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目次

<冠詞に関する覚え書>
無冠詞

第42話 固有名詞と同格



= 覚え書(42) =

 今回こそ、このシリーズの最終回です。固有名詞と同格との関係です。これは、以前、「覚え書 (37)」と関連しており、そこでかなり詳しく述べています。今回は、それらの確認をしながら、前回の「固有名詞と形容詞」(「覚え書 (41)」)との関連で、多少補足的な説明を加えておきます。

命名の付置規定(無冠詞が原則)

 まず、「覚え書 (37)」に戻る前に「覚え書 (39)」の最初に述べた例にもう一度触れておきます。「〜号線」を表す道路の名称です。

Interstate 75((米)州間高速道路75号線) State Road 826((米)州道826号線) State Route 180((米)州道180号線) National Route 24((日本)国道24号線)

文例も挙げておきます。

(1)The Board and Staff briefly discussed the request to add a portion of U.S. Highway 395 between Interstates 80 and 15 as a High Priority Corridor in the National Highway System.(委員会および職員は、州間幹線道路80号線と15号線の間の国道395号線の一部を国家道路計画における最優先区間として加える旨の要請について討議した)
『http://www.inyocounty.us/Board%20Agenda%20Minutes/board_minutes_-_february_28,_2006.htm』

これらの道路の名称は、「覚え書 (37)」で述べた次のような例(「命名の付置規定」)と同種のものです。

Room 301(301号室) Platform Five(5番線) lesson 10(第10課) chapter 2(第2章) vitamin A(ビタミン A)  Model A(モデル A) Radio America(ラジオアメリカ) (the) Hotel Ritz(ホテルリッツ)  (the) number one(ナンバーワン)

「命名の付置規定」とあるように、これらは、本来、名称として際立たせるための表現方法ですから、掲称性が強くなるのは当然であり、無冠詞が普通です。ただし、一方で、名詞の後に英数字や記号ではなく、具体的な名詞が入って固有名詞を作る場合に、冠詞の問題が顕著になってきます(なお、a Model A や (the) number one などについては、「覚え書 (37)」を参照のこと)。これは、具体的な名詞が入って固有名詞を作る場合には同格関係が顕著になり、前にある名詞を限定する力が感じられるために定冠詞を要求しやすくなるからです。また、意味の点からも、同格の関係が強く感じられます。例えば "Room 301" の単なる数字 "301" は、直接「部屋」を連想させる力は弱いと言えます。一方、"(the) Hotel Ritz" の "Ritz" が「ホテル」を連想させる力は単なる数字や記号よりは強いと言えます。もともと、この違いが無冠詞で用いるか、定冠詞付きで用いるかの違いにつながっていると考えられます。数字の場合は、前の名詞と一体となり、1つの名称として感じられるやすくなりますが、固有名詞の場合はそれほど単純ではなく、固有名詞と前の名詞が互いに自己を主張しつつ一体となっているイメージです。前の名詞と後の名詞が一体となった名称という感触が強ければ無冠詞として使われる可能性が高まり、前の名詞と後の名詞とが同格関係、つまり「A B = B という A」の関係が強く感じられる場合は定冠詞と用いられやすくなる、ということです。また、この「名詞+名詞」の場合、全体が、「あの〜、例の〜」というように聞き手や読み手に対して、意識を向けさせたい対象であると話し手や書き手が感じた場合(無意識であってもよい)には、定冠詞を使いたくなるというわけです。

付置称号(無冠詞が原則)

 一方、次のような例(「付置称号」)を「覚え書 (37)」で挙げました。

Mr. Bush(ブッシュ氏) Mrs. Smith(スミス夫人) Dr. Martin (マーチン博士) Queen Elizabeth(エリザベス女王) King Lear(リア王) President John F. Kennedy(ジョン・F・ケネディ大統領)

これらは、「A B = B という A」の A が B に対して弱くなっており、対等な同格関係を失い、無冠詞になっています。これは、B が A に対して弱い "Room 301" などといわば逆の関係です。ただ、A と B が対等であることを前提とした同格関係を維持していない点は、両者に共通です。A と B の対等性は、A に入る名詞が次のような場合でも崩れており、あるいはやや崩れており、無冠詞が原則となります。「覚え書 (37)」に挙げた例です。

professor(教授)  doctor(医師;博士) detective(探偵;刑事) engineer(技術者) pianist(ピアニスト) comedian(コメディアン) baseball player(野球選手) など

