アルカナム電脳遊戯研究所 個別解説

桜華:リメイクにより生まれた世界観主導作品


「桜華」 (C) キャリエール  発売日: 2005/6/24 機種: Windows98以降 レーティング: 18歳未満禁止 ビジュアライズADV 後にピオーネソフトよ りPlaystation2に移植(2006/5/25発売)


作品の背景世界の出来は、物語の出来や登場人物の魅力と同様、作品の出来映えに大きく寄与する。 魅力的な背景世界を提供できるなら、それだけで作品を成立させることも可能である。

ただ、魅力的な背景世界を作り上げるのは簡単なことではない。背景世界が多岐にわたってしっかり設定されていることが必要だが、それらの設定を作品内で描き切れなければ無意味になる。無意味どころか、作品が未完成という印象を与えて逆効果になる可能性すらありうる。

また、作品は世界の設定を描写するためだけにあるのではない。 作品中では登場人物達を魅力的に描かなければならないし、一つの作品としてまとまった物語を語らなければならない。そんな中で、多岐にわたる設定を持った広い世界を描ききるのは困難である。

一つの有力な方法は、続編である。すでに存在する作品の世界を借用し、それを拡大する。広い世界を容易に作り上げることができ、前作と組み合わせればその世界を十分語りきることができる。

ただ、これを成功させるにもハードルがある。まず、続編を世界を楽しむ作品(世界観主導の作品)として楽しむには、プレイヤーは前作をプレイしていなければならない。よって、前作が十分営業的に成功しているか、前作を同梱して販売する必要がある。さらに、前作の時点では世界は広くないので、 前作は世界の魅力以外を売りにして制作することになる。いきなり世界主導の作品にはなりえない。

この作品では、リメイクという手段をとって世界観主導の作品を作り上げた[*1]。 このリメイクの内容は、続編を作るのとあまり変わらない。 原作の各ルートを修正補足するだけでなく、追加ルートとして原作と同等以上の分量を追加した。前作と続編を再構成して一つの作品にしたようなものである。 前作をプレイしていなければならない、という続編型での問題は解消された[*2]。

[*1] 世界を楽しむ作品にしようとして制作したわけではないかもしれないが、 原作で語りきれなかった世界設定を語り尽くそうとして制作したのは間違いない。
[*2] 「桜華」には前作が同梱されているが、これはあくまでおまけであり、 「桜華」を楽しむ上で前作をプレイする必要はない。 設定資料集のような、作品の制作過程等を考察する上での資料程度に考えればよい。

以下、詳細を述べる。まず、原作「心輝桜」から。この作品は物語主導である。 作品の背景世界は物語を描くために用意されたものである。ただ、この作品は非常にサイズが小さいため、折角用意した設定を使いこなしたとは言えない。 この使い残した設定が「桜華」で利用されることになる。 肝心の物語については、「大人の話」である点が最大の特徴である。主人公をはじめ、主人公の妹の唯や筆頭ヒロインの夏輝が軒並み社会人である。それに合わせ、 自分の行動に責任を持つことができる大人の立場を踏まえた話を描いている(特に、夏輝ルートとあやルートはその色が強い)。 高校生を念頭にした未成年がおもな登場人物になることが多い他の美少女ゲームとの違いである。ただ、この特徴のため、 未成年のプレイヤーにはこの物語は向かない可能性がある(これは「桜華」についても言える)。 また、社会人の登場人物は、登場人物のアイデンティティーがその立場に強く根ざしているため、物語途中で立場を変化させることが難しく、結末の取りうる幅が狭い、という問題がある(つまり、力を捨てた主人公は主人公ではないからそんな展開はありえず、 看護師をやめた夏輝は夏輝ではないからそんな展開はありえない、という風に)。「心輝桜」はルートを3種類しか用意できず、非常にボリューム不足の作品になってしまっているが、 その原因の一つには社会人登場人物による結末の幅の狭さがあるかもしれない。

