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目次

<冠詞に関する覚え書>
指示力なき指示詞としての定冠詞:直接規定

第8話 A of B
(主格・目的格関係の of を中心に)




= 覚え書(8) =

「A of B」(of が主格関係・目的格関係を表す場合)

今回は、まず、"A of B" の "A" が「動作・状態を表す名詞」で、特に「B を A すること」あるいは「B が A すること」のような意味関係を表す場合に注目しましょう。
 最初に "A" が動名詞の場合です。この場合は、"A" の前に定冠詞を伴うのが一般的です。

(1)The singing of carols is an ancient Christmas custom.(聖歌を歌うことは古くからのクリスマスの習慣である)『英文法解説』(金子書房)
(2)The shooting of birds is forbidden.(鳥を撃つことは禁止されている)『同上』
(3)the bringing up of a child(子供を育てること)『ジーニアス英和辞典』
(4)the falling of rocks(岩が落ちること)『ルミナス英和辞典』
(5)The child suffered from the cruel teasing of her classmates.(その子は同級生の残酷ないじめを受けた)『英文法解説』

 次は "A" of "B" の "A" が名詞のケースです。まず、次の文章を見て下さい。

(6)Equivocation is a particularly powerful paste for pouring into the cracks of international discord. It joins irreconcilable differences with a smooth and undetectable finish. Many "full and frank" discussions are terminated happily by the appearance of a joint treaty, whose wording is carefully chosen to mean entirely different things to each of the countries that have signed it.(曖昧な表現は、国家間に生じた不和の割れ目に注入するための特に強力な接着剤である。それは相容れない意見の不一致を、滑らかで目立たない仕上げで接合するのである。多くの「十分で率直な」議論は、共同文書の登場で成功裏に終わる。なぜなら、共同文書の言葉遣いは、それに調印した国それぞれにとって全く異なることを意味するように注意深く選ばれているからである。)(大学入試)
(7)Another group that excelled in mapmaking was the Chinese. From well before the time of Christ until some fifteen hundred years later, the Chinese enjoyed the world's highest standard of living. Prosperous and agriculturally rich, China was a well-organized, comfortable society, far advanced in science and practical invention. Chinese mathematicians may have developed the zero and the decimal system and introduced it to the Hindus who passed it to Baghdad. Surpassing the Mesopotamians, Chinese astronomers kept the longest and most continuous records of celestial events, and Chinese records mention such events as the appearance of a comet in 2296 B.C.(地図製作で卓越していたもう一つのグループは中国人だった。キリストの時代のずっと前から約1500年後まで、中国人は世界で最も高い生活水準を享受していた。繁栄し、肥沃な土地をもつ中国は、しっかりと組織だった快適な社会であり、科学でも実践的な発明においてもはるかに進んでいた。中国の数学者は、ゼロ記号や十進法を生み出していたかもしれないし、バクダットにそれを持ちこんだヒンドゥーへそれを伝えていたのかもしれない。メソポタミア人をしのいで、中国の天文学者は天体事象の最も長期的かつ継続的な記録を残した。中国の記録では、B.C.2296年の彗星の出現のような出来事まで述べられている。)(大学入試)

このように長い文章を引用したのは、"appearance" の前にある "the" が文脈やその場の状況から「どの出現、何の出現」であるかが特定されているために付されたのではなく、"appearance" の後にある "of a joint treaty" と "of a comet in 2296 B.C." によって特定されているためであることを示したかったからです。「〜すること」を表す動作名詞は、このように "the" が付くことが普通です。

 少し詳しく見ていきましょう。

(8)The discovery of penicillin was a signal achievement.(ペニシリンの発見はめざましい功績だった)『新編英和活用大辞典』
(9)The discovery of America was contemporaneous with the fall of Granada.(アメリカの発見はグラナダの陥落と同時代であった)『同上』
(10)The invention of the alphabet is usually ascribed to the Phoenicians.(アルファベットは通例フェニキア人が作ったとされている)『同上』
(11)This decline began with the invention of the optical chip.(この衰退は光学用チップの発明と共に始まった)『同上』
(12)He was overjoyed at the acceptance of his poem by the newspaper.(彼は新聞に自分の詩が採用されて狂喜した)『同上』
(13)The development of polio vaccine was the crowning achievement of Jonas Salk's career.(小児麻痺ワクチンの開発はジョナス・ソークの生涯の最高の業績だ)『同上』
(14)The rise of the Church coincided with the decline of the Roman Empire.((キリスト)教会の勃興はローマ帝国の衰退と時を同じくしていた)『同上』
(15)There was a time lag between the introduction of robots and the start of full production.(ロボットの導入と本格的生産開始との間に時間的ずれが生じた)『同上』
(16)Japan has outstripped the West in the production of many industrial goods.(日本は多くの工業製品の生産において西欧をしのいでいる)『同上』
(17)Increased sales required an adjustment in the calculation of production totals.(販売量がふえたので総生産量の計算の上方修正が必要だった)『同上』

