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<冠詞に関する覚え書>
無冠詞

第36話 対立的掲称による無冠詞



= 覚え書(36) =

 今回は、同じ語や反意語、あるいは類語などを反復したり、対立させたりする際に無冠詞となる現象(対立的掲称による無冠詞)を見ていきます。

対立的掲称

 まず、the right(右派)、the left(左派)の例を見ましょう。

(1)But now the Left has conceded that there is no partner for negotiations, and the Right has admitted that it is strategically impossible to hold on to the land.(しかし今や、左派は交渉相手がいないことを認め、右派は土地に固執することが戦略上不可能であることを認めている)
『http://www.telegraph.co.uk/news/main.jhtml?xml=/news/2006/02/05/wmid05.xml&sShet=/portal/2006/02/05/ixportal.html』
(2)Both the right and the left have a longstanding history of corruption.(右派にも左派にも長年の腐敗の歴史がある)
『http://news.bbc.co.uk/1/hi/talking_point/1969751.stm』
(3)The right and left have both made a contribution to the mess.(右派も左派もこの騒ぎに一役買っている)
『http://www.socialaffairsunit.org.uk/blog/archives/000310.php』
(4)Right and Left have different images of single mothers.(右派と左派はシングルマザーについて異なったイメージを持っている)
『http://www.timesonline.co.uk/article/0,,1058-1790122,00.html』

(1)のように単独で用いる場合、冠詞は省略しませんが、A and B という対句表現になると定冠詞を省略することができます。(1)は左派と右派を別個に考えていますが、(3)や(4)の形になると A と B の個別性や差異の意識が弱まり、一体的に捉えられています。さらに、(3)よりも(4)の方が、簡潔で、掲称性が強くなり、冠詞が完全に落ちてしまっています。

対立的掲称による無冠詞(A and B)

 このように A and B の形で用いられて、無冠詞になる表現を幾つか挙げておきます。

husband (or man) and wife (夫婦) father and mother(父母) brother and sister(兄弟姉妹) mother and child(母子) master and pupil(師弟) friend and foe(敵も味方も) priest and people(牧師と会衆) body and soul(身も心も) knife and fork(ナイフとフォーク) curry and rice(カレーライス) hand and foot(手も足も) body and soul(身も心も) day and night(昼夜) bed and board(家庭、結婚生活) odds and ends(がらくた) bed and breakfast(朝食付き宿泊) young and old(老いも若きも) rich and poor(富者と貧者) など

この種の表現は、特に古くからあるものには韻を踏んだものが比較的よく見られ、例えば、friend and foe は、friend and enemy とも言えますが、頭韻の f を合わせた foe が圧倒的に好まれています。また、priest and layman よりも priest and people が好まれるのも同じです。odds and ends は脚韻を踏んでいます。

(5)They are husband and wife.(彼らは夫婦だ)『ロイヤル英文法』
(6)He gave body and soul to the work.(彼はその仕事に心身を捧げた)『同上』
(7)There is a special relationship between mother and child e.g. mother-daughter relationship or mother-son relationship. Perhaps, it is due to the fact that the mother carries the child for nine months before it is born.(母子の間には特殊な関係がある。例えば、母娘の関係や母息子の関係である。もしかすると、これは、母親が子供を産む前に9ヶ月間お腹に宿しているということが理由なのかも知れない)
『http://www.baby-parenting.co.uk/mother/mother.html』
(8)We worked day and night without stopping.(私たちは昼夜兼行で働き続けた)『英文法解説』
(9)She waited on her old mother hand and foot.(彼女はまめまめしく老いた母親の世話をした)『同上』

(5)の husband and wife は補語、(6)と(7)の body and soul と mother and child は目的語であり、名詞として用いられていますが、(8)と(9)の day and night と hand and foot は副詞句として用いられています。これらの A and B の表現は、熟した表現になるほど無冠詞になりやすく、また、熟語化が進むほど、名詞ではなく、副詞や形容詞としても用いられるようになります。副詞や形容詞として働くものは名詞性が失われていきますから、当然、無冠詞で用いるのが原則となります。なお、(5)は a husband and wife、(6)は his body and soul とすることもできますし、むしろ a や one's を使う方が普通です。(7)の mother and child の場合、child を単数にするか複数にするかという問題がありますが、特に複数であることを述べる必要がない限り、単数形にするのが普通です。また、neither A nor B(A も B も…ない)も上記のような名詞の組み合わせでは、無冠詞になることが多い表現です。

(10)They have neither father nor mother.(その子供たちには父親も母親もいなかった)
『http://www.thetablet.co.uk/cgi-bin/register.cgi/tablet-00151』

同語反復(A 前置詞 A )

