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目次

<冠詞に関する覚え書>
無冠詞

第35話 語句自体の掲称性および名詞性の喪失



= 覚え書(35)=

 前回は、掲称的語局を作りやすい表現を中心に扱いましたが、今回は、語句自体が、本来、掲称的語局を要求しがちであったものが、現在、習慣化して無冠詞で用いられると考えることのできる語句と、無冠詞の名詞を含む熟語を見ていきましょう。これらの多くは既に通念の定冠詞について述べたところで触れているものですが、もう一度、注目しておきます。

無冠詞で用いる名詞

 まず、通例、無冠詞で用いる表現としては、食事、科目、スポーツ、言語、病気などを表す名詞です。これらが無冠詞で用いられるのは、その語句自体が、もともと人々の関心を引きやすいものであったり、掲示、挙示されやすいものであったためだと考えられます。例えば、食事名は全ての人が毎日意識せざるを得ない不可避なものであり、病気は生死に関わる重要なものであり、科目は一覧表などに掲示されやすいものであるわけです。今では、もちろんそんな感触はほとんど残っておらず、ネィティブスピーカーはただ幼い頃から耳にしたり、目にしてきた表現をそのまま繰り返しているに過ぎません。とにかく、食事、科目、スポーツなどは原則として無冠詞で用いられます。

(1)They went out for dinner.(彼らは外へ食事に出掛けた)『ロイヤル英文法』
(2)She's fixing supper right now.(彼女は今夕食を作っています)『英文法解説』(金子書房)
(3)I like history very much.(私は歴史が大好きだ)『ロイヤル英文法』
(4)She teaches piano.(彼女はピアノを教えている)『ジーニアス英和辞典』
(5)Japan plays football against Germany on Sunday.(日曜日に日本はドイツとサッカーの試合をする)『ルミナス英和辞典』
(6)She is a good player of tennis.(彼女はテニスが上手だ)『ロイヤル英文法』
(7)He translated the novel from English into Japanese.(彼は英語の小説を日本語に翻訳した)『ジーニアス英和辞典』

無冠詞以外の例

 しかし、不定冠詞や定冠詞が用いられるケースもあります。

(8)I only want a small supper.(夕食はほんの少しでいい)『ロイヤル英文法』
(9)No one enjoys hearing notes played on an untuned violin.(調律されていないバイオリンで楽譜が演奏されるのを聞くのが好きな人は誰もいない)
『http://www.quizquester.com/Grade8Tests/LanguageExpression8A.htm』
(10)We gave a dinner for him.(我々は彼のために夕食会を開いた)『ロイヤル英文法』
(11)I wrote a history of this town.(私はこの町の歴史を書いた)『同上』
(12)What in fact we get really is that we are taught the history of England, not the history of Britain.(でも実際に私たちに行われていることは、英国の歴史ではなく、イングランドの歴史を教えるということなのです)
『http://news.bbc.co.uk/1/hi/wales/3119516.stm』
(13)He didn't like the breakfast his wife had prepared.(彼は、奥さんが用意した朝食が気に入らなかった)『英文法解説』
(14)He plays (the) piano well.(彼はピアノの演奏が上手だ)『ジーニアス英和辞典』
(15)The English of the King James Version is not the English of the early seventeenth century.(King James 版の英語は17世紀初頭の英語ではない)
『http://www.bible-sermons.org.uk/text-sermon/216-trinitarian-bible-society-meeting/』
(16)He spoke in an English with a strong French accent.(彼はひどいフランス語訛りの英語で話した)『ランダムハウス英和大辞典』
(17)"Book" is the English for "hon".(book は「本」にあたる英語だ)『ジーニアス英和辞典』
(18)The Nazi persecution of homosexuals is dramatized in this story, translated from the German.(ナチスによる同性愛者の迫害がこの物語でドラマ化されている。ドイツ語版からの翻訳である)
『http://www.skokie.lib.il.us/s_teens/tn_books/tn_booklists/gay.html』