以上の例は、実際に起こったこと、実際に行われたこと、あるいは実際に行われていることです。「ペニシリンやアメリカの発見」、「アルファベットや光学用チップの発明」、「自分の詩が採用されたこと」など、現実の起こったことであり、「多くの工業製品の生産」や「総生産量の計算」は実際に行われていることです。このような場合は、当然、特定の「発見」であり、「発明」であり、「生産」であり、「計算」であると考えられますから、"the" を付けることになります。

不定冠詞の例

 不定冠詞や無冠詞になることはかなり特殊な場合に限られます。例えば、次の文をご覧下さい。

(18)A discovery of opal in 1915 led to the foundation of Cooper Pedy, the largest opal-mining town, in South Australia.(1915年のオパールのある発見が、南オーストラリア最大のオパール鉱脈の町であるクーパー・ペディの誕生につながった)
(19)In his poems, she writes, "his discovery of himself is a discovery of America; …"(彼の詩において、「彼の自分自身の発見はアメリカの発見である; …」と彼女は書いている)
(20)On the circumnavigation of Africa by the ancients − 2. An examination of the pretensions of Martin Behaim to a discovery of America prior to that of Columbus, with a chronological detail of all the discoveries made in the 15th century −(古代人によるアフリカの周航に関して − 2. コロンブスよりも前にアメリカを発見したというマーチン・ベーハイムの主張に関する調査。15世紀に行われた発見全てについての年代順の詳細を含む −)

(18)の「オパールの発見」は、世界で初めての「オパールの発見」ではなく、「いろいろなオパールの発見の1つ」のことを述べています。(19)と(20)は、通例誰もが考える例の「アメリカの発見」ではなく、別の意味での「アメリカの発見」です。いろいろな「アメリカの発見」の1つであり、個別性が意識されているわけです。関口存男氏は、不定冠詞に次の4段階の含みがあると述べています。
[1]個別差の含み:1つの〜
[2]不定性の含み:ある〜
[3]質の含み:ある種の〜
[4]仮構性の含み:何らかの〜
(18)から(20)のような例では、これらの含みが前面に出ています。例えば、(18)は個別性や不定性の含みが、(19)は個別性からさらに不定性や質の含みが、(20)はさらに仮構性の含みが明示されていると考えられます。これらの含みを強く意識すれば、定冠詞ではなく、不定冠詞が用いられることになります。

無冠詞の例

(21)In 1992 Brazil issued this se-tenant stamp to commemorate the 500 years of Discovery of America and the Christopher Columbus.(1992年、ブラジルは、アメリカ発見500年とクリストファー・コロンブスを記念するためにこの二枚切手シートを発行した。)

この文では、大文字で始められていることからも分かりますが、the year of "Discovery of America" というように引用符で括った感じに近くなっており、"Discovery of America" という言葉それ自体が前面に押し出されています(関口存男氏はこれを「掲称」とか「掲称的語局」と呼んでいます)。「アメリカの発見」のように通例定冠詞が用いられる表現が、無冠詞になるのは非常に特殊な場合だと考えられます。