 次に前置詞を介して同語が反復される表現を見ていきましょう。同語が反復される以下のような表現は完全に熟語化して副詞的に働くものがほとんどであり、冠詞は原則として用いられません。

arm in arm(腕を組んで) hand in hand(協力して;手をつないで) go hand in hand(密接な関係にある) side by side(並んで) step by step(一歩ずつ) day by day(日毎に) little by little(少しずつ) face to face(面と向かって) shoulder to shoulder(肩を並べて) bumper to bumper(車が数珠つなぎで) year after year(年々) page after page of …(何ページもの…) word for word(一語一語) hand over hand(どんどん) from time to time(ときどき) from cover to cover(本の初めから終わりまで) vary (or change) from A to A(A によって異なる) など

例文です。

(11)He is walking side by side with her.(彼は彼女と並んで歩いている)『ロイヤル英文法』
(12)Hygiene and health go hand in hand.(清潔と健康は相伴う)『同上』
(13)The discussion went on hour after hour.(討論は何時間も続いた)『英文法解説』
(14)It is not advisable to translate word for word.(逐語訳は好ましくない)『同上』
(15)I opened the door and found myself face to face with a stranger.(戸を開けると目の前に知らない人が立っていた)『同上』
(16)Marriage customs vary from country to country.(結婚の慣習は国によって違う)『ルミナス英和辞典』

one A 前置詞 another (A)

なお、from A to A や A after A などは、from one A to another や one A after another の形で使われることがあります。例えば、vary (or change) from one A to another といった表現は、よく用いられます。

(17)Costs obviously vary from one country to another and frequently from one university to another.(費用は明らかに国によって異なり、また大学によってもしばしば異なる)
『http://www.acu.ac.uk/enquiries/pdf/cwlthpg.pdf』
(18)One year after another, things come up to make it worse.(年々いろんな事が起こり、自体は悪くなる)
『http://bcn.boulder.co.us/campuspress/1995/feb101995/suffer021095.html』

対立的掲称による無冠詞(A 前置詞 B)

 次に、同語ではなく、反意語など異なった語が使われる表現です。from A to B や from A till B の形が非常に多く見られます。

from hand to mouth(その日暮らしで) from top to toe (or tail)(頭のてっぺんからつま先まで) from head to foot(頭のてっぺんからつま先まで) from morning till night(朝から夜まで) with A in hand(A を手にして) など

(19)She knows that subject from beginning to end.(彼女はそのことについて初めから終わりまで知っている)『ロイヤル英文法』
(20)He lives from hand to mouth.(彼はその日暮らしをしている)『同上』
ス英和辞典』
(21)Then sit down, with pen in hand, and write a letter to someone you know!(それでは手にペンを持って、あなたが知っている誰かに手紙を書いて下さい)
『http://www.richland.lib.sc.us/archive/kspot1101.htm』
(22)"'Cat' heisst 'Katze' auf Deutsch?" he asked Angela with book in hand, checking that "cat" and "Katze" really were the same thing.(「 "cat" はドイツ語で "Katze" って言うの?」と息子は本を手にしながら Angela に尋ね、"cat" と "Katze" が本当に同じものであることを確かめていた)
『http://www.telegraph.co.uk/education/main.jhtml?xml=/education/2003/04/21/teflang.xml』

with 名詞 in hand という表現は、少し特異なものとして目を引きますが、まず in hand(手に持った、手元にある)という hand が無冠詞の熟語があり、この無冠詞に合わせて in の前にある名詞も無冠詞で用いられるようになったと考えられます。なお、with a pen in hand のように冠詞を伴う形でも用いられますが、冠詞を用いるなら、with a pen in your hand のように hand の前に one's を用いる方が普通です。この in hand を伴う表現は、with が落ちた形で用いられることもあります。

(23)He is portrayed in these icons, book in hand, as the true master.(これらの聖像では、キリストは、手に本を持ち、真の師として表現されている)
『http://www.antiochian-orthodox.co.uk/windows_into_heaven.htm』

and および前置詞以外の例

 では次に、and や前置詞以外の例を挙げておきます。

(24)Bob goes to the office day in, day out.(ボブは明けても暮れても仕事に行っている)『英辞郎』
(25)Day succeeded day in quiet routine employment.(静かな決まり切った仕事が日々続いた)『ロイヤル英文法』
(26)Season followed season and year followed year.(季節は巡り、年月は流れました)
『http://astoryallmyown.com/Merchant2/merchant.mvc?Screen=PROD&Product_Code=528a&Category_Code=SO』
(27)Man is stronger than woman.(男性は女性よりも(力が)強い)『英文法解説』(金子書房)
(28)He is more teacher than scholar.(彼は学者というより教師だ)『ロイヤル英文法』

(27)のような一般論の主題目を表す場合、現在では無冠詞はまれで、複数無冠詞が用いられます。また、単数無冠詞の man は「人間・人類」の意味で使うのが一般的です。(28)の無冠詞もあまり使われていません。それぞれ(29)、(30)の文が普通です。

(29)Men are stronger than women.
(30)He is more (of) a teacher than a scholar.

