「どじ」は、ヒロインが持つ属性の一つとしてしばしば登場する。しかし、 「どじ」という個性は明確に欠点であり、しかもかなり深刻なものである。 ヒロインの魅力をいかにアピールするかが最重要事項である美少女ゲームにおいて、これはいかにも不利である。この欠点を乗り越えて、どじヒロインが活躍する道はどこにあるのだろうか。
実際の運用を見てみると、どじヒロインがどじであることは、
原則「よく転ぶ」という形で表現されている。
特に、「何かを運んでいたどじヒロインが転んで運んでいた物をばらまいてしまい、近くにいた主人公が拾うのを手伝う」というイベントが典型的である。
ヒロインのどじっぷりを示すイベントがこれだけであることも珍しくない。ならば、このイベントの持つ意味は大きいはずである。
このイベントを用意することで得られると思われる効果として以下の点が挙げられる。
もちろん、どじイベントはこれだけではないが、
得られる効果はほとんど変わらない。
- パンチライベントである。
- コミカルな雰囲気が生まれる。
- プレイヤーにそのヒロインの存在が強くアピールされる。ヒロイン登場イベントに適している。
- 主人公がヒロインの手助けをし心配するため、主人公(およびプレイヤー)がヒロインに対し優位な立場に立てる。
- ヒロインの存在を印象づけられるとはいっても、それがヒロインの魅力につながらない。 ヒロインを魅力的に描くイベントは別に用意する必要がある。
- パターン化しており、プレイヤーが類似シーンを他作品で多く見ている場合はヒロインを印象づける効果が低下する。
この4番目の効果は、この典型イベント以外でも作中どじ属性を強く描くとさらに強固に働く。しかし欠点属性であるどじを描けば描くほどヒロインの能力は低下していく。ヒロインの魅力を確保するには、 ヒロインはこの能力低下を埋め合わせる他に大きな得意分野を持つ必要がある。 しかもそれはどじであることの影響を受けにくいものであるべきである。この点では年上のヒロインの方が扱いやすい。 得意分野が発揮される職(管理職・経営者、作家、学者など)にすでについていて、 成功を収めていることにすればよい。ただ、年上ヒロインと主人公との格差を埋めるという効果ならば、「ぼけぼけ」属性の方が能力低下を起こしにくい分有利ではある。
年下ないしは同学年では、どじ属性による能力低下を埋め合わせるのは難しい。 学生で期待される活動(部活動、委員会活動、アルバイトなど[*1])は、ほとんど全てがどじであることが顕著にマイナスに働き、得意能力が発揮しにくいからである。 超常能力者にしても、戦闘はやはりどじであることが大きな欠点になる。 その結果、立場的にも、能力的にも主人公より下となり、主人公との関係は極端に非対等となる。これは恋愛関係を築くのには向かない。むしろ、 別に主人公とヒロインに非対等な関係があってそれを強調するのに向いている。 例えば、雇用関係(メイドと主人)、師弟、兄妹、身分の差(ロボットと人間)などである。 その場合には、物語自体も、恋愛よりもこれらヒロインとの非対称な関係を描写することに重点を置くべきだろう。
[*1] 勉学についてはどじであることがマイナスにならないが、勉強ができるだけではヒロインの魅力としては不十分である。
ところで、以上の話はどじヒロインが攻略対象ヒロインの一人と仮定していた。 というのも、 大きな印象を与えるイベントが用意された女性キャラクターは作品中大きな役割を持つはずであり、恋愛ゲームならばそれは攻略対象ヒロインの証であるからである。 しかし、作品によっては、重要な女性キャラクターが全て恋愛の対象として攻略されることを目的に配されたヒロインであるとは限らない。 例えば、敵ヒロインである[*2]。敵ヒロインとしては、どじ属性は問題ない。敵は主人公(達)によって倒される必要があるため、戦闘上の弱点となる属性はかえって有用である。
[*2] 敵ヒロインも攻略対象であることは多い。しかし、攻略されることが目的で配されたヒロインと、攻略もできるが本来の役割は物語上の役目を果たすことにあるヒロインとには大きな差がある。
まとめると、どじは結局欠点であり、登場シーンの演出には良いが、 恋愛対象のヒロインに付けるのは問題のある属性であることは間違いない。 それにもかかわらずどじ属性が使える状況として、年上で地位の高いヒロインに付けて主人公との格差を埋める、という使い方がある。もしくは、ヒロインとの関係が恋愛でなければよい。 特に、主人公とヒロインとの非対称な関係を描く物語において、どじ属性はその非対称性を強化することができ有効である。
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last update: 2006/1/11