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目次

<冠詞に関する覚え書>
指示力なき指示詞としての定冠詞:直接規定

第6話 形容詞と冠詞



= 覚え書(6) =

 今回は、定冠詞と使われることが多い形容詞を扱います。形容詞の中には、それが名詞と使われるだけで、その名詞が特定され、「どの名詞」であるかを示すことができるものがあります。そのような形容詞は、原則として、定冠詞と一緒に用いられます。具体的に見ていきましょう。

「前述の、後述の」を意味する形容詞

 まず、「上記の、上述の、前記の、前述の」を意味する形容詞あるいは分詞があります。

the above address(上記の住所)the said sum(上記金額)
the above-mentioned facts(前述の事実)
the above-named club(上述のクラブ)
the aforesaid remark(前述の発言)
the aforementioned changes(上記の変更)
the foregoing explanation(前述の説明)

これらの形容詞は、話し手(書き手)が、聞き手(読み手)に「どの〜」のことを述べているのかを明らかにするために使われるのですから、定冠詞と用いられるのは当然のことです。

 以上は前に述べられたことを指し示していますが、後に述べられていることを指し示したい場合も当然あります。つまり、「下記の、以下の」を表す形容詞ですが、これはあまりありません。

the following quotation(下記の引用文)
the undermentioned changes(下記の変更)

副詞や分詞を後置して修飾することもあります。

the conditions below(下記の条件)
the conditions mentioned below(下記の条件)

「現在の、以前の、次の」を意味する形容詞

 さらに、「今の、現在の」、「その当時の」、「前の」、「次の」といった意味を持つ形容詞も定冠詞と共に用いられます。「同封の」も同様です。

the now chairman(現議長) the now generation(現代っ子世代)
the then party boss(その当時の党首) the then circumstances(その当時の状況)
the present subject(今議論されている話題) at the present time(現在のところ)
the preceding chapter(すぐ前の章) the previous night(前の晩)
the current year(今年) the current price(時価)
the enclosed cheque(同封の小切手)

しかし、これらの形容詞が全て必ず定冠詞と使われるということではありません。特に、"current" と "previous" は定冠詞と用いられないこともあります。

(1)It is not a current word.(それは今は使われていない語だ)
(2)The figurative meaning is no longer in current use.(その比喩的意味はもはや使われていない)『ジーニアス英和辞典』
(3)Have you any previous appointments next Sunday?(今度の日曜日に何か先約がありますか)『新グローバル英和辞典』
(4)He has a previous conviction against him.(彼には前科がある)『新編英和活用大辞典』

定冠詞が用いられるのは、あくまでも話し手と聞き手の両者にとって、「どの名詞」なのか、特定されていると見なせる場合です。(1)は「現在使われている多くの単語のうちの1つ」であり、(2)は "be in use" という無冠詞の熟語であるために、また "current" が付加されても「どの使用」かが具体的に特定されないために無冠詞のままです(無冠詞については、いずれ詳しく扱う予定です)。(3)は「何かある先約」であるために特定されておらず、また(4)も聞き手にとって、「どの前科」であるかが特定されておらず、「ある前科、ある有罪判決」なので "a" が用いられています。

「同一性」を意味する形容詞

 では次に、"same" です。"same" は「前述の、上記の」と同様の意味で用いられることがあります。この場合は、やや軽蔑的な感触を伴うため、冷静な "the" よりも感情がこもりやすい "this, that, these, those" と共に使われることが多くなります。

(5)Did that same salesman bother you too?(あの同じセールスマンにあなたも悩まされたのですか)『プログレッシブ英和中辞典』

"same" はいろいろな意味での「同一性」を表します。

(6)Father sits in the same chair every evening.(父は夕方決まって同じ椅子に座る)『ランダムハウス英和大辞典』
(7)We both bought the same book at the same store.(私たちは同じ店で同じ本を買った)『同上』
(8)These are the same rules though differently worded.(これらは表現は違うが同じ規則である)『同上』
(9)Most people have the same breakfast every day.(たいていの人々は毎日同じ朝食を食べている)『プログレッシブ英和中辞典』
(10)You and I are the same age.(君と僕は同い年だ)『新グローバル英和辞典』
(11)I will let you have it at the same price.(私は同じ値段でそれをお分けします)『新編英和活用大辞典』
(12)He was not the same man after he had lived overseas.(彼は海外生活の後、すっかり変わってしまった)『ランダムハウス英和大辞典』
(13)He is always the same to us.(彼女はいつも私たちに対して変わらぬ態度をとる)『ジーニアス英和辞典』

(6)の「同じ椅子」は同一物です。(7)の「同じ店」は同一物ですが、「同じ本」は、内容は同じですが、別個の物です。(8)の「同じ規則」は、複数の別個の規則であり、表面的には違うように見えるが、実質的に同じということです。(9)の「同じ朝食」は、種類が同じということであり、(10)と(11)の「同い年」、「同じ価格」は数量が同じことです。(12)は「性質や状態が変わらない」という意味での同一性を表しています。「同一性」と言っても、細かく考えていくと微妙に違うわけです。しかし、いずれの "same" であろうと、"the" と共に用いられることに変わりはありません。これはどういうことでしょうか。(6)や(7)の「同じ椅子」、「同じ店」では「同一物」について述べられていますから、特定の「どの〜」かを示しており、"the" と共に用いられるのは自然です。しかし、言葉の世界は非常に感覚的であり、普段、人間は、どういう意味で「同じ」か、などとは大して考えてはいませんから、厳密な意味での「同一物」ではない場合でも、「同一物」の場合と同じように、"the same" の形で用いられるようになったと考えられます。"same" という単語は、非常に頻繁に用いられる語であることも関係していると考えられます。"the same" という形でしばしば用いられ、それが固定化し、ほとんど常に "the" を付けた形で使われるようになったというわけです。(13)のように名詞がなくても、"the same" の形で使われます。一方、"same" と似た意味を持つ "identical" の次の例をご覧下さい。

