アルカナム電脳遊戯研究所 個別解説

ヘブンズケージ:仮想世界で紡がれる物語


「ヘブンズケージ」 (C) Art  発売日: 2005/10/28 機種: Windows98以降 レーティング: 18歳未満禁止 仮想世界冒険恋愛ADV


ジャンル名が示す通り、仮想世界をネタにした作品である。 コンピューター技術・ネット技術の発展とそれに対する世間の関心の高まりもあって、 ネット上に構築された世界を舞台とした作品はいくつか存在する。本作品はその中での最新作であり、近年確立されたMMO型ネットRPGを仮想世界の舞台に用いている。

仮想世界舞台の大きな特徴は、現実とは異なる姿をとりうることである。ヒロイン達をはじめとする登場人物達が現実とは異なる容姿、立場、性格をとりうる。現実世界での描写とあわせ、登場人物を多面的に描くことができる。 舞台世界自体も、現実とは全く異なる、創り手の望むままの世界(本作品では剣と魔法のファンタジー世界)に設定できる。そして、現代日本の感覚通りの登場人物をその世界にそのまま登場させることができる。

しかし、仮想世界舞台には大きな欠点がある。それは、舞台世界が所詮偽物であることである。そのため、物語を組み立てていくと、ほぼ確実に最後には登場人物達は現実世界に帰っていくことになる。そしてこれをサポートするように、舞台世界自体も破壊されてしまうことが多い。 また、18禁ゲームで必ず登場する性交渉シーンは、仮想世界との相性が悪い。性交渉は肉体というハードウェアに強く依存した行動なので、仮想世界内で性交渉を行うと世界の偽物度合いがより浮き彫りになり、現実世界側での性交渉が存在すると仮想世界の価値が低下する。

このように、仮想世界物は最終的に舞台となる仮想世界が否定されてしまいがちである。これでは、折角舞台として魅力的な世界を用意しても、ヒロインの仮想世界側での側面として魅力的な姿を披露しても、価値半減である。 この問題は、仮想世界物では避けるのが困難で、実際既存の作品でも作品の出来に影響を与えている。

それでは、本作品ではどのようにこの問題を処理しているのだろうか。その答えは、 「本題は別にある」である。本作品は、魅力的な世界を提供する、 二つの世界で二つの魅力的なヒロインの姿を示す、というのは作品の一部ではあるがそれが主題ではない。

本作品は変わった作品である。ヒロイン配置に関しては、 小児愛好趣味を描く作品というわけでもないのに主要な攻略対象ヒロインが軒並み子供である。 描き方では、視点の変更が非常に多いのが特徴である。立ち絵のある10人以上の登場人物は、端役の一人を除き全員一度はその視点で描かれる場面が存在する。 この二点の特徴は、別にあると上に述べた本作品の本題に深く関わっている。そしてその本題というのは、単に主人公とヒロインとの恋愛を描くこと、ではないのは明らかである。(詳細は、ネタばれのため略。プレイしてのお楽しみ)

結果として、本作品は、「MMO型ネットRPGをネタにした、仮想世界物」から想定される内容とは全く異なる作品となっている。そして、それでよい。 本作品は十分楽しめる作品である。逆に「MMO〜」から直接想定されるものをそのまま形にしたところで、仮想世界物の抱える構造的な問題のために良い作品にするのは困難である。


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last update: 2005/11/20