アルカナム電脳遊戯研究所 個別解説

見上げた空におちていく:年長者の想い


「見上げた空におちていく」 (C) あっぷりけ  発売日: 2007/3/23 機種: Windows98SE以降 レーティング: 18歳未満禁止 成長と絆を描く純愛ADV


制作者の想いがつまった作品。魅力的な年長のサブキャラクター達、理想的な息子・娘としての主人公とヒロイン、たっぷりの設定が作品内に詰め込まれている。

一般に、純愛系の美少女ゲームは、魅力的なヒロイン達を提供して夢を売る商品である。当然、制作者にとって魅力的と感じるようにヒロインを描くのが筋である。 だが、制作者の年齢からすると、17歳かそこらの主人公(本作品では20歳だが) やヒロイン よりも、30歳台の主人公達の親やその同世代(*1)の方に人間的な魅力を感じてしまうのは当然であろう。 だから、制作者の想いを乗せて作品を作る際、 年長のサブキャラクターが充実して魅力的に描かれるのはおかしなことではない。

(*1) 実際に本作品に登場する年長サブキャラクターには設定年齢がそんなに高くない者もいるが、30歳以上とみなして全くおかしくない運用をしている。

とはいえ、美少女ゲームの主たる購買層である20歳ぐらいのプレイヤーにその共感を求めるのは無理な話である。 20歳ぐらいのプレイヤーを相手にするのなら同程度の年齢の主人公を用意すべきであり、そういう年齢にとって理想の親とは生活費は出すが口は出さない親のことである。 実際これまで、 魅力的な親世代を積極的に登場させることは少なく、またそれをしたとしても作品の質が高まったかというのは疑問であって、 今でも「親世代の方が魅力的」というのは作品のほめ言葉ではない。 だが、最近は美少女ゲームのプレイヤーの年齢層は、プレイヤーの引退が進まない影響で上の方に広がっている。魅力的な年長キャラクターへの需要は大きくなってきているはずである。

しかし、年長キャラクターを魅力的に描きたいならば、彼ら彼女らを主人公および攻略対象ヒロインにするのが筋である。 (実際、本作品でも企画書段階では年長男性の式澤氏はダブル主人公の一人とされていたと初回限定版付属冊子に記されている)  だが、年長のキャラクターは通常社会人であり、仕事と社会的地位があり、仕事を立派にこなすことが魅力の大きな要素である。そのため、物語中で仕事や地位を変化させることができず、また作中仕事をおろそかにする活動を行うことも避けなければならない。 これでは物語を展開させることが困難である。 ということで、主人公とヒロインは別に立て、年長キャラクターはサブキャラクターとして活躍することになる。

ここまでは「親世代の方が魅力的」と言われる他の作品でもある作りである。 本作品の特徴は、主人公とヒロインをどう立てるかに現れている。

通常、主人公はプレイヤーの代理であり、ヒロインはプレイヤーに気に入れられるべき他人で、主人公とヒロインがくっつくことによりヒロインがプレイヤーのものとなる。そういうわけで、主人公はプレイヤーそのものか、 プレイヤーの理想の自分かのいずれかが望ましい。だが、年長のプレイヤーを対象とし、親世代を魅力的に描こうとするならば、 低年齢に設定した主人公やヒロインはプレイヤーから離れており、 通常の作品と同様に描いても効果が薄い。そこで本作品で提示したのは、理想的な息子としての主人公と、理想的な娘としてのヒロインである。 ヒロインは見守られる存在として描かれ、主人公はヒロインを見守る存在であると同時に、周囲から見守られる存在である。プレイヤーの意識はあくまで見守る側である。 そのため、主人公達がどのように周りから見られているかの描写が豊富に入れられている。 ろくでもない状況を乗り越えて良い子に育った主人公とヒロインが幸せな未来をつかむこと。これにプレイヤーが同意すれば、本作品はうまく回る。 とはいえここまでやってしまうと、20歳以下の若いプレイヤーが楽しむことはかなり困難だろう。 年長プレイヤー限定である。

本作品の特徴の一つは以上に述べた年長者からの視線で、もう一つの特徴は作品サイズの割につめこんだ設定が豊富な点である。本作品は省略が多く、 特に登場人物の過去に関する設定は十分予測できるまで描写したら詳細は描かれないことが多い。 この点からも、難解な作品も経験したことのある、ジャンルに慣れた年長プレイヤー向きの作品と言える。

以上より、本作品はベテランプレイヤー(*2)向きの内容を無駄なく詰めた作品である。対象プレイヤーが絞ってある分、合致するプレイヤーにとって良い作品である。

(*2) 多数の誤字脱字も、そういう作品をいくつか経験し笑って見逃す度量も必要。


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last update: 2007/4/9