(14)When they were walking through the Columbia University campus, they saw a statue of "the thinker". One of them said that there is an identical one in Kyoto.(彼らがコロンビア大学のキャンパスの中を歩いていると、「考える人」の像があるのが見えた。京都にも同じ像がある、とその中の一人が言った)『英語の中の複数と冠詞』(p.116)(The Japan Times)
(15)We hold the identical view on this subject.(我々はこのテーマについて同じ意見を持っている)『同上』(p.116)

(14)の "an identical one" を "the identical one" にすることはできません。"identical" は "same" よりも同一性を強調する語であり、"the identical one" とすると、同一物としての「同じ像」、つまり、「見えている像そのもの」が京都にもあることになってしまいます。一方、(15)の「意見」のような抽象的なことなら、そのような制限はありません。

「適合性」を意味する形容詞

 では次に、形容詞の "very" の話に移りましょう。"very" は語源的には「真実の」を表す形容詞であり、そこから、「現実の、実際の」、さらに「ほかならぬその、全く同じ」、「ちょうどその、まさにその」という意味が生じたと考えられます。形容詞の "very" は「同一性」あるいは「適合性」を強調し、「それ以外のものではない、ほかのものではない」ということを表し、"the, this, that, one's" と用いられます。

(16)He talked to me in this very room.(彼はほかならぬこの部屋で私に話しかけた)『プログレッシブ英和中辞典』
(17)He was the very man for such a position.(彼はそういう地位にはうってつけの人であった)『同上』
(18)This is the very pen he used when he was writing the book. He used that very pen.(これは、その本を書いていたときに彼が使ったまさにそのペンだ。彼はほかならぬそのペンを使ったんだ)『LDCE』

  "very" と同じように「適合性」を強調する語に "right" があります。「最も適切な〜」という場合には定冠詞を伴います。"proper"、"appropriate" についても大体同じことが言えます。

(19)He is just the right man for the position.(彼はその地位にちょうどぴったりだ)『ジーニアス英和辞典』
(20)You've come just at the right time.(本当にいいときに来てくれた)『同上』
(21)This is the proper place for the meeting.(これは会合に最適な場所だ)『新グローバル英和辞典』
(22)These truths must be learned at the proper time and in the proper way.(これらの事実は適当な時に適当な方法で学ばねばならない)『新編英和活用大辞典』
(23)Take the proper amount of exercise and sleep.(適正な量の運動をし、睡眠を取りなさい)『同上』
(24)He has the appropriate background for the job.(彼はその仕事にふさわしい素地をそなえている)『同上』

 この3つの形容詞のうち、"right" は「適した」というよりも「最も適した」という意味に近いため、最上級を "the" と用いるのと同じ感覚で、ほとんどの場合に定冠詞と使われることになります。つまり、"the best" とほとんど同じ意味を持っているわけです。"proper" も "right" ほどではないにしろ、定冠詞と使われることが非常に多い語です。これは、「適した」という意味では比較級や最上級では普通用いられない、ということに端的に表れており、"the proper" で最上級と同じような感じで用いられていることが多いと考えられます。ところが、"appropriate" は定冠詞を伴わないことも多く、また、"more appropriate", "the most appropriate" という形も用いられます。"right" がほとんど機械的に "the" を要求する一方で、"appropriate" は、「まさにぴったりだ、本当に適している」、つまり「ほかにはない」という気持で用いるときには、それを表すために "the" と用い、一方、普通に「適した」という意味で使う場合には、"the" とは用いないということになります。同じように「適した」を意味する "suitable, fit, fitting, apt" なども "appropriate" と同じです。"proper, appropriate" が定冠詞と用いられていない例を挙げます。

定冠詞以外の例

(25)Take a proper amount of exercise and sleep.(適正な量の運動をし、睡眠を取りなさい)『新編英和活用大辞典』
(26)I will take your request to heart and deal with it properly at an appropriate time.(あなたの要望を心に留めておき、適当な時期に善処しましょう)『同上』

(25)の文は(23)の文の "the" を "a" に変えただけですが、意味としては同じです。ただ、微妙な感触の違いがあります。(23)の方は、「運動の適正量が一つに決まっている」という感触がありますが、(25)の方は、「適正量というのはいろいろあるだろうが、そのうちの一つの適正量」という感じがします。(26)の「適当な時期はこの時期しかない」という意味での「適当な時期」ではなく、「いろいろ考えられる適当な時期のうちの一つ」という感じが少しします。(22)の "at the proper time" との感触の違いを確認して下さい。

 「最適の、最良の」の意味で、"only" が用いられることがあります。これは「唯一の」から「比較できるものがない」、「最良の、最適の」という意味で用いられるようになったと考えられます。これも "the best" とほぼ同じ意味で、定冠詞と使われます。また、"the(or one's)one and only" の形も使われます。

(27)He's the only scientist in this field.(この分野では二人といない科学者だ)『ランダムハウス英和大辞典』
(28)That is my one and only hope.(それが私の唯一の希望である)『ジーニアス英和辞典』

「唯一性」を意味する形容詞

 形容詞 "only" の本来の意味である「唯一の」も、当然、「どの〜」かが特定されますから、"the" あるいは "one's" と用いられるのが原則です。

(29)He was the only child in the room.(彼が部屋にいた唯一の子供だった)『ランダムハウス英和大辞典』
(30)This is the only remaining copy.(これが残っている唯一の一冊です)『CGEL』
(31)She is my one and only friend.(彼女は私の唯一無二の親友だ)『新編英和活用大辞典』

 しかし、「一人っ子、一人息子、一人娘」を表す場合は、"the" や "one's" と使われるとは限りません。

(32)I am an only child.(私は一人っ子です)『ロイヤル英文法』(旺文社)

