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目次

<熟語の中の前置詞を巡って>

第1話 to 不定詞の名詞的用法と動名詞の 使い分けについて
(* は誤り)






 英語のネイティブスピーカー(英語を母語とする人)は、「本を読み終える」と言う とき、決して“*finish to read a book”とは言いません。“finish reading a book”と言うはずです。また、「本を読みたい」と言うときは、“want to read a book”であって、“*want reading a book”と言い間違えることはありません(want doing には「〜される必要がある」という意味もありますが、これについては、いずれどこかで扱います)。しかし、“to read a book”も“reading a book”も、日本人は「本を読むこと」という意味で捉えてしまうため、この両者を語感によって使い分けのできる人は多くありません。そして、受験勉強では、“finish”は動名詞と使い、“want”は to 不定詞と使うのだと、丸暗記することがほとんどです。しかし、このような勉強方法は苦痛と退屈以外の何ものでもありません。

 では、他にどういう方法があるのでしょうか。一つは、膨大な量の英語を聴いて、言語中枢である脳内のウェルニッケ感覚言語野という部分に叩き込むという方法です(文法概念は、概念中枢という別の中枢で処理されます)。日本のように、日常、自然な英語を耳にする機会がほとんどない場所に(5,6歳を過ぎるまで)住んできた人は、1日最低でも3時間程度の(生活実感を伴った)リスニングを1年間程続ける必要があります。これは、ある意味では理想的な方法なのですが、普通の高校生や受験生には無理のある 方法です(相当の忍耐力と時間が要ります)。この方法は、どうしても自然な英語を使いこなす必要があったり、英語をこよなく愛している人の採る方法です。もう一つの方法は、まず、日本人に理解が難しい語感を意識的に理解し(learn)、それを慣れによって、できるだけ無意識の中に溶け込ませる(unlearn)という方法です。この方法の場合、大学入試のために勉強している人にとっては、意識的な語感の理解と、ある程度の暗記と慣れが進んだレベルで時間切れとなるのが普通ですが、大学入試に合格するにはこのレベルで十分です。また、このレベルに達すれば、前者の、いわゆる右脳を利用する方法によって飛躍的な向上が期待できます。

 ここでは、上記の語感の理解ということを重点に、英語の語感分析を行います。

 では、冒頭の話に戻りましょう。まず、want のように to 不定詞と使う動詞は、他にどんなものがあるかを見てみます。
would like (〜したい), hope (〜することを望む),
mean ≒ intend (〜するつもりである),
decide ≒ determine ≒ resolve (〜することに決める),
agree (〜することに同意する), promise (〜すると約束する),
arrange (〜するように手配する) などがあります。

 一方、動名詞と使う動詞は、
finish ≒ complete (〜し終える),
quit ≒ give up ≒ leave off (〜するのをやめる),
avoid ≒ evade (〜するのを避ける),
cannot help (〜せざるを得ない;この help は「避ける」という意味),
postpone ≒ put off ≒ delay (〜するのを延期する) などです。

 この2つのグループにそれぞれ共通するイメージは、どういうものなのでしょうか。to 不定詞を使う方の動詞は、願望、意図、決心、約束、準備といった、近い将来、ある事柄を実現させたい、あるいは実現させるという気持ちが含まれていると考えられます。一方、動名詞と使う動詞は、今までしてきたことを終えたり、やめたりするか、近い将来の実現を阻む方向に気持ちが動いているようです。

 to 不定詞は、本来、前置詞の to から生じた用法です。前置詞の to の最も基礎となる意味は、もちろん、「〜へ」という方向を表す空間的な意味です。この空間的な意味は、やがて時間的な意味での方向、すなわち、未来を表す意味へと広がっていきます。それがさらに、比喩的な意味へと広がります。to 不定詞の副詞的用法の一つは、「〜するために」という目的を表す用法ですが、まさにこれは、未来における実現という方向に気持ちが動いていること、つまり、「〜することへと向かっている」ことを示しています。名詞的用法も形容詞的用法も、多かれ少なかれこの特徴を備えています。この特徴は、未来志向性とか、未来傾斜と呼ばれます。従って、to 不定詞と用いられる動詞も、一般的にこの未来志向性を含意しているわけです。上で見た to 不定詞と使う動詞が、願望、意図、決心などを表すのは、当然のことなのです。

 それに対して、動名詞と使う動詞は、これまで行ってきたり、行ったことをどうするかということを表したり、未来における実現を回避したり、延期する気持ちが含まれるのが一般的です。これが最もよく表れているのが、有名な remember や stop の例です。remember to do が未来のことについて「忘れずに〜する」、remember doing が過去のことについて「〜したことを覚えている」、stop to do が「〜するために立ち止まる、今までしてきたことをやめて〜する」、stop doing が「〜するのをやめる」という意味であることを丸暗記するのは無駄なことです。to 不定詞と動名詞の根本的な相違を知っていれば、どちらがどちらの意味を表すのか、迷うはずがないのです。

 最初に述べたように、英語のネイティブスピーカーが finish to do や want doing という間違いをしないのは、to 不定詞と動名詞に対するこのような語感を持っているからなのです。この語感が現実に備わっていることは、finish や want では間違いを犯さないネイティブスピーカーが、例えば、look forward to doing (〜するのを楽しみにして待つ)のような未来志向の表現で動名詞を使わなければならない場合に、*look forward to do という言い間違いをすることがときどきあることからも明らかです(なお、この表現ではなぜ動名詞が使われるかというと、本来、「何か前方にあるものの方を見る」という意味であることから、to の次には名詞が入るのが自然であり、不定詞よりも名詞性の強い動名詞が使われるのです)。

 to 不定詞の名詞的用法と動名詞は、以上のような大きな違いがあります。しかし、今見てきたような相違だけでは説明が難しい用法や、start や begin, continue, like など、どちらと使っても意味がほとんど同じものもあります。これらについては、いずれ取り上げる予定です(「和文英訳 (80)」の「…し始める」、「同意表現集の詳細解説 (13)」1) 、「文法用語集」の「-ing」の説明の中で少し触れています)。



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