文例を挙げておきます。

(2)Celebrity guests included musician Joe Hisaishi, actor Ken Watanabe, while major league baseball player Ichiro offered his congratulations via a video message.(著名人のゲストとしては音楽家の久石譲、俳優の渡辺謙などが訪れ、メジャーリーガーのイチローがビデオメッセージでお祝いを述べた)
『http://www.seriouswheels.com/cars/top-2008-Nissan-Skyline-Coupe.htm』

命名の付置規定(無冠詞と定冠詞付き)

 さらに、A が次のような名詞の場合は、A と B の対等性がやや強くなり、言い換えれば、先ほどの professor などに比してこれらの名詞は称号としての働きが幾分弱いために、無冠詞の例と定冠詞の例とが同じ程度見られるようになります。これも「覚え書 (37)」に挙げた例です。

mathematician(数学者) physicist(物理学者) magician(マジシャン) geologist(地質学者) historian(歴史学者) critic(批評家) economist(エコノミスト) philosopher(哲学者) novelist(小説家) author(作家;著者) poet(詩人) dramatist(劇作家) playwright(劇作家) writer(作家) entertainer(エンターテイナー) など

これについても、定冠詞の例と無冠詞の例を1つずつ挙げておきます。

(3)The physicist Albert Einstein did not directly participate in the invention of the atomic bomb.(物理学者のアルベルト・アインシュタインは、原子爆弾の発明に直接関与したわけではなかった)
『http://greyfalcon.us/restored/ALBERT%20EINSTEIN.htm』
(4)We are all familiar with the three spatial dimensions of length, width and breadth but physicist Albert Einstein posited that the fourth dimension might be time.(私たちはみんな、高さ、幅、奥行きという3つの空間的な次元をよく知っているが、物理学者のアルベルト・アインシュタインは第4の次元が時であると仮定した)
『http://synastry.us/soulmate_connection.asp』

 さらに、同様の表現に形容詞が付加された例を挙げておきます。形容詞などの修飾語句が付加されると、無冠詞はやや少なくなり、定冠詞の例の方が多く見られます。これは、この種の表現に付加される修飾語句が、前回述べた「有名な、偉大な」など、あまり伝達価値が高くない枕詞的な語句が多いからだと考えられます。

(5)By 1905, the German born physicist Albert Einstein advanced his theories of relativity.(1905 年までに、ドイツ生まれのアルベルト・アインシュタインは一般相対性理論を提言した)
『http://www.mcps.k12.md.us/schools/wjhs/mediactr/socstupathfinder/
worwar/index.html』
(6)Scientists accepted Newton's law until 1915, when German-born physicist Albert Einstein proposed the general theory of relativity.(科学者たちはニュートンの法則を 1915 年まで受け入れていたが、この年、ドイツ生まれの物理学者アルベルト・アインシュタインが一般相対性理論を提唱した)
『http://web.dps.k12.va.us/ParkAve/Force.htm』

アインシュタイン以外の例も挙げておきましょう。

(7)When Hardy, visiting the brilliant mathematician Ramanujan, remarked that he had taken taxi number 1729, "rather a dull number" , Ramanujan immediately responded "On the contrary, it is the smallest number that can be expressed as the sum of two cubes in two different ways" .(ハーディーが天才的数学者ラマヌジャンを訪ねたとき、「ナンバーが 1729 のタクシーに乗ってきた。まあ、さして面白い数字とは言えないが」と言うと、ラマヌジャンは即座に答えた。「とんでもない。それは2つの立方数の和として2通りに表せる最小の数ですよ」)(これは、1729 = 13 + 123 = 93 + 103 ということを述べている)
『http://www.inference.phy.cam.ac.uk/mackay/sumsquares.pdf』