「一人っ子」は世の中にたくさんいますから、「私」はそのうちの「一人」に過ぎません。

  "only" の他に「唯一の」という意味で使われる形容詞には、"sole", "one", "solitary", "exclusive", "unique", "single" などがあります。

(33)The young boy was the sole survivor.(その幼い少年が唯一の生き残りだった)『ジーニアス英和辞典』
(34)He is the sole agent in Greece for a Swedish pharmaceuticals firm.(彼は、スウェーデンのある製薬会社のギリシャにおける一手販売の代理人だ)『新編英和活用大辞典』
(35)The one way to reach the island is by helicopter.(その島に行く唯一の方法はヘリコプターだ)『新グローバル英和辞典』
(36)I'm looking for the one advisor I can trust.(捜しているのはほかでもない信用できる相談相手だ)『ランダムハウス英和大辞典』
(37)Tolstoi's novels and stories, with the solitary exception of the Kreutzer Sonata, were very well received.(「クロイツェル・ソナタ」だけは別だがトルストイの小説類は非常に歓迎された)『同上』
(38)We are the exclusive dealer for Nissan in this country.(私たちは国内での日産の独占販売業者です)『同上』
(39)Immigration will not be the unique solution to that inequality, although it can play a significant part.(移住は、重要な役割を果たし得るが、そのような不平等の唯一の解決策ではないだろう)(入試問題)
(40)Thinking that the single purpose of push buttons was to enable one to complete phone calls faster, I ridiculed anyone who didn't have the time to turn the rotary mechanical dial through seven numbers to call home.(プッシュボタンの目的が、電話をかけ終えるのを早くすることだけだと考えて、機械式の回転ダイヤルで7つの番号を回して家へ電話をかける暇のない人々を私は嘲笑したのだ)(入試問題)

定冠詞以外の例

 これらの形容詞も、必ず "the" と用いられるわけではありません。

(41)Our wholly owned subsidiary in Bonn has sole responsibility for the sale of our products in Germany.(わが社が全面的に出資したボンの子会社はドイツにおけるわが社の製品の販売について独占的に責任を有している)『新編英和活用大辞典』
(42)One way to improve the acoustics of a large hall is to coffer the ceiling and walls.(大きなホールの音響効果を高める1つの方法は天井や壁を格間で飾ることである)『同上』
(43)Not a solitary person remained in the room.(部屋には一人も残っていなかった)『ジーニアス英和辞典』
(44)He lives a solitary life without friends.(彼は友だちもいないひとりぼっちの生活をしている)『プログレッシブ英和中辞典』
(45)Seller hereby appoints Buyer as an exclusive distributor of the Products and Buyer hereby accepts such appointment for the term and upon the terms and conditions set forth in this Agreement.(売り手は契約地における製品の一手販売店として買い手を指名し、買い手は本契約にて規定される諸条件に従い、かかる指名を受諾するものとする)『英辞郎』
(46)I have signed an exclusive agreement with the publishers.(その出版社との専属契約に署名している)『新編英和活用大辞典』
(47)He has a unique personality.(彼には独特の個性がある)『ジーニアス英和辞典』
(48)Not a single clue was found.(手がかり一つ見つからなかった)『新グローバル英和辞典』
(49)A single tree stands on the hill.(丘の上に一本だけ木が立っている)『ランダムハウス英和大辞典』

 これらの形容詞は、上で示した「適切な」を表す "right, proper, appropriate" などと似たような関係があります。"only" は「一人っ子」などの表現以外では、定冠詞と用いられ、"sole" も定冠詞と用いられることが非常に多いのですが、"one, solitary, exclusive, unique, single" などは定冠詞と用いられない方が普通だと言えます。定冠詞と用いられるのは、問題となっている名詞がそれ以外になく、「どの〜」かを特定でき、「唯一の」を意味する場合です。それ以外の場合は、「複数あるもののうちの、ある1つの」であり、「どの〜」ではなく、「どんな〜」かを示します。

「最上、一番、主要、最後」を意味する形容詞

さらに、「一番上の、先頭の、最も重要な、主要な、究極の」など、最上級と同じ意味として使われる形容詞も定冠詞と用いられます。

(50)The breadth of the view from the top floor was startling.(最上階からの展望の広さは驚くべきものだった)『新編英和活用大辞典』
(51)It ranks among the ten top sellers in the US.(合衆国で上位 10 位の売れ行き商品に入る)『同上』
(52)How far ahead of us is the lead car?(先頭の車はわれわれの車をどのくらい離しているか)『同上』
(53)He is the prime suspect in the murder case.(彼はその殺人事件の第1の容疑者だ)『ジーニアス英和辞典』
(54)The alienation of the urban young is the prime cause of all this violence.(都市の若者たちの疎外感がこういった暴力すべての主たる原因だ)『新編英和活用大辞典』
(55)That is the principal consideration.(それが主要な検討すべき点である)『同上』
(56)What is the principal reason for going to school?(学校へ行く第一の理由は何ですか)『ジーニアス英和辞典』
(57)Mr. Meese is the chief legal adviser to the President.(ミース氏は大統領の首席法律顧問だ)『同上』
(58)Rice is the chief crop in this area.(米はこの地域の最も重要な作物である)
(59)The actress has the main role in the play.(その女優はその芝居の主役を演じる)『新グローバル英和辞典』
(60)He led us down to the main road.(私たちを本街道まで連れていってくれた)『新編英和活用大辞典』
(61)The primary purpose of his visit is to improve trading relations.(彼の訪問の主な目的は通商関係を改善することである)『LDCE』
(62)I have the utmost respect for my father.(私は父をこの上なく尊敬している)『ジーニアス英和辞典』
(63)He was the foremost conductor of his day.(彼は彼の時代の一番の指揮者だった)『LDCE』
(64)Our ultimate goal is to establish world peace.(私たちの究極の目標は世界平和を樹立することである)
(65)The sun is the ultimate source of energy.(太陽はエネルギーの根源である)『LDCE』
(66)Bringing back the death penalty would be the ultimate abuse of human rights.(死刑を復活することは最悪の人権濫用であろう)『CCED』
(67)This was the supreme test of her sportsmanship.(これこそ彼女のスポーツマンシップを試す最後の機会だった)『ランダムハウス英和大辞典』
(68)I found it hard to lay the book down until the final page.(最後のページまで読み続けずにはいられなかった)『新編英和活用大辞典』
(69)The eventual aim is the reunification of Korea.(最終的な目標は朝鮮の再統一である)『CCED』