(8)と(9)は「どんな…」かを述べており、質の含みの不定冠詞が用いられています。食事名に形容詞などの修飾語句が付くと無冠詞単数形では普通用いられません。(10)と(11)はそれぞれ「食事会」、「歴史書」という可算名詞として用いられており、「1つの…」という個別性の含みを持つ不定冠詞です。(12)は of England, of Britain によって「どこの歴史か」が述べられており、イングランドに複数の歴史があるという意識は全く働いていませんから、具体的に特定された歴史という意味で the が用いられています。(13)も「奥さんが用意したその朝食」であり、his wife 以下の文で特定された朝食なので定冠詞が使われています。(14)の the は通念の定冠詞であり、これについては「冠詞に関する覚え書 (20)」を参照して下さい。また、「平泳ぎ」や「平行棒」などスポーツの種目に定冠詞(通念の定冠詞)が用いられる例に関しては、「冠詞<に関する覚え書 (21)」を参照して下さい。(15)は of 以下の語句で特定されているので定冠詞が用いられており、(16)は「どんな英語か」を述べており、質の含みが意識されているので不定冠詞が用いられています。(17)と(18)は言語そのものを指しているのではなく、「本」に相当する特定の「英単語」、当該の書物の「ドイツ語版、ドイツ語で書かれたもの」を意味していますから、定冠詞が使用されています。なお、言語を language を使って、the English language と表現するような場合は定冠詞が必要ですから注意して下さい(English によって「どの言語」であるかが特定されるため)。

病気

 では次に病気の名称です。病名に関しては、既に通念の定冠詞について述べた「覚え書 (21)」で詳しく説明していますから、そちらを参照して下さい。病名のほとんどが無冠詞であり、また通例定冠詞と用いられる病名であっても、掲称的語局であれば、無冠詞になることが多くなります。以下は無冠詞で使うものです。

acne(座そう、にきび) AIDS(エイズ) appendicitis(虫垂炎) arthritis(関節炎) asthma(喘息) cancer(癌) cholera(コレラ) claustrophobia(閉所恐怖症) diabetes(糖尿病) diarrhea(下痢) dysentery(赤痢) hypertension(高血圧症) hysteria(ヒステリー) hysterics(ヒステリーの発作) influenza(インフルエンザ) insomnia(不眠症) leprosy(ハンセン病) malaria(マラリア) nausea(吐き気) neurosis(ノイローゼ) osteoporosis(骨粗鬆症) paranoia(偏執病) pneumonia(肺炎) rabies(狂犬病) rheumatism(リューマチ) schizophrenia(精神分裂症) tonsillitis(扁桃腺炎) tuberculosis (or TB)(結核) typhus(発疹チフス) など

「風邪」を表す cold は使い方が少し紛らわしいので、再録しておきます。解説は「覚え書 (21)」を見て下さい。

(19)She has a cold now.(彼女は今風邪をひいている)
(20)He often has a cold (or colds).(彼はよく風邪をひく)
(21)They have colds (or a cold).(彼らは風邪をひいている)
(22)I have a mild (or bad) cold.(私は軽い(ひどい)風邪をひいている)
(23)She'll catch (or get) (a) cold.(彼女は風邪をひくだろう)
(24)He catches colds (or a cold) easily.(彼は風邪をひきやすい)

