アルカナム電脳遊戯研究所 一般コラム

幼なじみという夢

「幼なじみ」の属性は、美少女ゲームでははるか昔のナンパゲームの時代から最近まで、パッケージを飾る筆頭ヒロインとして登場する率の非常に高い人気属性となっている。

「美少女ゲームというものは、幼なじみヒロインに朝起こされる場面から始まる」と言われるほど繁栄した幼なじみヒロインだが、 最近は登場が減ってきている。 登場しても筆頭ではなく第二ヒロイン以下であることも少なくない。 この状況を考察してみたい。

まず、幼なじみヒロインの一般的特徴についてみてみよう。(もちろん個々には例外はある)

  1. 容姿:身長やや高めの均整なスタイルの美人。
  2. 性格:積極的。世話好きでリーダーシップに優れる。
  3. 能力:文武両道で、勉強・運動ともにトップではないが良好な成績。超常能力は原則持たない。
  4. 世界内立場:一般学生で優等生。
  5. 主人公との関係:近所で家族ぐるみの親しいつきあい。主人公のことが昔から好きで、子供の頃に結婚の話を主人公としている。
1から4までまとめれば「優等生」であることにつきる。こんな優等生が主人公のそばにいて、主人公を好いている、というわけである。しかも主人公は、ゲーム内で他のヒロインを選ぶ可能性が存在するため、開始当初幼なじみヒロインが好きとは設定されていない。 なんとも、主人公(プレイヤー)にとって都合がよい設定である[*1]。

ただ、この都合がよい設定は昔からそうであったわけではない。 はるか昔のナンパゲームの時代では、最初からヒロインが主人公と親密ではゲームにならないので、幼なじみヒロインと主人公との関係はそんなにゲーム開始時深くない。 幼なじみヒロインがゲーム内最初の日の朝に主人公を起こしに来るのが普通になるのはナンパゲームが廃れてからである。

ではなぜ幼なじみヒロインが主人公を最初から好いているようになったのか、といえば、 これはプレイヤーが望んだからである。 ノベル作品でその方が扱いやすいからではない。逆に扱いにくい。具体的に、 幼なじみヒロインルートで典型的なシナリオを挙げてみよう。

パターン1:ルートの途中で、ヒロインに別のサブキャラクターが告白する。 この告白を知った主人公がヒロインに対する気持ちを再検討し、追いかけて告白してみるとヒロインが主人公に応える。(変種多数)
パターン2:ヒロインが主人公へのアプローチを次第に強めていく。そんな中、主人公は子供時代にヒロインとしていた結婚の約束を思い出し、それをきっかけに告白して結ばれる。

1はとにかく楽しくない話であり、2は当初明かされない主人公の過去が突然登場することでプレイヤーと主人公との同調[*1]が壊される、という問題がある。上の例に限らず、 主人公が好きな幼なじみヒロインのルートは、(1)開始当初の状態がプレイヤーにとって一つの理想なのに、 物語の途中でその状態が壊されてしまう[*2] (2)当初明かされないヒロインと主人公の 過去のいきさつが重要なため、プレイヤーの主人公への同調がうまくいかない。 構造的な問題である。

だが、これらの問題にもかかわらず、また現実にノベルタイプ初期の作品で楽しくない幼なじみヒロインルートが頻出したにもかかわらず、 主人公が好きな幼なじみは登場し続けた。 プレイヤーからの需要がいかに大きいかである。

ノベルゲームの時代が進んできたとき、プレイヤーの幼なじみヒロイン登場への要望を満たしつつ上記の問題を避ける方法が見出された。それは、物語をなくしてしまうことである。この手法は成功し、幼なじみヒロインはキャラクター主導作品での代表的ヒロインとして大いに活用された。だが、 物語軽視ではワンパターン化が避けられない。 特に、幼なじみヒロインはプレイヤーの望む姿・特徴がほぼ決まっているので、とりわけワンパターン化が深刻である。

現在の状況は、優等生で主人公が好きな幼なじみを出すにあたり、 有力な方法だった物語軽視のキャラクター主導作品が限界に来た結果、代わりとなる良い方法が見つかっていない状態である。 とはいえ、こういうヒロインの登場[*3]へのプレイヤーの欲求は現状もかなり強いので、その欲求を汲み取ろうとする(もしくは、自身の欲求を形にしようとする)制作者は今後も現れるはずである(そして、現れるべきである)。 プレイヤーの多くが満足する作品に仕上げるのは相当困難で、試行錯誤が続くことになるだろうが、上手い方法を何とか見つけてほしいものだ。

[*1] 主人公に都合が良すぎる設定を生かすため、主人公は同調型(本サイトでの分類法による)である必要がある。
[*2] 幼なじみシナリオでのこの問題は、本サイトのkakashi氏の投稿記事(「夜明け前より瑠璃色な」の個別解説) でも指摘されている。
[*3] 超常現象をおもに扱う作品でのメインでないヒロインとしてならば、 幼なじみヒロインは、主人公の(非超常の)日常を象徴しそのルートで主人公の日常への帰還を描くキャラクターとして問題なく登場している。 このパターンは今後も続くだろう。だが、これは幼なじみヒロインの登場を望むプレイヤーの期待とはやや外れた方向である。


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last update: 2006/8/22