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旅のエッセー 《 安芸の中心地 西条       エッセイスト〜  byいっちゃん

【山口の或る有名なラジオ番組で朗読していただきました!】 

朗読番号NO.1 2004年 6月

                        

 広島県東広島市西条町・・・古くから西の国と日本の中心地を結ぶ街道の要所として栄えていた。

 奈良時代には、安芸の国の中心地として位置づけられていたらしい、その時代のそれぞれの国に建立を義務付けられていた、安芸国分寺跡が西条に有るのを見ても当時の状況がわかる。

 普段、月に一度くらい仕事で西条を訪れ、バタバタと仕事を片付けて広島市内に帰っていたが、先日の5月末の事、仕事が午前中に終わり午後から時間がスッポリ空いてしまった。

 そこで、かねてから気になっていた西条の酒蔵通りの散策を思いついた。

 “西条”広島県の街道筋の中では、ほぼ中央部にあたる、しかし山に囲まれた盆地だ。

 これが50万年前には盆地全体が巨大な西条湖という、大きな湖だったということを、何かの書物で読んでびっくりした!

 自然は、一人の人間では感じ取れない雄大な流れを伴って、しかも確実に変化を遂げていく、そのような歴史を遡るだけでも感激の面持ちだ。

 その西条に日本の『三大』の一つと呼ばれているものがある。

 いわずと知れた、兵庫の灘、京都の伏見と並び称される、清酒の日本三大名醸地、安芸西条の醸造酒蔵群だ。

駅前に車を止め、その酒蔵通りをしばらく散策してみた。

まずどうしても目に付くのが高い煙突、それぞれに酒造会社の銘が入っているので、いやでも社名が判る、歴史の象徴だ。

外壁に目立つのが、菱形の黒いタイルに斜めの白い石膏の筋、いわゆるなまこ壁と呼ばれる腰壁、それにちょうど今頃は木造壁にコールタール塗りの手入れをする時期だろう、職人さんが手際よく塗っている、その香りが一段と風情をかもしだしている。

狭い路地を煙突を頼りに辿ってみると、それぞれ特徴のある酒蔵の建物群が目の前を通り過ぎて行く。

それが名勝地に良くある、飾り物の建物ではなく、中で製品を出荷する人が忙しく立ち動いているのがまたうれしい。

10月には酒祭りというイベントが有り、この狭い地域に24万人もの人が集まるらしいが、この時期には道を行き交う人は数少ない。

通りをしばらく歩いていると、一軒の酒蔵の前に試飲・販売コーナーがあったので、喜び勇んでのぞきに入った。

色んな清酒グッズが展示してあったが、販売担当の女性に此処だけで手に入るお酒は有りませんかと尋ねた。

そこで取り出してくれたものが、何の変哲も無い清酒、しかも値段も安い、ところがそれを試飲してみると非常にうまい!

どうしてですか? と尋ねると、そばにいた社長さんが詳しく教えてくれた。

『一般に市販されているお酒は、いくら高価なお酒でも瓶詰めされて、いつ消費者の口に入るか判りません』

『お酒は生き物ですから、ビンの中でも少しづつその味わいが変わっているのです』

『此処で出しているこのお酒は、杜氏が試飲して今が飲みごろだという、まさに旬のお酒を選んで必要なだけ瓶詰めをしているのです』

との話を聞き非常に感激した!

酒祭りのように、何十万人の中で味わいも無くうごめいているより、ゆったりした時間の中でいつ行っても美味しいお酒が迎えてくれる。

お酒の飲めない人は、名水で沸かしたコーヒーも飲めるそうだ。

JR山陽線西条の駅前から歩いてすぐ、交通の便も申し分ないし、次からはちょいと蔵元にのぞくのが癖になりそうだ。