建物・場所

 次に、建物や場所に関する名詞ですが、これらは主に前置詞と使われる場合に無冠詞になります。この点については、「覚え書 (18)」で詳しく述べていますから、そちらを参照してい下さい。無冠詞で用いるものを再録しておきます(定冠詞とも使われる表現については、「覚え書 (18)」を参照)。

go to college(大学に通っている) be in (or at) college(大学に在学している) go to church(教会へ礼拝に行く) in (or at) church(礼拝中に) go to chapel(礼拝に行く) be in (or at) school(在学中である、学校にいる) after school(放課後) appear in court(出廷する) out of court(法廷外で) go to court(裁判に訴える) go to camp(キャンプへ行く) go to camp(キャンプへ行く) be in camp(キャンプ中である) go to prison(服役する) be in prison(服役している) send O to prison(O を刑務所に入れる) go to sea(出帆する;水夫になる) be at sea(乗船している;水夫である) go to class(授業に出る) be in class(授業中である) be in office(在職中である) be out of office(無職である) go to bed(就寝する) go out of bed(起床する) be in bed(寝ている) be at (the) table(食事中である) be at tea(お茶を飲んでいる)

簡単に言えば、具体的な建物や場所そのものではなく(もしそうであれば、可算名詞としての性質が強まる)、建物や場所が持つ働きや機能など抽象的な側面に重きがある場合であり(言い換えれば、「物」ではなく「事」として捉えられています)、さらに、前置詞と使われることで全体が副詞的な(時に形容詞的な)働きをするために、名詞としての性質が弱くなり、無冠詞で用いられやすくなります。例えば、inhouse(内勤の)という単語は、前置詞の in と名詞の house から出来た言葉ですが、house の名詞性がなくなり、無冠詞となり、さらに in と結合して一語になっています。また、asleep(眠っている)という単語も、古い前置詞の a と名詞の sleep が一語になった語です(この a はフランス語には残っており、例えば、ア・ラ・カルトという場合の「ア」がこれです。ちなみに、asleep は名詞の前に置いて asleep baby のように使えませんが、これは、asleep が本来「前置詞+名詞」から出来た言葉なので、例えば in sleep を名詞の前に置くことができないのと同じように、名詞の前では使えないということです)。従って、ここから挙げる表現は、これまで述べてきた掲称性の強い表現(語を語として強く前面に打ち出すような表現)とはある意味で対照的であり、他の語と融合して一体となり、熟語化しているものが多くなってきます。

交通・通信の手段

 では次に、これも既に「覚え書 (19)」で挙げていますが、交通や通信の手段を表すものです。特に by を使った表現です。例えば、接続詞の because が、語源的には、by cause(原因によって)であることから分かるように、by は熟語化して次の名詞が無冠詞になりやすい前置詞です。

by subway(地下鉄で) by underground(地下鉄で) by tube(地下鉄で) by monorail(モノレールで) by train(列車で) by (air)plane(飛行機で) by ship(船で) by boat(船で) by ferry(フェリーで) by bus(バスで) by tram(電車で) by express (train, bus, boat)(急行で) by helicopter(ヘリコプターで) by car(車で) by taxi(タクシーで) by cab(タクシーで) by bicycle(自転車で) by motorcycle(バイクで) by ambulance(救急車で) by land(陸路で) by air(空路で) by sea(海路で) on foot(徒歩で) on horseback(馬で) など

by post(郵便で) by mail(郵便で) by letter(手紙で) by express (mail or post)(速達で) by registered mail (or post)(書留で) by air (or airmail)(航空便で) by (tele)phone(電話で) by radio(ラジオで、無線で) by fax(ファックスで) by computer(コンピュータで) by e-mail(電子メールで) by telegram(電報で) by telegraph(電報で) by wire(電報で) など

無冠詞以外の例

特定のものや、複数のうちの1つを意識している場合は、冠詞が用いられます。

by the 7:10 train(7時10分の列車で) by the last train(終電車で) by an early train(早い列車で) など


 次に、時の表現です。主な前置詞は at, before, after, until, till, by です。これについても、詳しくは「覚え書 (19)」を参照して下さい。通念の定冠詞との関連で説明しています。