この文の発話者が、聞き手も、ラマヌジャンが天才数学者であることを知っていると想定できるような状況では、the brilliant を使うでしょうし、天才数学者であることを知らないと考えるなら、紹介導入として a brilliant を使うこともできます。この場合は、"a brilliant mathematician, Ramanujan" のように、mathematician の後にコンマを入れたような感じになり、同格の感触が薄れます。また、知らないと考える場合でも定冠詞を使うなら、天才数学者であることは広く知られていることだということを聞き手に示唆することになります。

命名の付置規定と通念の定冠詞との接近

 この同格表現は、ある種の場合、前回述べた形容詞の修飾と類似してきます。前回、次のような例文を挙げました。

(8)His work in the 30s convinced the great Albert Einstein that the universe was expanding.(1930 年代の彼の仕事は、あの偉大なアルベルト・アインシュタインに宇宙が膨張していることを確信させた)
『http://www.bbc.co.uk/films/2004/08/11/high_noon_aug_11_2004_news
_article.shtml』

これを例えば次のような文にしても、ほとんど違いは感じられないでしょう。

(9)His work in the 30s convinced the great physicist Albert Einstein that the universe was expanding.(1930 年代の彼の仕事は、あの偉大な物理学者アルベルト・アインシュタインに宇宙が膨張していることを確信させた)

これと同じように、(7)の "the brilliant mathematician Ramanujan" は、"the brilliant Ramanujan" にすることもできます。ただし、一般的に考えて、「ラマヌジャン」よりも「アインシュタイン」の方が有名ですから、このような「the 形容詞 固有名詞」の形にふさわしい、あるいはこの形が多く使われるのは、「アインシュタイン」の方だということになるでしょう。「the 形容詞 固有名詞」の形の方が、「例の、あの〜」という意識がより明確に感じられるからです。逆に言えば、アインシュタインのように非常に有名で、「例の、あの」という意識が働きやすい固有名詞の場合、"the famous physicist Albert Einstein" のような「the (形容詞) 名詞 固有名詞」という同格の形を使っても、"the famous Albert Einstein" との差はさほど感じられず、「同格によって定冠詞が付加された」という感触は薄れます。つまり、定冠詞が同格によるために用いられているのか、「あの、例の」という意識があるために用いられているのか、判然としなくなってきます。あるいは、その両方の感触が混在していると言った方が正確であるかもしれません。

 さらに、人以外の例も見ておきましょう。

(10)"The greatest public duty for the woman who has married the eldest son of the emperor is to give birth to a male child," said the weekly magazine Shukan Shincho.(「天皇の長男と結婚した女性の最大の公務は男子を産むことである」と週刊新潮は書いた)
『http://query.nytimes.com/gst/fullpage.html?res=9807E7DB103BF932A05751C1A962958260』
(11)Japanese magazine Shukan Shincho has demanded that the BBC cancel their plans to produce what the periodical sees as "a malicious, prejudiced and ugly" portrayal of Emperor Hirohito.(日本の雑誌週刊新潮は、BBC が計画している裕仁天皇に関する番組を、昭和天皇についての "悪意と偏向が含まれた醜悪な" 描写であるとして、制作の中止を BBC に求めた)
『http://japundit.com/archives/2005/02/11/125/』

(10)の "the weekly magazine Shukan Shincho" と(11)の "Japanese magazine Shukan Shincho" の違いは、微妙ですが、これまで何度となく述べてきたように思いますが、結局、掲称性の強弱の違いに帰せられます。"weekly magazine" と "Japanese magazine" を比較した場合、どちらを強く打ち出したい場合が多いか、を考えてみれば、「日本の雑誌」ではないでしょうか。「週刊誌」を前面に出したいのは、例えば、「月刊誌」ではなく「週刊誌」だ、ということを述べたいような場合なら考えられますが、それほど伝達価値のある部分ではないでしょう。何なら、weekly はなくても支障はないと考えられます。一方、「日本の」は比較的重要な部分であり、これがないと「どこからの要求であるか」が伝わらない恐れがあります。従って、掲称性の強い無冠詞が選ばれていると考えられます。ただし、定冠詞が用いられていたとしても何ら問題はありません。「週刊新潮という日本の雑誌」という同格関係がやや念入りに表現されているか、あるいは「あの、例の」という意識が多少働いたか、あるいはぶっきらぼうな感じを少し和らげようとしたのか、理由はいろいろと考えられます。また、weekly の方も無冠詞であっても間違いとは言えないでしょう。掲称性が強く感じられるだけのことです。とは言え、weekly の場合は、定冠詞を用いる方が普通でしょうが。

