アルカナム電脳遊戯研究所 個別解説

Steel:書き手と登場人物達を燃やし尽くした悲劇作品


「Steel」 (C) Graviton  発売日: 2005/2/11 機種: Windows98以降 レーティング: 18歳未満禁止


作家、脚本家、シナリオライターなど、物語の書き手は消耗するものである。 わずかな休養ですぐ次が書ける人もいれば、一つの作品で消耗しきってしまう人もいる。 この作品は、書き手の消耗を強く感じさせる作品である。 どこからそれを感じるかというと、書き手に魂を吹き込まれた登場人物達(主要ヒロイン達と主人公)が次々と物語の中で魂を燃やし尽くして退場していく様である[*1]。

[*1] 退場しないヒロインもいるが、魂は燃え尽きる。

一般に、美少女ゲーム作りの肝は魅力的なヒロインをいかに描くかである。 だから当然、書き手にとって魅力的と感じる人格がヒロインに設定され、 書き手は彼女らが人間的な魅力を発するよう、魂を吹き込む。 そして通常、ヒロイン達はその魂の輝きそのままにプレイヤーの代理人たる主人公に渡され、ハッピーエンドとなる。書き手は、ヒロインを受け取ったプレイヤーが喜んでくれる(人気が出る)ことで満足感を得る。

さて、この作品では、書き手にとって魅力的と感じる人格がヒロインに与えられ魂が吹き込まれるまでは同じだが、その先は異なる。 登場人物達は与えられた魂を燃やして物語中で暴れ回り、燃え尽きて退場(死亡)する。ヒロインが魂を保ったまま主人公とくっつく展開が存在しないため、 主人公はプレイヤーの代理人ではなく一登場人物となっている(それどころか、 主人公すら物語途中でやはり魂を燃え尽かせて退場する。その先は別視点による描写となる)。

基本的に一本道のこの作品は、途中途中で登場人物達が退場していく。その一回一回ごとに、主人公もプレイヤーも、 おそらく書き手も、思い切り喪失感を味わうことになる[*2]。そして全ての主要登場人物が魂を燃やし尽くしたところで物語は終了する。 喪失感は埋まらない。

[*2] 普通は、途中退場する登場人物にはあまり魂が与えられない。

この作品は、魂を燃やす一時の輝きと、その先の喪失を描いたものである。 楽しい作品ではない(つまらないわけではないが)。プレイヤーに与える消耗は激しい。 おそらく書き手の消耗も激しい。 このような作品を作ってよいのか、という根本的な疑問に対する答えは、会社としてはほぼ確実にノーである。 ただ、筆者は、消費した書き手の魂に敬意を表し、 このような悲劇的な作品(中身も悲劇なら、このような作品を作ってしまったこと自体も悲劇である)が存在した、という事実をここに記録しておく[*3]。

[*3] ただし、作品の出来に関しては、触れないわけにはいかない大きな問題点が二点ある。まず一つは、序盤の描写とゲームシステム(バッドエンド解説など)が、ブランド「TYPE-MOON」の作品(「月姫」「Fate/stay night」)との類似性を強く感じさせ、 作品自体それらのパクリではないか、との疑いをかけられかねない点である。 テーマ設定がTYPE-MOON作品とは全く異なるのだから、無用な疑惑を呼ばないよう設計すべきである。もう一点は、文章を読ませる作品にもかかわらず、誤字脱字が極めて多いことである。この二点は、作品に対する印象を大きく損ねており、残念である。


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last update: 2005/9/19