at present(現在) at noon(正午に) at (or by) night(夜に) at midnight(真夜中に) at dawn (or daybreak)(夜明けに) at dusk (or twilight)(夕暮れに) at daylight(明け方に) at sunrise (or sunup)(日の出時に) at sunset (or sundown)(日没時に) at (the) break of day(夜明けに) at (the) break of dawn(夜明けに) before dawn (or day, daybreak)(夜明け前に) before (the) morning(夜明け前に) before (the) night(夜になる前に) before dark(暗くなる前に) after dark (or nightfall)(日没後) till (or until) morning(朝まで) till (or until) midnight(真夜中まで) by morning(朝までに) by noon(正午までに) by sunset(日の入りまでに) (by) day and night(昼も夜も) by daylight(明るいうちに) by moonlight(月夜に) since morning(今朝から) など

with + 抽象名詞

 次に、with と主に抽象名詞が用いられる例です。よく用いられて熟語化しているものは無冠詞で用いられるのが原則です。

with difficulty(苦労して) with effort(努力して) with ease(簡単に) with facility(容易に) with fear(こわごわ) with good faith(誠意を持って) with great care(よく注意して) with extreme caution(極めて慎重に) with full force(全力で) with good reason(当然だが) with folded arms(傍観して、腕を組んで) など

with の目的語に of を伴う修飾語句が付く場合は定冠詞を用いるのが原則です。with (the) exception of などは、無冠詞で使われることもありますが、定冠詞を用いるのが今の段階では普通です。

with the exception of …(…を除いて) with the aim (or intention, objective, purpose) of …(…のために) with the inclusion of …(…を含めて)  with the help (or aid) of …(…の助けを借りて) with the approval of …(…の同意を得て) など

また、「1回」(個別性)や「どのような」(質の含み)が意識された表現では不定冠詞を伴います。

with a bang(ドスンと) with a clash(ガチャンと) with a big smile(ニコニコ笑いながら) with a deep bow(深くお辞儀して) with (a) great effort(大いに努力して) with a big effort(大いに努力して) など

この場合も、よく使われることで定型化して行くほど無冠詞になりやすいと言えます。例えば、with (a) great effort は 熟語化が進んでおり、a を省いても違和感がありませんが、with a big effort は big を強調している感触が強く、a を付けるのが普通です。

 また、with difficulty などが、例えば with (the) greatest difficulty のように最上級を伴う場合に定冠詞を用いるかどうかという問題があります。結論としては、どちらでも間違いではありませんが、現段階では、the を付ける方が多いようです。ここでは、with の後の名詞の名詞性が弱くなって無冠詞を使うという意識と、最上級には the を使うという意識がぶつかっていますが、後者の意識が強いということです。「一番の、最大の」という最上であるという意識が弱く、「極めて」という意味でただ単に強調の度合いを強めたいのであれば、無冠詞が使われやすくなると言えます。

of + 抽象名詞

 形容詞の最上級を用いたときに、上記の with の表現と比べて無冠詞の方がよく用いられる表現があります。それは of importance, of use など、"of + 抽象名詞" で形容詞的な働きをする表現です。これらの表現が最上級の形容詞を伴うとき、定冠詞と無冠詞がほぼ同じ程度見られます。

of importance (or significance, concern, consequence, value, weight)(重要な) of use (help, service)(役に立つ) of interest(興味深い;重要な) of indifference(無関心な) of courage(勇気のある) of culture(教養のある) of high culture(高い教養のある)  of great importance(とても重要な) of great use(とても役に立つ) of great advantage(とても有利な) of (the) greatest importance(極めて重要な) など(「冠詞に関する覚え書 (9)」も参照)

なお、この of は with に近い意味を持ち、付随を表していますが、of の後の名詞は前にある名詞と渾然一体となって存在しており、分離できないイメージがあります。例えば、a matter of importance(重要な問題)や a man of culture(教養のある人)の場合、matter と importance、man と culture を分離することはできません。一方、例えば、a man with gray hair(白髪の男性)の場合、gray hair と man が渾然一体であるとは言えないでしょう。