続いて、「桜華」について。 今回は世界を描くことが制作の主眼に移っている。具体的には、異界の導入とその異界を代表するキャラクター・紗雪に紗雪ルートの追加、 霊木のシステムの明示とそれを行うためのキャラクター・聖奈の追加、主人公の抱える禍風の設定を語る闇使い編の追加、物神を中心とした話を語る刃菊ルートの追加(ソルネは物神としては特殊すぎるため、物神の設定を語るには不向き)が挙げられる。 他の追加ルート2編は守人が持つ共神とその代償を語る意味がある。 既存の3ルートも、 当初のコンセプト(「大人の話を描く」)および新たなコンセプト(「世界を語る」)により合致するよう、修正と追加が施されている。
「桜華」の物語は、物語主導の原作を受けて、 全体としてやはり「大人の話」である。これは良くも悪くも特徴である。 なお、登場人物の年齢が高いことは、物語主導の作品においては必ずしも有利ではないと上で述べたが、「桜華」のような世界観主導の作品では問題にはならない。 世界を描写する作品では、乏しいスペースの中で世界を描ききらなければならない。 だから、物語の途中で世界が大きく変化するようでは困る。同様に、 世界観の一部を代表する役目を負った登場人物は、物語の途中で立場が大きく変化されては困るのだ。よって、変化を起こしにくい年齢が高い登場人物は世界観主導の作品に向いていると言える。

以上のように、「桜華」の設計は理によくかなっている。設計を形にする際の技術(文章技術など)で不十分な点が見られるが、数少ない世界観主導作品の成功例として興味深い作品である。



補足・登場人物の解説




古坂 優夜
主人公。「優しい夜」の名前にふさわしく、優しく慎み深い善人である。 成人しており、職業は甘味処「菓楽屋(かぐらや)」の店員と、守人能力を使用した治療師。
ソルネ
物神(物体に魂が宿った存在)の長。物語主導の作りだった「心輝桜」では、 彼女の特殊な立場故の悩みをテーマにルートが組み立てられた。 その結果、彼女のルートでは物語の後半に彼女の立場がかなり変化する。 これは世界主導の「桜華」ではあまり都合がよくない。そのため、 「桜華」では彼女のルートは作品全体の導入編という位置づけがされ、初回プレイ時に入るように選択肢が配置されている。
風崎 夏輝
守人としての主人公を支えるパートナー。本職は看護師。「心輝桜」における筆頭ヒロインで、筆頭ヒロインらしい設定が割り振られている。 「桜華」への拡張で筆頭ヒロインから格下げとなり、 最も割を食ったキャラクター。プレイヤーの同情を誘って結構人気がある。
古坂 唯
主人公の義妹で物語のスタート時点にて行方不明。すでに成人しており職業は看護師だった。彼女と主人公の関係は、いろいろあるにせよ、 間違いなく兄妹である。
古坂 あや
物語の初期段階で新たに登場する、主人公の義妹。未成年で未熟。 これに対して主人公がすでに成人しているため、彼女と主人公の関係は被保護者・保護者の色が強く、養子や姪に近い。あやルートはあやと唯を軸に展開する。
紗雪
「桜華」での追加キャラクター。立場は異界の守り神様。彼女の作品中での役割は、生耳生尻尾であることと、異界という世界を象徴することと、神様パワーによってハッピーエンドへの突破口を開くことである。
鈴森 静名
主人公達の家を支える最年長者。身体能力・知的能力・技能・社会的地位全ての面で圧倒的に優れるスーパーヒロインである。「心輝桜」ではサブキャラクターでサポート役だったためこのような高い能力が与えられた。 印象の強いキャラクターでリメイク時に攻略対象ヒロインに格上げとなったが、このような強すぎるヒロインはヒロイン間のバランスの観点から都合が悪い。そのためか、 彼女は作品中あちこちで大活躍するにもかかわらず、 彼女本人のルートは彼女がヒロインの中で突出しないよう、抑えた話になっている。
紺屋 美奈
主要登場人物中唯一の学生。「心輝桜」では夏輝ルートのサブキャラクターであり、 夏輝との関わりが深い。彼女のルートは、未成年である美奈と成人している夏輝の対比が描かれ、夏輝ルートの補足の側面が強い。
刃菊
刀の物神。ソルネも物神だが、刃菊はより普通の物神である。 ソルネルートが作品全体の導入に近い役割だったのに対し、 刃菊ルートはこの世界で物神がどのような存在かを語る役割を担っている。
鈴森 聖奈
舞台の町を統べる守人の長。舞台世界の中で最も偉い。 舞台世界を象徴するキャラクターで、彼女のくだけた態度は作品全体のムードを和らげている。

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Update: 2005/9/28; Revised: 2006/6/11(#1)

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