アルカナム電脳遊戯研究所 特別コラム

「アオイシロ」:ヒロイン主人公作品とジャンルの未来


「アオイシロ」 (C) SUCCESS  発売日: 2008/5/15 (PS2), 2008/11/21 (Win)  機種: Playstation2, Windows2000以降 レーティング: CERO C(PS2)/全年齢(Win) 和風伝奇アドベンチャー


魅力的な女性キャラクターを二次元アニメ絵で表現する文化――いわゆる、“萌え”文化――は、近年の隆盛の成果として社会的な認知度が向上し、その経済効果や文化的価値、他分野による利用(地域宣伝など)が注目されるようになってきた。 この分野に触れていた筆者としても誠に喜ばしいことである。 さらに分野が発展し、育っていって欲しいものである。

しかし現状さらなる社会的地位・役割の向上には、大きな壁があると感じられる。それは、“萌え”文化の主要な担い手である美少女ゲームソフトのほとんどが18歳未満禁止のエロ要素付き作品であるという点である。

18禁であることはメリットがあるのは事実で、エロ要素の存在は一定割合の売り上げの下支えをもたらす。 これは特にジャンル形成初期、未発達がゆえに確実に生じてしまう作品の完成度の低さを吸収してくれる。また世間から隔離されるため、既存の小説・漫画等の媒体と直接比較されることがなく、評価が甘めとなる。 暴力表現・性的表現の制約が少なく、既存の媒体では描くのが難しい状況を描写できる。

以上のメリットから新規参入が容易であり、“葉鍵の時代”以降今に至るまで、多数の制作チームが次々と参入し、ジャンルを成長させてきた。 多数の作品が市場に出され、成功と失敗を重ねてきた。 制作資源が限られた制作チームが多いため作品の簡素化が多く試みられ、作品を成功させるために有効な点、特に必要ではない点、そして失敗をもたらすやってはいけない点の理解が進んだ。 結果としてのジャンルの成長ぶりは、2000年以前の人気作品と現在の人気作品の出来を比べてみれば一目瞭然である。 現在の作品の方がはるかにスマートに、媒体を生かしてヒロインの魅力をプレイヤーに訴えかけてくれている。

しかし成長が進んだ今は、18禁であることは壁となりつつある。 まず何よりも社会的な通りが悪いこと。 そして、表現の幅が広いはずの18禁の枠に、きわめて大きな縛り「主要な女性登場人物は全員、主人公(主人公以外は許されない)との性交渉シーンを持たなければならない」が生まれてしまったことである。

この縛りある限り、社会的に広く受け入れられることは望めない。 さらに、この縛りは、物語の展開だけでなく、主人公とヒロインのキャラ立て全体に関わり、作品の質の維持に対する制約になっている。 つまり、主人公はどのヒロインにも受け入れられるいい男でないといけない。だが、そんな主人公はプレイヤーから遠い存在となるばかり。 そして、限られた制作コストを男性キャラクターの魅力アップのために使っている余裕などあるのだろうか?  また性交渉シーンが似合わないキャラクターというのも確実にある。そのようなヒロインは、魅力が削がれる覚悟で性交渉シーンを入れるか、もしくは作品内の扱いを小さくせざるをえない。

この状況を踏まえた上で、今回紹介するのは、家庭用ゲーム機作品からPCへの移植を果たした全年齢対象美少女ゲーム「アオイシロ」である。 この作品は主人公が女性で、剣道部部長として物語中活躍するヒロインの一人である。 男性キャラクターは作品中サブキャラクターで極めて限定的にしか登場せず、性交渉シーンはあらわに描かれないものも含め存在しない。 この段階で、現状の18禁作品に存在している壁が一切取り払われていることがわかる。 その上で、美少女ゲームとして作品が十分に成立している(魅力的な女性キャラクターが登場し、かつ物語を楽しむことができる)ならば、ジャンルの新たな可能性を指し示したことになる。

ではうまくいったといえるのか、ということだが、基本的には多くのプレイヤーによってプレイされ、判断されるべきである。 ジャンルの開拓・拡大のため、ぜひ多くのプレイヤーにプレイしてもらいたいと思う。

筆者からみた感想を述べると、「アオイシロ」は十分楽しめる作品である。 ただ、長年PCゲームを見てみた目からすると、アドベンチャーゲームとしての仕様など、有効に機能していない要素も相当残っているように感じられる。 おそらくこれは、「ゲームソフトはゲーム性を持たなければならない」といった一般向けゲーム側で存在する縛りに由来しているものと思われる。

だが筆者はこの状況を将来に向けて前向きにとらえたい。 「アオイシロ」自体はスケールの大きい大作なので、多少無駄な要素が入っていたところで楽しめる作品であることに変わりはない。 それに、ゲーム性に関する呪縛は、18禁作品でもかつて存在していたが作品を重ねて脱却してきた歴史がある。 それを経験してきた制作者・プレイヤーが多数残っている。 同じこと(ゲーム性が必要との縛りから逃れる)を繰り返すにしても、前の経験が生きはるかに容易に行えるだろう。 また、ジャンル形成期で出される大作は完成度は高くなくてよい。 完成度の高い大作が出てしまうと、同系統の作品を他ブランドが出しにくくなり、ジャンルの発展が止まってしまうからである。

だから筆者は、プレイヤーだけでなく制作者の皆さんにも「アオイシロ」に目を向けて、自分達なら女性主人公・エロなし・ノベル型の作品はどう作るのか考えてみてほしいと思う。 そしてどこか、実際に作ってみてほしいと思う。 今度は大作である必要はない。 18禁作品の発展により培った作品組み立てのノウハウを生かし、制作資源が小さくとも楽しめる作品を仕上げてもらいたい。 そしてその作品が成功すれば――大作でなくても人気作が出せることを実証すれば――多数の制作者が後に続くことができ、ジャンルの成立・発展につながっていくはずである。

筆者は、「アオイシロ」を礎として、プレイヤーと制作者が協力し、非18禁の女性主人公ノベルタイプ美少女ゲームを1ジャンルとして築いていってほしいと願っている。 それは、“萌え”文化の安定、発展、社会的地位向上に大きく貢献するだろうから。




皆さんのゲーム生活がより素晴らしいものになることを祈って

2009/1/3   S.N.

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Update: 2009/1/3