その他の前置詞

 その他の前置詞についても、少しだけ挙げておきます(この種の表現は挙げ出すときりがありません)。特に of を伴う表現の場合、of 以下の語句によって特定されて the を付けるのか、それとも名詞性を失って無冠詞になるのかが紛らわしいケースが多いので、of を伴うものを中心に挙げます。熟語全般に言えることですが、本来の名詞の性質が強く残っているほど定冠詞と用いられる傾向にあり、熟語化が進み、名詞としての働きが弱くなるほど無冠詞になる傾向があります。また、the の有無が一定していない中間段階もあります。

in 名詞 of か in the 名詞 of か

 まず、in です。「冠詞に関する覚え書 (8)」でも説明しましたが、"of …" が目的格関係(…を〜する)の場合と主格関係(…が〜する)の場合とで冠詞の有無が決まり、意味が違ってくる表現があります。主格関係の of の方が前の名詞を限定する力が強く、特に「誰が…するのか」を述べる場合に定冠詞が用いられます。従って、定冠詞を伴う表現は、結果的に受動の意味合いを持つことになります。

be in charge of …(…を世話している) be in control of …(…を管理している、支配している) be in possession of …(…を所有している) in view of …(…を考慮して) など

be in the charge of …(…に世話されている) be in the control of …(…に管理されている、支配されている) be in the possession of …(…に所有されている) in the view of …(…の見るところでは、…の見地からすれば) など

それ以外の in の熟語で無冠詞であるものを幾つか挙げます。特に動詞からの派生語を伴う表現です。

in consideration of …(…を考慮して) in need of …(…を必要としている) in expectation (or anticipation) of …(…を予想して、期待して) in search of …(…を捜して) in quest of …(…を求めて) in chase of …(…を追って) in justification of …(…を擁護して) in recognition of …(…を評価して) in celebration of …(…を祝って)

これらから分かることですが、of が目的関係を表す場合は、無冠詞になりやすいと言えます。動詞からの派生語でない場合、無冠詞の表現はあまり多くありません。無冠詞であるのは日常的によく使う表現がほとんどです。

in front of …(…の前に、正面に) in place of …(…の代わりに) in stead (or instead) of …(…の代わりに) in spite of …(…にもかかわらず) in case of …(もし…が起こった場合、…の場合に備えて) など

case や front については少し注意が必要で、定冠詞を使うよく似た表現があります。

in the case of …(…について言えば、…に関しては、…の場合については)
in the event of …(…が起こった場合)
in the front of …(…の前部に)

in the case of の方は、in case of と同じように「…が起こった場合」の意味で用いられることもありますが、多くは「…に関しては」という意味です。また、in front of が「離れた前方の位置」であるのに対し、in the front of は「内部における前の部分」を表します。

(25)In case of fire, press this button.(出火の際はこのボタンを押して下さい)『新グローバル英和辞典』
(26)John will inherit her aunt's fortune in the event of her death.(おばが死亡すれば、ジョンが遺産を相続するだろう)『ルミナス英和辞典』
(27)In the case of children aged 13 and over, the child's permission will also be required.(また、13歳以上の子供に関しても、子供の許可が必要である)
『http://www.epilepsy.org.uk/about/dpa.html』
(28)A dog ran in front of the car and was hit.(犬がその車の前方を走って車にはねられた)『ルミナス英和辞典』
(29)Bill sat in the front of (= in the front seat of) the car.(ビルは車の前の席に座った)『同上』

通例、定冠詞を伴って "in the 名詞 of …" の形で用いられる表現を幾つか挙げておきましょう。

in the absences of …(…がいないときに) in the presence of …(…がいるときに) in the act of …(…の最中に) in the back of …(…の奥深くに) in the cause of …(…を目指して) in the course of …(…の間に) in the face of …(…に直面して;…にもかかわらず) など

under 名詞 of か under the 名詞 of か

 次に under の無冠詞の例です。the がカッコに入っている表現は定冠詞も無冠詞も同じ程度用いられているものです。

under way(進行中) under construction(建設中) under investigation(調査中) under surveillance(監視のもと) under law(法律の定めるところにより) under penalty of …(違反時に処罰を受けるという条件で) under sentence of …(…の刑の宣告を受けて) under pretense of …(…を口実に) under (the) cover of …(…に隠れて) under (the) pressure of …(…に追われて、迫られて) など