定冠詞以外の例

 しかし、これらの形容詞も「最も〜なものの1つ」というニュアンスであったり、「どの〜」ではなく、種類・性質を意識して「どんな〜か」を述べる場合は、不定冠詞と、あるいは無冠詞で用いられます。

(70)This success rocketed him to a top position in the company.(この成功で彼はたちまち会社で最高の地位にのしあがった)『新編英和活用大辞典』
(71)"…" , ran a newspaper lead story on Monday the 27th July.(「…」と7月27日月曜の新聞のトップ記事に書かれていた)『Collins Cobuild 500万語コーパス』
(72)His welfare is a prime consideration.(彼の幸福が第一に考慮すべき点である)『新編英和活用大辞典』
(73)Illicit cannabis cultivation is becoming a principal source of income of some families.(違法なインド大麻の栽培が主要な収入源になりつつある家庭がある)『the 1995 CIA World Factbook』
(74)Smoking in bed is a chief cause of fatal fires.(寝床の中での喫煙が死者を出した火災の主な原因の1つである)『新編英和活用大辞典』
(75)Some of the precinct wall survives, bordering a main road with its heavy, thundering traffic.(その区域の壁の幾らかはまだ残っており、交通の激しい轟音をとどろかせる幹線道路に隣接している)『Collins Cobuild 500万語コーパス』
(76)This is an issue of utmost consequence.(これはきわめて重大な問題だ)『新編英和活用大辞典』
(77)Ultimate responsibility lies with me.(最終責任は私にあります)『同上』
(78)Who has ultimate(or final)authority?(最終的な権限はだれにあるのか)『同上』
(79)He was a man endowed with almost supreme patience.(彼はおよそ考えられないくらいの忍耐強さを持っていた)『ランダムハウス英和大辞典』
(80)He is a supreme artist in the picture circle.(彼は画壇きっての画家だった)『同上』
(81)On the last Saturday in September, I received a final letter from Clive.(9月の最後の土曜日に私はクライブから最後の手紙を受け取った)『新編英和活用大辞典』
(82)The distortion of natural form and color is a primary feature of his later paintings.(自然の形と色とをデフォルメしていることが彼の後期の絵画の第一の特徴だ)『同上』
(83)There was a disagreement over how to split any eventual profits.(最終的に利益があがった場合のその配分をめぐって意見の食い違いが生じた)『同上』

(70)の "a top position" は「ただ一人が占める地位」ではなく、「複数の人が占めている最高ランクの」という意味だと考えられます。また、"a top newspaper" と言えば、「最高の新聞」ではなく、「一流の新聞」であり、「複数ある一流の新聞のうちの1つ」のことです。(71)の "a lead story" は「トップ記事」ですが、「いろいろあるトップ記事の、ある1つ」です。これは、"lead story" 自体が「トップ記事」という意味で、すでに固定化した表現であることも影響しています。(72)は "the prime consideration" としてもほとんど意味は変わりませんが((55)を参照)、"a" を使っているのは、「新たに紹介する概念」として「考慮すべき点であるとしても、どのような考慮点」であるかを述べることに意識が向いていると考えられます(これについては、不定冠詞を述べる際に詳述する予定です)。(73),(74)も同様であり、"the" にしても大して代わりませんが、「収入源、原因が、どのような収入源、原因」であるかを強調し、性質・種類を強調しているとも言えます。(75)は(71)の「トップ記事」と同様で、"main road" が「幹線道路、主要道路」という意味で、固定化しています。(76)は "of consequence" が熟語化した表現であるため、冠詞が省かれています(これは、無冠詞を述べる際に詳述する予定です)。しかし、"utmost" が「最大の」という最上級の意味であると意識すれば、"of the utmost consequence" とすることもできます。(77)と(78)は(71),(75)と同様で、「最終責任」、「最終権限」の意味で、固定化し、よく用いられるために "the" が落ちています。もちろん、"the" を付けても構いません。(79)は、(76)と同じで、"with patience" で "patiently" を表し、熟語化しているため、定冠詞は省かれています。また、この文では、"almost" があり、性質・種類に焦点があるためでもあります。(80)は(70)と同じで、「最高レベルの画家の一人」というニュアンスがあります。"the supreme" にすると、まさに「最高の」ということです。(81)は性質・種類の強調であり、"final" が強調されています。これは、"final" が、"last" のように「一連のものの最後」を表すのではなく、「これで終わり、完結する」という性質を表す語であるからだと考えられます。"the final letter" にすると、いま話題にしている「その最後の手紙」という意味に解釈されたり、"the" が持つ穏やかさのために "final" であることが少しぼやけてしまうために、形容詞を強調する "a" が用いられていると考えられます。(82)は(72),(73),(74)と同様です。(83)は、まだ生じていない「利益」について述べており、「どの利益か」が特定されていないために、"the" が用いられていません。"the" にすると「既に得た最終的な利益」の意味に解釈されます。

形容詞の最上級

 定冠詞と用いられる場合の典型的な例として、最上級の形容詞、序数詞を伴う名詞があります。まず、最上級から。

(84)This is the most beautiful picture in my album.(これは私のアルバムの中で一番美しい写真です)『ロイヤル英文法』(旺文社)
(85)This is the most difficult problem.(これが一番難しい問題だ)『同上』
(86)This is the finest view that I have ever seen.(これは私が今までに見た中で一番すてきな景色だ)