以上の不定冠詞と無冠詞に関しては、いずれ詳しく述べる予定です。

「A of B」の「A」が一般論の場合

 では、次に進みましょう。以下の例をご覧下さい。

(22)The appearance of a comet was regarded as highly propitious.(彗星の出現は大変幸運なものとみなされた)『新編英和活用大辞典』
(23)She has abundant faith in the appearance of disembodied spirits and in their occasional intervention in human affairs.(肉体を離れた亡霊が現われ、ときとして人間世界の事柄に介入すると深く信じている)『同上』
(24)The achievement of full democracy requires a willingness to suffer and fight.(完全な民主主義を達成するには苦しみ闘う覚悟が必要だ)『同上』
(25)The reduction of a complex issue to a single question inevitably leads to misunderstandings.(複雑な問題点を単一の問題に還元すると誤解を招くことが避けられない)『同上』
(26)These two examples, together with other evidence, suggest that language must be learned before a certain age if it is to be mastered completely. Once a certain very important period has passed, the ability to learn language declines rapidly. Supporting this conclusion is the observation of how readily young children learn a second language, a talent that is the envy of many an adult preparing to travel abroad.
(これら2つの例とその他の証拠から、もし言語を完全に習得しようとするなら、ある年齢以前に学習しなければならないということがわかる。非常に重要な一定の時期が過ぎてしまうと、言語を習得する能力は急速に衰えてしまう。この結論を裏付けるのは、幼い子供たちが2番目の言語をいかに簡単に習得するかの観察である。この才能は、海外へ旅する準備をしている多くの大人たちの羨望の的である。)(大学入試)
(27)Therefore, Americans tend to believe that government can safely serve only one purpose: to create conditions favorable to the protection of the freedom of the individual. They generally are strongly opposed to the view that government ought to have a collective purpose, such as the achievement of national glory.(従って、アメリカ人は政府はたったひとつの目的、すなわち個人の自由を守ることに都合の良い状態を創り出すという目的にのみ奉仕していればさしつかえないと考える傾向にある。彼らは、一般に、政府が国の名誉を勝ち取るといった集団的な目標を持つべきだという考えに強く反対する。)(大学入試)

以上の(22)から(27)の例は、具体的に起こったことというよりも、一般論としての「彗星の出現」、「肉体を離れた亡霊の出現」、「完全な民主主義の達成」などであるわけですが、やはり定冠詞が用いられています。一般的なこととして述べられる場合も定冠詞が普通です。さらに、特に主語の位置にある場合に注目して、『Collins Cobuild English Dictionary』の単語の定義の仕方を見てみましょう。

(28)The announcement of something that has happened is the act of telling people about it.(起こったことの公表とはそのことについて人々に告げる行為である)
(29)The accomplishment of something is the fact of achieving or finishing it.(あることの達成とはそれを成し遂げたり、完了することである)
(30)The continuation of something is the fact that it continues, rather than stopping.(あることが継続するとはそれが続き、止まらないことである)
(31)The disappearance of a type of thing, person, or animal is a process in which it becomes less common and finally no longer exists.(ある種の物、人、動物が消えるとは、それが一般的ではなくなり、最終的に存在しなくなる過程である)
(32)The alteration of something is the process of changing it.(あることの変更とはそれを変える過程である)
(33)The application of a rule or piece of knowledge is the use of it in a particular situation.(ある規則や知識の適用とは、それを特定の状況で用いることである)
(34)The cessation of something is the stopping of it.(あることの停止とはそれを中止することである)
(35)The expression of ideas or feelings is the showing of them through words, actions, or artistic activities.(考えや気持の表現とは、それらを言葉、行動、芸術活動を通して示すことである)
(36)The provision of something is the fact of giving it or making it available to people who need or want it.(何かを提供するとは、それを必要としたり欲している人々にそれを与えたり、利用できるようにすることである)
(37)The measurement of the quality, value, or effect of something is the activity of deciding how great it is.(あるものの質、価値、効果の測定とは、それがどの程度であるかを決める行為である)
(38)When the discovery of people or objects happens, someone finds them, either by accident or as a result looking for them.(人々や物の発見が行われるとき、誰かが偶然にあるいは探した結果、それらを発見するのである)