以下は定冠詞と使うのが普通である表現です。上記 in のところで説明しましたが、of が主格関係を表す場合は、the を使うのが原則です。最初の幾つかは「…が指揮するもとで」という意味ですから、主格関係です。

under the command of …(…の指揮下で) under the surveillance of …(…の監視下で)under the supervision of …(…の監督下で)  under the control of …(…の支配下で、管理下で) under the direction of …(…の指導のもとで) under the rule of …(…の統治下で) under the authority of …(…の権力下で) under the auspices of …(…の後援により) under the action of …(…の作用で) under the influence of …(…の影響下で) under the pretext of …(…の口実のもと) under the cloak of …(…の口実のもと) under the guise of …(…を装って) under the mask of …(…を装って) under the veil of …(…に隠れて) under the name of …(…の名のもとに) under the shadow of …(…の危険にさらされて) など

by 名詞 of か by the 名詞 of か

 次に by です。主に手段や理由を表すものに無冠詞の熟語が多く見られます。

by name(名前を、名前を言って) by means of …(…によって) by dint of …(…の力で) by virtue of …(…によって) by force of …(…の力で) by reason of …(…の理由で) by occasion of …(…の理由で) by order of …(…の命令で)  by way of …(…経由で;…の手段で) by invitation of …(…の招待で) by permission of …(…の許可を得て) by order of …(…の命令により) など

定冠詞を用いるものを挙げます。

by (the) authority of …(…の権限で;…の認可を得て) by (the) use of …(…を使って) by (the) recommendation of …(…の推薦によって) by (the) force of …(…の力によって) by the help (or aid) of …(…の助けを借りて) by the action of …(…の作用で) by the thought of …(…と考えると) by the sale of …(…の売却によって) by the name of …(…という名で) など

なお、by name of … は by the name of … と同じ意味でも用いられますが、「…の名称によって、…の名に従って」という意味で用いられるのが普通です。(31)のように、by name of の後の名詞は、可算名詞であっても無冠詞になることがよくあります。name of ship は name-of-ship、つまり ship name に近くなっています。

(30)I met a man by the name of Jones.(ジョーンズという名の人に会った)『ルミナス英和辞典』
(31)Within each folder, they are in alphabetical order by name of ship.(それらは、各フォルダー内に船名のアルファベット順にまとめられている)
『http://www.port.nmm.ac.uk/research/c13.html』
(32)He called me by name.(彼は私を名指しした)『ジーニアス英和辞典』

on 名詞 of か on the 名詞 of か

 次に on です。of を伴う場合に無冠詞になる表現はあまりありません。

on demand(要求に応じて) on request(依頼に応じて) on top of …(…に加えて) on account of …(…のために) on behalf of …(…のために;…の代わりに) on receipt of …(…を受け取り次第) on (the) condition of …(…を条件に) など

on top of は「…に加えて、…の他に」という比喩的な意味では無冠詞が普通です。空間的に「…の上に」という意味では定冠詞も無冠詞も同程度用いられているようです。(35)の the top は、上記(29)の the front と同じで、「棚の上端、最上部」を意味している通常の名詞の top であり、of the shelf によって特定されているので the が必要です。

(33)On top of her other talents, she sings well, too.(他の才能に加えて、彼女は歌もうまい)『ルミナス英和辞典』
(34)Put this book on (the) top of the others.(この本を他の本の上に載せなさい)『英文法解説』(金子書房)
(35)Can you reach the top of the shelf?(棚の一番上に手が届きますか)『同上』