なお、(24)の A in, A out の形は、時を表す語と用いられます(コンマは and にすることもできます)。

day in, day out (or day in and day out)(毎日毎日、明けても暮れても) week in, week out(毎週毎週) month in, month out(毎月毎月) year in, year out(毎年毎年) など


無冠詞の名詞+方向を表す副詞

 上記の in や out は副詞ですが、このような副詞と名詞とを組み合わせた表現の中に、熟語として無冠詞でよく用いられるものがあります。特に方向を表す副詞と身体の部分を組み合わせた表現です。身体の部位は日常的に頻繁に口にされますから、いろいろな表現に広く用いられ、完全に熟語化して比喩的な意味に発展したものもあります。

belly down(腹ばいに) palm up(手のひらを上にして) face up(顔を上げて;表を上にして) head on(真向かいに) hands down(容易に) など

(31)Each player is dealt two cards face down and one card face up.(各プレーヤーにカード2枚が裏向きに、1枚が表向きに配られる)
『http://caag.state.ca.us/gambling/game/7cardr.htm』
(32)All polls done last sept in both states show he would win hands down.(両州で9月に行われたどの世論調査でも、彼が楽勝するだろうということだ)
『http://www.democrats.us/beta/forum/view_topic.php?id=32&forum_id=10&page=2』

列挙

 ここからは少し話を変えて、掲称性という観点から忘れてはいけない列挙について述べておきます。列挙の仕方は、一般的に3つの方法があります。例えば、「A と B と C と D」と言いたいとき、次のように言えます。

(T) A, B, C(,) and D
(U) A, B, C, D
(V) A and B and C and D

「A か B か C か D」のように言う場合は、上記の and を or に換えるだけです。これらの表現の違いは微妙ですが、次のようなことが言えます。(T)は最もよく用いられる形ですが、このように最後の要素の前に and や or を入れると、「これで終わり!」というような印象を与える傾向にあります。話者の頭の中にとりあえずそれ以上のことは浮かんでいなかったという印象です。もちろん、それ以上のものがあっても構いませんが、あくまでも「これでお仕舞い」という口調になるということです。これに対して(U)は、「その他にもある」という印象を与えます。印象に過ぎませんから、それら以外になくても構いません。それ以外にもあるということを明示したいのなら、and so on や etc.(…など)のような語句を付ければそれで済みます。(V)は各要素を念入りに挙げている感じで、悠長な印象を与えます。

 冠詞に関しては、2つ目以降の要素に冠詞を繰り返して付けるかどうかという問題があります。例を見ましょう。

(33)a knife, (a) fork, and (a) spoon(ナイフ、フォーク、スプーン)『ジーニアス英和辞典』
(34)He is a poet and (a) novelist.(彼は詩人であり、かつ小説家だ)『同上』
(35)The poet and (the) novelist were both present at the meeting.(その詩人と小説家は2人とも会議に出席していた)『同上』

(33)と(34)の例では冠詞を省略するのが普通であり、冠詞を付けた場合は各要素を強調した表現になります。各要素の結びつきが強く、一体的に捉えられれば捉えられるほど、冠詞は省略されやすくなります。(35)の例は、人物が2人なので、the を繰り返すのが普通ですが、文脈上誤解の恐れがなければ省略することもできます。

その他の例です。

(36)I would like to have a house, car and family.(家と車と家族が欲しい)
『http://www.hemetusd.k12.ca.us/sites/dartmouth/fac/srossi/sp7/stuweb32/docs/future.html』
(37)We can still afford a house, a car and a holiday.(それでも家や車を手に入れ、休暇を取る余裕がある)
『http://www.tqonline.co.uk/content_frame.asp?id=650』
(38)Simple stacking blocks can be a great toy, they are so simple but they allow the toddler or child to create whatever they want - a house, a car, a tree.(素朴な積み木やブロックは素晴らしいおもちゃであり、とても単純ではあるが、幼児や子供が、家や車や木など好きなものを何でも作ることができる)
『http://www.baby-parenting.co.uk/kids/toys_toddler.html』

単に列挙・羅列しているという意識が強くなると、掲称性が高まり、最初の名詞の前に付くはずの冠詞まで落ちることがあります。

(39)Bring pen, notebook and packed lunch.(ペンとノートとお弁当を持ってきて下さい)
『http://www.birmingham.gov.uk/GenerateContent?CONTENT_ITEM_ID=70699&CONTENT_ITEM_TYPE=4&MENU_ID=10012』
(40)They stare at the adverts, phrasebook, pen, notebook and mobile phone in hands.(彼らは手に会話表現集、ペン、ノートそれに携帯電話を持って広告を見つめている)
『http://www.guardian.co.uk/uk_news/story/0,,1255634,00.html』
(41)These simple, non-intrusive activities require only common household items -- pencil, notebook, magnifying glass, bug box, ruler -- and a bit of natural curiosity.(これらの素朴で自然に優しい活動に必要なものは、身の回りにあるありふれたものだけです。鉛筆、ノート、虫めがね、虫かご、定規、それに生まれつき持っている多少の好奇心だけです)
『http://www.gazellebookservices.co.uk/ISBN/081172719X.htm』

 次回も無冠詞について述べる予定です。

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