  "the" が使われるのは、最上級の形容詞を用いることで、複数の名詞(写真、問題、景色)のうち「どの名詞」であるかが特定されていると考えられるからです(相対的最上級)。

最上級の後の名詞が省略されている場合

次に最上級の後の名詞が省略されている場合です。

(87)Amanda was the youngest of our group.(アマンダは私たちのグループの中で一番若かった)『CCEU』
(88)February is the shortest of all the months.(2月は全ての月の中で一番短い)『ロイヤル英文法』(旺文社)
(89)These cakes are probably the best in the world.(これらのケーキはおそらく世界で最も素晴らしい)『CCEU』
(90)It's the best (book) I have ever read.(これは私が今まで読んだ中で一番良い本だ)『PEU』
(91)This one's the fastest.(これが一番速い)『同上』
(92)I'm the greatest.(私が一番偉いんだ)『同上』

 しかし、このような相対的最上級で、補語の場合に "the" が省略されることもあります。これは、くだけた表現、あるいは俗語的です。

(93)Memory is(the)strangest of all human faculties.(記憶は人間のすべての器官の働きのうちで最も不思議なものである)『英文法解説』(金子書房)
(94)Wool and cotton blankets are generally cheapest.(ウールと綿の毛布が一般的に一番安い)『CCEU』
(95)Della is most efficient.(デラは最も有能である)『英文法解説』(金子書房)

なお、(90)のように関係詞節を伴う場合は、"the" は省略しません。これは、先行詞であるために、名詞としての働きが強いからだと考えられます。(93)のように "of 〜" がある場合も、"the" を付けるのが普通です。

絶対的最上級

 (95)の文は、「デラは非常に有能である」という意味にも解釈できます。これは、他の人たちと厳密な意味での比較ではなく、漠然と「最も〜なものの一つ・一人、極めて〜、非常に〜」を表していると考えられる場合です(絶対的最上級)。この場合、普通、定冠詞は用いられません。

(96)She was most rude to me.(彼女は私にとても失礼な態度をとった)『CGEL』
(97)His failure is plainest.(彼の失敗は極めて明白だ)『ロイヤル英文法』(旺文社)
(98)They were most kind people.(彼らはとても親切な人たちだ)『同上』
(99)Jack is a most clever man.(ジャックはとても利口な男だ)『同上』
(100)She has a most likable personality.(彼女はとても好感の持てる性格です)『英文法解説』
(101)It was no idle boast; he really had written a best seller.(それは根も葉もないほら話ではなかった。彼は実際にベストセラーを1冊書いていた)『新編英和活用大辞典』
(102)He is in closest touch with international affairs.(彼は国際事情に精通している)『同上』
(103)I owe her deepest gratitude.(彼女にはとても感謝しています)『ロイヤル英文法』(旺文社)

(101)の "best seller" は成句化して、普通の名詞と同じ扱いになっています。(102),(103)の "touch", "gratitude" は、不可算名詞なので無冠詞になっています。

相対的最上級と絶対的最上級の中間現象(誇張的最上級)

 また、絶対的最上級なのか、相対的最上級なのかあいまいな場合もあります。

(104)Isn't she the most beautiful woman?『ロイヤル英文法』(旺文社)

この文は、相対的最上級であれば、「彼女が一番美人じゃない?」ということであり、絶対的最上級であれば、「彼女はすごい美人じゃない?」という意味になります。後者の意味の場合、相対的最上級の形を使いながら、絶対的最上級の意味で用いているわけで、"the 最上級" の形が濫用されていると言うこともできます。これをとりあえず、「誇張的最上級」と呼んでおきます(関口存男氏は、「誇張的最高級」と呼んでいます)。誇張的最上級は、一般的に、強い感情、心からの気持を表したい場合や、仮定的認容の場合(いわゆる "even" を補って解釈できる場合や "even" と使われている場合)です。

(105)I'll do so with the greatest pleasure.(心から喜んでそういたします)
(106)May I offer you my deepest apologies?(心からの謝罪を申しあげたいのですが)『新編英和活用大辞典』
(107)Give my best(or kindest)regard to Mr. Johns.(ジョーンズ氏によろしくお伝え下さい)『ジーニアス英和辞典』
(108)The best musician is liable to make a mistake when he is tired.(どんな優れた音楽家でも疲れているときは間違いを犯しやすい)『英文法解説』(金子書房)
(109)The fastest rocket would not reach the nearest star in two or three years.(最も速いロケットでさえも一番近い星に2,3年では着かないであろう)『ロイヤル英文法』(旺文社)
(110)Even the slightest touch will break a soap bubble.(シャボン玉はちょっとでも触れれば消えてしまう)『英文法解説』(金子書房)

同一の人や物の性質・状態の比較

 さて、話を進めます。以上の最上級は、複数の対象を比較している場合ですが、同一の人や物の性質・状態などを比較する場合は、原則として "the" を用いません。「どの名詞か」を特定しているわけではないからです。

(111)The lake is deepest at this point.(その湖はこの地点が最も深い)『英文法解説』(金子書房)
(112)The rain was heaviest then.(雨はそのときが一番激しかった)『ロイヤル英文法』(旺文社)
(113)She feels happiest when she is cooking.(彼女は料理をしているときが一番楽しい)『英文法解説』(金子書房)
(114)The cherry blossoms are most beautiful at this time of April.(その桜の花は4月のこの時期が一番美しい)『ロイヤル英文法』(旺文社)

なお、この用法の場合、米語では "the" を付けることもあります。これは "the+最上級" という形が頻繁に用いられたために、その習慣で "the" を用いていると考えられます。(114)に "the" が付加されている場合、「4月のこの時期には、その桜の花が(すべての花の中で)一番美しい」という解釈もできます。