以上のように「〜を…すること、〜が…すること」という表現では定冠詞が普通用いられることが分かると思います。

不定冠詞の例

次に不定冠詞が用いられている例を同じく『Collins Cobuild』の定義で見てみましょう。

(39)A rehearsal of a play, dance, or piece of music is a practice of it in preparation for a performance.(芝居、ダンス、音楽のリハーサルとは、上演や演奏に備えての練習のことである)
(40)A recreation of something is an act or process of making it exist or seem to exist again in a different time or place to its original time or place.(ある事物の再創造・再現とは、それを元の時や場所とは異なった時や場所に再び存在させたり、存在しているように思わせる行為や過程である)
(41)A manifestation of something is one of the ways in which it can appear.(ある物の現れとは、それの現れ方の一つである)
(42)An infringement of a law or rule is the act of breaking it or destroying it.(法律や規則の違反とは、それを破ったり、背く行為である)
(43)An interpretation of something is an opinion about what it means.(あることの解釈とはそれが何を意味しているかに関する意見である)
(44)A reversal of a process, policy, or trend is a complete change in it.(過程、政策、傾向などの逆転とは、それが完全に変わることである)
(45)A conjunction of two or more things is the occurrence of them at the same time or place.(2つ以上のことの同時発生とは、同じ時や同じ場所でそれらが起こることである)
(46)A collision of culture or ideas occurs when two very different cultures or people meet and conflict.(文化や考え方の衝突は、2つの非常に異なった文化や人々が出会い、ぶつかるときに起こる)

これらは、本当の抽象的な意味での「〜すること」を表しているというよりは、何か具体的な1つの行為や出来事を表しています。上で述べた個別差の含みが意識されており、「1つの」あるいは「1回の」という感触が少しします。これは、各事柄の「開始」と「終了」をはっきりと意識し、数えられる1つの出来事・行為として捉えているわけです。なお、ここで扱っているのは、"A of B" という形の場合であり、多くの抽象名詞が、「具体的な1つの行為・出来事あるいは具体的なもの」を表すと可算名詞として使われるということは言うまでもありません("discovery" =「発見すること、発見」、"a discovery" =「1つの発見、ある発見、発見された1つの物」)(これは不定冠詞を詳述する際に扱う予定です)。大事なことは、個別差の含みが意識されれば、"A of B" の形でも不定冠詞が用いられることがあるということです。

無冠詞の例

では次に、無冠詞の例です。やはり『Collins Cobuild』からの引用です。

(47)Consultation of a book or other source of information is looking at it in order to find out certain facts.(本やその他の情報源を参照するとは、ある事実を知るためにそれを見ることである)
(48)Acceptance of an offer or a proposal is the fact of saying yes to it or agreeing to it.(申し出や提案を受け入れるとは、それを承諾し、同意することである)
(49)Acceptance of someone into a group means beginning to think of them as part of the group and to act in a friendly way towards them.(集団の中へ誰かを受け入れるとは、その人を集団の一員と見なし、その人に対して親しみのある態度をとり始めることを意味する)
(50)Dispensation of something is the issuing of it, especially from a position of authority.(事物の支給・施行とは特に権威のある所からそれを配布・発布することである)
(51)Ignorance of something is lack of knowledge about it.(何かについての無知とは、それについての知識が欠如していることである)
(52)Repression of feelings, especially from sexual ones, is the way in which some people do not allow themselves to have natural feelings and desires.(感情、特に性的な感情を抑圧するとは、自然な感情や欲望を持つことを自分に許さないことである)
(53)Transcription of speech or text is the process of transcribing it.(発言やテクストを写すこととは、それを写す過程である)
(54)Treatment of something involves putting a particular substance onto or into it, in order to clean it, to protect it, or to give it special properties.(何かを処理するとは、それをきれいにしたり、保護したり、それに特殊な特性を与えるために、ある特定の物質を塗布したり、その中に入れることを伴う)
(55)Measurement of something is the process of measuring it in order to obtain a result expressed in numbers.(何かを測定するとは、数字で表現された結果を得るためにそれを測定する過程である)
(56)Denunciation of something or someone is severe public criticism of them.(物や人の公然の非難とは、それらを公に厳しく批判することである)

以上の例は、文頭の名詞が無冠詞になっています。無冠詞の場合は、"a 名詞" との違いとして、当該の行為や出来事の「開始」と「終了」がほとんど意識されておらず、1回の行為や出来事として認識されていないという点があります。これは、一方では、何かをしているという進行中の段階の方に意識が向くことにつながります。例えば、(47)の "consultation" は「調べる」という行為そのものが意識されており、「何か情報を得る」という結果がほとんど意識されていません。あるいはもっと厳密に言えば、「調べ終える、参照し終える」ということは考慮の外にあるわけです。(49)の "acceptance" も「集団の一員と見なし、親しくなり始めること」であり、「親しくなることが完了する」ことは意識されていません。

