アルカナム電脳遊戯研究所 個別解説

何処へ行くの、あの日:アンチ妹ゲーム


「何処へ行くの、あの日」 (C) MOONSTONE  発売日: 2004/6/25 機種: Windows98以降 レーティング: 18歳未満禁止 シリアス・リリカル・ファンタジーADV 
後にプリンセスソフトよ りPlaystation2に移植(2005/2/24発売)、もえぷりより携帯アプリに移植(2006/7/21発売)


このソフトで描かれる物語は、義妹と主人公との関係を中心としている。 義妹が筆頭ヒロインとして登場し、しかもtrueルートでのヒロインでもある。 こういう話は普通「妹もの」としてくくられる。

しかし、通常の妹ものの話と違い、この物語では主人公は絶対に妹を恋人として見ることはない。妹の方は主人公を愛しているが、この愛情は一切報われることはない。 さらに、この物語で唯一設けられているハッピーエンド(最終のtrueルートのエンドでもある)は、妹が主人公への 偏愛を諦めることでもたらされる。途中全てのエンドがアンハッピーエンドで、最終trueのみハッピーエンド、という作りから、創り手側の意図は最終trueエンドこそが本物であり、最終trueエンドに創り手の主張が含まれていると判断するべきである。

ここからわかることは、創り手側の主張とは、ただ一点、 主人公と妹がくっつくことの否定である。 一言で言い表すなら、「アンチ妹萌え」「アンチ妹ゲーム」である。

テーマ(妹萌えの否定)を描く、という点では、この物語は徹底しており、完璧である。 世界観、登場人物の配置と動き[*1]、これら全てが動員され、 主人公が妹と恋人になるのは間違いである、という結論に導いている。

[*1] 詳細はここに述べた通り。(ネタばれ注意)

だが、問題なのはこのテーマである。テーマが妹萌えの否定なのだから、 妹ものが大好きな人がこれをプレイするのは大変危険である。 しかし一見妹ものに見えるこの作品を、妹ものが好きな人以外誰がプレイするのだろう。 このソフトの対象者は、世にある妹ものに対して何か思うところがある人である。 これは、すでに美少女ゲームにかなり触れていることが条件であり、さらにその中でも範囲が狭い。

だから当然、この作品は売れなかったし、プレイした人の中でも嫌う人が多数現れ、評価も低かった。これはさらに売れないことを助長した。 テーマ設定の時点で失敗したと言える。

とはいえ、作りたかったものがこのテーマである以上、これはあまり責めるべきではないだろう。 売れないテーマのものは作るべきではない、とすると、このジャンルの最大の魅力である多様性が失われてしまう。 この作品はテーマ設定以外の点では良い出来である。売れないのはテーマがテーマだから仕方ないが、 出来の悪い作品と一緒にされて低評価で終わるのは惜しい作品である。

次に、なぜこのようなテーマを選んでしまったか、について考察してみたい。 義妹を好きになる、という行為は世間一般からすれば忌むべきことである。 よって、本来は義妹を好きになることを否定する作品を作ることはありえず、逆に義妹を好きになることを肯定する物語[*2]が作られるべきである。

[*2] 禁忌とされる行為を主題とした物語作品(小説等を含む)には、 周囲の風当たりを乗り越えてハッピーエンドとなる作品以外にも、 禁忌に触れる行為をした結果不当な悲劇に襲われる、というパターンも多い。この場合、悲劇の不当性から、 間違っているのは登場人物側ではなく世間側である、という主張の作品となる。

しかし、当時の美少女ゲームでは、義妹を好きになるのは禁忌でもなんでもない作品が多数存在しており、そうするのが創り手側にもプレイヤー側にも常識となっていた。

妹ブームである。

だが、これはあまりに妙な常識である。異義を唱えたくなる創り手が現れてもおかしくない。実際、この作品と時期を近くして[*3]、 「実妹ゲーム」と呼ばれる、 血の繋がった妹を攻略対象ヒロインに配した作品が現れるようになった。 義妹を攻略対象ヒロインに立て、義妹との恋愛を禁忌とせず甘い話を書く、 という妹ゲームの枠が不自然である、とみなしている点は、この作品も実妹ゲームも同じである。

[*3] 1年以内。ソフトの開発期間は1年を超えるぐらいが普通である。

これらの動きも考え合わせると、 この作品の企画が出た背景には、妹ゲームの枠が完成に達していた(つまり伸びが止まっていた)、完成した妹ゲームの枠は多くの人が納得するものではなかった、という状況があったものと推測される。 当然ながらこの状況では妹ゲームのブームは終わりに向かう。そして今、妹ブームは終わったとされている。

結論として、「何処へ行くの、あの日」は、妹ブームを否定する、というただ一点に特化した作品であり、 妹ブームが終わるゆくジャンル変動の歴史の中に位置づけることができる。

今から思えば、このような作品が現れたこと自体、妹ブームが確かに存在した証ととらえることもできるかもしれない。


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Update: 2005/9/11; Revised: 2006/9/13(#1)
#1: 携帯アプリ版の情報を追加