副詞の最上級

 では次に、副詞の場合です。結論から言えば、副詞の最上級には、"the" を付けても付けなくても構いません。一般的傾向から言えば、イギリス英語よりも米語の方が、"the" を付けることが多く、また、副詞と形容詞が同形の場合や、"of 〜", "in 〜" のような修飾語句が付随する場合に "the" を用いることが多いと言えます。

(115)We like this(the)most.(私たちはこれが最も好きだ)『教師のためのロイヤル英文法』(旺文社)
(116)He has worked here(the)longest.(彼はここで一番長く働いている)『同上』
(117)I will give the cake to the child who asked for it most politely.(そのケーキを一番礼儀正しく求めた子供に与えよう)『同上』
(118)She used to wake up earliest of all.(彼女は全員の中で一番早く起きたものだ)『同上』
(119)Of all the students Jim does his work the most carefully.(全生徒の中で、ジムが一番気を入れて勉強をする)『英文法解説』(金子書房)
(120)She writes the most cleverly of all the students in the class.(彼女はクラスの全学生の中で最も上手に書く)『教師のためのロイヤル英文法』(旺文社)

序数詞および next, last

 次に序数詞と "next", "last" について見ていきます。序数詞、"next", "last" の付いた名詞も、最上級の場合と同様に「どの名詞」であるかが特定されたとみなされて、定冠詞と用いるのが原則です。

(121)He was the first(man)to arrive and the last to leave.(彼は最初に来て、最後に去った)『英文法解説』(金子書房)
(122)He is the third fastest runner in the class.(彼は走るのが3番目に速い)『ジーニアス英和辞典』
(123)The fourth month of the year is April.(1年の4番目の月は4月である)『ルミナス英和辞典』
(124)We must catch the(× a)next bus.(私たちは次のバスに乗らなければならない)『CGEL』
(125)I visited Washington and then went to New York the next week.(私はワシントンを訪れて、その翌週ニューヨークへ行った)『ルミナス英和辞典』
(126)You may skip the next ten pages.(次の10頁は飛ばしてもよい)『新グローバル英和辞典』
(127)He was the last man in the race.(彼は競争でビリだった)『ジーニアス英和辞典』
(128)He has been away from home for the last week.(ここ1週間彼は留守にしています)『新グローバル英和辞典』

不定冠詞の例

 序数詞としての意味が弱くなって、"another" に近い「さらにもう一つの」という意味で用いられる場合、つまり、追加的に何かを紹介する場合には不定冠詞と用いられます。

(129)They went on a second voyage.(彼らはまた航海に出た)『ルミナス英和辞典』
(130)One of the coins was gold, another was silver and a third was copper.(貨幣の1つは金貨、もう1つは銀貨、さらにもう1つは銅貨だった)『同上』
(131)By his first two marriages he had ten children, and the choice of the person to succeed him was further complicated by a third marriage late in life to a woman who was never fully accepted by the children of his former marriages.(最初の2度の結婚で彼には10人の子供がいた。そして後継者選びはその10人の子供から決して十分に受け入れられていない女性との彼の晩年になってからの3度目の結婚によって、一層、複雑になった)(大学入試問題)

 また、順序、序列をあまり意識せずに、つまり、他と比較して何番目であるか、ということを重視しないで述べる場合も、不定冠詞が用いられます。やはり、性質・種類が強調されます。

(132)Is this dress too much for a first date?(最初のデートにこのドレスはあんまりかしら)『英辞郎』
(133)There is always a first time.(最初はうまくいかなくても仕方ない)『同上』
(134)The enterprise was a first step toward mapping the universe.(その企ては宇宙を計測するための第一歩だった)『新編英和活用大辞典』
(135)On first impression(s), it seemed to be a nice place.(第一印象ではとてもよい場所のように思われた)『同上』
(136)Because it was a first offense, his misdemeanor was pardoned.(初犯だったので彼の軽罪は釈免された)『同上』
(137)He fell in love with her at first sight.(彼は彼女にひと目ぼれした)『同上』
(138)I'm going to become the kind of man girls turn around to get a second look at.(私は、女の子が思わずエッと振り向くような男になります)『英辞郎』
(139)Custom is a second nature.(習慣は第2の天性)『同上』
(140)The option for a second language is between French and German.(第二外国語の選択はフランス語かドイツ語です)『新編英和活用大辞典』
(141)I heard it through a third person.(第三者を通してそのことを聞いた)『同上』
(142)Next time−if there is a next time−be more polite.(この次には−そんな機会があればのことだが−失礼にならないようにしなさい)『同上』
(143)Did those present constitute a group with sufficient common interests to propose a next step or next steps?(出席した人たちは、次の措置を提案するに十分な共通の利害を持つ人たちで構成されていたのか)『9-10 June 1992 Library of Congress Washington, D.C.』
(144)Although effective as a last resort, they are inconvenient.(最後の手段としてそれらは有効だが、不便である)(入試問題)
(145)I knew then I had to make a last effort.(そのとき最後の一踏ん張りをしなければならないことは分かっていた)(入試問題)
(146)The prisoner is asked by the officer in charge if he wants to smoke a last cigarette.(囚人は担当官から最後のタバコを吸いたいかどうか尋ねられる)(入試問題)

定冠詞と用いられない、このような「序数詞+名詞」は、上記(101)の "best seller" と同じように、決まり文句化しているものが多いと言えます。ただ、これらの「序数詞+名詞」が定冠詞と用いられることももちろんあります。

(147)The first step in the process is to press the dough flat.(作り方の第1段階はこね粉を押して平らにすることです)『新編英和活用大辞典』
(148)Here elephants usually run at the first sight or scent of man.(ここでは、象は普通人間の姿を初めて見たり、臭いがすると走る)『Collins Cobuild 500万語コーパス』
(149)Penalties become heavier after the first offense.(再犯からは罰が重くなる)『新編英和活用大辞典』
(150)In the last resort we will undertake legal proceedings.(最後の手段として当方は起訴することにします)『同上』