 さらに、1つの行為、出来事として捉えられていないということは、「どの参照」とか「どの受け入れ」といった個別性を意識していないことですが、これは「参照、受け入れ」という日本語よりも「〜を参照すること、〜を受け入れること」という表現に近く、抽象度が高くなるとも言えます。では、同じように「〜すること」を表す場合に定冠詞も用いられるわけですが、これと無冠詞の場合の違いはどのような点にあるのでしょうか。これは非常に微妙な問題ですが、まず、一般的に、あるいは統計的に言えることは、定冠詞を用いる方が多いということです。"of 〜" によって前の名詞が限定され、その名詞の個別性、例えば、(28)の「起こったことの公表」という場合、「何の公表」、「どの公表」ということに意識が向いており、「どのような公表か」、「どんな方法での公表か」といったような、公表の種類や個別性にまで考えが及ぶことが少ないために、定冠詞が用いられると考えられます。一方、無冠詞の場合も、個別性や種類を意識しませんが、定冠詞の場合に比べて、さらに抽象度が高くなり、定冠詞付きの動作名詞よりも無冠詞の動作名詞の方が、動詞に近いと言えます。また、無冠詞の方は、「開始・経過・終了」の「経過」に意識が向いているときに、用いられる傾向があると言えるかもしれません。(55)の "measurement of" と(37)の "the measurement of" とを比較して下さい。(55)は「測定する過程」、つまり測定している最中に強く意識が向いているために無冠詞になっているようです。一般的に、"A of B" の "A" が動作・出来事を表す名詞であり、かつ無冠詞の形でよく用いられたり、用いることが可能であるのは、「開始−経過−終了」という3つの過程、特に「終了」が意識しにくい語であるようです。(47)から(56)の例を、もう一度よく見直してみて下さい。

 「終了」が意識しにくく、「経過」に意味の重点がある語は、完全な不可算名詞であることが多く、"a 名詞 of" の形では原則として用いられません。例えば、(51)の "ignorance" は「無知」つまり「無知である状態」ですから、「終了」という相は関係ありませんから、完全な不可算名詞です。"A of B" という形はさておき、例えば、"help, aid, assistance, rescue" という「援助、救助」を表す語や、「世話、付き添い」を表す "care, attendance, attention" などは不可算名詞ですが、「援助する」とか「世話をする」といったことは一定の時間、あるいは期間続く行為であり、はっきりとした「終了」が意識しにくく、そのために「1つ、1回」を強く意識する可算名詞として使われることがないのだと考えられます(念のために付言しておきますが、「役に立つ人・物」を意味する "help" や "aid"、「出席(回数)」とか「親切な行為」を意味する "attention" や "attendance" は全く別の話になります)。
  "A" が動作・出来事であるときに、"the A of B" か、無冠詞の "A of B" かという問題は非常に微妙で、ほとんど違いがない場合も多いようですが、上で述べたように、「動作・出来事の過程」を強調するときに無冠詞になる傾向にあり、"the A of B" の場合よりも多少簡潔できびきびした表現になる一方で、"the" の場合に感じられる「かちっとした特定性」(これは名詞としての性質が強いということです)が薄れ、抽象性が増し、漠然とした感じを伴うことが多いようです(特に主語の場合)。もう1例をご覧下さい。無冠詞の例ですが、上記(26)の "the observation of" の例と比較してみて下さい。

(57)Now both of these debates have been resolved. Bees, it turns out, can hear, and their ears are well suited for detecting the sounds associated with the dancers. Observation of how the insects respond to a robot that dances and sings like a live forager shows that both sound and dance are needed to communicate information about the location of food.(今ではこの二つの論争は両方とも解決されている。蜂は音が聞こえるし、その耳はダンスをする蜂の出す音を聞き分けるのにとても適したものであることが分かっている。蜜を集める本物の蜂のようにダンスをしたり歌ったりするロボットに対して蜂たちがどのように反応するのかを観察することにより、蜜のありかを伝達するには音とダンスの両方が必要であることが明らかになっている。)(大学入試)

「観察」というのは、やはり「開始」と「終了」の意識が弱い語であり、(57)のように文頭に来る場合は、定冠詞を使うよりも、無冠詞の場合が多いと思われます。一方、(27)は同じく主語ですが、倒置されて強調されています。「どんな観察、どのような観察か」というよりも「どの観察、何の観察か」をはっきりと意識したために "the" を用いたようです。無冠詞の方が、少しぼやけた感じがするのに対し、定冠詞の方は明確な感じがします。

