アルカナム電脳遊戯研究所 個別解説

ヒトカタノオウ:対等な対作品


「ヒトカタノオウ アカシノクニ」「ヒトカタノオウ ヲルノモリ」 (C) Artel/TeamPrefab  発売日(共通): 2006/8/31 機種: Windows98SE以降, DL販売 レーティング: 18歳未満禁止 伝奇ノベル  後に統合パッケージ版「ヒトカタノオウ」発売(2007/3/30)


完全に対等な二つのルートのみから成る作品である。そんなの珍しくもないだろう、 と思うかもしれないが、実はそんな作品はきわめてまれである。

ルートが二つだけというのならもちろん例は多数ある。しかし、その二つが対等ということはまずない。なぜなら、「どちらのヒロインがパッケージ絵を飾るのか?」 「どちらのヒロインが先に登場するのか?」 「どちらのヒロインが先にHP、説明書、OPムービーで紹介されるのか?」 「どちらのヒロインがよりプレイヤーにとって身近か?」 「どちらのルートがよりハッピーエンドなのか?」 「本当は制作者はどちらが好きなのか?」 等々、ルート間のバランスを崩す要因は多数存在し、結果対等にはなれないからである。 だから通常、ルートが二つのみであっても主ルート(および筆頭ヒロイン)と副ルート(および副ヒロイン)が明確になっていることが多い。

だが今回は、二つのルートの対等性が、それぞれ対等な別作品として販売されるということで保証されている。上で挙げたような作品内の扱いのわずかな差などをはるかに超えた次元で対等性が保証されている。

二ルートが対等であるメリットは、 双方のルート内の出来事や登場人物の行動、 結果が全て本物になることである。これに対し、副ルートと主ルートに分かれているときは副ルート内の出来事の価値は低くなってしまう。 例えば、ある登場人物の死に際の名場面を演出したとする。しかし、登場人物が誰も死なないハッピーエンドルートが別にあると、 せっかくの名場面も価値半減である。だからといって主ルート側に登場人物が死ぬ場面を入れると、その登場人物がやられ役扱いとなって格が低くなってしまう[*1]。 だから本作品では、登場人物の死に際の名場面を両方のルートに分配している。 これにより、死に際の名場面の全てを作品中で生かすことに成功している。 メリットはもう一つあり、それは世界観の相対化の保証である。この作品では、 物事に対する八坂家と妖のそれぞれの立場から見た見方が、二つのルートで描かれる。この二つの見方が対等であって、 どちらも正しいことを保証するのが、二つのルートの対等性である。

この対等性を生かした結果、本作品は、小さいサイズの割に奥行きのある世界を持った作品に仕上がっている。容易に買い足しが可能なDL販売という媒体を生かした作品と言えるだろう。


[*1] さらに、死ぬ登場人物の格が落ちると、死ぬことの物語上の効果もその分落ちるという問題もある。 重要な、もしくは重要と思われる登場人物が死ぬから大きな印象を受けるのであり、 やられ役の登場人物が死んでも大した演出効果は生まれない、ということである。 これは、初回プレイ時では問題ではないが、再度プレイして物語を見直してみたときに影響があらわれる。 本作品ではこの問題も回避されている。




登場人物解説




八坂 直哉
主人公。八坂家の最も重要な能力「道返」の発現者。しかし病弱のため能力者としての訓練を受けないできた。
名前のある登場人物中唯一、両ルートで生き残る。
黒羽 奈緒
アカシノクニ編ヒロイン。半月前に八坂家本家の屋敷にやってきた、 未熟で危なっかしい感じの少女。対となるヲルノモリ編ヒロイン・ミズハが人を外れた化け物であるため、奈緒もまた(方向はやや違うが)人を外れた化け物である。 プレイヤーが一般人である以上、奈緒が一般人では両ルートのバランスが保たれない。
アカシノクニ編で生存。
ミズハ
ヲルノモリ編ヒロイン。蛇妖。まだ若いが、里に現存する妖中唯一の神器使用資格保持者で、高位の術者でもある。そのため彼女は妖にとって絶対失うことのできない存在である。 たとえ彼女が直哉を想うあまり勝手な行動をとったとしても、 他の妖たちは彼女を止められない。
ヲルノモリ編で生存。
五十鈴 咲月
八坂家の当主代理を務める、直哉と同年代の少女。複雑な事情を抱える。 直哉を嫌っているわけではなく、通常の作品であれば当然ルートが設けられただろう。準ヒロイン格である。
アカシノクニ編で生存。
クシビ
虎妖の少女。ミズハを慕い、直哉に好奇心を向ける。 準ヒロイン格となりうるキャラクターで、通常の作品であればもう少し年齢を上げた上でルートが設けられただろう。
アカシノクニ編で生存。準ヒロイン格の二人がどちらもアカシノクニ編側で生存するのは、若干バランスを欠いている気がしなくもない。
ヤト
鬼妖の年経た偉丈夫。高い戦闘力を誇り、ミズハを守護する。ヲルノモリ編では数少ない男性登場人物で大いに活躍する。
ヲルノモリ編で生存。
八坂 唯
主人公の母親で、八坂家の現(事実上は前)当主。開始当初は病床に伏せり、 出番を待つ。
ヲルノモリ編で生存。
六倉
八坂家の老いても元気な家令。おそらくは一般人。
アカシノクニ編で生存。
イミナ
年経た蛇妖。妖の里の里長。
ヲルノモリ編で生存。
火谷木 速夫
八坂家と協力関係にある、(一応は)医者。悪役らしく描かれる方で生き残り、 そうでもなく描かれる方で死ぬのはこの作品の性質か。
ヲルノモリ編で生存。
仁奈
奈緒の妹。火谷木を慕い、火谷木に仕える。
ヲルノモリ編で生存。

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update: 2006/9/12; revised: 2007/4/9(#1)

#1: パッケージ版の情報を追加