(147),(148)はそれぞれ "in the process", "of man" が付くことで特定されているために "the" が用いられています。(149)は、"a first offense" の場合、不定冠詞によって "first" が強調されていると感じられるわけですが、その強さを穏やかにし、客観的な感触にするために "the first offense" になっていると考えられます(これは通念の定冠詞です)。(150)は "in the last resort" で熟語であり、"the" は形式的な定冠詞(温存定冠詞)と考えられます。

無冠詞の例

 序数詞が、単独で、形容詞的な修飾語を伴わずに補語として用いられる場合は、通例、無冠詞です。

(151)He was first in the race.(彼はレースで1位だった)『ジーニアス英和辞典』
(152)I was always second at Latin after my sister.(ラテン語では常に妹についで2位だった)『新編英和活用大辞典』
(153)He is fifth in seniority on the roll of cardinals.((ローマ法王庁の)枢機卿の名簿の先任順位で5番目である)『同上』

対比を表す形容詞

 次に、対比を表す形容詞が、定冠詞の使用で問題となります。まず、対象を2つに分け、そのうちの一方を選択した、という意識が働く場合、2つのうちどちらか一方に特定されたと見なして、定冠詞を用います。まず、比較級の例から(絶対比較級)。

(154)I prefer the former plan to the latter.(前者の計画の方が後のより好ましい)『ジーニアス英和辞典』
(155)She lay on the upperlower)bunk.(彼女は上(下)の寝台に横になっていた)『新編英和活用大辞典』
(156)Man has dominion over the lower animals.(人間は下等動物に君臨している)『同上』
(157)Most of the higher animals exhibit a pecking order.(たいていの高等動物は序列(の存在)を示している)『同上』
(158)It's time to pass the baton on to the younger generation.(若い世代にバトンを渡してもよいころだ)『同上』
(159)Not only a few people speak Gaelic, and they are mostly from the older generation.(ゲール語を話す人は少なくはなく、たいてい旧世代の人たちである)(入試問題)
(160)Which is the larger half?((二分して)どちらが大きいか)『新編英和活用大辞典』

これらの用法は、本来、次のような例から発展したと思われます。

(161)Look at these two watches. Which is the cheaper(of the two)?(この2つの時計を見て下さい。どっちの方が安いかしら)『英文法解説』(金子書房)

なお、

(162)Of the pig and the cow, the latter(animal)is(the)more valuable.(ブタとウシのうち、後者の方が貴重である)『英語語法大辞典・第4集』(大修館書店)

のように、"of 〜" が比較級の直後にない場合は、"the" は省略できます。省略した方がくだけた表現になります。

 さらに、対比を表す形容詞の例を挙げます。「正しい、間違い」、「右の、左の」などです。

(163)This watch gives the right time.(この時計は正確だ)『ジーニアス英和辞典』
(164)Nobody knows the right answer to this problem.(この問題に対する正しい解答は誰れにもわからない)『新編英和活用大辞典』
(165)See that you take the right train.(列車を間違えないようにしてください)『同上』
(166)He has a knack for saying the wrong thing at the wrong time.(彼はまずいときにまずい事を言うくせがある)『同上』
(167)You have taken the wrong train.(あなたは行き先の違う電車に乗りましたね)『ルミナス英和辞典』
(168)I'm afraid you have the wrong number.(番号が間違っています)『同上』
(169)There is little sensation in the right hand.(右手にほとんど感覚がない)『新編英和活用大辞典』
(170)His silver hair was parted on the right side.(彼は銀髪を右側で分けていた)『同上』
(171)Use the first finger of the left hand.(左手の人さし指を使いなさい)『同上』
(172)In Australia one drives on the left side of the road.(オーストラリアでは車は左側通行です)『同上』
(173)There are some who hold the opposite view on this question.(この問題に関しては正反対の意見をもっている人もいくらかいる)『同上』
(174)The current tendency is in just the reverse direction.(目下の傾向はその正反対である)『同上』

以上は、2つの例ですが、「東西南北」のようなケースも結局同じです。

(175)Conflict is brewing in the southern region.(南部地域で衝突が起ころうとしている)

このような例については、いずれ、「通念の定冠詞」で述べる予定です。

定冠詞以外の例

 対比を表す形容詞についても、ここまで扱った形容詞と同じように、定冠詞と用いられない場合もあります。これは、「対象を2つに分け、そのうちの一方を選択した、という意識が働かない場合」であり、不定冠詞の場合は、3つ以上の対象のうちの1つであったり、次の形容詞を強く打ち出し、性質としての意味を強調する場合です。無冠詞の場合は、不可算名詞であったり、熟語化している場合です。「正しい」という意味の "right" は「(最も)適切な」の場合と同じく、定冠詞と使われるのが原則ですが、複数の正解があるような場合は、"a right answer" とも言えます。

(176)We do not know for certain how she(= the wasp)identifies the tarantula − probably it is by some olfactory or chemo-tactile sense − but she does it purposefully and does not blindly tackle a wrong species.(ハチがタランチュラの種をどのようにして見分けるのか、確かなことはわかっていないが、おそらく、嗅覚か化学的な触覚によって見分けるものと思われる。しかし、ハチは意図してそうするのであって、違う種のクモをやみくもに襲うわけではない)(入試問題)
(177)A right turn; not a left turn, you fool.(右に曲がるんだ、左じゃないよ、 ばかだな)『新編英和活用大辞典』
(178)I take quite an opposite view.(私の意見は正反対です)『同上』
(179)Try to say the alphabet in reverse order.(アルファベットを逆順に言ってみなさい)『新グローバル英和辞典』
(180)I tried to bring the salesman down to a lower price.(セールスマンに値引きさせようとした)『新編英和活用大辞典』
(181)The Supreme Court returned the case to a lower court.(最高裁判所はその件を下級裁判所に差し戻した)『同上』
(182)He is a former Chief Justice of the United States.(彼は元アメリカ最高裁判所長官である)『同上』