「A of B」の「A」が未来の事柄である場合

では、次に移ります。また、例文をご覧下さい。『新編英和活用大辞典』からの引用です。

(58)We directed our efforts toward the achievement of that goal.(その目的の達成に努力を傾けた)
(59)I waited, hot and bothered, for the announcement of the exam result.(とても心配して試験の結果の発表を待った)
(60)He turned his talents to the improvement of medical facilities for the poor.(その手腕を貧しい人々の医療施設の改善に向けた)
(61)We managed to obtain their acquiescence for the use of the hall.(ホールの使用に対して彼らの黙認をなんとか得た)
(62)Both companies functioned hand in hand for the success of a joint venture.(ある共同事業を成功させるために両社は手を携えて動いた)

上記の「目的の達成」、「試験の結果の発表」などは過去から見た未来の事柄です。この場合も、ご覧のように定冠詞を用いるのが普通です。さらに、現在から見た未来の事柄だと考えられる例を挙げます。一般論も含みます。

(63)Mankind can now carry out the destruction of vast areas of jungle in a few seconds.(人間は今では広大な面積のジャングルを数秒間で破壊することができる)『新編英和活用大辞典』
(64)Acupuncture can be effective for the relief of pain.(はり療法は痛みの軽減に効果を発揮することがある)『同上』
(65)I commend it to the consideration of all anxious for the interests of Ireland.(アイルランドの国益を気づかうあらゆる人々の考察にそれを委ねる)『同上』
(66)These measures await the consideration of the authorities.(これらの方策が当局の検討を待っている)『同上』
(67)A 75% majority is required for the acceptance of the proposal.(その提案の受諾には 75% の過半数を必要とする)『同上』
(68)The achievement of racial justice will take many years.(人種間の公正を達成するには何年もかかるだろう)『同上』
(69)Exert yourself for the achievement of this goal.(この目標達成をめざして努力しなさい)『同上』
(70)That would require the acquiescence of our allies.(それを行なおうとすれば同盟国の同意が必要であろう)『同上』
(71)People would take various subjects, attend various seminars, not quite sure of where they were going, but moving toward the discovery of vocation, and once they found it, they could then make good use of technological education.(人々はさまざまな科目を取り、さまざまなゼミに出席し、自分たちがどこへ向かっているのかをはっきりと確信していなくとも、天職の発見へと向かって進み、いったんそれを見つけると、技術教育を十分に利用できるだろう)(入試問題)
(72)The modern concept of the school, especially now in times of rapid social change, is that of a focus for community activities and of an energy for the improvement of the community.(学校が現在どのようなものかと言えば、特に今のように社会が急速に変化する時代においては、様々な活動の中心となって、地域社会を改善するための活力を持つ場なのである)(入試問題)

この場合も、やはり定冠詞を用いる方が一般的です。そこで言えることは、この定冠詞は、過去であれ、現在であれ、既存の事柄を述べる場合だけでなく、未来のことを述べる場合にも普通用いられることから見て、"of 名詞" が前の名詞を限定・特定する力がかなり強いということが分かると思います。

無冠詞の種々の例

 では、恐らく一番感触がつかみにくいと思われる無冠詞の例を幾つか挙げておきましょう。『新編英和活用大辞典』からの引用です。まず、主語の例です。

(73)Improvement of the viewfinder enabled us to achieve maximum efficacy from the camera's design.(ファインダーを改良することによってカメラのデザインを最大限に生かすことができた)
(74)Immunologic rejection of the graft swiftly ensued.(移植した臓器の免疫拒絶反応がたちまち生じた)
(75)Consideration of that issue is outside the scope of the present book.(その問題の考察は本書の領分からはずれている)
(76)But consideration of this would take me too far from our subject.(しかしこのことを論じるのは当面の問題からだいぶそれることになる)
(77)Acceptance of this method is growing.(この方法は次第に認められてきている)
(78)Public acceptance of explicit sexual behavior in films is increasing.(映画でのあからさまな性行為を社会が容認する傾向が強まっている)
(79)Consumption of natural gas is expected to go up.(天然ガスの消費は増加が予想されている)
(80)Consumption of illegal drugs grew by 30%.(違法な薬物の消費が30%増加した)
(81)Production of basic consumer goods has attained [reached] its prewar level.(基本的消費物資の生産は戦前の水準に達した)
(82)Low production of the hormone results in increased sensitivity to cold.(ホルモンの分泌が低下すると寒さに対していっそう過敏になる)

