or "Merry Christmas and a happy New Year!"(挨拶として単独で使う場合には "A" happy New Year! という言い方はしません。けれども、もっと長いフレーズの中では a をつける場合があります。例えば、Have a happy New Year! や Merry Christmas and a happy New Year! のように言うことがあります)
『http://www.berlitz.co.jp/wm/05/1206.htm』

(37)〜(39)のように形容詞が付加される場合は、「どんな…」であるかを述べるのが普通ですから、原則として不定冠詞が用いられ、質の含みがあります。しかし、形容詞と用いられていても、(40)の文に述べられているとおり、"Happy New Year!" のような表現は、明らかに掲称的語局にある表現ですから、冠詞が落ちてしまうのは当然といえば当然です。

反復的掲称

 また、次のように、前の発言を受けて、言葉を繰り返すようなケースも同様に無冠詞となります。(42)から分かるように、もちろん、必ずしも無冠詞である必要はなく、冠詞付きで繰り返す場合もあります。

(41)MARTIN:Excuse me, please. Where is the coffee shop?(失礼します。コーヒーショップはどこですか?)
FEMALE 2:Uhh. Coffee shop. Go over there.(えーと、コーヒーショップ。あっちの方ですね。)
『http://www3.kiy.jp/~eigozai1/USA/USA.htm』
(42)"It is a volcano!" he exclaimed. "A volcano?" repeated Altamont.(「火山だ!」と彼は叫んだ。「火山?」と Altamont は繰り返した)
『http://www.jules-verne.co.uk/the-field-of-ice/ebook-page-52.asp』

「the A B」という同格

 さらに、掲称的語局の典型的な場合として、"the A B"(B という A)という同格表現を挙げることができます。この表現の B は、語が語として前面に掲げ挙げられており、原則として無冠詞になります。

(43)To find pages about jaguar that do not include the word car enter jaguar -car into the search box.(car という言葉を含まないジャガーに関するページを見つけたいなら、「jaguar -car」と検索ボックスに入力して下さい)
『http://www.trainingreference.co.uk/search.htm』

jaguar -car も掲称されていることは明らかでしょう。もちろん、"the A B" の B は掲称的な表現ですから、掲称する典型的な方法、つまり引用符を付けるという方法もよく利用されます。

(44)Thus, the word "car" can be translated either "car" or "a car", depending on the context.(従って、「car」という語は、文脈に応じて「car」または「a car」と訳せる)
『http://www.cs.cf.ac.uk/fun/welsh/Lesson03_main.html』

 以上、無冠詞が伴う「掲称性」が明白な例を見てきました。無冠詞を理解する上で、「掲称性」というものに十分に注意を向ける必要があります。今回は「掲称性」が明らかな例、つまり「鋭い唐突性によって、鋭く浮かび上がって達意の主局に立っている」例を挙げましたが、これらの無冠詞の持つ「掲称性」が幾分弱まった場合が、前回の「冠詞に関する覚え書 (32)」で挙げた例文(特に可算と不可算の両方に用いられる抽象名詞の例)に含まれている無冠詞の例だと考えて良いと思います。「掲称性」に注意しながら、前回示した例文の無冠詞の感触を確認することをお勧めします。次回も無冠詞を扱う予定です。

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