(180)は絶対比較級ではなく、普通の比較級です(相対比較級)。(181)は "best seller" と同じで(上記(101))、"lower court" が「下級裁判所」という普通の名詞になってしまっています。(182)は「複数の元最高裁判所長官の1人」ということです。

「全体」を表す形容詞

 最後に、「全体の」を表す形容詞を扱います。これまで見てきたように、定冠詞 "the" は「どの〜か」が特定され、「それ以外はない」という意識が働いた場合に用いられます。そこで、「全体の〜、全ての〜」というとき、対象の全てを指すと、当然、それが全てなのですから、「それ以外はない」ことになります。そして、その集合の組み合わせは、それしかなく、特定されていると見なされることになります。

(183)She read the whole book.(彼女はその本を全部読んだ)『ルミナス英和辞典』
(184)The Internet makes the whole world your playground.(インターネットは全世界をあなたの遊び場にしてしまう)『ジーニアス英和辞典』
(185)Give me the whole story.(洗いざらいぶちまけなさい)『同上』
(186)Take these two. She wants(all)the other three(apples).(この2つも持って行きなさい。彼女は残りの3つ(のりんご)を欲しがっている)『ルミナス英和辞典』
(187)His bravery encouraged the other soldiers.(彼の勇敢な行為はほかの兵士たちを勇気づけた)『新編英和活用大辞典』
(188)I slept away the entire day.(まる1日眠りに眠った)『新グローバル英和辞典』
(189)The complete circuit takes about an hour.(一周するとほぼ 1 時間かかります)『新編英和活用大辞典』

これらを見てわかることは、この定冠詞は、"whole, other, entire, complete" が使われたために用いられているのではなく、状況から、「どの本、どの世界、どの話、どのリンゴ」などが特定されているために用いられています。そうでなければ、定冠詞は用いられません。

定冠詞以外の例

(190)Whole rivers in this region are polluted.(この地域の川は川全体が汚染されている)『ルミナス英和辞典』
(191)He drank a whole bottle of milk.(彼は1本分のミルクを全部飲んだ)『同上』
(192)We had a scuffle with some other students.(ほかの何人かの学生とこぜりあいがあった)『新編英和活用大辞典』
(193)He remained there an entire month.(彼はその場所に丸1か月滞在した)『同上』
(194)He failed to make a complete circuit.(彼は一巡できなかった)『同上』

"whole" は、"the whole 複数名詞" と "the whole 不可算名詞" の形では使いません。"whole 可算名詞" は可能です。『ジーニアス英和辞典』の説明の一部を引用します。
〇 the whole of the members = all(of)the members
× the whole members
○ all(of)the beer
× the whole beer
また、"the other 複数名詞" は「その他の名詞全て」を表します。

まとめ

 さて、形容詞と冠詞について、ここまで長々と述べてきましたが、結局、「どの名詞」かが特定されており、「ほかにはない」と見なされた場合には定冠詞を使う、ということです。定冠詞が持つこの性質、つまり「特定されており、それ以外のものではない」ということを示す性質が、「同一性、唯一性」を表す代表的な語である "same", "only", "very" などとすぐに結び付き、一緒に用いられることにつながります。また、「最適の、最上の、究極の」を表す形容詞、さらには最上級、序数詞と結び付くことになります。初級の段階では、これらの場合は、機械的に "the" と使う、と覚えてしまうのが良いでしょうが、中級から上級になれば、それで満足しているわけには行きません。これらの形容詞は、本来、"the" と用いられることにより、初めて「同一性、唯一性、最上性」など、特定されたと見なされている、ということがはっきりするのです。"the" と使うことによって、本当の意味での「同一の、唯一の、まさにその、最も〜」を表すことができるわけです。このように考えてみると、"the" が持つある種の含みが最も明確に表れているのが、今回見てきた "the 形容詞 名詞" の場合であると考えられます。つまり、"the" が暗示している「唯一性」を、"same, only, very, right, 最上級" などを一緒に使うことで明示しているに過ぎないわけです。これは、マークピーターセン著「日本人の英語」(岩波新書)に述べられていることを想起させます。p.11からの引用です。
 日本の英文法書では "a(an)" の「用法と不使用」を論じるとき「名詞に a がつくかつかないか」あるいは「名詞に a をつけるかつけないか」の問題として取り上げるのが普通である。ところが、これは非現実的で、とても誤解を招く言い方である。ネイティブ・スピーカーにとって、「名詞に a をつける」という表現は無意味である。
 英語で話すとき――ものを書くときも、考えるときも――先行して意味的カテゴリーを決めるのは名詞ではなく、a の有無である。そのカテゴリーに適切な名詞が選ばれるのはその次である。もし「つける」で表現すれば、「a に名詞をつける」としかいいようがない。「名詞に a をつける」という考え方は、実際には英語の世界には存在しないからである。
この引用文の "a" は "the" に代えても同じです。"話し手と聞き手の両者にとって、「どの...?、どれ?、どちら?」という問いに答えているという点で既知であると前提されてよろしい" と感じた場合、まず、"the" が選ばれ、それから形容詞や名詞が選ばれて行くわけです。一方、"話し手と聞き手のどちらか一方またはその両者にとって、なんらかの意味において、未知と前提されてよろしい" と判断し、「どんな...?、どのような...?」ということに重点を置いて述べようとする場合、"a" が選択されることになります。

 次回に検討する予定である "名詞+前置詞 〜" の名詞に定冠詞を用いるのか用いないのか、という問題の場合も、多くの場合、「特定されており、それ以外のものはない」と考えるか、考えないか、という問題に帰着することになります。


辞書・参考書の略語
LDCE:『Longman Dictionary of Contemporary English』
CGEL:『Comprehensive Grammar of English Language』
CCEU:『Collins Cobuild English Usage』
PEU:『Practical English Usage』

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