 さらに、同じ表現が定冠詞付きと無冠詞で用いられている例を挙げておきます。

(12)During that trip, I was fortunate enough to watch the launch of the Space Shuttle Atlantis which was absolutely amazing.(その旅行中、幸運なことに、スペースシャトル・アトランティス号の打ち上げを見ることでできました。本当にすごかったです)
『http://www.wc235.k12.il.us/vnews/display.v/ART/46d378e6294cf』
(13)NASA will begin the countdown for the launch of Space Shuttle Atlantis on mission STS-115 at 6 p.m. EDT Thursday, Aug. 24, at the T-43 hour point.(NASA は、スペースシャトル・アトランティス(ミッション STS-115)の打ち上げカウントダウンを T マイナス 43 時間の、アメリカ東部夏時間 8 月 24 日午後 6 時に始める予定である)
『http://www.air-space.us/sci.space.shuttle/4/LAUNCH-COUNTDOWN-BEGINS-AUG-24-FOR-SPACE-SHUTTLE-ATLANTIS-article17844-.htm』

この場合の相違も、これまで延々と述べてきた定冠詞付きと無冠詞の違いに集約されます。定冠詞付きの方が、多少柔らかで悠長な感触を伴うのに対し、無冠詞の方は、少しぶっきらぼうで事務報告的な感じがするだけです。その相違は本当に微妙なものですから、ネィティブスピーカーもほとんど気にしていないかもしれませんが、敢えて相違を求めるなら、悠長さときびきびした感じという文体の相違だと考えられます。

外国人の称号

 それでは、最後に、これも「覚え書 (37)」に挙げた例ですが、英語のネィティブスピーカーから見た外国人の称号が定冠詞を伴うことが他の称号の場合よりも多いという現象について、改めて述べておきます。次のような例です。

(the) Emperor Napoleon(ナポレオン皇帝) (the) Empress Maria Theresa(女帝マリア・テレジア) (the) Ayatollah Khomeini(アヤトラ・ホメイニ) (the) Emperor Showa(昭和天皇) など

外国人の称号は無冠詞でもよく用いられますが、特に正式に表記しようとする場合に定冠詞が用いられることが比較的多いと言えます。また、これは、称号を伴う外国人の固有名詞を使う場合、「例の、あの」という意識があり、聞き手に対して念を入れてどの人物のことを述べているのか明らかにしたいという気持が働きやすいのかもしれません。外国という遠い世界のことを定冠詞によって近くに引き寄せようとしている、と言っても良いかもしれません。ただし、無冠詞で使うこともごく普通にあることです。例えば、上に挙げた(11)の "Emperor Hirohito" も無冠詞です。

まとめ

 最後に、「第1話」と「第2話」に挙げた定冠詞、不定冠詞、無冠詞の特徴をもう1度確認しておきます。

定冠詞の基本的特徴:
 定冠詞の次に置かれた名詞の表す概念が、話し手と聞き手の両者にとって、何らかの意味において既知と前提されてよろしい、ということを暗示する。「どの…?、どれ?、どちら?」という問いに答えているという点で既知であると前提されてよろしい、ということを暗示する場合、言い換えれば、そのときの前後関係から見て、同種のものの中から聞き手がすぐに認知できる、ある特定のものを指し示す場合が、「指示力なき指示詞としての定冠詞」である。また、何ら詳しい規定も必要とせず、単にその言葉によって、その指し示す概念が十分明らかに既知であると前提されてよろしい、ということを暗示する場合が、「通念の定冠詞」である。定冠詞を伴う名詞は、穏やかに達意(情報の伝達)の主局(主要な部分)に立つか、あるいは穏やかに達意の傍局(主要でない部分)に退くかのいずれかである。