通例 the を伴う表現を挙げます。

on the advice of …(…の忠告に従って) on the request of …(…の依頼に応じて) on the basis of …(…に基づいて) on (the) grounds of …(…を根拠に) on the charge of …(…の嫌疑で) on the occasion of …(…に際して) on the point of …(今にも…するところで) on the pretext (or the pretense) of …(…を口実に) on the edge of …(…に瀕して、…の縁で) on the verge of …(…に瀕して) on the brink of …(…に瀕して) on the way to …(…への途中で) on the road to …(…への途中で) など

for 名詞 of か for the 名詞 of か

 for の例です。ここで主に検討している "for 名詞 of" という形の熟語は数少ないです。

for fear of …(…を恐れて) for lack of …(…がないので) for want of …(…がないので)など

定冠詞を使う表現です。

for the purpose of …(…のために) for the good (or the sake, the benefit) of …(…の(利益の)ために)など

at 名詞 of か at the 名詞 of か

 最後に at です。at 名詞 of の形の場合、無冠詞であるものは非常に少ないです。

at first hand(直接) at heart(心の中では) at risk(危険な状態で)  at (the) break of dawn(夜明けに) at (the) break of day(夜明けに) など

the を使う表現は数多くあります。

at the risk of …(…を賭けて、危険にさらして、…の危険を冒して) at the beginning of …(…の初めに) at the back of …(…の後ろに) at the center of …(…の中心に) at the end of …(…の終わりに) at the expense (or the price, the cost) of …(…を犠牲にして) at the mercy of …(…のなすがままに) at the request of …(…の依頼により) など

動詞+名詞

 さて、ここで前置詞の話から「動詞+名詞」の熟語へ移りましょう。ある種の表現では、前置詞の場合と同じように、名詞の名詞性が失われ、無冠詞で用いる表現がたくさんあります。「動詞+名詞」の一体感が強くなるほど、無冠詞で用いられる傾向にあります。

take action(行動をとる) take account (or consideration) of …(…を考慮する) take care of …(…の世話をする) take good care of …(…を大切に世話する) take charge of …(…を管理する、世話する) take hold of …(…をつかむ) make use of …(…を使用する) take better use of …(…をもっとうまく使う) make observations of …(…を観察する) catch sight of …(…を見つける) lose sight of …(…を見失う) keep pace with …(…遅れないでついていく) set foot in …(…に足を踏み入れる) make (the) choice of …(…を選択する) make fun (or a fool, game) of …(…をからかう) など

make (the) choice of は中間段階であり、make a fool of は fool が可算名詞であることが意識されています。その証拠に、of の後に複数形の名詞が入る場合や、make a fool of oneself(ばかなことをする、恥をかく)という表現で、oneself が複数である場合、a fool よりもむしろ fools の方がよく用いられます。

(36)So generally we're asking our students to stand up and make fools of themselves at a time of their lives when they are at their most self-conscious.(従って一般的に言うと、私たちは、一番多感な時期の生徒に対して、起立し、恥をかくように求めているのです)
『http://www.teachingenglish.org.uk/think/speak/teen_speak.shtml』

また、次のように定冠詞の有無で意味が変わるものがあります。

take advantage of …(…を利用する) have the advantage of …(…という強みを持つ)
take place(行われる、起こる) take the place of …(…に代わる)など

(37)We took advantage of the fine weather to play tennis.(天気が良いのでこれ幸いとテニスをした)『ジーニアス英和辞典』
(38)He had the advantage of knowing the language.(彼にはその言語を知っているという強みがあった)『同上』
(39)The school festival will take place next month.(学園祭は来月行われる)『ルミナス英和辞典』
(40)Television has almost taken the place of the theater.(テレビがほとんど演劇の座を奪った)『新グローバル英和辞典』
(41)His sister won first prize for her singing.(彼の妹さんはのど自慢で優勝しました)『英文法解説』(金子書房)
(42)The first prize (or First prize) went to his sister.(優勝は彼の妹さんでした)『同上』

