アルカナム電脳遊戯研究所 個別解説

つくとり:サスペンスの傑作、そして限界


「つくとり」 (C) ruf  発売日: 2007/5/25 機種: Windows98以降 レーティング: 18歳未満禁止 和風サスペンスADV


ブランド公式ページ内の「企画屋の小林氏、丸戸氏からの発売コメント」「みなさん(他ブランドのシナリオライター)より発売のお祝いコメント」に書かれている通りの作品である。 燃えや格好良さを求めず、奇怪でおどろおどろしく、 謎解きやミステリーを楽しむ作品である。

このサスペンスという範囲でいえば、本作品は素晴らしい出来である。登場人物達や組織群の精緻な設定と作品内での行動が生み出す物語は見事なものである。 高い文章技術、厳密な情報のコントロールで主人公とプレイヤーをうまく惑わせている。今時の作品らしく無駄なゲーム性や無駄な選択肢を徹底して排除してあり、間延びせずまたプレイヤーの負担なく楽しむことができる。

本作品はサスペンスとして優れているが、現状美少女ゲームの中でサスペンスが占める割合は著しく小さい。 上記のコメント群の中でも二人(企画屋の丸戸氏、キャラメルBOXの嵩夜あや氏)から「最近主流ではない」と指摘されている。

ただしこの指摘は、昔はそうではなかった、昔は結構こういう作品もあった、という指摘でもある。それでは、廃れたのはなぜなのか? 今後サスペンスが美少女ゲーム内で再び確固とした地位を築くことはありうるのだろうか。

なぜ廃れたか、といえば、苦労の割に合わないからだろう。 サスペンス・ミステリーはシナリオライターの負担が大きい。 本作品は、上記コメントによれば、通常の作品の30倍の労力がかかっているそうである。 では30倍と言わなくても、通常の作品の3倍売れるかというとそんなことはない。 シナリオ以外の演出やCG面では、サスペンス物に要求されるのは売れる美麗な絵ではなく雰囲気に合った暗い絵である。これはハードウェアの制約から高品質の絵がそうそう出せなかった10年前なら絵が作品に合っているということで利点となるだろうが、 今では絵が綺麗でないことが売り上げにマイナスとなってしまう。

ということで、サスペンスはシナリオライターの負荷がやたらと高く、 そして出来の割に売れないジャンルである。作られないのは当然である。 将来的にも、必要な巨大な労力を乗り越えられる才能あるシナリオライターが無茶して作ったときのみ、優れたサスペンス作品が生まれる可能性があることになる。

というわけで、通常の30倍の労力がかかる作品を、 前回メインライターで制作した作品(「Steel」(Graviton)。本サイトでも紹介済。 こちらも著しくライターの労力と才能を消耗する作品だった)からたかだか2年程度の時間で作り上げたライター・味塩ロケッツ氏には誠に敬服する。そして、どちらの作品も労力と出来の割に市場から評価されないことを現状のジャンル状況から仕方がないと感じつつも、残念に思う。


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last update: 2007/6/7