不定冠詞の基本的特徴:
 不定冠詞の次に置かれた名詞の表す概念が、話し手と聞き手のどちらか一方またはその両者にとって、何らかの意味において、未知と前提されてよろしい、ということを暗示し、ともすれば「どんな…?、どのような…?」という問いに答える形容詞を要求する傾向にある。具体的に「(ある、ある種の、何らかの)…」を表す場合と、一般的概念(総称)として「…(というもの)」を表す場合がある。不定冠詞を伴う名詞(あるいは形容詞)は、多くの場合、達意の主局に立って、かなり目立つのが特徴である。

無冠詞の基本的特徴:
 無冠詞の名詞は、引用符に囲まれているかのようなその鋭い唐突性によって、鋭く浮かび上がって達意の主局に立つか、あるいは達意の傍局に退き去ってその名詞性を喪失するかである(時にその両方を合わせ持つこともある)。

冠詞の使い分けについて、定義めいたことを言うのはそれほど難しいことではありません。この3つの基本的特徴でほとんど十分です。それにもかかわらず、ここまで本当に長々と述べてきたのはなぜかというと、結局のところ、「定冠詞の次に置かれた名詞の表す概念が、話し手と聞き手の両者にとって、何らかの意味において既知と前提されてよろしい、ということを暗示する」という言葉と、「不定冠詞の次に置かれた名詞の表す概念が、話し手と聞き手のどちらか一方またはその両者にとって、何らかの意味において、未知と前提されてよろしい、ということを暗示する」という言葉の「何らかの意味において」が「どんな意味において」であるのかを具体的に述べるためです。冠詞について、何か簡単な定義めいたことを教えられて分かったような気になっても、実際にはほとんど役に立たないのは、具体的にどのような場合にどんなふうに使うのかが分かっておらず、多くの実例に触れていないためです。

最後に

 さて、話の筋道から逸脱してしまわないために端折ったところもかなりたくさんあるとは言え、ようやくこれで、無冠詞も含めて冠詞について全体的なことを概ね述べ終えました。しかし、日常的な場面での冠詞の使い方について分かりやすい簡潔な説明をしたとは言えませんし、また、実務的な文章、例えばビジネス文書なり、論文なり、説明書なりを書く際の冠詞の使い方について端的な指針を示したわけでもありません。「メニューの説明」でも少し述べましたが、この「覚え書」は、内実、自分のための覚え書として書いたものですから、冠詞について自分が気になることを中心にできるだけ他の人に説明するように整理してみたらこうなった、というのが本当のところです。そういう意味で、無駄に長々と説明しているように見えるところは私自身が気になったところであり、逆にもっと詳しく説明すべきだと思われるところをあっさり片付けているとすれば、その箇所は私には大して興味のなかったところです(あるいは、能力と時間が不足しているのでごまかしたところかもしれません)。個人的には英語の冠詞とドイツ語の冠詞の差異(そしてフランス語の冠詞との差異)も気になるところなのですが、英語の冠詞とドイツ語の冠詞(およびフランス語の冠詞)との比較については、現在のところ、私の頭の中にほとんどぼんやりとあるだけです。つまり、私としては、これでようやく「冠詞について何か本当に有用なこと、実用的なこと、興味のあることを述べるための土台が、かなり粗雑であるとは言え、何とか整いました」ということであるわけです。

 ただ、だからと言って、すぐに次のシリーズを書き始めるわけでも、そういう予定があるわけでもありませんので期待しないでください(まあ、誰も期待していないと思いますが)(*)。とりあえず、ここまで私が書いてきたことをお読みになって、冠詞についての理解が多少なりとも深まったと感じた方、あるいは逆説的ですが、思っていた以上に冠詞は難しい、と感じる方が一人でもおられるなら、私としてはこの「覚え書」を公開している意味も確かにある、ということです。

 これからは、冠詞に関しては、何か書きたいことがあるときに、(これまで以上に)もっと気ままに自由にいい加減に書こうかと思っています。そもそも「文法」がそういったものであるように。いや違うかな、そもそも「人間」がそういったものであるように、かな。


* 2016年に『英独仏 冠詞:通念』を追加。また『英独仏 冠詞雑感』も参照のこと。(2016年9月28日付記)


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