目的語の例です。

(83)Close attention to feedback will hasten improvement of the system.(フィードバックに綿密な注意を向けることがそのシステムの改善を促進するだろう)『新編英和活用大辞典』
(85)Natural disasters like these cause great destruction of life and property.(このような自然災害は生命財産に大損失を起こす)『同上』
(86)The recession delayed appearance of the second volume for a year.(不況のため第2巻の発刊が1年遅れた)『同上』
(87)They farmed out production of some parts to small factories.(部品生産の一部を小さな工場に下請けさせた)『同上』
(88)We refused acceptance of the damaged goods.(破損品の引き取りを拒絶した)『同上』
(89)There is a call for reform of the nation's income tax system.(国の所得税制の改善を求める声がある)『同上』
(90)The two teams leapfrogged toward discovery of the structure of DNA.(その2チームは DNA の構造の発見に向かって抜きつ抜かれつの競争をした)『同上』
(91)Two years later, the Times returned to the subject, this time reporting a study based on actual observation of families.(2年後、タイムズ誌はその問題に再び戻り、今度は家族の実際の観察に基づいた研究を報告した)(大学入試)

これらをじっくり見ていると、無冠詞の動作名詞が持つ、簡単には言い表せない幾つかの側面が感じられます。まず、最初の方で挙げた(21)の "Discovery of America" が持つ感触に近い、言葉が前面に打ち出される感じがするものがあります。例えば、(74)の "immunologic rejection" や(89)の "reform" です。(74)の方は専門的な用語としての重みと、「免疫拒絶反応」という事態の重さが、無冠詞が持つ掲称性という側面を強く感じさせます。(89)の方は "call for 〜" という表現から来る掲称性です。例えば、状況によっては、お茶がほしいときに、「お茶!」とだけ言えばそれで済む、というようなことがありますが、何かを要求するときに、単純にその言葉を口に出す、ということがよくあります。これはまさに言葉を掲げ挙げているのですが、"call for 〜" というのもそれと多少関係があります。"need for 〜" という表現も同様で、"〜" には無冠詞の名詞が入ることがよくあります。この掲称性は、(91)の "actual observation" にも強く感じられるように思います。

 また、(75)の "consideration"、(87)の "production" は、上の方で述べた抽象性が比較的強く出ているように思います。具体的で明確な「考察」、「生産」というよりも、ただ漠然と「考察すること」、「生産すること」と述べている感じです。(73)と(83)の "improvement"、(90)の "development" も同様です。

 さらに、この抽象性に加えて、多少の仮構性の含みが感じられるのが(76)の "consideration" です。「このことをもし考察するならば」という感触が少しします。(88)の "refused acceptance" というのも仮構性と考えることができます。「引き取りを拒否した」ということは「引き取り」は実現しなかったわけですから、単なる仮定的なことに過ぎません。ただ、仮定法が用いられていれば、定冠詞が用いられることはない、と考えるのは誤りです。定冠詞も普通に用いられます。例えば、

(92)The removal of Charing Cross railway station would open up a site twice as large as Covent Garden.(チャリングクロス駅を移転すればコヴェントガーデンの2倍の広さの土地が出現するだろう)『新編英和活用大辞典』
(93)The annihilation of all life would follow rapidly.((そんなことになれば)全ての生物がたちまち全滅することになるだろう)『同上』

これらの "The removal" と "The annihilation" は、「何の移転か」、「何の全滅か」が明確に意識されており、定冠詞が用いられています。これには、「チャリングクロス駅」、「全ての生物」という「唯一性」および「全体性」を意味する表現が続いていること、「移転」、「全滅」という完了・終了を意識しやすい動作名詞が用いられていることも多少関係しているかも知れません。しかし、やはり、"of 〜" が動作名詞を限定し、特定する力が強いために、"the" が用いられると考える方が自然であるようです。例えば、