(41)にあるように、win (or take, gain) (the) first (or second) prize(一等(二等)賞を獲得する)のような表現は、使用頻度が高いので、熟語化して the が省かれることが多いと言えます。(42)のような文では、the がある場合とない場合が同じくらいよく使われています。the の有無で特に違いはなく、無冠詞の方が幾分簡潔できびきびした表現になるだけです。時に事務的な調子に響くこともあります。

まとめ

 以上、熟語に関しては、名詞や前置詞の本来の意味用法、使用頻度、地域差など微妙な問題が絡んでおり、簡単に分類することはできません。しかし、大ざっぱではありますが、少なくとも次のようなことは言えます。

T 主として可算名詞として用いられる名詞の方が冠詞が残りやすく、不可算名詞としても用いられる語は冠詞が落ちやすい。(例:make a fool of … − make game of …;後者は古い表現で、この game は「冗談」という意味)
U 本来文脈上特定されていた名詞や通念の定冠詞を含んだ表現が、熟語となっているものは定冠詞が残りやすい。(例:take the place of … − take place)
V 使用頻度がより高いものが無冠詞になりやすい。(例:in case of … − in the event of …)
W 前置詞によって無冠詞になりやすいものとなりにくいものがある。(例:by phone − on the phone)
X イギリス英語では無冠詞になりやすく、アメリカ英語では定冠詞が残りやすい。(例:go to university − go to the university)

その他、参考までに幾つか例を挙げておきます。

by air(航空便で) on (the) air(放送中で;無冠詞が普通) in the air(空中に)
by train(列車で) on the (or a) train(列車で) in the (or a) car(車で) 
on end(連続して;直立して) in the end(最後に)
on earth(地球上で;いったい) in the world(世界で;いったい)
in summer(夏に)(イギリス英語) in the summer(夏に)(アメリカ英語) during the summer(夏の間に) 
go into hospital(入院する)(イギリス英語) go to the hospital(入院する)(アメリカ英語)
in haste(急いで) in a hurry(急いで)(haste も hurry も本来不可算名詞)
under pretense of …(…を口実に)(pretense は不可算名詞) under the pretext of …(…を口実に)(pretext は可算名詞) on the pretense of …(…を口実に) on the pretext of …(…を口実に)

 以上のT〜Xはあくまでも大ざっぱな傾向であり、当てはまらない例もたくさんあります。ただ、ごく一般的には、使用頻度が高く、決まり文句となって、本来の名詞の性質が失われて行くほど無冠詞になりやすいと言えます。本来、冠詞は、「名詞」と用いるというよりも、「名詞性」を明らかにしたり、「名詞性」を意識した印として用いられると言えます。さらに言えば、「名詞性」とは、対象を「事」(時間の流れや空間的な変化を意識しながら捉えたもの)としてではなく、「物(者)」(時空の流れや変化を無視し、凍結した形で捉えたもの)とみなしたということを表しています。完全に熟語化してこの名詞性が失われれば、名詞性に用いる冠詞が落ちるのはむしろ当然のことです。最後に、関口存男氏が名詞について述べている文章を引用しておきます。
「動詞はもちろん最も『事』であり、定形は『事そのもの』であり、形容詞も『事』、副詞も『事』、接続詞も『事』、前置詞も『事』、冠詞も『事』、助詞も『事』、間投詞も疑問詞も否定詞も指示詞も、すべて『事』である。然るに、ただ一つ例外がある:名詞だけは『物』なのである! 『事』をも『物』をも、おしなべて『物』として扱う。これが名詞の本質である。本来は流動的であり融通的である筈の達意をも、流動をとどめ融通を遮切って凍結せしめる。これが名詞の機能である。」『不定冠詞論』(三修社)
(文中の「定形」とは、不定詞や分詞などではなく、主語や時制に合わせて変化した動詞の形のことです)
 次回も無冠詞を扱う予定です。

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