アルカナム電脳遊戯研究所 一般コラム

戦う話の今後

「Fate/stay night」(TYPE-MOON)の空前のヒットから1年半が過ぎた。そして、 これを受けてか、伝奇系で戦いを話の根幹に含む多数の作品が予定、もしくは最近発売されている。さて、この流れは今後大きく続くジャンルを形成できるだろうか。それとも、二番煎じの一時のブームで終わってしまうだろうか。

戦いを扱った話の美少女ゲームは、はるか昔から存在する。 まずは、「Fate/stay night」以前についてまとめておきたい。


ゲーム

「アドベンチャーゲーム」という言葉が今でも使われているように、 かつての“ゲーム”は本当にゲームだった。その時代なら、戦いを描きたいならRPGやSRPG等にするのが当然である。美少女ゲームに必要なヒロインの魅力は、ユニットとしての活躍によって示すことになる。

この流れに沿ったゲームは昔から今に至るまで細々とだが続いている。ただ、 「話を描くのにゲーム性は必要ない」ことが明らかになって、 物語重視のプレイヤーは美少女ゲームRPGにあまり目を向けなくなった。 むしろ一般ゲームRPGの方が美少女ゲームの側に近づいていて、女性キャラの魅力によってゲームの人気を引っ張る作りが珍しくない。

「痕」(Leaf)とその影響

1996年に発売された「痕(きずあと)」は、伝奇系物語作品の古典で、 高い人気を誇った。この物語は、戦いが持つ悲劇性や暴力性を表にした作品である。戦いが悲劇のためヒロインの魅力アップに戦闘を使いにくく、 雰囲気が暗いためヒロイン魅力アップイベントをあまり入れられないため、 ヒロインの魅力は物語の出来映え如何によって決まる。 人気作品なだけに影響を受けた作品も多く生まれたが、ヒロインの魅力アピール手段に欠けることと、鬼畜系に流れる傾向が強く、後継は育たなかった[*1]。

[*1] TYPE-MOONの「月姫」が「痕」の後継とされるぐらいである。同じくLeafの 萌えゲーム古典「To Heart」は、「とらいあんぐるハート」シリーズ(janis/ivory)といった優秀な後継が早くに生まれ、ジャンルとして大きく育ったのと対照的である。

ニトロプラスの登場

戦いをノベルのスタイルで描く流儀を再認識させたのがブランド・ニトロプラスの登場である。 最初の「Phantom of Inferno」(2000年)は伝奇系ではないが、戦いを通じて主人公・ヒロイン達を魅力的に描くことに成功した。 作品自体も非常に完成度が高い。流行から外れたネタと販路の問題から当初売り上げは不振だったものの、プレイしたユーザーの多数から非常に高い評価を受け、時代を切り開く最初の一石となった。 ただ、あまりの完成度の高さのため他ブランドが後続に続かず、 ハードボイルド物は美少女ゲーム内のジャンルとはならなかった。

次の「吸血殲鬼ヴェドゴニア」でも、 ニトロプラスは戦いを上手に描き、前作の評判を伝え聞いて買った多くのユーザーを納得させた。これにより、それなりの数のプレイヤーに対し、 戦いをノベル型で描くスタイルの存在を認識させることに成功した。 なお、「吸血殲鬼ヴェドゴニア」は、伝奇系戦闘物としての完成度は前作のハードボイルド物としての完成度ほど高くない。 これはジャンルの成長という観点からは悪いことではない。あまりに高い完成度は後続が続かない原因となるからである。

しかし、ニトロプラスは次の「Hello, World」制作で迷走、以降は方針が変わる。 今はマニア向けブランドとして地位を固めたが、その代償として美少女ゲーム全体への影響力を失った。

そしてTYPE-MOON

同人サークル「TYPE-MOON」は、2000年冬にオリジナル本格作品「月姫」を発売した。ジャンルは「痕」の系列にあたる、悲劇性の高い伝奇物である。 その圧倒的な文章力により「同人ソフトの最高峰」の評価を受け、 徐々に、同人誌即売会常連以外のプレイヤーにも評判が伝わっていく。 ニトロプラスとTYPE-MOONはほぼ同時期に、低迷していた“戦う話”を徐々にプレイヤーに浸透させていった。

そして、2004年、TYPE-MOONは「最強の同人ソフトサークルが商業で新作」と大々的に宣伝される中、「Fate/stay night」を発売、 10万本を超える驚異的なセールスを記録した。その圧倒的な文章力と文章量、戦いを通じて演出される魅力的な登場人物達により、高い評価を得た。


さて、その後である。「Fate/stay night」は圧倒的なセールスと、ロングセラーを記録したため、当初はこれの類似作品は徹底的に比較され、 あの文章力と比較されては成功しないだろう、という予測がされた。これは少なくとも2004年の間は真実だったように思う。 しかし、TYPE-MOONはリリース頻度が高くなく、次回作はいつ出るかは不明である。 そうなると、「Fate/stay night」を堪能しつくしてしまったら、他のブランドの作品をプレイするしかない。

では、他のブランドはどのように作品を作ることになるだろうか。 同じネタで勝負するには相手を上回らなければならないが、 これは困難である。よって、 TYPE-MOONにはない物をアピールしなければならない。 では、「Fate/stay night」は完璧な作品だったのだろうか。もしそうなら、 後継は無理ということになる。が、もちろんそんなことはない。 「Fate/stay night」はプレイ中のユーザーを捕らえて放さない[*2]文章力、 プレイヤーを魅了する英雄達の活躍が魅力である。ただ、魅力ある攻略対象ヒロインの人数が少ないこと、英雄譚にもかかわらず全体として楽しい話ではなく爽快感に欠けることなど、割と容易に上回れるポイントはある。 また、戦いを通してヒロインの魅力をアピールする、という手法は別に「Fate/stay night」より前から存在する手法(RPG等も含めればごく一般的な手法)であり、 これが効果的であることは明らかなので、どんどん使えばよい。戦いの内容、戦いの描き方はいろいろある。“戦う話”の理想形態はまだまだ遠い。

[*2] 半徹夜が連続するぐらい。社会人にとってはゆゆしき事態である。もちろん自己管理責任。

よって、少なくとも、「多数のヒロインを登場させ、戦いを通じて魅力をアピールし、かつ爽快な話を描く」という道が有望なものの一つとして存在しうることがわかる。 他にも道はあるだろう。また、もっと時間が経てば、 「Fate/stay night」との比較、との縛りはさらに緩くなるはずで、 「Fate/stay night」が開拓した広い層に様々な戦う話を売ることができるようになるはずである。

結論として、戦いを通じてヒロインの魅力をアピールする“戦う話”は、 「Fate/stay night」が切り開いた市場をもとに発展が可能なジャンルであり、 多くのプレイヤーに多くの満足感を与える作品が多く誕生する可能性がある。 発展を期待したい。


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last update: 2005/9/19