(92)The earthquake did not cause the collapse of the bridge.『新英文法選書 第6巻 名詞句の限定表現』(大修館書店)

という文章は、2つの解釈ができます。1つは、「その地震が橋の崩壊を引き起こしたのではなかった」という意味で、橋の崩壊が実際に起こったが、その原因はその地震ではなかった、という場合。もう1つは、「その地震は橋の崩壊を引き起こさなかった」という意味で、橋の崩壊は実際には起こっていない場合です。このような仮定的な事柄でも "the" が普通に用いられます。

 さて、無冠詞の含みとして、もう一つ感じられる側面があります。それは、開始・経過・終了、特に終了を意識しにくい動作名詞の場合に、経過を強く意識するところから、「どの程度か」ということが問題となり、度合や量の意味が出てくることがあります。例えば、(78)の "public acceptance"、(79)〜(81)の "consumption", "production" などがそれであり、また、(82)の "low production" や(85)の "great destruction" にもその感触があると考えられます。これらは、漠然と「石油消費量」とか「ガス消費量」というような場合には、無冠詞になることが比較的多く、特にその量の増減を述べる場合は、さらに多くなると言えるようです。もちろん、「何の消費量」なのかを明確に述べるとき、例えば、「ガス」ではなく「石油」の「消費量」であるということをはっきりと示そうとするときは、定冠詞が多く用いられるようです。

熟語(名詞性の喪失)

 熟語化して名詞としての性質が希薄になった表現は、無冠詞となります。幾つか挙げておきます。

take account(or consideration)of 〜:〜を考慮する
take care of 〜:〜の世話をするtake charge of 〜:〜を管理する、世話する
take hold of 〜:〜をつかむmake use of 〜:〜を使用する
make choice of 〜:〜を選択するin consideration of 〜:〜を考慮して
in view of 〜:〜を考慮してbe in need of 〜:〜を必要としている
in expectation of 〜:〜を予想して、期待して
in search of 〜:〜を捜してin quest of 〜:〜を求めて
in chase of 〜:〜を追ってin justification of 〜:〜を擁護して
in recognition of 〜:〜を評価して

定冠詞の有無で意味が異なる熟語

 なお、定冠詞の有無で意味が異なる次のような熟語に注意する必要があります。

be in charge of 〜:〜を世話している
be in the charge of 〜:〜に世話されている
be in control of 〜:〜を管理している、支配している
be in the control of 〜:〜に管理されている、支配されている
be in possession of 〜:〜を所有している
be in the possession of 〜:〜に所有されている
in view of 〜:〜を考慮して
in the view of 〜:〜の見るところでは、〜の見地からすれば

無冠詞の場合は、「〜を…すること」、定冠詞の場合は、「〜が…すること」であり、前者の "of" はいわゆる目的格関係を表し、後者の "of" は主格関係を表しています。これは、目的格関係を表す "of" よりも主格関係を表す "of" の方が、前の名詞を限定する力が一般的に強いからだと考えられます。その理由は、おそらく使用頻度と関係があり、目的格関係を表す "of" の方が主格関係の "of" よりも使用頻度が高く、そのために目的格関係の方は熟語化の程度が深くなり、冠詞が落ちやすくなると考えられます。この定冠詞の有無は、このような熟語に限らず、例えば、定冠詞が用いられている上記(65)と(66)の「あらゆる人々の考察」、「当局の検討」と、無冠詞の(75)と(76)の「その問題の考察」と「このことを論じること」との違いにも現れています。ただし、冠詞を論じる場合には、常に注意しなければならないことですが、主格関係の場合は必ず定冠詞を用いるといった極端な考え方は厳禁です。あくまでも、定冠詞が用いられるのは、「どの〜、何の〜」という特定性を意識している場合であり、漠然と述べたり、「どのような、どんな」という不定性や種類や質を意識している場合には、無冠詞や不定冠詞になるということです。

 冠詞自体が複雑な上に、今回扱った冠詞と "of" の関係はさらに複雑であり、今のところ、これ以上詳細に論じるための準備が十分に整っていませんので、とりあえずは、ここまでとします。今回は同格の "of" については触れませんでしたが、これは同格の "that" などとともにいずれ述べる予定です。次回は、"of" とそれ以外の前置詞と冠詞の関係、さらに形容詞句や関係詞節と冠詞の関係を述べる予定です。

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